我らがオアシス「ナイトヘブン 」
陽延栄ICから降り、降りてすぐの国道をかっ飛ばし、住宅街を横目にここらの目印、「何を祭ってるのか良くわからない神社」を通過。
ボーリング場「ナイトヘブン」に到着する。ここから大学まで5kmもないため帰りやすくて楽だし非常に良い立地だ。
集客に良いかはまぁお察しなんだが。歓楽街というよりか住宅街の近くって感じの立地だし。
ずっと車の中に居たからわからなかったが正午を回って随分と気温が高くなっていたようだ。
馬鹿みたいに暑い。40度は余裕で上回っているだろう。
あっという間に汗が吹き出てくる。
急いで空調が効き、涼しい店内に3人で雪崩こむ。
程よく空調が効いた店内が気持ちいい。
湿気と熱がまとわりつくかのような不快さがあった外から入る自分達を、その清涼な空気で浄化してくれる。
この清涼なる風による冷却はもはや浄化と称して差し支えないだろう。
「おう、陽延栄の悪ガキ三人衆じゃねぇか。何しに来たんだ」
住宅街からも大学からも少し離れた場所に有る知る人ぞ知るカフェ、もといボーリング場。ナイトヘブン。
店に入るなりマスターの真壁氏から随分な歓待を受ける。
さては最近来てなかったからへそを曲げてるな?
齢67にしてボーリング場経営をしながら多くのマンション物件を保有するここらの大地主でもある真壁太蔵氏は地元では結構な有名人だ。
頑固ジジイとしての方が有名な気がするが。
うちの大学の卒業生でも有り、地元の雄士としても有名なこの御仁はなんだかんだ大学とは縁が有るお人だ。
まぁうちの大学ではもっぱらボーリング屋の頑固パティスリーなんだが。
「客に向かって随分な挨拶ですね真壁の爺様」
1年の時にケーキがうまい店ってんでボーリングもせずにケーキばっか食べに来てたからろくな覚え方をされてない。
特にCOC(地方創生産業振興)で関わったりもした俺と喜一なんかは良く口プロレスしていたからな。
「そうですよ、僕たちはもう22になりますからね?もう悪ガキって歳でもないですし」
「全くだ。相変わらず客に対する態度ってのがなってねぇ。」
「ケッ。お前らうちのケーキ食いに来ただけだろうが。うちはパティスリーじゃねぇんだぞ。」
周囲を見渡すと部活帰りっぽい近くの聖友愛女学園の生徒や近所の奥さん連中がケーキを食べてる。
あんまりにもでかい声で真壁氏が話すものだから女子高生たちが申し訳なさそうな顔をしている。
近所のマダムたちはもう慣れたもんでガン無視である。肝が太い。
とはいえ本当にボーリングをしてる人間は誰もいない。というか随分客が少ないな。
住宅街からは外れてるし市街からも離れてるし、大学からもちょっと離れてるしで立地は悪いのだが、普段ならもうちょっと人がいるんだが。まぁ今は夏休みとはいえ平日。こんなもんかもしれん。
とはいえ、客が全員ボーリングそっちのけでケーキとコーヒーを食べてるのはもはやカフェである。
型落ちとはいえきちんと設備の整ったボーリング施設が泣いてるってもんだ。我々が使って上げなければ。
「もちろんボーリングもさせて貰いますとも。我々は客ですよ客。全く決めつけが酷いんじゃないですかね。」
「そうだぜ真壁の爺様よ。.....とはいえ腹が減ってはなんとやら。まずはケーキだ。」
「うん、そうだね。ボーリングもしますんでまずはケーキください。」
「こいつら.....」
「まぁまぁ。というわけでチョコレートケーキ1つ。」
「俺ムースショコラ」
「僕はモンブランで。後アイスコーヒー3つLサイズで。」
「暑いんで氷多めでお願いしやす!」
「もちろんガムシロップとミルクもお願いします。」
ファ○クと口汚く罵りながらも奥に引っ込むマスターに続いて入店した。
=============================================
肩を怒らせながら裏に引っ込んだマスターを横にボーリングの一画を占領する。
カフェで寛ぐお客さんに配慮して一番奥だ。これでうるさいとは思われまい。いやボーリング場で何言ってるんだって話だが。
出てきたケーキは変わらない味でコーヒーも絶品であった。
これだからこの店にまた来ようと思ってしまうんだ。値段も手頃だし。
就職先は都内だし卒業してからもたまには顔を見せようと思う。
「いやぁ久々だけどやっぱり絶品だねぇこのケーキ」
「あぁ。甘い物食べたいってなったらやっぱここのムースショコラだよな」
「卒業しても定期的に食べに来たい店だな本当に」
「お、良いね。取り残されるマサの顔も見れるし良いんじゃねぇか?」
「取り残されるってね....」
「2年もモラトリアムが残ってるのは良いよなぁ。俺も院進すりゃ良かったかもしれないぜ」
「確かにな。俺は今でも少し迷ってるぞ正直」
「僕の残りの2年は研修に勉強に国試でモラトリアムって感じじゃないけどね。君らも大学残りなよ。モラトリアムは長い方が良いって昔の偉い人も言ってたし」
「誰が言ったんだよおい。とはいえ来年から社畜として働くとか嫌すぎて今から鬱になるぜ」
「まぁな。宝くじが10億円くらい当たればこんな悩みもないんだろうけどなぁ」
「俺はもっと欲しいぜ。10億100億と言わず兆くらいは欲しいってもんだ」
「えぇ?そんなにあっても使いきれなくない?何に使うの?」
「とりあえず世界中の最高級の酒を混ぜたミックススペシャルを作る」
馬鹿みたいなことを言い出す喜一。
ちょっと飲んでみたいラインをついてきおって。
「絶対美味しくないだろそれ」
「まぁでもそれだけのお金があったら出来そうだけどね。絶対炎上すると思うけど」
「SNSに上げずに隠れてやんだよ。まぁ動画投稿サイトに上げても良いかもしれんが」
「絶対ろくなことにならないからやめとけやめとけ。まぁでもそれだけの金があったら大学生みたいに好きに生活できるんだろうなぁ」
「良かったなぁ大学生活。」
「まだ終わってないから!あと半年くらいあるじゃないか」
「あと半年しかないんだよなぁ。あー働きたくねぇ」
「それな。宝くじが当たればなぁ」
「ループしてるループしてる」