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2 試験の真相

 連中の話は続く。

「今年も合格者は軒並み、学校に金を出して『運動』をした奴らばっかりだったもんな」

「そりゃ、そうさ。貴族や政治家と大差ない立場のデカい商人にとったら、一族に竜騎士がいるのは権威づけとしてありがたいんだ。そのために金だってはたくさ」


「でも、あれなら最初から試験項目に『献金の量』とでも入れておけばいいんじゃないか?」

「できるわけないだろ。表面上は公平にしてなきゃ権威にだってならないんだから」


 俺は頭が真っ白になった。

 でも、顔のほうは真っ赤になっていたのかもしれない。なにせ腹が立っていたからだ。


「なあ、その話って本当か?」

 俺は裏庭のクラスの連中のところに出ていった。

 やりすぎかもしれないが、とてもそこにじっとしていられなかった。


 俺が出てきたことで連中もちょっと驚いているらしかった。

「あ、ああ……クランザか……。いや、別にそういう証拠があるってわけじゃないけどさ……そういう話だぜ……。今年もバーンテッドが竜騎士に合格したんだろ? あいつよりはお前のほうが成績もドラゴンの騎乗も得意そうなもんだし」


 言われてみれば、バーンテッドの番号である28番はちゃんと合格者番号の中にあった。

 俺がバーンテッドより成績で劣っている可能性は多分ない。同じ上位クラスとはいえ、クラスの成績も俺のほうが上だし。

 仮に今回の試験で多少の差をあいつにつけられていたとしても、騎乗だけでも俺が逆転できただろう。


 なのに、俺が落ちて、バーンテッドが合格してるのは不自然だ。


「……ちょっと試験監督のところに行ってくる!」

 足を動かしかけた俺の肩を連中の一人があわてて止めた。


「待てって! やりすぎだ、クランザ! お前が処罰されるだけだぞ! 不正がありましたかって聞いて教えてくれるわけないんだ!」

 俺だってそれぐらいはわかる。わかるけど、このまま耐えるには納得がいかなかった。


「竜騎士は俺の夢だったんだ……。竜騎士になるために軍隊学校にも入ったんだ……」

 それが金の力でねじふせられるなら、俺の人生計画は何だったんだってことになる。

 自分の人生を否定されたようなものじゃないか。


「いや、まだ竜騎士になれるチャンスは…………ないか。試験は一回きりだもんな……」

 ドラゴンなんてものは無数にいない。だから竜騎士も大量に作りようがないのだ。だから試験も一度しかできない。


 そこにバーンテッドがにやにや笑いながらやってきた。

「ああ、落第者のクランザ。残念でしたね」

 バーンテッドは手に竜騎士の腕章を持っていた。あの場で配布されたのだろうか。


「バーンテッド、お前、そんな試験の成績がよかったのか?」

 とてもおめでとうと言える気分じゃなかったので、そう尋ねた。

「少なくとも、成績上位のクラスにいないと試験すらできないから、そういう意味では成績が良かったんじゃないですかね?」

「違う。今回の竜騎士選抜試験のことだ」


「親父が二千万ゴールド献金したそうです」

 あっさりとバーンテッドが口にした。


「ちなみに後ろ暗いことなんてしてないですよ。献金自体は適切に処理されてます。軍隊学校の発展のためにということで寄付を行ったというだけのことです。それが理由で合格したという結果はどれだけ調べても出てきませんよ」

 肩を落とした俺の横をわざとバーンテッドは通った。


「一定以上の家柄でないところから竜騎士が出たことはほぼ皆無なんです。一軍を率いることも珍しくない竜騎士には家柄も求められるということです。クランザも努力すれば、優秀な部隊長ぐらいには出世できますよ。その道での栄達を考えることですね」


 俺はしばらくその場から動けなかった。

 怒りの感情はあっても、それを形にして何かを解決させられる方法がなかったせいだ。


 18歳の秋――俺の人生計画は白紙に戻った。



 マジでどうする……?


 校舎裏でしゃべっていた一人がフォローするように俺の肩を叩いた。

「ほら、元気出せよ! 軍隊学校はもうすぐ卒業だ。そしたら正式に軍人として配属される。少なくとも食うには困らないだろ?」


「たしかに、それはそうか」

 もっとも、別に軍人なら何でもいいというわけではないから、意欲は低い。それに訓練された軍人としていろんなところに投入されて、コマとして消費される運命が待っているのはだいたいわかる。あまり楽しい人生にはならない。


 でも、軍人をやらないとすると、どうやってお金を稼ぐのかという問題がある。

 まあ、卒業資格だけでも得るか……。


「卒業までの残りの行事っていえば、サバイバル実習だけなんだ。身の振り方なら、それから考えてもいいだろ? そこでいい成績が得られれば幹部候補生待遇になるんだ」

「そういや、そんなのもあったな」

「いや、普通はそっちに意識がいくだろ。マジでクランザ、竜騎士選抜試験に気合い入れ過ぎだったんだよ……」


 一週間後には、近くの山にある軍隊用実習林でで俺たちの学年全員でのサバイバル実習が行われる。

 生徒全員がタスキをかけ、森のすべてを使ってバトルロイヤルを繰り広げる派手な行事だ。

 ルールはほかの奴のタスキを奪うこと以上。


 魔法で敵を蹴散らしても、部隊を作って制圧していっても、ゲリラのように夜な夜な襲撃を仕掛けてもいい。

 三日間の戦いの後、最もタスキを多く持っていた者が優勝だ。


 学年の生徒二百人のうち、上位五人にはたしかに毎年、幹部候補生の道は約束されていた。

 やる気を出すところとしては間違ってはいない。


 ただ――

「また寄付金が多い生徒が優遇されたりするんじゃないかって思えるんだよな……」


「それはあるかもしれねえけど……一対一で相手を倒しちまえば、文句のつけようもないだろ。竜騎士に選ばれたバーンテッドをやっつけてやれよ」


 あいつが竜騎士で俺が竜騎士じゃないってことまでは変わらないけど、俺のほうがすぐれた軍人だってことを示す機会にはなるか。


「ありがとな。少し元気が出た。やれるだけやってみるよ」



 そして、サバイバル実習当日。

 献金が多い生徒が優遇されるんじゃないかって俺の嫌な予感は当たった。


 会場の演習林入り口にはドラゴンが並んでいる。


「今年度から、竜騎士選抜試験の合格者は実習を兼ねて、ドラゴンの騎乗を許可する」

 教官がそう宣言した。


 つまり、竜騎士に選ばれてない生徒はドラゴンと戦えということだ。

 そんなの勝てるわけがない。


 それどころか、上手に逃げないと死者すら出かねない。だいたい、竜騎士の卵がどこまでドラゴンを統御できるか怪しいところなのだ……。


 成績優秀者の上位五人が幹部候補生になるといっても、順当にいけば竜騎士の卵がそれを独占するってだけの話だ。

3話は夕方に更新予定です!

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