18. 戦場へ爆走しに転生しました
建屋をわざと肩を怒らせて出ると、牛追いに、出撃と同時に、予定通り牛車を近在の村にまで下がるよう命じる。
馬車は、このまま帷幕を兼ねたこの建物の後ろに停めておき、馬だけ牛追い達とともに村に向かわせておけば良いだろ。
早速陣中鎧に着替えて甲冑に乗り込む。
相変わらず狭い筐体にからだを押し込むと、起動を念じる。
同時に、稼働した事を示す明かりが点灯し、胸部装甲が閉じた。
母の甲冑はかなり特殊なため念じるだけで起動するが、逆に父の甲冑は比較的操作が容易なためか逆に声で起動を告げる必要がある。
一種のパスワードみたいなものか。
そのうち、バイクのサドルに似た椅子の足下がせり上がり脚を保持するとともに腕の方からも補助腕がせり出してくる。
どうも命婦であった母親と今の私は身長がさほど変わらなかったらしく、筐体のサイズを修正する必要が全くなかった。
逆に父親の方は身長が若干高かったのだろうか、甲冑の筐体はややゆとりがある。
と言っても、そんなに差があるわけでも無く、こちらも修正なしで操作可能だった。
ヴォイチェフが整備で乗るときは、いやに窮屈そうにしていたのを思い出す。
母親の甲冑には乗り込むことすら出来なかったので、整備の時には私の代わりにメイド長を兼ねている妻に頼んでいたようだ。
幼少の頃にみまかった為もあってよく覚えていないようなのだが、二人の身長差は今の私とヴィオラよりもすくなかった様な記憶もあり、今の私の身長は、父親からの遺伝な可能性が高かった。
と言うか、母親結構デカいぞ。
そう思っているうちに、胸部装甲の中にもかかわらず明るく案る。
計器類は目盛りを読み取るタイプばかりで直感的かもしれないがどうにも即応性に劣る仕様となっているのが玉に瑕だが、スリットで相手を確認と言う訳で無く、一種の全周囲モニターとなっているのでさほど見なくても感覚でなんとかなったりする。
……ライトニングⅡってより、ロボットアニメだな、まんま。
まあ、理屈はわからないけど、便利だから問題無いのだが。
脚に車輪や履帯がついていないタイプな甲冑なので、ゆっくりと歩き出す。
いざとなればそこそこの距離を飛行する事も可能なのだが、燃費がすさまじく悪い為、戦場以外ではそれなりに考えて使う必要があった。
父の方は 、突進力を生かせる浮遊式を採用していたわけだが。
逆に、浮遊式だから突進力を生かした戦法になったのだろうか。
事機動性と言うとき、あの騎馬型の甲冑は実に向いている。
確かに一時的な速度で言えば跳躍したときの母の甲冑や、突進時の父の甲冑が優れているが、移動速度という観点で見ると一歩も二歩も劣る。
そんなことをぼんやり考えているうちに、昨日通った轍を見つけた。
自由騎士達もそろそろ割り当ての地域で榴弾探しと称する探索を行っているはずだ。
発見次第、見敵必戦で交戦し、派手に騒ぎ立てる事を伝えてあるが、もとより目立ってなんぼな歌舞伎者だか婆娑羅だか言いたくなる部分を多分に持っているのだから、言わずもがなだったかも。
むしろ、いかに逃げられずに交戦するかが肝かもしれない。
森の中では、どちらかというと集団戦に向いた仕様の自由騎士達の甲冑や僚兵では、上手くいなされて交戦に至る前に避けられてしまう可能性があった。
その際、普通に退いてくれれば良いのだが、敵陣を通って主力の側に逃げ込む策をとられるとやっかいだ。
いや、やっかいだというか、結果として奇襲そのものになる。
見つけた。
と言っても、敵では無く榴弾をだが。
轍からはそれなりに離れた草叢に転がっていた事から、荷台から落ちたときにバウンドしたのだろう。
それを左手にとると、少し周囲を見渡す。
やはり外縁からだと森の中はよくわからないと言うのが正直なところだ。
ゲームで結構派手な動きで戦っていたのになぜ強襲が出来たかというのは、この森の深さを見れば納得もいく。
いくら喬木が灌木の様に感じる巨体だとはいえ、周辺部から奥を見た場合、木々から少しだけ飛び出した頭頂部を確認する事は困難を通り越して不可能と言わざるを得ない。
遠くで、馬が竿立状態になったような姿が見えた。
例のケンタウロス型甲冑が背伸びをしたと言うことか。
なるほど、確かに馬の後ろ足で立てば、倍とは言わないが1.5倍以上の高さから見渡す事が出来ると言うことか。
高いところから探せば、森の奥まで……
その時になって、ようやくこの甲冑が跳躍《飛べる》事を思い出した。
先入観というやつか、地上から探す事ばかり考えていたが、別に空から探しても問題無い。
というか、言ってみれば上空からの探索許可を貰うために幕僚に行った様なものだと今更思う。
地上から探すだけなら、別に幕僚に筋を通す必要も無い。
まず、軽くジャンプ。
いた。
ケンタウロス型甲冑と少し離れたところで、動く影を認める。
遠ざかる方向の向かっている事から、竿立ち状態を認めて場所を変えているのだろう。
と言うことは、あまりジャンプも出来ないな。
と、正面方向に視線を戻すと……
いた。
別の甲冑が、全く異なる場所で。
そして、先ほどの敵と全く逆の方向にも動く影を認めた。
甲冑を一騎に僚兵を連ねる事で、遊撃隊のような運用を行っているのだ。
ゲームよりも規模が若干小さいが、逆に機動性は高くなる。
くそ、やられた。
おそらくだが、私か自由騎士達のいずれかを早い段階で認め、念のためにと分離した可能性が高い。
中途半端な知識が徒となってしまった事に、私は思わず罵りの声を上げる。
なぜ敵が一カ所でまとまっており、我々の襲撃を受けてから強襲に切り替えたなどと思い込んでいたのだと。
だが、今更なことをいつまでも悔やんでいても仕方ない。
切り替えは実は苦手なので、意識して敵とどう対応するかに集中する事にする。
敵が森から出た瞬間に気づいたのではもう遅い。
いくら甲冑の機動性と運動性を持ってしても、完全な奇襲ともなれば防ぎようも無い。
せめて敵の存在に、森の中で潜んでいる段階で気づかせる必要がある。
自由騎士も、気づいてくれるだろうか。
無線と行った、近代戦では当たり前な装備が無い事を頃炉の中で罵った。
実際、近代以降と中世あたりでの戦いで根本的に異なるのは、この処理速度の差だと、無くなってみるとよくわかる。
火力だのなんだのは、この世界の場合甲冑と魔術が戦術レベルでなら拮抗出来るだろうが、物資含む戦略レベルになるとこの速度差は致命的だ。
だが、やるしか無い。
私は、着地すると同時に、一気に森の中へ向けて駆けだした。




