6 ドラゴンの攻撃
まさか、歩きながら身の上話をしていたら、今後の人生が決まるとは思わなかった。
でも、それぐらい何も決まってなかったわけだし、ちょうどよかったのかもしれない。
「ところで、クランザは何を探してるの?」
斜面に視線をやりながら動いていると、タンジャラに聞かれた。
「ちょっとした洞穴か木の虚でもあれば、寝るのにも隠れるのにもいいなと思ったんだけど、なかなかないな」
「ああ、それなら、これなんかどう?」
タンジャラが指差したのは、斜面にはまってる大きな岩だった。
「いや、岩を見てもどうもこうも――」
「実際に試してみればいっか」
タンジャラは左手と右手を広げて岩の上と下をはさむと、ぐいっと引っ張る。
岩が冗談みたいにするすると抜けていく。
「馬鹿力にもほどがあるぞ!」
その先には二人入るにはちょうどいい穴が空いていた。
「はい、この岩はいらないっと」
ぽいっと小石を薙げるように、タンジャラは抜いた岩を捨てた。
「二人の最初の一軒家ってところかしら?」
タンジャラはドヤ顔をして胸を張っている。
「なあ、タンジャラって神なのに、どうしてそんなに気さくなんだ?」
疑問に思ったので聞いてみた。
こっちは庶民も庶民だ。神の前では貴族も庶民もないかもしれないが、人間をさげすんだりしてないことだけはわかる。
「偉いことと偉そうにすることは違うでしょ。じゃあ、ここを拠点にしよっか。荷物は置いておけばいいんじゃない?」
背中の荷物を岩が抜けてできた穴に下ろすと、途端に体が身軽になった気がした。
演習中にこんなところに来る奴はいないと思っていたが、その狙いは当たった。
初日も二日目も俺たちは地味な山中の生活を過ごした。今年は竜騎士資格を得た奴がドラゴンで参戦するから余計に意欲のある奴も少ないのかもしれない。ほかの奴は閉じこもって、そうっとしていたほうがいい。
食事はウサギとシカを捕らえて、炎の魔法で焼いた。
塩も持ってきていたので、味付けもできる。
けど、想定外のことで、味付けはやたらと豊富になった。
「どれがいいかわからないけど、いろいろ試してみてよ」
次から次へとビンに入った香辛料をタンジャラは出現させたのだ!
「おい! どれだけあるんだよ! どういう魔法なんだ?」
「前の世界のちょっとしたものは出せるわよ。とくに私のいた国は香辛料が多かったらしいからね。ちなみに他国のものも、まあまあ取り入れて出せるようにしてるわ。基本的に信仰されてた土地のものに限られてくるけど」
胡椒だけじゃない。もっとレアなものもいくつもあった。
「これを売りさばくだけで、とんでもない金になるんじゃないか……?」
「別にいいけどさ、絶対に変な連中に狙われるからやらないほうがいいよ。個人的な楽しみにしてたほうがいいんじゃない?」
タンジャラの言うとおりだと思った。
香辛料をかけまくって食べた肉料理は完全に異国の味がした。
実習の割には俺は贅沢な食事を楽しめたと思う。
「なんか、あまりにもあっけないね」
「本当に軍人として立身出世するなら、もっと戦ったほうがいいんだろうけど、そんな気も起こらなくなったからな」
軍人になる未来はすでに捨てた。
どこか適当な土地でタンジャラと適当な家に住む。
二日目も穴の中で寝た。
先にタンジャラが眠りについてしまう。今後のことも何もわからない割には神経が図太い。
ここに飛ばされたって時点で、タンジャラを敵視していた神がいたことは確実だが、後悔も怒りも何も感じさせない。
それはタンジャラ自身の性格によるものか、それとも神がそういうものなのか。
……十中八九、前者だろうな。
「すぅ、すぅ……」
馬鹿力には不似合いなかわいらしい寝息が聞こえてくる。
すぐ横に女子が寝ているというのは……どうにも落ち着かないが、神の寝込みを襲う奴はいない。
出会って二日目で信用を失ってはいけない。
俺は目を閉じて、早く眠りに入ろうとつとめた。
だが――
大きな咆哮のようなものが聞こえた。
なんだ? 野生の大型獣ではあんな声は出せないはずだ。
目を開けると、ちょうど向かいに寝ていたタンジャラも目を開けていた。
穴の中で見つめ合う形になってしまい、少し恥ずかしいが、それどころではなさそうだ。
「クランザ、あれは何の獣の鳴き声? 安眠妨害もいいところね」
「獣ならいいんだけど、もっとヤバい何かかもしれない。ちょっと外に出て見てみる」
「じゃあ、私も、私も」
怯えもせずに、タンジャラはついてくる。少なくとも、か弱い女子というわけではないので、勝手にしてもらえればいい。
外に出ると、目の前をウサギが横切っていった。
「なんだ、ウサギだったのね」
「そんなわけあるか。ビビったウサギが逃げてるんだよ」
「ていうか、夜のはずなのに、やけに明るいのね。人家なんてあるとは思えないけど」
タンジャラの言うように、妙に外は明るい。
もっとも、答えはすぐに出た。
山の一部が燃えていた。この明るさは炎のせいだ。
しかも、その炎の近くにはドラゴンが一匹浮かんでいる。
もちろん、野良ドラゴンなんかじゃない。そんな偶然はありえない。
ドラゴンの背中には軍隊学校の制服を着た奴が騎乗している。
「ははははははっ! クランザ、どこですか? このタスキをとったら君の栄達も約束されますよ! 早く出てきなさい!」
聞き間違えるはずがない。バーンテッドの声だ。
あいつは俺の命まで奪うために、こうやって山焼きをしているってことだろう。
「おやおや、演習にしてはやけに過激なことね。むしろ、殺戮という表現のほうが正しい気がするけど」
右の手を庇のように額につけて、タンジャラは呑気な声を出した。
「実際、あいつは俺を殺戮する気なんだよ。貴族の家柄だからか、庶民どころか貧民あがりの俺のことが気に喰わないらしい」
「ほうほう。で、クランザはどうするつもりなの?」
妙なことをタンジャラは聞いた。
「このまま殺されるつもり?」
「なわけないだろ。せめて、あいつが涙目になる程度にはやり返したいな」
タンジャラは楽しそうにうなずいた。
「わかったわ。じゃあ、私にいい案があるから。あの貴族に悪夢を見せてあげられると思うわ」




