プロローグ
「坊や、私の可愛い坊や―――」
懐かしい夢を見ていた、こんな時にどうして走馬灯のようなものをみているのだろうか
民衆の怒号。地響きが起こりそうな程に人が集まっている
男は今にも自分の意識を手放しそうでいる、目の前で最愛の人を失おうとしている時に
彼の前で殺されようといているのは、命の恩人でもあり師匠でもあるグレーテといわれる女性だ
殺せ殺せ、地面が響く。止むことのないただただ、何かをインプットされた機械のように
取り押さえられたグレーテは男に向かって言う
「ガレル、貴方の事嫌いよ―――――――これかもずっとね、貴方に出会わばければ良かったわ」
そう言ったグレーテの目からは涙があふれ出ていた
そして一発の銃声が鳴りびくと、民衆の声が更に膨れ上がり、歓声へと変わった
―――――――――――――――――――――――――
「どうしたんだい、小僧こんな場所で、盗みを図ろうなんて悪い小僧だ
全く躾のなってない小僧だ。憲兵にでも突き出してやりたいが生憎
私もお尋ね者なんだ、今回は見逃すからさっさとどこかへ行きな」
『ギュルルル―――――――』
胃の虫が泣いた、またその子供も泣き出しそうだった
子供は言葉はわかるものの、しゃべることのできない様子だ
「そのなんだ、私の顔は有名だと思っただが存外知られていないものだね
腹が減ってるなら、ついてくるといい、突然こんなことを言って
御和えのような餓鬼を取って食うつもりもない、信用ならないというなら
今すぐ私の前から消えちまいな」
そういうと子犬のように尻尾を振り子供はついてきた
今にも雨が降りそうな雲行きの中二人は路地裏で出会った
「そうだね、小僧名前はなんて言うんだ」
そうグレーテが聞くと子供は首を横へと振った
名前がないものも聞くと聞くが多くは奴隷の類だ
しかし、この子供は奴隷印もない、この世界において
名前というものはそれだけで自分を守ってくれる
逆を言えば、それそのものが罪状となる場合もある
そして、他人が名前を与えるということはそのものを
自分の加護下に入れるという事になる、名を与えるにはそれなりの力が必要になる
「小僧お前の名前はガレル、今日からその名を名乗りな
それがお前を守ってくれるが、今度お前も罪人となる
ここで野垂れ死にするか、私についてくるか選べという事だ」
子供は首を縦に振ると、手の甲に輝いた紋章がが刻み込まれていく
あたり一帯を照らし出す光に包み込まれた
こうしてこの子供は罪人グレーテの加護下に加わるのであった
――――――――――――――――――――――
「おい、ばばぁ、早く稽古をつけろ」
「まったく生意気な口を利く小僧だ、どこでそんな口の利き方を覚えるんだい」
「俺に言葉を教えたのは、ばばぁアンタだアンタに似てきたという事じゃないか」
あれから季節が幾つか巡りその子供は大きく成長した、そして
今ではグレーテと肩と並べるほどの背丈まで成長した
「それにしても、ばばぁアンタ本当に罪人なんだな。どこへ行ってアンタの顔写真がある
アンタ一体何をしたんだ、相当なことをしない限りここまでお尋ねになる事などない」
「そうさね、腹が立ったから国王を殴り飛ばしてやったのさ」
「殴り飛ばした。ってアンタの場合それだけじゃないだろ」
「当り前さね、あの男はそんなことでは許されないだから片目を抉ってやったってわけさ」
「えげつない事をするな、ババァもそりゃこんなことにもなるわけだ、だが何故そこまで激怒したんだ」
「そうだね、奴は私の禁忌に触れてしまった、それだけの事だ、すまないね、まだこれについて話す事はできない
小僧が信用ならないとかそういう事じゃない、私の中でまだ整理がついていなんだ」
そういうとグレーテは胸元にあるロケットペンダントを握りしめ、今まで見せたことない
とても彼女とは思えない寂しい顔をしていた、また内に秘めた物にとても冷たいものを感じ取った
「ババァアンタもそんな顔できたんだな」
「―――うるさいよ」
グレーテは以上に口を開くことはなかった