16. 戦場に挑むべく転生しました。
「で、どんな作戦か教えて貰おう」
ホンザは、馬車から降りた早々の私を見つけ、大声とともに歩み寄ってきた。
声に合わせて、他の自由騎士《荒くれ者》も集まってくる。
「その前に、甲冑を下ろすので待ってくれ」
私が自分の甲冑を乗せた荷車に向かいながら応えると、確かにそれもそうだなと言ってうなずき合い、自由騎士達は少し離れる。
武装は悩ましところだが、弩弓をメインにサブアームとして剣を選択する。
榴弾は三個全て装備。
奇襲阻止を目指すなら騎槍は論外だが、長柄武器自体はあり得る。
流石に移動起重機どころかしっかりとした手動持上装置すら無いこの世界では、結局乗り込んで降りるのが最善手となる。
一応ロープと滑車を使った簡易チェーンブロックくらいは存在するが、僚兵を使えばその方がよほど手軽で早くできると言うのが理由の一つかもしれない。
流石に甲冑をその手の作業で使うのはよほどの事だが、僚兵の場合は一種戦闘工兵や黒鍬者の上位互換的部分がある。
私は甲冑の載せられた荷車に乗り道中着を陣中鎧に着替えるとさっさと甲冑を下ろすことにした。
「来る途中、樽が木の陰にさりげなく隠されていた」
甲冑から降りると、特性の陣中鎧用の陣羽織を羽織る。
幕僚達にみられたら、礼儀作法がどうのこうのとかしきたりがどうのこうの言いだしそうだが、居ないのだから知ったこっちゃ無い。
羞恥プレイを受けるよりもずっとましだ。
「平時に森に入る狩人や冒険者どもがよくやる補給品という体で置かれているので、一つ一つだと見落とすだろう。
そんな樽が、一ダースとは言わないが、それなりの数あった。
見落とす程度の間隔を開けて。
理解していると思うが、最善手は補給を発見したと伝えること」
「あいつらが耳を貸すなんて天変地異がおきるなら、確かに最善手だ」
茶々を入れつつも、理解している事を示してくる。
「となると、戦場に現れる前に奇襲を失敗させるしかない。
最低でも、奇襲をかける前に位置を暴露してやる必要がある。
立ちはだかり、打ち倒す事が出来れば最善だが、相手はおそらく精鋭を送り込んでくるだろうから、望みは薄いと言うしか無い」
全員、軽くうなずく。
今は茶々を入れるべきタイミングで無いと判断しているのだろう。
粗野なだけで無く慇懃無礼な対応も可能というろくでもない連中だが、こと戦いに関しては真摯な部分がある。
「さて、敵の作戦だが、おそらく我らが幕僚の事を熟知しているのは間違いない。
うちの幕僚達は、作戦能力はお世辞にも高いとはいえないが、こと運に関しては天下一品だ。
同時に、運を作戦に組み込むことは大前提だが、あまりにもご都合主義な事までは期待しない程度の常識はもっている」
感情の共用こそしていないといえ、本来の中の人は相当煮え湯を飲まされたようだ。
元々見栄えからいえば幕僚に入れるわけ無いところを、運の良いふりをして上手く潜り込んだみたいだ。
しかしエリート主義を排すために見栄えの良い連中を採用するなどと、なにがどうしたらそんな発想に至ったのかいまだに全く理解出来ずにいるのだが。
それはともかく、以前の私は運が大して良くないと判断された途端冷遇され、献策とかも頭でっかちでエリートの末裔という烙印で門前払いされたらしい。
しかし、いろいろこじらせた部分あるけれど、異世界転生かましている今の中の人である私よりもよっぽどちゃんとした主人公じゃ無いかと思える。
「なので敵は、あえて無理してでも我らが幕僚達の想定とは異なる状況を作り出そうとするはず。
そのために、まずは予想を裏切って明日戦いを挑む可能性が高い。
次に、発見されるのを前提に奇襲を仕掛ける」
「おかしくないか、発見されるのを前提にしていながら、発見されないようにするなんて」
「それだけだと奇妙だろう。
だが、我らが幕僚様達の運の良さを考えると、結構早いタイミングで発見自体はされる可能性が高い。
