17. 落とし物を拾いに転生しました
「さてそこで、だ。
俺たちはどのタイミングで参加する?
最初は散会して合図を待つか、それとも最初から一緒に行動する」
戦い以前に行動の基本となるだけに、案の定、真っ先にその点を尋ねてきた。
なので、私も素直に答える事にする。
「その点にかんしては、特に悩んだ。
一緒にいた方が、敵への対応は容易になるが、あえて場所をずらしていた場合の対応が遅れてしまい、全く無意味とまでは言わないが、良くても強襲される事になりかねない」
奇襲の可能性は幕僚達の脳天気さを見た瞬間に考えていたらしい自由騎士達も、強襲に移行する可能性は気づいていなかったようで、はっとした表情を浮かべる。
「勘違いしていないとは思うが、我々の目的は側面からの攻撃を防ぐ事であり、奇襲を防ぐ事では無い」
強襲であっても戦場をかき乱し勝利につなげることが可能だという事は完全に盲点だったのだろう。
だが、こと戦いに関しては、彼らは無能では無かった。
「なるほど。
つまり、強襲になっても失敗ということか」
自由騎士達は、そう言ってうなずいた。
理解が早いのは、実にありがたい。
幕僚達であれば、自説を固持するあまり、言葉尻やちょっとした齟齬をあげつらっていかにも自分たちが正しいように喧伝する事に違いない。
と言うか、流れ込んできた記憶では何度も実績があるようだ。
軽度とは頭痛がするので、どうでも良い時にこの情報流入は、正直勘弁してほしい。
「そういうことになる。
完全に迎撃態勢を整えた後なら問題無いだろうが……その場合素直に撤退してくれる可能性の方が高いし、つっこんで来ても普通に対処可能だ」
ゲームのオープニングでは、単機がけで敵の奇襲を防ごうとした為に、結果として失敗している。
たしかに奇襲を強襲へと変更させる事は出来た。
だが、結局味方の弱い側面を強襲された結果大混乱に陥り、そのタイミングで敵主力の突撃を受け散々な負けっぷりに至る訳だが……なぜか、幕僚達は戦果を上げており、おとがめなしとなってしまう。
奇襲を見抜けなかったことは落ち度だが、それを上手く建て直した事でチャラにすると言うことらしいが……実際のところチャラには全然なっていない。
これが、ゲーム中盤で最大の敵とまで言われる所以である、無能《幕》な働《僚》き者《達》が作戦乱すだけ乱して美味しいとこだけさらっていく美丈夫達。
プレーヤーから散々嫌われていた理由でもある、ヘイトを煽る為としか思えない設定と演出で、全くもって制作者の悪意満載だ。
そういえば、元になった乙女ゲームも、ざまあ搭載という隠しイベントを実装していることでも話題になったのだが、ほんとに嫌がらせに関してはすさまじく充実している世界観だ。
「まあ、難しく考えることは無い。
本隊と干戈を交える前に側面に敵がいる事を知らしめれば我々の勝利だ。
後の懸念は……あの運の良い幕僚たちに、中途半端に情報が伝わるくらいかな」
「なるほど、どうせ深く考えても爆運保持者が近くにいては、詮無きこと、と言うことか。
しかし、運すら期待出来ないとは、ここでも最大の敵は幕僚殿達ということか」
「そうだろうが……
あの調子だと、よっぽど派手に交戦しない限り、認めようともしない可能性が高いな。
いや、派手な程度だと無視する可能性すらあるか?」
運同様に矜恃もとんでもなく高い連中だから、奇襲の可能性を一旦排除したからには、多少の事では無視してかかるのは想像に難くない。
……いやこの場合、彼らのそれは驕りに近いか。
翌朝。
諸侯によっては、甲冑や僚兵を少数の徒歩兵に守らせ、後方で宿を取る事もあるそうだが、残念ながら我がバラージュ家においては、戦場においては常に前線にあるべしとかなんとかそんな感じの家訓があったりする。
そのため、乗ってきた馬車を天幕代わりにして道中着の上に毛布代わりの外套にくるまって一晩過ごすことになった。
徒歩兵に余裕が無いという実際的な問題もあっての事だけれども、今回はそれを利用させていただく。
敵はまだ見えないが、そろそろ道化を演じてもよい頃合いだろう。
「では、予定通り馬車で幕僚に連絡後、改めて甲冑で出撃する」
そう後ろの牛追いに告げると、後方の帷幕に若干くたびれた二輪馬車を向けた。
後ろには、前線の陣に荷物を置き、甲冑とその装備以外は空となった荷車が牛に牽かれて連なっている。
「ほうほう、装備の一部を落としたのですか。
牛車など大量にはこべるとか言われておるが、やはり馬車のものということだな」
幕僚に内容を告げると、案の定小馬鹿にされたので、わざとむっとした顔を作る。
「で、落とした装備を戦いの前に探すというのですか?
そのような事をされては作戦が崩れる。
こまりますな」
別の幕僚が、何が作戦だよと突っ込みを入れたくなる事を言い出したので、一瞬顔が引きつったのを自分でも理解できた。
「まあ、そういってやるな。
元々の運が悪いのでは仕方あるまい」
どうやら、よい警官悪い警官と言われる作戦を無意識で実施しているみたいだ。
意識していない分、実に自然に役割分担をするあたり、知識として持っていないこの世界の連中には効果覿面だろう。
普通にディスってくれるのは相変わらずだが。
まあ、そもそもあんたら無視して探しても問題一切無いんだけどなと身もふたもない事を言うのは、今後の作戦に支障を来すので言わないでおく。
「で、どの程度、探すのにかかる予定だ」
「流石に午前中いっぱいでおわるでしょう。
それ以上かかる用だと、なので、敵軍が戦場に到着する前には陣地に戻ることが可能になります」
「全くもって、このような間の抜けた事で陣を離れては貰いたくないのですがね」
「まあそう言ってやるな。
才能だけで無く運の無いというのはどうしようも無いことなのだからな」
爽やかな笑みとともにかなりむかつく言葉を無意識に発してくれるので、タイミングを逃がさずわざとムッとした表情を作り、退出の挨拶をすると、振り返りもせずに部屋を出た。
呼び止められなかったので、特に何も無かったのだろう。
どうせ、馬鹿にされて笑いものになってはいるだろうが知ったことか。




