1. 発端世界(プロローグ)に転生しました
戦場に美少女なんていない…
いるのは〈死神〉だけだ!
木々の間を、白銀の巨体が滑るようにして走り抜ける。
密集とまではいかないまでも、それなりに並んだ喬木がまるで灌木のように見える巨体にもかかわらず、馬の駆足並の速度で走り抜けていく。
手に持った騎槍で、進路を塞がんと走り寄る槍兵をまさに鎧袖一触となぎ払って行き、速度は一向に衰えを見せない。
だが、付き従っていた僚兵達は、やや小ぶりとは言え人に倍する大きさを持つが故に林の中でのこの機動についてこれずに落伍する。こうなると敵の僚兵達を振り切って追従する事も能わず、手持ちの武器を用いて剣を交えている。
元々単騎がけと言う事もあり、僚兵の数は最初に与えられた少数の手勢のみ。
結果、次第次第に数をへらし、今や字義通り一機のみでの突進していく。
いた。
巨人の中で、彼は足先に力を加える。
同時に、走る速度を更に上げていく巨人。
最初から、それが罠だと言うことはわかっている。
だが、同時にコレを食い破る以外に勝機は無いことも確かだ。
彼は、自分が戦場において有能ではないと言う事実を知っていた。
ごく最近まで、自分は幕僚としては不遇だと思っていた。
だが、それもいまとなってはどうでも良い。
自分だけの問題では無い、国自体の存在が危ういのだ。
もはや、奇跡を起こすしかない。
新たな林が現れ、一切躊躇無く踏み込んでいく。
踏み込むと同時に、鋼索が張られているのに気づく。
配下の僚兵を攻勢に投入した代わりの防御であろう。
ジャンプするか、ランスで切り裂くか、それとも剣を抜くか……
だが、そのいずれもせず、巨大な身を沈めながら突っ込む。
重心を低くして突っ込む大質量に、ケーブルは抗いきれずにプチプチと破損していく。
『ほう、屁理屈家だと聞いていたが、なかなかやるでは無いか』
前方から聞こえてくる、大地から響くような声。
そこには、敵王国騎士団の紋章が入った青の陣羽織を纏い、手に斧槍を掲げた巨人の姿があった。
「策は読めていたさ。貴様らの策は」
勢いを殺さず、騎槍を脇に固めて突き進む姿は、機体の色もありまさに流星そのものだった。
呟くように吐き出した言葉は、決して負け惜しみでは無い。
敵に脇腹をつかれるという懸念は、何度か上層部《お偉いさん》にも進言していた。
ただ、幕僚としての力量を認められなかったというだけの事。今回の進軍で、敵が林を抜けてくる可能性は既に指摘している。
迎え撃つように青い巨人は、わざとカーブを描きながら前進すると共に、大きく斧槍をなぐように振り払う。
だが、軌跡は見えている。
軽く跳ねる様に躱すと、騎槍を巨体ごと突きつける。
ガキンと大きな金属どうしのぶつかり音が周囲に響き渡る。
『なんと』
騎槍により斧槍が弾かれたことで、青い巨人の体勢が崩れる。
今だ。
すれ違う瞬間、突き出した騎槍を戻す事無く大きく振り払うように回す事で、強引に姿勢を変える。
そして騎槍の根元は、見事に体勢の崩れた青い巨人の足を払い……巨人は、巨大な振動音を響かせて倒れる。
とった!
前傾姿勢で後ろに滑る巨体を立て直しながら、騎槍を脇に構えようとして……
気がつくと、陣中鎧姿で草原に飛び出して、倒れていた。
『惜しい、惜しいな。
見栄さえしっかりしていればもっと重用されていたやも知れぬが』
ゆっくりと立ち上がる、青い巨人から声が響く。
『単騎がけ、成功すれば確かに奇跡も起きよう』
そのとき、いつの間にか現れた僚兵達の持つ三叉矛により巨人の足下が絡め取れてる事に、今更ながらではあるが気づいた。
そう、敵は僚兵を伏せておいたのだ。
いくら着込んだ陣中鎧が魔力により常人では扱えないような力を発揮できるといえど、一回り大きい僚兵には叶わない。
「クソ、後一歩。
あと一歩で、奇跡が」
怨嗟に満ちた言葉を遮るように、そして断罪の剣が振り下ろされたが如く響く、低い声。
『確かに、赫奕たる戦果を上げる予定が、勝利にとどまってしまった。
その功は大したものだと言えよう。
敵ながらあっぱれだ。
だがな』
斧槍が、その言葉と共に持ち上げられる。
『だが、起きない奇跡は、当然という』
白銀の巨人に振り下ろされる斧槍と共に響く声。
その瞬間、彼は目覚めた。
R3.1.4 以前指摘のあった改行で、修正して見ました。どちらが読みやすいでしょうか?




