2. 異世界の下級貴族に転生しました
ここから本編になりますが……
戦場に美少女なんていない……
いるのは〈死神〉だけだ!
何か、恐ろしい夢を見ていたような気がする。
寝汗の気持ち悪さに目が覚めた様で、気がつくと、豪勢だが見窄らしいベッドに寝ていた。
漫画風に言うと……
『何を言ってるのかわからないと思うが、自分でもさっぱり理解出来ない』
……そんな感じだ。
まず、そもそも布団で寝ていたはずだ。
理由は単純で、ベッドを置くスペースが借りている部屋には無いから。
もっと厳密に言うと、置けるには置けるが、それ以外の空間が無くなるので置いていない。
なのでベッドなど、出張のビジネスホテルで使うことがあるくらいだ。
次に、寝ているベッドそのもの。
準特大の大きさのそれは、畳よりやや柔らかいと言った感じの弾力で、寝心地は決して悪くない。
一方見てくれの方は、飾り付けこそ豪勢だが、古びて至るところのひび割れを仮漆で補修してある。
天蓋も一応ついているのだが、実際には枠だけとなっている。
元々はかなり黒に近いグレーな会社だったのが、景気が上向いてきたのと労働基準局にたれ込んだ勇者がいたらしく最近ではかなり改善されて来ている。
要するに何が言いたいかと言うと、改善されてきたとは言え、クイーンサイズなど一人で買うほどの甲斐性はもっていない。
そして最後に、隣ですやすやと寝息を立てて眠る、明らかに日本人とは異なる顔の女性。
童貞こそ、プロを相手に捨てているので魔法使いでこそない。
無いとは言うものの、彼女いない歴イコール年齢であることには変わりない。
だから、私は結論づけた。
寝ぼけている。
そういうことだろう。
気がつくと、その女性の胸に手を伸ばしていた。
いやにリアルな夢だなぁと思いながら。
そして再び目を覚ますと……
やはり枠だけの天蓋が見えてきた。
ほんとに、転生したんだと思いながら、天井では無いけれども例の台詞をつぶやく。
一応天井も見えているからセーフか?
言葉に出してみると、隣でまどろんでいた女性がピクリと動いた。
無意識のうちに手が伸び、優しく頬をなでてやると、寝顔が緩み、笑顔のようになる。
「ふふふ、イルマ。
良かったよ」
「もう、あなたったら。
初めてよ、こんなすごいの」
寝ぼけているのだろう声で答えてくる。
どうやら元々は結構淡泊だったらしく、更に言えばこんな閨での睦言じみた事は全く無かったらしい。
だが、私はそれ以上に驚いていた。
無意識で、彼女の事を呼んでいるし、どうやらこの見るからに東欧露西亜系と思しき……
「緑色の髪だぁ?」
叫びかけた口を咄嗟に押さえた自分を褒めてやりたい。
だがその所為で指を噛んでしまった。
痛みと同時に、ここが異世界だと確実に認識できた。
そんなこんなで、色々ありまして……
さて、状況を纏めよう。
この世界に関する一通りの情報を入手したと判断し、ネットでよくある小説を思い出しながら、執務室に相当する小部屋の椅子に腰掛けながら確認していく。
転生か憑依かはさておき、異世界に来たのは、ほぼほぼ間違い無い。
タイムスリップも最初考えたが、髪の毛の色で脱落。
もう、ここが異世界なのは間違い無いだろう。
前提条件は、コレで決定。
異世界転生モノの主人公かぁ……ちょっと感慨がある。
そういや、トラックに引かれてエルフの天敵として転生ってネタを昔思いついた事あったな。
七四式戦車で旅するマンガとは違い、転移してきた『跑足』と名付けられた小型トラックが相棒で、最後はエルフが運転するライバルのトラックとチキンゲームで正面衝突って言うオチだったが。
……色々怒られそうなネタだな。
閑話休題
続いて、自分自身と身の回り。
まず、この世界での記憶。
ありました、幸いなことに。
ただし自分の記憶という感じでは無く、体験した情報を都度ダウンロードしている感じ。なので、地理とか歴史とか言った学術系は問題無いのだが……
コト人間関係の場合、何があったかはわかるんだが、どう思ったと言うのがスポーンと抜け落ちておりなかなかもどかしい。
完全記憶を持っていたなら、前後のリアクション等から想定するという方法もあったのだろうが、残念ながらそんな便利なものは持っていなかったようだ。
