13. 死亡フラグを降ろす為に転生しました
地図を確認すると、それは実に微妙な位置だった。
敵に正対した時の右翼にあたるその位置は、甲冑の動きにどうしても制約が発生する河川敷に近い場所になる。
攻める側からすると、少し回り込むだけで
地図を見るとわかるが、黒い森と呼ばれる張り出した森林によりへの字ともくの字とも言うべき形に平野部が形成され、森とは反対側に河川がまっすぐ流れている。
そして、わが軍はくの字の頂点付近に陣取り、帷幄として使われている建物はくの字の奥側にある。
つまり、森と川に挟まれた平原はひたすらまっすぐで、じつに決戦向きな土地となっている。
まあ、勇敢に戦って勝つと言うのも間違いとは言いがたい。
基本的に一直線であり横からの攻撃を気にせずとも良いために、中世欧州で行われた騎兵突撃をおこなうに適した地形であり、甲冑ならばそれ以上の突進力で可能となる。
そして私は知っている。
この黒い森を、少数精鋭の甲冑を操る敵部隊が密かに通り抜けて現れる事を。
本来であれば戦いのさなかに真横から奇襲すべく現れた敵は、だが見抜いた元幕僚による一騎駆けの結果それを果たせず存在を露呈。
その結果、基礎をむしろ莫迦にさえしていた幕僚たちは混乱の結果全員がバラバラの命令を行う。
あきれた諸侯軍の大多数はとっとと自らの判断で後ろにさがり、国軍は命令に忠実であろうとする部隊と諸侯軍に習い後ろに下がろうとする部隊とでさらなる大混乱を引き起こし、大敗北を引き起こす。
それでも側面を突破された場合よりも諸侯軍がほぼ無傷で残った分ましと言ったところなのだが……
そんな事になった場合、私が捕虜もしくは逃亡するうえに敗戦の責任を押しつけられることは確定している。
名誉自体は回復する可能性があるが、死んでからの名誉回復なんてなんの足しにもならない。
「どうかしたか。
前線と聞いて怖じ気づいたか」
相変わらずの横柄な態度で尋ねかけてくる。
「ははは、冗談はもう十分ですぞ。
そもそも戦陣の確認に時間をかけるなど、基礎の基礎でありますからな」
幕僚が横柄なら、後ろの自由騎士は慇懃無礼ときた。
しかしなんでまた配下などと言い出したんだろうか。
手柄を立てるチャンスとみたか?
しかし当初の予定だと、陣のうしろから気を見て一騎がけと考えていたが、そうもいかなくなった。
ゲームだと省略されていた部分だが、先ほどの台詞から考えると当初私が考えた作戦と大差なさそうだという事も考えると、根本的見直しが必要かもしれない。
「ふん。
陣形なぞ眺めてどうする。
いくら見ても敵は倒せないぞ」
「その割には、駒がおいてありますが」
「それは羊皮紙の上の図だからな。
都度書き込むわけにも逝くまい。
かといって、口頭では勘違いも起こりがち故に駒を置いてはいる。
もっとも、実際に立って初めてわかる事の方が多に決まっている」
「何をおっしゃる。
双六将棋でも傍目八目と申すように、最初に傍目で眺めるのは実にただし行為ですぞ」
「だからこそわれら幕僚は後方で広い視野で戦場を眺め、適切に戦いの指示を出すのだ。
双六将棋で定石にこだわるような真似と同じで、頭でっかちになってはいかん。
そもそも地図を見て地形を覚えたところで、迷わず集合する以上のなにが出来る」
「そうですね、逆に言うと道に迷わないですみます」
自ら軍事的に無能ですと宣言してくれる幕僚を軽くいなした後に、戦いの道筋にもねと小声で嫌みを付け加えると、背後でクスクスと言う声が聞こえてくる。
そして、黒い森を凝視していた地図を少しだけ視野を広げて改めて確認。
手段では無い、目的は何かだ。
そう、目的を間違えてはいけない。
私の目的は敵を倒すことで無く、側面からの奇襲を防ぐこと。
ゲームでは側面攻撃を和らげる事に成功したとはいえ、奇襲自体は受ける形となっている。
だが直接の描写は無いといえ、諸侯軍も憑依だか覚醒する前の私の声高な主張を聞いて頭の隅にその可能性を置いていたが故に早期撤退が可能になった節がある。
ならばこれは逆に、布陣先に到着前に突っ切るのが良さそうだ。
まだ敵も到着していない可能性が高いが、逆に罠として魔力を用いた榴弾を地雷代わりに設置すればどうだろう。
集約手榴弾よろしく何個かずつまとめて設置すれば、除去せず突破するにはダメージが大きいし、かといって迂回しては奇襲の意味が無い。
