9. 牛に牽かれて転生しました
「思ったより、多いな……」
周囲を半円形に囲むようにして立つ自由契約騎士《強盗騎士》達を眺めると、肩をすくめるようにして独りごちた。
全く、どうしてこんな事になってしまったんだか。
単に、宿の予約を確認に行った徒歩兵達を待っていただけのはずなんだが。
馬車を、牛車に合わせたのんびりとした速度で走られていると、今回の戦場にもっとも近い街が見えてきた。
国境に直接面しているわけでは無いが、それでも低いとは言え城壁も備えている。
城門と呼ぶにはいささか貧弱な門の外れで若干くたびれた二輪馬車を一度停めると、御者席から降りながら牛車による荷車隊列を止めるよう腕を振って身振りで牛追いに指示をだす。
牛追いがキャラバンを止めると、徒歩兵達も牽引された客車から降りてきた。
武装こそしていないが、胸甲は装備している為一目で見分けが付く。
降りると、この世界風の黙礼をすると、予約の確認に、街の中にある宿屋へと向かう。
一応貴族の私と異なり居酒屋兼の宿屋だが、それなりに悪くは無いところを選んでいるらしい。
この規模の街ともなると、一軒あるかないかな農村部と異なりそれなりに種類があり、ファンタジーお約束な冒険者向けの宿もあるらしい。
街の入り口付近に貴族の使用する馬車こそ無かった物の、騎士達が使う類いの装飾の比較的少ない甲冑が何体かが城壁から少し鼻Rたところで脚を折った状態で鎮座している。
陣羽織等で統一していないところから、特に仲間と言う訳でも無いようだ。
日本のような牛車は貴人が乗る物と言う風習が無いこの世界。
荷車として使うならともかく、流石に牛車に乗車するわけにも行かず、かといって母の使っていた甲冑での移動もあの陣中鎧の所為で躊躇われることから、カブリオレを使うことにした。
軽便馬車と違い、こちらは騎士達や下記級貴族のみならず公子等の貴族子弟が自分で運転する場合に使うこともあるため、不自然と言う訳でも無い。
不自然では無いのだが、同時に郷紳階級でも、中古品《お下がり》等をよく使っているのを忘れていたのも事実な訳で。
つまり何が言いたいかと言うと……
「我々の問題に口を挟まんで頂こうか、命婦」
「デイムじゃ無いんだけどねぇ……」
あまりガラのよろしくない強盗騎士達に絡まれるという、なんともテンプレじみた状態に陥っています。
どうも私のことを貴族と理解していないらしいのだが、しかし、冒険者ギルドに初めて登録に来た主人公じゃ無いんだから勘弁してほしい。
まあ確かに乗ってきたのは貴族が使うとは思えないほどくたびれているカブリオレではあるが、有名では無いし消えかけているとは言え紋章はきちんと入っている。
逆に、消えかけている事から中古《お下がり》の証とでも誤解したのだろうか。
確かに牛車を村の外に停めているので家紋の入った陣羽織を羽織った甲冑は見えないし、いま着ているのも陣中鎧や貴族の用いるゴテゴテした服で無く騎士階級や背伸びした郷紳が用いるような軍服をまとっている。
それでも言いたい。
いくら女顔だからと言って、デイムは無いだろ、二重の意味で間違ってるぞ。
もっとも、殿でも女男爵でも間違いだけどな!
正直、拙い。
一応、剣道と柔道の経験はあるものの、段までは取れていない素人よりマシ程度な格闘技経験でしか無い。
肉体的スペックは悪く無いはずで、ダイエットのおかげでそれなり以上に動けることはわかっていても、正直多勢に無勢も良いところ。
その上自由騎士連中は陣中鎧を身にまとっており、かなりのスペック差があったところで跳ね返せるだけの力を持っている。
かといって後ろに幼児を抱いた娘が震えている状況では、格好の一つもつけざるをえまい。
どうもこの娘、身なりこそ田舎娘だが起ち居振舞いから察するに貴族の女中経験者らしい。
服装も、田舎娘のそれと言え、明らかに自由市民のそれで、住民よりも上等な仕立てとなっている。
下手しなくても、家の嫁と仕立て自体は変わらないんじゃ無いだろうか。
だが、騎士達は出仕《宮仕え》をした事が無い武闘派《荒くれ者》揃いらしく、そういった部分に全く気づいていない。
気づいていないが故に、彼女が貴族に通じている可能性を全く理解出来ていないようだ。
着込んだ陣中鎧がそれなりに様になっている事からやや脳筋じみた荒くれ者と言う印象は、見かけだけで無かったと言うことなのだろう、良くも悪くも。
「流石に、市民相手に狼藉は、領主も良い顔をしないと思うのだがね。
娘御に追っかけ回すのはどうかと思うけど」
「人聞きの悪いことを言わないで貰おうか、これは無礼に対する躾けの問題だ。
例え市民であっても」
私は、わざとらしく肩をすくめる。
おそらく、仕掛けてくる。
それは予想で無く確信だった
「自由市民に躾けなど、辺境伯以上の爵位をお持ちなのですかな。
もっとも農奴相手だったとしても、後で領主から苦情が来る案件だけど」
私のその言葉を合図にしたかのように、後ろに気配を感じる。
同時に、全身をひねりながら脚を広げるようにする。
要するに後掃腿だが、見事にタイミングが合ったようだ。
いくら陣中鎧を纏っていても、関節や投げ技なら効果があると言うのは、じつは既知の事実である。
ドスンと大きな音が斜め後ろから聞こえてくる。
回転の勢いを止めず立ち上がりながら様子を確認すると、緑の陣中鎧を着込んだ男が仰向けに転んでいる。
陣中鎧のおかげでダメージはさほどでは無い様だが、後頭部から落ちたおかげで多少ふらついてはいる。
よし、このまま上手くあしらえば、そのうち我領の徒歩兵がやってくるはずだ。
そう思った瞬間だった。
ガツンと衝撃を喰らったのは。




