9 ゾウ騎士VS竜騎士
木の横からゾウに乗った俺が出てくる。
連中の足が止まる。そんなものがいるということが理解できないだろう。
「さあ、タンジャラ、進め!」
『わかってるわ。思い切り蹴散らしてあげる』
攻守交代だ。
俺は、ぱんとタンジャラの背中を軽く叩いた。ゾウの硬い皮膚からすると、叩かれたといううちには入らないというので、失礼にも当たらないらしい。
ゾウは生徒が固まっているところに突っ込む。
奴らはあわてて、踵を返した。
「つぶされるぞ!」「なんでゾウがいるんだよ!」
『無駄よ。ゾウの速度を舐めてもらっちゃ困るわね。重量級だからって、人間よりずっと速いんだから』
その言葉にウソはなかった。連中に迫って、数人をはじき飛ばした。
さらに鼻を器用に動かして、横に逃げようとした奴も突き飛ばす。
「鼻ってそんなふうに使えるんだ……」
『まあ、腕みたいなものよ。物もつかめるしね』
さて、俺も乗っているだけでは芸がない。
魔法の詠唱を始める。
高所から、火の玉を撃ち込む!
一発を生徒の背中に命中させた。
相手を見下ろせる場所からの攻撃――この高さは近接戦闘で圧倒的に有利だ。
ゾウ騎士、十分に戦力になるな。
すでに五人は生徒を倒せた。降参している生徒が差し出したタスキをタンジャラが鼻で回収していた。このまま五枚以上持っている奴もいたし、全部で十五枚と竜騎士のタスキ一枚ぐらいにはなりそうだ。これだけでも上位には入れそうな数だ。
しかし、タンジャラが巨体だということは遠くからいい的になるってことでもある。
木の隙間から何か光るものがあった。
矢で討ち抜く気か!
『無駄よ』
タンジャラと俺の周囲に光の膜のようなものが張られた。
その膜に絡めとられるようにして、矢は落ちていった。
「助かった……。あれ、俺の頭を狙ってたよな……」
『これぐらいの防御魔法は使えるわよ。それにしても実習のはずなのに、血の気が多い奴が多いわね。殺してもいいって気持ちで、あの弓矢も使ってたわよ』
タンジャラは多少憤慨しているようだ。
「嫌なはずだけど、これが軍隊学校の現実なんだろうな」
『じゃあ、お返しに風の魔法を使うわね。少し恥ずかしいんだけど』
すっと、タンジャラが鼻を射手のほうに動かした。
――パシュッ!
何かが放たれた音がして、次の瞬間にはその射手が腕から血を流して倒れた。
『はい、一丁上がり』
「いや……今の何を飛ばしたんだ……? まさか鼻水?」
『そ、そんなわけないでしょ! 風の魔法の一種よ。空気の塊を鼻からふっと出したの!』
タンジャラが抗議した。ゾウの「ぱお~~~ん!」という咆哮が響く。
「それでも、体に刺さる鼻息ってことだな……」
『だから、人間の基準で考えないでよ! 別に汚くないわよ!』
まあ、味方を追及するのはマナー違反というものだろう。
それと、遠方からの攻撃にすら対処できるところを見せたことで、戦意が萎えた奴が増えたらしい。
ケガもしてないのに跪いて、タスキを差し出してくる奴がけっこう目についた。視界に入る範囲でさらなる抵抗を試みる奴はいないようだ。見えないもので腕を撃ち抜かれる恐怖に負けたのだろう。
「よーし、降伏する奴はタスキを――――そうだな、そこに土がえぐれて地面が黒くなってるところがあるだろ。そこに置いていけ。置いたら、生徒の集合場所に走っていけ。それ以上は狙わらない」
土がえぐれたところができているのは、おそらくタンジャラが駆けたせいだろう。そこだけ黄緑色の原っぱの色が変わっていた。
降参する者の中には「竜騎士ならぬゾウ騎士かよ……」といった声も聞こえた。図らずも竜騎士の試験に落ちたせいで唯一無二の特殊な騎士になってしまった。
しかし、負けた奴の雑談の中にこんな会話もあった。
「でも、竜騎士が黙ってないんじゃないか?」「まだ時間はあるものな。残ってる竜騎士が戻ってくるはずだ」「空からじゃさすがに無理だろ」
ああ、たしかに。
俺が倒した竜騎士はバーンテッド一人だ。
まだほかの連中は残っている可能性が高いし、正午になる前にここに来ることはありうる。
すぐに大きな翼の音が耳に入った。
竜騎士二体がドラゴンに乗ったまま、こちらに向かってくるのが見えてきた。
どちらも有力な貴族の一門の奴だ。バーンテッドよりは成績もよかったと思うが、全体の成績では俺のほうが上だった気がする。やっぱり、金なりなんなりで竜騎士は決められていたようだ。
『あいつら、私たちをつぶすつもりらしいわね。それにしても、あのドラゴンというのはよく食べそう。きっと不経済だわ』
タンジャラの声は思念とはいえ呑気なものだった。
「どうする? 今までの連中より十倍以上強いと思うぞ」
そもそも、ここは平野部だ。ドラゴンの上に落下するだなんて芸当ができるとは思えない。
『どうってことないわ。だって、これはゾウとドラゴンの戦いではなくて、ゾウ騎士と竜騎士の戦いよ』
ああ、まったくそのとおりだ。
俺のほうが優秀な生徒だってことを、証明してやれば自然と勝利はこっちのものになる。
竜騎士二人は上空からドラゴンに炎を吐かせた。
一気に俺を焼き払うのが狙いだろう。
タンジャラは前に疾走して、その炎を回避した。
それにしてもサバイバル実習には大ケガもつきものとはいえ、容赦がなさすぎる。
あまり考えたくないけど、これはあれだな、俺が庶民の出身だからだな。俺が死んだところで訴えてくる奴も恨んでくる奴もいないとわかってるんだろう。
もし有力貴族の子弟が、ほかの有力貴族の子弟を事故だろうと死なすようなことになれば、一触即発の事態になりかねない。それはすぐに政治問題につながる。
まあ、でも、失うものがないのは俺の強みでもある。
ドラゴンはそれから先も炎を吐いたり、鋭いかぎ爪で引っ掻こうとしてくる。
そのたびにタンジャラは素早く動いて、それを回避し続ける。
『回避のほうは私でどうにかするから、クランザ、あなたは攻撃を任せるわ』
「わかった。やるだけのことはやる」
俺は風の魔法の詠唱をはじめる。
それを見ていた竜騎士の一人が上空で笑っていた。
「ドラゴンを吹き飛ばせるほどの風をお前が起こせるわけがないだろ!」
そうだな。俺もそんなことができるとは思ってない。
俺は隙を見て、魔法で突風を発生させる。
「無駄だ! まだ、火の玉でも撃ち込んだほうが、よっぽどマシ――」
笑っていた竜騎士一人の体が後ろに大きくのけぞった。
そう、これはお前のバランスを崩すためのものなんだよ。