逆にそこまでこった偽装は出来ないだろうから解除自体は可能だし、そこまで複雑な訳ではない。
だが、甲冑用の榴弾ともなればサイズも大きいし、ちょっとした小細工を仕込まれていても気づきにくいだけに、解除作業自体は簡単な割に時間がかかるし大がかりなものとなる。
つまり、隠匿作業の必要があるにもかかわらず目立つ事になってしまい、要するに奇襲が強襲に切り替わるという事だ。
その際に重要なのは、自由騎士がどこまで出来るか。
腕はおそらくそれなりの以上にある。
頭の回転も、先ほどのからかいを鑑みて、それなりに早いほうだろう。
「この森が、どうにもいやらしい」
なので、幕僚に問いかける風を装い、後ろの連中に問いかけた。
「おやおや、その森を甲冑が突っ切ることは出来ないと、既に証明済みですよ。
僚兵は確かにやや小ぶりだが、補給なしでの突破は無理でしょう」
案の定、幕僚連中はニヤニヤと小馬鹿にしたような笑いを顔に浮かべる。
確かに、奥からまとまった兵力が一気に抜けることは出来ない。
それは我が国の側から攻め込もうとして何度も失敗している事からも確かだ。
確かではあるが、同時に根本的な差異がある。
「僚兵含めて五騎くらいなら十分ですがね」
「たかだか五騎程度がゆっくりと移動したところで、何が出来る」
小馬鹿にしたような幕僚たちとは逆に、後ろにいた自由騎士達《連中》ははっとした様子で地図の方に近づき観察を始める。
こいつらは拾物だ。
打てば響く反応をしてくれる。
同時に、前と後ろでここまで温度差が開くとは、なかなか面白い、などと微妙に冷めた部分で思う。
幕僚連中が五騎程度なら森を抜けることが可能だと捉えたのに対し、確かに背後の自由騎士は五騎程度あれば奇襲は十分可能だと認めたのだ。
それだけに、地図から読み取れるだけの事を読み取った上で、実際の地形と照らし合わせようとしている。
燃費が悪いとはいえ甲冑は長時間の侵攻作戦にも耐えられるだけの容量があるため単なる移動であれば案外長距離移動が可能だ。
逆に僚兵は、燃費こそ良いものの従歩兵の排除目的なためさほど容量が無く、野営地周辺からはさほど離れられない。
この辺は、初期の巡洋艦と駆逐艦との差みたいな感じだろう。
そのため、黒い森を抜け出た後での作戦行動は甲冑であれば可能でも僚兵だとほぼ不可能だ。
補給が無ければ、と言う前提だが。
そして僚兵は、燃費が良いため甲冑と比べ当然補給する物資はグンと少ない。
馬車等で同行せずとも、事前に補給物資を隠しておく事も可能なはずだし、いざとなれば甲冑が装備の一部を外して物資を搬送することも可能だ。
「奇襲はさておき、背後が森というのは一度後方に退いて体制を立て直すのがやりにくいものですから」
再び幕僚たちがフンと鼻を鳴らす。
戦う前から後ろに退くことを考えるなど情けないとでも思っているのだろう。
思ってはいるが、補給の重視を標榜しているだけに否定もしない。
しかし悪評ばかり先立つ帝国陸軍だって撤退とか後方で軍の再建とかそのくらいは考えていたのだが。
なんというか、元々が反エリート主義にどっぷりつかり混んでいる上に、憑依する数年前に、運だけで勝利をつかみまくった男が現れたらしい。
その男がダメ出しとなって、双六将棋でも演習でも、多少盛り返していた定石派と呼ばれる戦術を検討する層が完全に一掃され、その煽りで反主流の定石派に属していたかっての私も完全に出世の芽が摘まれたらしい。
だが、策は出来た。
「確かに地図だけではわからないのも確かですので、宿舎に一度陣戻り、すぐさま確認したいと思います」
「ならば、たんとうである私があんないしてやる」
「いえ、大丈夫ですよ。
地図を十分確認しましたから、迷うこともありません」
そう、策は出来た。
迷うことは無い。
双六将棋:チェスと日本将棋と囲碁と盤双六を足して4で割ったような架空のゲーム。駒を動かす前に対局者双方がサイコロをふりぞろ目だと特殊効果をもたらすという乱数(運)要素を含んでいる点がチャトランガを起源とする地球のゲームと異なる。また、サイコロを用いないチェスや将棋と似た運を含まないタイプや逆にバックギャモンに近い賭博要素の強いタイプ等の簡易版も存在しており、このゲームの存在が転生者《迷い人》によるゲーム無双を阻んでいる。




