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ドゥンドゥン車の車窓から

「「「〜〜〜〜♪〜〜〜♪」」」


常陸は陽延栄(ひのえ)ICから高速道路に乗り、ひた走る車に大学生3人。

爆音で音楽を奏でながら走り、乗組員(のりくみいん)が上機嫌に歌う車内はさながらカラオケボックス。

国立陽延栄大学に通う将来を嘱望(しょくぼう)され(?)ている未来の企業戦士たちだ。


しかし今は夏、それも夏休み真っ只中だ。


運転手にしてハンドルをカスタネット代わりにしている(両手ハンドル)綾小路陽征(あやのこうじはると)、後部座席にどっかりと座り込み、コーラの空きペットボトル2本でリズムを取る楠木喜一(くすのききいち)は既に就活をとっくに済ませ、残りの大学生活はほぼ余暇扱いだ。

助手席に座る医者の卵でダッシュボードのカバーを打楽器代わりにしている九条正成(くじょうまさなり)こそまだ4年で残り2年の医者修行があるものの今は夏休み真っ只中だ。


サークル仲間、そして同期ということもあって昔から良くつるんでいた3人組は、朝っぱらから高速に乗り、大学近くの陽延栄ICからすぐ隣の新治(にいはり)市の新治SAの名物のダムカレーを食べてきた帰りだ。


腹が膨れて気分が良くなった後は歌いながら高速を爆走し(※法定速度です)、ドライブする姿はまさしく大学生。(偏見)

社外に音漏れするような公害行為こそしていないにしても、(はた)から見ればドゥンドゥン車・動物園と指を刺されても仕方がない様相だが、残り少ない大学生活、楽しまなければ損であるとばかりに彼らは頓着(とんちゃく)しない。


「あ〜歌った歌った!やっぱり車は良いな!タダでカラオケできる。」


どっかりと後部座席に座りながら満足気に頷くのは喜一だ。

就活中は完全な黒髪七三分けに就活スーツで真面目を演出していたのは今や昔。

ホワイトシルバーに染め直し、ツーブロックとソフトモヒカンベースの髪型、シルバーのネックレスが眩しい。


「全く。朝からカレー食べに行こうとかいうからこいつら馬鹿なんじゃないかと思ったけどなんだかんだ楽しいもんだね」


根が真面目な正成ことマサはいつもと変わらない格好だ。面白くはない。

ーー馬鹿とは失礼だな。


「おいおい、マサも結構ノリノリだったじゃねぇか。今更なに言ってんだ」


「喜一、君たちは今年度で卒業だからね。思い出は多い方が良いだろう?ただ朝からカレーは胃にダメージがでかいって話さ」


「まぁ確かにな。あのダムカレー、馬鹿みたいな量だったぜ。食うのに時間がかかっちまってもう昼が近い」


「喜一はぺろっと食べてただろ。俺とマサだけだぞ辛かったのは」


喜一の言い草に思わず突っ込む。

馬鹿みたいな量のカレーを桶の水をひっくり返すような勢いで胃に流し込んでいたのは誰だよ。


「お前らの胃が縮小してんだよ。最近大食い系行ってなかったからじゃねぇか?お前らも去年くらいまでは余裕で食べれてたろ」


「まぁ僕は去年は研修で忙しかったし、陽征(はると)はCOCで去年は追い込みだったもんね。サークルもあったし。......後は歳だねぇ」


COC――大学の地方創生推進事業だ。

研究室の伝手に、COCで得た人脈などを辿り去年は色々とやってたから本当に忙しかった。

その甲斐もあって就活は第一志望に一瞬で決まったわけだが。


「あぁ。喜一だってサークルにバンドにバイトで忙しかっただろ?むしろなんでそんな胃袋を拡張したままでいられるんだ。もう俺らは22だぜ?」


「まだだぞ、まだ。まだ22だ。」


「いーや!もう俺らはおっさんだぜ?こないだ横田なんて小学生におっさん扱いされてたし」


横田は工学部3年のサークルの後輩だ。

良い奴なのだが独特なセンスに言葉遣いがアレな本学でも有名な奇人で有名だ。


「横田は服の趣味が微妙におっさん臭いからだろ!それとこれは別だ!......それに言ったのが小学生じゃねぇか。」


「でも来年から企業戦士じゃない。君ら。」


「それな。嫌だなぁ働きたくない。」


「お前は最悪実家に帰ればニートできんだろ。それに投資でそこそこ以上に稼いでるじゃねぇか。俺を養って欲しいくらいだぞおい。」


舐めたことをいう喜一。お前は彼女に養ってもらえば良いだろクソか。

そもそもあんな稼ぎただの博打投資だ。一生分の稼ぎでもなんでも無いわ。

そもそも――


「お前を養うわけねぇだろ。美少女に生まれなおしてから出直せ。」


「できるかっ!」


「それにニートなんて親父はともかく母上と爺様が許すわけないだろ。下手すりゃこれよ、これ」


首に手刀を当てるポーズを取る。


「...あぁ。お前のかぁちゃんめっちゃおっかないからな。」


「母上に殺されるくらいなら仕事した方がましだわ。ニートなんて言い出したら死ぬより酷い目にあいそうだ。」


「うまくいかねぇもんだなぁ。こうなったらマサ、お前だけが頼りだぞ。」


「頼んだぞ、お医者様。」


「やだよ!なんでムサい男どもを養わなきゃならないんだ。クリスティアナ = ファラーくらいの美人になってから出直してくれよ。」


いつもの口上だ。リベルバティ合衆国出身の映画女優に今でも熱を上げているらしい。

随分と一途なもんだ。海外の女優じゃなくて彼女に一途にあるべきなんじゃないですかね....


