12.弄られキャラに転生しました
「それはわかったが、なぜ同席するのか」
脇に控えた美青年が、凜とした声で問いただす。
軍事的才能には全く見放されているものの、儀仗的な意味では実に優秀だ、と何気に辛辣な記憶が流れ込んできた。
ゲームからの知識と過去の記憶に乖離が無いことにほっとしつつ首と目尻を軽くもんで、記憶の流入とともにもたらされる頭痛を和らげる。
「直接臣従しておる寄子ではござらんが、今回は男爵の隷下として参戦いたしております」
私が聞いてないよと言い出す前に、いきなり自由騎士の一人が胴間声を張り上げる。
幕僚たちからの視線がさらに厳しくなる。
これは下手に『こんな連中知りませんよ』と言い逃れできないパターンか。
「まだ知り合って間が無いゆえ、認識を共有しておきたいと思いまして。
元来自由騎士だけあって、彼らの戦術眼はなかなかのものです」
流石に、先ほどよりもさらに悪いこの空気に耐えかねて、私は口を出した。
「このような場でも、異なる視点からの意見が期待出来るということ。
彼らの実力は、このような帷幕であってもその能力は十分に発揮されることでしょう」
とりあえず、持ち上げておく事にしよう。
そうしよう。
「実戦経験も豊富で、連携のとれた策もとれる彼らですが、王国軍の幕僚なら使いこなせるでしょう」
私が当たり障り無い感じで伝えると、なぜか視線がさらに厳しくなる。
何か言い方間違えたのだろうか。
「いやいや、確かに気になるでしょう、なぜ卿の元に、我らの様なむさ苦しい者が集っておるのかと。
しかし理由は至って簡単。
そろそろ身を落ち着ける時期と思っておったところ、男爵と実に魅惑的なひとときを過ごしましてな。
その時に惚れ込んだと言う次第」
と、唐突に自由騎士のリーダーが楽しげに話しかける。
しかしこいつなんてことを言い出すんだ。
その上「あの腰の動きなど、まさに絶品。
一見の価値ありですよ」などと付け加えるのはどういうことだ。
仲間の自由騎士も、「腰だけで無く全身をのけぞらすような動きもまさに絶品です」だの「我が輩のものを受け入れるあの動きは、相当のものでしたぞ」だと「それなりと自認しておりましたが 、見事手玉にとられましたよ」と囃し立てる。
くそ、絶対に誤解させる気が満々だ。
おそらく、前日の諍いでのことを潤色しているのだろうが、よりにもよってそんな風に言うか。
「なるほど、男爵どのは実に良い尻をお持ちの様ですからな。
残念ながら、私とは趣味が合わないようですが」
じろじろ見ながら、そろえたように一斉にうなずく。
てめぇら、このやろ、喧嘩売ってるのか。
自分でも顔が真っ赤になるのがわかる。
顔が熱を持っているのは、怒りだけで無いなと、どこか冷静な部分が判断しているのが、なんとも悲しいところ。
冷静でいられるだけましだと、ポジティブに考えることにしよう。
「いえ、実に安定した腰の動きもなかなか見事なものですが、それ以上に口が素晴らしい。
頭の動きもかなり鋭いですからな」
イケメンどもまでにやけた顔をしている。
畜生、間違ったこと言って無いが、明らかに誤解を狙っている。
振り向いて睨んでやるが、素知らぬ顔だ。
「ほほう口もですか。
確かに、昔から舌だけは回っておりましたからな」
流石にカチンと来るが、そこはぐっと我慢。
「昔の事ですよ。
今では、男爵領を継ぐ後継者もおりますし、今後も発展していくでしょうから、そちらで手一杯で」
気の利いた台詞なんてこの流れでは無理なので、強引に流れを変える事にする。
まあ、おまえらと違って領地男爵《ちゃんとした貴族》なんだよと程度の嫌みくらいは付け加えておく。
しかし……信じられるか、こいつらって、いわゆるエリートに対するアンチテーゼとして産まれた『実力主義部隊』の末裔なんだぜ?
