プロローグ
俺は、悩んでいる。
俺には、好きな物がある。
けれども、俺は、口下手だ。思いを伝えたいけれど、伝えることは一番苦手なことだ。
俺は綺麗な田舎の農場を見て感動し、この場所が好きだと伝えようとしたことがあるが、とある発言により後から後悔したことがある。
こんな言葉を言った記憶がある。「ここは、景色以外魅力のない場所だな」
俺は本当に綺麗な農場だと思って口にしたが失敗した。
辺り一面が緑に囲まれているうえ更に、農場の近くの水車小屋では、年期を感じる緑のコケ、横を流れる小川は得も言われぬ見事なけしきだった。
幸いなことに、農場には、優しい人が多くいたお陰で関係は悪くならなかった。
正直悪いことを言ってしまったと今も後悔している。
正直言ってその頃は、ひどいスランプにおちていた。ただ、その景色を見て俺は、確かに救われた。
俺の中でスランプという大きな壁を壊すきっかけになった出来事だ。
「お礼に絵を描かせていただきたい」俺は、そういった。
農場の方たちは優しかった。
俺はその日から数ヶ月農場に通い、絵を描かせてもらった。
絵を描くこと正直好きだ。だが、絵は好きだから上手く描ける訳ではない。
絵を描くことは、俺にとって戦争だ。「今この瞬間に地震でも起きてみろ、手ぶれ一つすることはないだろう」ここは、俺の戦場だから。
戦うっていうことは、それ自体に意味があると思う。自分にとって大切な何かを得ることがあるだろう。逆に、失うこともあるだろう。
俺は、一度失ったことがあると知った。俺は、絵を描くことが好きだ間違いない。だが、それ以上に綺麗なものが好きだ。
原点と言えることを忘れていた。
小さい頃、ビー玉を綺麗だと思った。
周りの人に言ったら確かに綺麗だねという感想が返ってきた。
俺は、自分の見ている世界を肯定してもらえたことが、酷く嬉しかった。
俺は、口下手なうえに無口だから上手く伝えることができない。
だからこそ俺は、知ってしまった。
そこには、まともな言葉がいらないことを。
「綺麗な物を共有したい」
そんな言葉が出てくるのは何故なのか分からない。
ただ、俺の見ている景色を見て同じ感想を言って欲しい。そんなちっぽけなものでいい。それが一番難しいなだから・・・・・・・・。
だから俺は絵を描いていた。
いつから忘れていたのか分からない。けど、思い出した。
「それだけでいい」
俺の絵は、完成した。
そこに言葉がいらないことは、俺が一番知っている。
題名[忘れていた景色]
その絵を景色を見せてもらったお礼に渡したら、「・・・これが君が描いていた物か」何かを思い出すかのように絵を見つめて言った「君の見ている景色は綺麗だね」と。
涙が溢れた。
長らく忘れていた物を思い出した。
涙が止まらない。
自分の伝えたい物が伝わった。
「ありがとうございます」
そんな素朴な言葉しか伝えれない。
それでいい、見せたい物は見せれた。
農場の人に感謝を・・・