「マサは本当にあの女優のファンだよな。いや美人だとは思うけども。」


「彼女がいたから僕は辛い研修にも嫌なバイトにも耐えてこれたんだ.....」


付き合ってる彼女がいるくせにこの有様だ。他人の恋愛模様には別に口出しせんがどうなん?それ。


「まぁ確かに演技も歌も上手いし世界に冠たる女優の1人ではあるけどね。俺も嫌いじゃないし。」


「なお去年某俳優との熱愛報道と連座で不倫も発覚したんだがな!」


それな、と喜一と笑い合っていると突如グリンと目玉を剥き出して後部座席の喜一に掴みかかるマサ。

そのあまりの迫力と首にかかる圧力は相当なものと見える。バックミラーで見える喜一の顔は既にギブアップ寸前だ。


「ぶっ殺す」


般若のような声を出し、喜一にチョークスリーパーホールドをかけるマサ。

いつの間に使えるようになったんだその技。


「ぐぇぇぇ........し、死ぬ......」


タップしてホールドの解除を訴える喜一だがマサはしれっと聞こえないフリ。

いつものプロレスとはいえ今は運転中。あぶねぇからやめろや。


「はいはい、そろそろそのプロレスやめろ。運転中だぞ!」


左肘でマサの脇腹に軽くエルボーを入れ、その衝撃で喜一がホールドから抜け出す。


「次下手な言葉を発したら殺す」


「う、うす....」


「喜一もこりないな。そのネタはもう何回もやったから、そろそろ良いんじゃないか?」


「いや、つい。もう次はやらんて、多分」


「それ前も聞いたぞ。」


こいつはいつになったらそのネタを(こす)るのを止めるのだろうか。

運転していたのがこいつじゃなくて良かったぞ本当に。


=============================================


「で?これどこまで行くの?」


先ほどの騒動が嘘だったようにあっという間に冷静になるマサ。

感情ジェットコースターか。


「このままドライブでもするか?」


「ちょっと早めだったけどお昼は食べてお腹いっぱいになったことだし運動したいところだな、俺としては」


「うん、それは良いね。一応あのカレーは朝飯って聞いてたはずだけど」


「もう時間も時間だ。昼飯扱いでいいだろ。それにもうなんも入らん。とはいえ、運動ねぇ。......アグラにでも行くか?」


イクサアグラ。総合アミューズメントパークとして常陸で覇権を取ってる店だ。

ショッピングモールも併設されていることが多く、常陸でどこ行く?と言われたら真っ先に上がる店でもある。

ここらだとショッピングモールが併設されたパターンのアグラ、陽延栄店が一番近い。


「え、また?もう良くない?あそこ治安悪いし。」


心底嫌そうな顔をするマサ。あそこでチンピラに絡まれてからという物、いつもこの態度だ。

いや一緒に絡まれてた俺としても同じような顔をしてるかもしれん。

遊びに行ったというのにチンピラに絡まれたり、店内もヤニ臭いしでやってられん。


「わかるわ。ここからアグラだと陽延栄店だろ?IC(インターチェンジ)からかなり遠いし面倒じゃないか?」


そもそもIC近辺にまともな店がないことを棚に上げて口を出す。だって行きたくねぇもん。


「はぁ...お前らだけだぜ?俺たち常陸モンの魂、アグラを拒否すんの。常陸モンが情けない」


「俺は京出身でお前は堺出身だろうが」


「僕は紀伊だし。この車に誰も常陸出身いないよ......」


「それはそれ、これはこれ。第二の故郷を誇る気持ちはないんか!お前らは!!」


常陸は第二の故郷だが、アグラとは全く関係ない。


「いや、そりゃあるけどアグラとは関係ないだろう。他にも常陸が誇る店は有るだろもっと他に」


「全くそうだよね。アグラはたばこ臭いしチンピラ多いし、やっぱり他の店にしようよ」


マサに完全に同意である。

2対1の構図になった事で先に喜一が折れる。アグラにはまた次の機会に行こう、うん。


「.....アグラがダメってんじゃどこだよ?ここらだと選択肢があんまないぞ。市街に出るってんならまた別だけどよ。」


「市街まで出るの面倒だからなぁ。うーん、あそこは?真壁の爺様がやってるボーリング屋?」


「ボーリングは運動なのか?」


ボーリングも運動だろう。

球投げは球技扱いで、球技は運動、スポーツだ。QED証明完了。

マサが援護射撃に回る。


「まぁ動かないわけではないかな。真壁の爺様のボーリングていうとあそこか、ナイトヘヴン。神社の近くの」


「そうそう。大学からも車ならそこそこ近いし、ICからもまぁまぁ近いし良いんじゃないかなって」


ーー前に地図を見たときアグラの方がICから近かった事は心に秘めておこう。


「あそこは空気が澄んでるから僕は好きだし、賛成だよ」


「物は良いようだなオイ。閑古鳥が鳴いてるってだけだろ」


「あそこのコーヒー絶品だし、ケーキも美味しいし良いと思うけど?喜一も好きだったよな?」


「ぐ。確かにあのケーキは美味いんだが......そもボーリング屋。......ま、まぁここは俺が折れてやるよ。」


2対1で分が悪いとみたか観念する喜一。

あそこのケーキ安いし美味しいしで損はないって。いやまじで。


「まぁボーリングだけじゃなくてダーツも出来るし、ドリンクバー有るし?」


「アグラにだってあらぁな」


「だからアグラは嫌だって.....全敷地で禁煙にしてくれたら考えるけど」


「そりゃ無理だ。客層がヤニ吸う奴ばっかだ」


「じゃぁ今日は無理だな。...では、喫茶ナイトヘヴンへ行くとしますか」


「ボーリング屋!ボーリング屋な」

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