その上、思い出そうとすると、その内容や量によって頭痛が襲ってくる上に、思い出す場合の法則が、よくわからない。正規ではない方法で情報をダウンロードしているので、脳みそに過負荷がかかっているのだろうか。
そのため、所々に大きな記憶の抜けがあったりする。
次に名前。
マルティーナ・オーベル・バラージュ男爵。
愛称は、マーティー。なんかチキンとか言われた瞬間にキレそうな名前だなぁ。
もっとも、愛称とかは呼んでくれていたらしい両親が転生だか憑依だかする数年前に他界した為、いまとなっては嫁くらいしか使わない呼び方なのでまあどうでも良いんだが、頭文字がMOBって言うのがなぁ……
見てくれは、正直なところ貴族としてはあまりよくない。
顔の作りも、よくいってもせいぜい中性的。
はっきり言えば、女顔。
この国の基準で言えば、不細工扱いこそされないが美男子とは誰も言わない。
体毛が薄い体質なのか髭がほとんど無いのも、この国の貴族的にはマイナス要因みたいだ。
年と比べて若々しく見えると言うか、未成年と間違えられそうと言う方が正確で、これまたマイナス要素。
体型は、前世と比べるとやや低くなったかなと言った程度の感じで、この国の男性としてはかなり低い部類みたい。
体重関係は、前世はそろそろメタポ気になる直前だった事を思えば多少改善されているものの、はっきり言えば小太り。
だがコレは、記憶によると小柄な体型を舐められないようにするためにわざと太っている部分もある様だ。
どうもいわゆる女顔な上に名前も男女どちらとも取れるらしい所為もあって、痩せているときには婦人礼装の方が似合うのにと言う陰口を叩かれた事もあるらしい。
で、最近娶ったばかりの妻と、現在我が家の後継問題にいそしんでいます。
まあ、要するに子作り邁進中で、少ない家人《servant》たちも業務によっぽど支障が無い限りは黙認してるみたい。
下級とは言え貴族にとって後継育成は一番の仕事とも言えるんで、黙認と言うより業務の一部と認識しているのかも知れませんがねぇ。
良いんだか悪いんだか。
嫁の名前は、ヴィオラ・イルマタル・パラージェ。
日本人的基準から見てもこの国の基準から見ても美人の範疇。
こんなぱっとしない下級遺族に嫁いだ理由がいまいち見えない。
この国は貴族と騎士階級の間に、英国同様の準貴族階級である准男爵が有り、その出身らしい。
うちみたいな名前だけ貴族に嫁いできたのはその辺が絡むのかも知れないが、逆にもっと上の貴族の側室とかになった方がよっぽど身分も財産も上な気がするんだが、なんでだろう。
正妻にこだわったということなのかしら。
年上の姉さん女房ってやつなので、ひょっとすると上手いこと押しつけられた可能性もあるが、貴族同士の年齢としては不自然でも無いし、いまとなってはどうでも良いことだったりする。
何しろ、以前はともかくとして、最近は仲が大変よろしい。
客観的にも、仲良く見えるらしい事は、家臣に確認済み。
とにかく、夜、頑張ってるし。
次の日に影響でるくらい、頑張ってるし。
あと、夜で無くても頑張ってるし。
偶に実家に戻ってるけど、それ以外はほぼ毎日頑張ってるし。
昔は夏に王都の邸宅シティハウスで生活してること多いみたいだったけど、最近は汗だくで頑張ってるし。
それと姓が違うように見えるが、どうやら爵位を持つ場合、一部の姓には男性形と女性形が発生するらしい。
……めんどくせー。
全員で無く、一部ってとことか、まったくもってめんどくさ。
更に、准男爵や騎士階層の場合、ミドルネームに該当する名前が姓の代わりとしてあり、下級貴族に嫁ぐと姓を得てミドルネームとなるらしい。
逆に上級貴族が中級貴族に嫁ぐ場合、元の家名をミドルネームの一つとして使う事がほぼ慣例だそうで、もうめんどくさすぎ。
まあ、中級貴族ならともかく上級貴族が下級貴族に嫁ぐ場合は、まずあり得ないそうなので、ミドルネームが不足すると言う事は無さそうではある。
是非とも、批判等忌憚ない意見をお願いします。
需要とのギャップを知らずに書くので無く、知った上で書いていきたいと考えているので、よろしくお願いします。
R3.1.4 改行方法を変更。
25May2023 説明の補足含む改定。