元々は、軍部に限らず頭でっかちになりがちなエリートを排して、柔軟な能力のある人間を登用するために三代か四代前に導入された制度に依るらしい。
だが、そもそも基礎教育をうけられるのが貴族や准貴族から富裕層な中世西欧風な世界なのに、下手に『突発事態に弱い』とエリートを排除したものだから、平時の一般業務に支障が出まくったせいでとっとと廃止。
殆どの部門で廃止されているのだが、なぜか軍部の幕僚部門でのみ、エリートを排し自由な発想で戦うと言う名目で残滓が生き残っている。
どうやら、基本に忠実な戦法をとったところ見事に罠にはまり負けたことが何回かあったらしい。
『羮に懲りて膾を吹く』というやつだ。
そして今に至っては儀仗兵も裸足で逃げ出す見た目重視部隊へと悪い方に進化を遂げると言う始末。
「なんにせよ、妻と領地を守るので精一杯で、とてもとても。
それに、実に有意義な時間でしたが、そろそろ布陣をお教えいただきたいものですな」
私の言葉が正論な事もあって再び鼻を鳴らすと、配下の一人を手招きする。
幕僚目指していた当時の私では絶対してもらえなかった指を用いた手招きで、腕を振るような雑な合図ではない。
実際身内とも呼べる間柄になると、お互いそれなりに丁寧な対応を自然と行っている。
手招きに応じて、中性的な美少年と言っても通りそうな青年が、地図の上に持ってきた駒をおいていく。
しかし、中性的と女顔の間には、実は雲泥の差があるんだよね、と少し落ち込むのは毎度の事だ。
「最初の予定であれば、男爵は単機と思っていたのでこちらの後詰めをあてがう予定だった」
流石に口調が本音ダダ漏れ過ぎだろうと思い苦笑しながら後ろを伺うと、背後の騎士たちも一斉に顔を伏せて肩をふるわせている。
「だが、数だけは増えたようなので前線に近い……
何かあるか?」
ようやく対面の様子がおかしい事に気づいた様で、怪訝そうに尋ねてくる。
「いや、なにも。
ところで貴公は」
ようやく私の言っている意図を理解できたのか、幕僚長が肘を軽くあてると、小声で何か言っている。
おそらく挨拶くらいはしておけと言う意味だろう。
言葉遣いに思い至る様な御仁とも思えないが、それくらいはわかるはずだ。
「確かに今後の命令を伝える上で必要ではあるな。
私はサー・ヤン・ネポムク・クロウダだ」
……あんま、わかってなかった。
いつまでたっても幕僚内での地位が全てなのだろう。
過去の体《記憶》から得た情報だと、伯爵以下の諸大夫の場合は親が生きている間はともかく代が変わると貴族でなく準々貴族とも言うべき郷紳扱いとなってしまい、その子供ともなると流石に市民と言うことはないが、完全に有産市民階層扱いとなる。
だが軍の幕僚となれば、叙勲がなくとも騎士階級や准男爵と言った准貴族と同等の士の敬称で呼ばれる扱いを受けることが出来るらしい。
隣国のほとんどが貴族の子は嫡出子でもしくは庶子でも認められると数世代は貴族として扱われる事と比べると、かなり厳しい。
その分、他国よりも上級市民の識字率が高いという結果になっており、善し悪しと言ったところでもある。
この識字率の高さが一時的とは言えエリート排斥を成功させる要因になったのかもしれないと考えると、なかなか難しいものだ。
「ならば我らも名乗るべきなれど、全員だと時間もかかるゆえ、ここは代表でそれがしが」
リーダーがそう言って一歩前に出る。
見栄えで言うと雲泥の差としか言い様がない。
……低身長・超過体重・禿頭・厳つい顔は高性能の証だったりするゲームの仕様にたいし、禿頭で厳ついこの男、この間の諍いといい今回の話しっぷりと言い、どう考えても見事に当てはまっている。
「あらたに男爵配下として加わった『鋼馬』のサー・ホンザ・マサリクと申す」
荒くれ者の代名詞代わりに使われる事もある自由騎士の割に、言葉自体は丁寧だ。
みてくれ通り場数を踏んでいるらしいとは思っていたが、最低限の礼儀作法も身につけている様だ。
騎士に関しては案外単だ。
甲冑を操る事が出来た段階でいわゆる騎士として認められる。
甲冑は無理だったが、同様に陣中鎧で操る僚兵を動かす事が出来れば、騎士見習いとして認められる。
そして、功を積めば騎士から准男爵への叙勲も可能となる。
なお、准男爵以下は厳密には貴族ではないが、英国同様准男爵は貴族名鑑に名前が記載され、一代限りのものではない。
もっとも成り立ちは英国とは逆で、貴族を整理するために男爵の下に設定したようだが。
財政問題で設定されたと言う意味では同じか。
「では改めて、お聞き申す。
わが男爵配下の甲冑と僚兵はどちらに配備されるのでしょうか」
「うむ、しからば説明する。
先ほど言いかけたが。
諸君らには最前線に近い丘陵の麓に布陣して貰う。
この張り出した黒い森を迂回した先になる」
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