『始まりの交奏曲』
「聞いた?”風来坊のPT”の話さ」
「また?勇者様でも賢者様でも無いんでしょ?」
最近、此処スーラ村の酒場や学校では、村と言う村を魔物から救い、颯爽と去って行く”風来坊のPT”の話題で持ちきりだった。私、バルドルの家が酒場と言う事も合って、友達は毎日の様に風来坊について話していた。
更にその話を盛り上げていたのは、大体の勇者PTは出身地が分かっているのだが、このPT、その圧倒的強さを持つのだが、出身地が一切不明と言うゴシップネタに使われそうなPTだったのだ。
「じゃあね~…あ、来たら言ってよ!?」
魔法使いを目指す私の親友、ララは何でも風来坊のPTで修行したいとかなんとかで、帰る時は必ずこう言うのだ。
その日の夜が、私の運命を分けた。
夜、酒場の手伝いをしていると、ドアが開いた音がしたので、「いらっしゃいませ!」と言おうとして見てみると、その客は、カーボーイの様な帽子に黒い革のジャケットを着た何とも不思議な容貌の男だった。
「仲間を待たせてるんだ。ビールを七つ頼む」
その不思議な容貌に見とれていた私は、はっとして
「かしこまりました!」
と返事して、厨房に駆け込んだ。
「お父さん、あの人って…」
「ああ、まさかと思うが”流離いの風来坊”だろうな」
そう。ララから色々聞かされたバルドルは、風来坊の服装を聞いていた為、我に返った時にあの男が風来坊だと思い、父に聞いてみたのだ。
すると客席の方が騒がしくなったのに気付いたバルドルは、客席の方に出向いた。
そこては、村一番の豪腕、ジスクと例の男が向かい合っていた。
「おい、坊っちゃんよぉ、このジスク様の質問を無視するとはいい度胸してんじゃねぇか!」
ジスクが殴りかかる。しかし、
「ふん!」
風来坊の閃光の鉄拳がジスクの重量重視の鉄拳を凌駕した速さでジスクの腹を抉るかの様にめり込む。
「ごはぁぁぁっっ!」
ジスクは窓から吹き飛び、数m行った所で止まった。
「ぐふっ…中々殺る気がある坊っちゃんだなぁ」
ジスクの鉄拳の嵐が男を襲う。轟音と砂煙が辺りに立ち込める。
「ジスクさん!辞めて下さい!」
いくら風来坊とは言え、これ程の拳の嵐を受ければ死んでしまう。そう思ったバルドルは二人の間に割り込もうとした時、
「超熱却拳」
周囲の温度が急激に上昇し、ジスクが一瞬で吹っ飛んだ。
「嬢ちゃん、ビール七つ、持ってきてくれたのかい?…ってやり過ぎたか」
気楽に呟く男だったが、彼を中心としたクレーターが発生し、酒場と周りの家3つが吹き飛んでいた。
「お詫びになるか分からないけど…酒場の店主さん居ますか?」
「はい…酒場の店主ですが…」
「酒場を吹き飛ばしたお詫びと言っては何ですが、この嬢ちゃんを一緒に旅に連れてってもいいですか?店主さんのご子息とお見受けしますが…」
すると父は、
「いいんですか?こいつ、魔法も何も使えないですが・・・・」
すると男は、
「いいや、この嬢ちゃんはいい目をしてる。嬢ちゃん、着いてくる気はあるかい?」
こんなの、一生に一度あるかないかの幸運だ。それに旅して、父さんや母さんに世界の話をしてあげたいと言う夢も叶う。なら答えは一つ。
「着いていきます!」
そうして永い輪廻の旅が始まった…




