子供の頃の不思議な体験とその真相
子供の頃の不思議な記憶というのは、誰にでもありそうな話である。
昔、弟が空を飛んだ。
私が五、六歳、弟が二、三歳だった頃の話だ。
これだけ書くと「何だ夢の話か」で終わってしまうが、そういう話ではない。
その日、私達は両親と祖母の五人で旅行していた。
突然、買い物が済んでご機嫌だった弟が走り出した。
広場だったのか道はかなり広く、祖母は弟を追った。
私はぼんやりと遠ざかっていく二人を見ていて、母は少し離れた所でその様子を見ていた。
すると突然、弟がフワリと浮かび、祖母をかわして私の方へと飛んで来たのだ。
子供心にとても驚いたのを覚えている。
戻って来た祖母が追い付き、弟を捕まえた。
弟は泣きもせず、ポカンとしていた。
私もポカンとしながら、弟がそのままどこかへ飛んでいかなくて良かったと安心した。
私が小学生になった頃、弟が「そういやボク、小さい時、空をとんだよね」と言い出した。
勿論私も覚えていたので、二人で盛り上がった。
「不思議だよね」
「ちょっと怖かった」
「良いなぁ、私も飛びたかった」
あの記憶は夢じゃないと確信し、摩可不思議な超常現象として私達を興奮させた。
そして更に年月は経ち、もう少し大きくなった私達は祖母と母の証言で、謎の正体を知る事となる。
事の真相は全く大した話では無かった。
その日はニュースに取り上げられる程の記録的強風の日だったらしい。
弟が買ってもらったのは、子供用の傘で、弟は嬉しさのあまり傘をさして歩いていた。
……もうお分かりいただけだろう。
彼は飛んだのではなく、風に飛ばされただけだったのだ。
何ともくだらないオチである。
因みにその日の思い出の写真にも、晴れているのに傘をさしている弟が写っていた。
結構高く浮いたと思っていたが、数十センチ位だったそうだ。
飛ばされた距離も五メートルない位との事。
私達が小さかった故に誇張された記憶だったようだ。
今回はたまたま真相を知る大人が居たから判明した話だ。
もし真相が分からないままだったら、大人になった今でも、私達は超常現象体験をしたと思い込んでいたかもしれない。
幼少期の不思議体験は、こういった誤解や勘違いなども多いのではないだろうか。
勿論全ての体験談がそうだとは言わない。
しかし「あれは本当は何だったのだろう」とあれこれ考えるのも面白いのではないかと思う。