■夢の続き2■
カシャリと隣に立つ少年はシャッターを切った。
大事そうにカメラを両手に持ち、キラキラと輝く瞳をこちらに向ける。
――凛太郎。俺はきっとこの時のために生まれたんだ。
夕暮れに日は沈み、だけど辺りは日の光を浴びるように明るい。光源は、空を飛び回る鳥たちによってもたらされている。発光体を撒き散らしながら空中を旋回する無数の鳥たちは、そのほとんどが墨のように黒光りしていた。
その中のたった一羽。
世界に存在するありとあらゆる物にも、汚されない白一色の鳥がいた。
無数の黒と唯一の白は揉み合い、絡み合い、まるでひとつにならんばかりに混じり合う。
――この世界はつまらない。不思議なものなんて何もない。飛びっきりの冒険もない!
少年は上空の鳥たちを興奮しながら見つめ、そして力強く僕に向き直る。
――そうだろ、凛太郎! これは始まりなんだ! 一緒に行こう、俺たちはこれから他の誰も経験することのない、色んなものと出会えるんだ。
その瞬間、僕たちの前に一羽の鳥が舞い降りた。しかしそれは鳥と呼ぶには、いささか異様な姿をしていた。
それはトカゲによく似ていた。
真っ黒な全身は固そうな表皮に覆われ、肩から伸びる羽根はコウモリのように皮っぽい。大きな口にくちばしはなく、鋭い牙がびっしりと並んでいる。呼吸をするたびその牙の隙間から雷撃が溢れ出し、それは僕が発光体と思っていた輝きと酷似していた。
全長一〇メートルはあるだろうか。もっと大きいかもしれない。
そいつは青空を閉じこめたようなエメラルド色の瞳で僕と彼を見回し、ゆっくりと彼に頭を下げた。まるで示し合わせていたかのように、その首にまたがった彼は、続けて僕に手を伸ばす。
――行こう、凛太郎!
僕は無言でその手のひらを見つめ、そして空で飛び回る一羽の白い鳥に目を移した。
その時の僕はなにを思ったのか、静かに首を横に振っていた。それを見た少年は明らかな軽蔑の色を顔に浮かべた。
――そうか、それがお前の選択か……がっかりしたよ、凛太郎。お前も他の人間と同じ、平凡な世界の住人だったんだね。
すると、目の前の黒い鳥は羽根を羽ばたかせ、口から漏れた雷とともに、大空へと飛び上がった。
直後、不意の激痛に僕の身体が揺れた。
何事かとその痛みの発生元――お腹を見つめると、螺旋状にねじれた棘が隆々と生えていた。
たきまち悟る。
黒の鳥が飛び上がる瞬間、振り回した尾が僕の身体を叩き付け、それに並んだ子どもの腕ほどもある棘がお腹を貫いたのだ。
僕は刺さった棘を抜くこともままならず、鳥とともに空へと上がる。
かろうじて動く右腕で棘を掴み、もがき、引き抜く。
「――ッ!!!」
はるか高く上昇する鳥から身体は離れ、自由落下の末、そのまま草原に叩き付けられた。
僕は遠くに消えていく黒の鳥と少年を見つめていた。
白の鳥はそのすぐあとに姿を現した。