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1 金で決められた

新作を始めました! なにとぞ、よろしくお願いいたします!

 だんだんと自分の番が近づいてきた。

 俺はごくりと唾を飲んだ。


 自分を除いて残り三人。もう、目の前にはドラゴンが控えている。自分が騎乗するドラゴンもわかる。順番的にあの黒いウロコの奴に乗るんだな。


 ついに俺も竜騎士になれるんだ。

 緊張はしていたが、悪い緊張ではないと思う。ほどよい高揚感がある。


 この竜騎士選抜試験の最終審査でいい結果が出せれば、子供の頃からの夢だった竜騎士の仲間入りを果たせる。


 そのために王国の軍隊学校に入り、この六年、厳しい訓練も受けてきた。

 行軍中に骨折したこともある。魔法騎士との模擬戦のファイアボールで危うく焼死しかけたこともある。必死に筆記試験の直前まで勉強していたら高熱を出して、試験自体受けれなくて、半泣きになったこともある。


 それでも、十八歳の俺は今、ここで竜騎士最終試験を受けている。

 竜騎士選抜試験は軍隊学校の中でも成績上位者しか受験資格がない。しかも基準以上の魔法も使用できないといけない。

 軍隊学校の中のエリートでなければ狙うチャンスすらもらえない花形の部隊――それが竜騎士なのだ。


 また、前の一人がドラゴンに乗った。

 最初、恐怖で体が後ろ向きになっている。あれだと、かえって転落の危険があるぞ。

 途中からどうにか持ち直して空を舞っていたが、点数としては真ん中ぐらいだろうな。合否はこれまでの筆記や運動、軍事の試験の点数次第だろう。


 もし、あれぐらいでも俺なら通ると思う。今までの試験はほぼ取りこぼしてない。

 でも、ドラゴンに乗れなければ論外だ。とくにドラゴンから転落すればその時点で失格。ドラゴンは高貴な動物だから、乗せる価値がないと思われればそれまでだ。


 あと、当然、相性もある。試験用のドラゴンだから異常に凶暴だなんてことはなくても、気性が荒い奴もいるだろう。そこは運の要素がどうしてもある。


 俺の黒いウロコの奴は割とおとなしそうだ。

 頼む。乗せてくれよ。


 名簿を手にした試験監督が「29番 クランザ準備に入れ」と声を出した。

「はいっ!」

 俺も元気よく答える。


 俺の一人前の奴がドラゴンに乗る。バーンテッドという有力貴族の一門の奴だ。竜騎士になるのは有力貴族にとっても名誉だからな。

 でも身寄りが一切ない俺みたいな奴でも竜騎士はあこがれだし、なにより命の恩人だ。負けてはいられない。


 バーンテッドの騎乗はほとんどドラゴンにしがみついてるだけといった有様だった。空を飛ぶのは慣れなければ恐怖心に負ける。それはしょうがないことだが、印象としては最悪だろう。


 降りてきたあとも心臓がどくどくするのか、胸を押さえていた。へっぴり腰で帰っていく。

 悪いけど、あれは落ちただろうな。ここは軍隊学校だ。実力ですべてが決まる世界だ。


「29番 クランザ騎乗開始!」

 試験監督の声に合わせて、俺は黒いウロコの奴に乗る。

 ドラゴンは暴れたりはしない。よし、いい子だ。どこのウロコに触るとドラゴンが不快になるかもちゃんと調べている。初手から間違いなどは犯さない。

 俺はゆっくりと手綱を握る。


「運動場上空を一周して戻ってくること。はじめ!」

「はい! クランザ行きます!」


 俺は軽くドラゴンの背中を叩く。

 ドラゴンが飛空を開始する。


 飛行実習も含めてもたしか人生三回目の空の上だった。

 まるで山に登ったみたいに、校舎の屋根がはっきりと見える。


 生きているという実感が湧いた。

 俺の命を助けてくれた竜騎士もこんな光景で山の中の閉ざされた村に来てくれたんだろうな。

 村を襲い尽くしたはぐれロック鳥をあっという間に仕留めてくれた。


 今度は俺が竜騎士になる番だ。


 俺の乗るドラゴンは本当におとなしかった。もう、どこに戻ればいいかもこいつ自身がわかっているらしい。


 ほとんど合図を出す必要もないぐらい、あっさりとドラゴンは滑空姿勢に入り、無事に着陸した。

 ほぼ完璧だ!


 ドラゴンから降りると、乗る時とは別の試験監督が合否発表の日時を伝えた。

 明日の朝十時に掲示されるという。

 そこに29番の俺の数字があるわけだな。


 俺は胸を張って、試験会場の運動場を後にした。

 もう、脳内には竜騎士の腕章がついてる自分の姿があった。


 伝説の竜騎士クランザって呼ばれるまで活躍してやる!



 翌日、掲示板の前は人だかりができていた。

 まだ発表の数分前だが、みんな落ち着かないから早目に来たのだろう。俺も同じだ。


 あまり仲の良くないクラスの連中もいるので、そいつらからは距離を置いた。

 俺のクラスは中小貴族や代々続く商人の息子の割合が高い。そいつらは多かれ少なかれ家柄を気にするから、滅んだ村の生き残りの子供でしたという俺みたいなのは論外だ。


 自然とこっちも足が遠のくから、どうしたって疎遠になる。俺は腕っぷしもいいからイジメに遭ったことはないが、なんとなく気に喰わない奴って空気はお互いに感じている。


 まあ、仲良くなっても将来的にもコネにもならないという意味では正しいかもしれない。でも、俺が竜騎士として出世すれば、あいつらももうちょっとつながりを持っておくんだったと後悔するんじゃないか。

 家柄も何もないなら、自力でのし上がってやる。どうせ、俺にはそれしかないんだ。


 教務課の人間が長い紙の筒を持ってぞろぞろ出てきた。

 あれに合格者番号が書いてあるのか。掲示板に巻いてる紙の筒の上部を固定する。すでに「合格者一覧」という文字がちょっと見える。


 全員の目がそこに向く。


 さあ、この瞬間、俺が竜騎士になることが決まる!


 20番台から探そう。23、26、28番。

 その次は32番だった。


 あれ? 29番がない……?

 もう一度、よく確かめよう。何かの間違いかもしれない。書きもらして、後ろのほうに追加で書いてるかもしれないし……。


 ない。


 周囲で「やったぜ! 受かったぜ!」なんて声がする中で、俺は呆然と立ち尽くしていた……。


 落第してる……!


 しばらく俺はそこでぼうっとしていたが、何も状況は変わらないので自分の寮に帰ることにした……。


 だが、校舎の裏でぼそぼそしゃべってる奴が目についた。クラスのあまりいけ好かない連中だ。いつもならスルーするのだけど、その時、竜騎士という言葉が聞こえてきて、俺は立ち止まった。


「今年の竜騎士試験も相変わらず、金で決まってたな」

「ほんと、ほんと」

 俺は無意識的に、校舎の角に隠れて、話を聞く姿勢になった。

 金で決まったってどういうことだ?

2話は早めに公開したいと思っております! あと、夕方にまた更新できればと!

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