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ゾウ騎士、すべてを踏みつぶす! ~竜騎士試験に落ちた青年は美少女ガネーシャとのんびり暮らす~  作者: 森田季節


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7/10

7 ゾウ騎士の実力

 タンジャラは左手の人差し指を額のあたりに置いて、瞳を閉じた。

 その途端、ドラゴンの炎なんかよりはるかに強い光が現れた。

 光が去ったあとには、そこに白いゾウがいた。


「タンジャラ……だよな?」

 念のため、確認する。別のゾウだなんてことはありえないだろうけど。


『そうよ』

 ちゃんと俺が理解できる声で、タンジャラは言った。いや……これは思念みたいなものか。俺の耳には「ぱおおぉーん」という鳴き声と、長い鼻が縦に動いたのが見えただけだ。


『あなただけに聞こえるようにテレパシーを出してる。発声器官の関係でゾウのままだとしゃべれないのよ。理論上は、『ぱおーん』の差をつけることで何を言ってるか区別できるけど、そんな信号の解析みたいなことしたくないでしょ?』


「ああ、これで頼む。ところで、ゾウになってどうするつもりだ?」

『ちなみに、あなたのほうは声を出してね。心を読むことも不可能じゃないけど、あまり読まれるのは楽しくないでしょ?』


 そんなやり取りをしている間に炎が迫ってきた。

 ドラゴンがこちらに気づいたらしい。ゾウなんて巨体がいれば、バレもするだろう。

「ああ、クランザ、そこですね! ……しかし、なんでゾウがこんな山中に……?」

 バーンテッドも意味がわからないだろうな。それが正常な反応だ。


「なあ、竜騎士に知られたけど、どうするんだ?」

『クランザ、私に乗りなさい』

 思念でそう伝えられた。

『あっちが竜騎士なんでしょ。ならば、こっちはゾウ騎士よ』


 ゾウ騎士……? たしかに破壊力だけなら普通の馬の騎士なんかより、よほど強いかもしれないが……。

「でも、タンジャラなら人の姿でも勝てそうな気が……」

『あの竜騎士に悪夢を見せるって言ったでしょ。いいから乗りなさい』

 辞退する暇もなかった。ドラゴンが近づいてきているのだ。ゾウの背中は高くて、乗るのも一苦労だったが、これでも軍人の卵だから、それぐらいのことはできた。


『よし、出発!』

 タンジャラが「ぱお~~~ん」と鳴き声をあげると、勢いよく走り出した。

 振り返ると、俺たちがいた場所には、もう炎がやってきていた。間一髪というところだ。


「まさか、ゾウを乗りこなしてるのですか! やはり、クランザ、君は妙な才能がある。軍隊の中に入り込まれると、少し不気味です!」

 バーンテッドにまで評価されたようで光栄だ。でも、危険視されてることと同じなので、素直には喜べない。


『じゃあ、行くわよ。振り落とされないようにね』

 タンジャラはその巨体で斜面を駆け上がっていく!

「マジかよ!」


 とても急傾斜に対応した体ではないだろうに、そんなことは気にも留めずにタンジャラは走る。

「逃げるつもりですか? 空を飛ぶドラゴンから逃げようだなんて無駄ですよ!」

 バーンテッドが叫ぶ声が聞こえた。そのとおりだと思う。いくら速度がついても、こっちは陸から離れられないのだ。


 もっとも、生身の体で走って逃げるよりはずっと速い。ここはタンジャラを信じるしかない。

 俺は振り落とされないように、しがみついた。

 後ろが熱い。炎がぎりぎりのところまでやってきている。もう、振り返る気にもなれない。


 耳にはバーンテッドの哄笑と、ドラゴンの咆哮と、ゾウの咆哮が響く。これこそがシュールな悪夢だと思うが、残念ながらすべて現実の出来事なのだ。


 ゾウになったタンジャラはさらに加速する。ドラゴンも獲物を仕留めようと努力しているようだが、炎はなかなか当たらない。


「おい! あれだけ大きな的に当てられないってどういうことですか! しっかり炎を吐きなさい!」

 バーンテッドがドラゴンに文句をつけていた。

 しかし、ドラゴンのほうが腹が立ったのか、わざと振り下ろすように体を曲げた。

「うわわわっ! やめろ! ……やめてください! 僕が悪かったです……!」


 本来、竜騎士になれるような器じゃなかったのだ。ドラゴンもそのことは理解しているのだろう。統率がとれた敵と戦うよりはありがたいが、ゾウの姿でどうやって戦うんだ?


 あるいは、異世界のゾウは炎でも冷気でも好きなだけ吐く動物なのか?

 そんな武器でもなければ、ドラゴンに立ち向かえるとは思えない。


『かわいそうに。あんな小物に乗られたんじゃ、真価は発揮できないわね』

 タンジャラがドラゴンを憐れんでいた。初見で敵の実力をすぐに把握しているところは見事だと思う。

 しかし、連係が取れてないといっても、ドラゴンが敵なだけでもつらい。どうすれば打開できるんだろう。


『さらに加速するからしがみついててね。あの小物なら落ちるだろうけど、あなたなら大丈夫でしょ』

 俺が答える前からタンジャラの疾走速度はさらに上がる!


 恐ろしい暴れ馬、いや、暴れゾウだ! しかも、急斜面だから転落しそうになる!

 もはや、速度をゆるめてもらうこともできない。そんなことをしたらタンジャラともども転落していく。もう、好きなだけ走ってもらうしかない。


『うん。違う世界でも、体は十分に動くわね』

 タンジャラも自分の体のコンディションを確かめているようだ。


『さて、そろそろいい頃かしら』

 タンジャラの体が反転する。

 傾斜地のちょっとした平場に俺たちはやってきていた。


 そして、俺は気づく。

 ほぼ眼下にドラゴンとバーンテッドがいることを。


 いつのまにか俺たちはドラゴンの真上に出ていたのだ。

『さあ、悪夢を見せてあげるわ』


 ――タンジャラが勢いよくジャンプした。

 違うな。これは落下したというべきだろう。


 俺の乗っていた巨体が真下に落ちる。

「うああああっ!」

 ある種、ドラゴンに追われるのに匹敵する恐怖心がある!


 しかし、それは無意味な転落とは意味が違った。

 ゾウのタンジャラの巨体は、バーンテッドごとドラゴンを踏みつけたのだ。


 タンジャラは器用に斜面に体を置いた。


「クハアアアアアァァァァ! アアアアァァァァァ!」

 ドラゴンが悲鳴を上げて、よろめいて、落ちていった。

 でも、それを覆い隠すように、


「痛い、痛い、痛いっ! ああああああっ!」

 ドラゴンから振り落とされたバーンテッドがのたうち回りながら、斜面を転げていた。


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