11. 脂肪フラグ満載な状態に転生しました。
やばい、やばすぎる。
この戦いがまさか脂肪フラグな戦いだとは全く思っていなかった。
今後の流れから考えたら運動性よりも機動力優先な親父の甲冑を、知っていたら持ってきていたのに。
え、死亡フラグじゃ無いのかって?
この戦い自体は俺の奮戦でゲームと同様の引き分けになったとしても、捕虜になるのはほぼ確定してしまう。
その場合、勝利は上級者向けの設定。
普通にプレイしたら引き分けか負けるのが一般的だったことから想像すると、確率的には怪しい参謀役に……
別に、ならなくても良いのか、よく考えるまでも無く。
それはさておき、一瞬焦り過ぎてなんか言葉遣いまで乱れてきたそんな私を、ロマンスグレーと呼ぶ方がぴったりとくる准男爵の言葉が現実に引き戻した。
「いかがなされましたかな」
嫌みったらしい古風な言い回しが、逆に様になっているのがうらやましい。
後ろに並んだ美丈夫たちが同期したかのように同じタイミングでかぶりを無限大記号のごとく振る。
肯定する時はハンガリーだとかインドだとかと同じゼスチャーなのが、やはりなれては居ても違和感が半端ない。
微妙に非提示の首の回し方と違うから、ハイとイエス……もとい、ハイとイイエを間違うことは無いのだが縦と横で明確に見分けがつく方が絶対楽だ。
「いやなに、流石に陣形がよくまとめられているなと」
とりあえず取り繕うものの、考えが上手くまとまらない。
実際のところ、まさかいきなり緒戦来るとは思ってなかったんで、なにも対策を考えていなかった。
マジ、初戦の初戦、お願いします。
そんな私に「ふん」と鼻息で答えた後、慌てて咳払いで取り繕う。
「さっそくですが、どのような作戦をとるのですかお教えいただけませんか」
一応応援に駆けつけた諸侯は下級とはいえ立場的に指揮官なので幕僚より上位の扱いなはずなんだがなと思いながら、私は咳払いに気づかなかったふりをして尋ねた。
問いながらも、地図と駒をガン見してしまうのは仕方ないだろう。
大まかな戦いの流れは知って居るが、作戦級の動き、つまり大まかな指針と実施計画を知りたい。
戦略はともかく作戦がそもそもあるのだろうか。
実際、行き当たりばったりという可能性を否定しきれないのが辛いところ。
「攻め込んで来た敵と勇敢に戦い、追い返すのみ。
単純にして明快。
これ以上に素晴らしい案はあるまい。
下手に策を弄すなど、愚の骨頂。
そう思わんかね」
そんなこと聞きたいんじゃねぇよ、と思わず突っ込みそうになるのを、ぐっとこらえていると、斜め後ろからあきれた様なため息が聞こえてきた気がする。
やはりというよりも思ったよりもさらに悪かったというべきか、彼らは作戦で無くいかにして戦うかを語り出した。
途中、頼んでも無いのに昔の私への嫌みらしきものも混ぜ込んでいるという念の入りようで。
勘弁してくれ、戦陣訓かよ。
周囲の幕僚も一緒になってうなずいているのだから救われない。
いや、流石に戦略はこんな幕僚で決めるべき案件で無いとはいえ、戦術位はしゃべってくれるかと思ったんだがなぁ。
この世界では、やはりそれすら難しいというレベルなのだろうか。
元の世界だと、東洋だと孫子なんてのが古代で生まれてるし、西洋でもマキャベリ以前にもいろいろな戦術が検討されているっていうのに。
と思っていると、記憶の流入。
国軍の幕僚が、先代だか先々代だかの王により見た目重視となったことでこうなったが、元々は諸侯レベルで戦術を練っておりそれをとりまとめて戦っていたらしい。
さらに言うと、どうやらお隣の国では、国レベルできちんと戦術とか練って戦っているらしい。
流石に偶発戦でどうのこうのまでは計画されていないようだが、攻め込む場合は相当細かい点まで練っているみたいなのだ。
しかし、情報量が少ないと軽い偏頭痛程度に収まるとはいえ、逆に情報内容も大したこと無い場合だとなんだかなぁと言いたくもなる。
「その割に、追い返せていないようですが。
しかも、勇敢にもなにも、中途半端に追撃して追い返されているだけな様な」
「今はまだ守りに徹している最中だ。
なので勇敢なる戦いでは無く、まだ敵の戦力を探る様子見だ」
「様子見ですか……何度様子見されて、どのようなことがわかったのですかね」
「敵を打ち破るのは容易だと、これでわかったのだ。
ついに我が精鋭がその切っ先を向けたときこそが敵が敗れ去る時となる」
いつの間にか入ってきて居た自由騎士たちも、半分あきれた様な表情をしている。
私が咳払いをしたことでここがどこか思い出したようで、慌てて表情を変え神妙な面持ちになっている。
っていつの間に入ってきたんだよ。
さっきのため息はこいつらか。
どうせならもっと前に入ってくれば良いのに。
「ん?
貴下らは」
陣中鎧を纏った世紀末覇者のごとき連中に対しやや高圧的な態度で接する。
後ろの美丈夫たちも、手を後ろ手に組み直して足を若干開き、威嚇するように一歩前に出る。
気後れたことをごまかすためという意図も見え隠れするのは、気のせいでもなさそうだ。
言ってみれば指揮官である爵位持ちと比べて、直接槍働きを行う勲功爵なため准男爵より確実に格下だからあながち間違いともいえないが、実際のところ幕僚と結局のところ軍を統率する将軍の子分であり、直接参戦してきた実戦部隊とは系統が異なる。
近代的な軍隊と違い中世西洋だか中世日本だかよくわからない世界観を持つこの世界においても、かなり疑問符のつくものだ。
江戸時代における旗本と外様大名の確執に思えるかもしれないが、どちらかというと奉行所配下の与力と小普請組の旗本に置き換えた方が正しい気もする。
もっとも、その小普請が白柄組だったから話がさらにややこしいというところ。
「失礼いたした。
声をかけ申したが、返事がないので同席させていただきました。
招集により、はせ参じた次第」
自由騎士の統率者とおぼしき男がそう言うのに合わせて、全員が上位貴族に対して行う礼をとった。
上官に対するものでも上位の爵位に対するものでも無く、要するにこの場には居ない使役する立場の将に対しての礼をとっている訳で、私でもわかるストレートな嫌みだ。
おまえらで無く、国王麾下の国王軍に対する礼を行っているんだ、勘違いするなよと言うわけで、さすがはこの辺世慣れた自由騎士の面目躍如と言うところ。
「陣中故、了解した」
やや見下した横柄な言いようであったが、内心のいらだちを抑えているのか実に面白い表情をしている。