もし、その発見されるタイミングが、開戦の直前であったらどうなる」
「なるほど、例え少数であっても、敵側に甲冑が居るのならばこちらも甲冑を繰り出す必要があるわけか」
「そして、その指示を出すのは」
「そりゃ……
なるほど、諸侯は指示が来る前に勝手にいろいろしそうだな」
なぜ幕僚達が正確に明後日の朝攻撃してくるなどと予想出来たかが、陣にいくまで全く不明だった。
だが陣で駒の置かれた地図を見てようやく理解できた。
地図には、ほぼ半日おきに主力の位置が記載されていた。
いくらそれなりの軍勢を率いている主力だといえ、斥候の重要性など毛ほども理解していないにもかかわらず、実に正確に動きを把握している。
流石に敵の間諜が潜り込んでいるとまでは思わないが、あえて見つかりやすくしている程度の可能性は否定しきれない。
下手に策を巡らすと、それこそ幕僚へ運良く情報が届くという可能性は実際あると考えたのだろう。
樽の自然な置かれ方のように情報の大切さを理解しているにも関わらず、なぜ杜撰な秘匿状態で進軍してきたかもこれでわかった。
実際地図をみた限り、奇襲の部隊自体とおぼしき駒も示達はあった。
ただ、森は壁と同義で扱われており、遅れている別働隊だとでも判断されたようで、増援扱いとなっているみたいだ。
杜撰なようだが我が国のほうはもっと酷いと断言出来る上に、そこから得られた情報は敵陣に攻め込むにはむしろやや早い位のペースであり不自然さは全くない。
そしてそのペースをみれば、明日の昼前、早くても午前中に到着。
休憩を考えれば明後日が決戦と考えるだろう。
到着してすぐにこちら側から襲いかかった場合でも、敵は進軍の疲れはさておき甲冑自体は稼働状態なので迎撃は雄文可能だし、休憩するのを待ってからの襲撃を試みる場合であれば、少なくとも夕方の暗がりまで待つ必要がある。
敵と味方の性格を無視すれば、特に問題無い話で誰もが見過ごすだろう。
実際私もゲーム知識という如何様があったからこそ疑ってかかったと言うだけで、これだけ見せられたら全く気づいてもいなかったと断言できる。
「増援の主力も、今朝早くに出発しペースをギリギリまで速めれば、戦場の少し手前になら今日中に到着可能だろう。
逆にそのくらいでないと、明日の午前中に戦場には到着出来ない」
「で、到着してすぐになのか休息をとってからかと疑心暗鬼のわが幕僚殿に騎馬を向けるわけか」
日本語だと上手いしゃれって部類だがこの世界では慣用句をつぶやくラヨッシュに、私は首を軽く振る。
東欧と言うよりも南アジアでみられるジェスチャーに近く、無限大を描くように首を振ることで『諾』を示すのだが、どうも感覚的にいまだなじめないで居る。
とっさの場合だと、つい縦に首を振りそうになってしまう。
というか、何度かやった。
「ただ、そのタイミングが読み切れない」
「しかし、一番重要なところだな」
「かといって一番いそうなところで待っていても、それならと直接幕僚本部を急襲されてもかなわないし」
「敵は、見つかる事を既に織り込み済みと考えて間違いない」
「ならば」
騎士達は私の方を見つめてくる。
ただでさえ世紀末覇者じみた連中が揃っているだけに、すさまじい圧迫感《濃さ》を醸し出している中、私は案を披露する。
「道中に榴弾を落としてしまった。
明日の朝、そう幕僚達に告げるために帷幕に向かう事になる」
「はぁ?」
「それ自体はどうでも良いが、この場青陣地に向かう経路自体に意味がある」
私は軽く身振りをしながら森の脇を通り過ぎる轍を示した。
私の言いたいことを理解したらしい自由騎士達も、思いお思いの仕草で理解した事を示す合図を返してくる。
正直、彼らと一緒に移動するべきかそれとも別行動とすべきか、悩ましいところだ。
彼らは無能では無いどころか、有能と称してもかまわない。それ故に悩ましい。
「さて、明日は狩りの時間だ」
気分を盛り上げるために、あえて厨二っぽくにやりと笑って見せた。




