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八話 魔導書と革袋



 窓の隙間から光が漏れ出しており、部屋の所々に光が差仕込む。

 朝日が昇り始め、外はだんだんと明るさを増していき、鳥たちの囀りは美しくも心地よい歌声となり、周囲に響き渡る。


 そんな中、俺は前日の疲れもあり未だに夢の中にいた。

 

「シュウ、朝だぞ。起きてくれ」

 

 魔導書であるレイアは、俺を起こすために優しく声を掛けてくれる。


「もうそろそろ起きてくれ」 

「んっ……ふわぁ~…………おはようレイア」

「おはよう。さあ、さっそく村長の所へ行こう」


 俺は大きな口を開けあくびをし、眠い目をこすりながらレイアに挨拶をして、注意を促す。


「わかったけど、人前では念話を忘れるなよ」

「わかっているよ。この部屋を出たら念話でしか話さないようにするさ」


 ベッドから離れる事に若干の名残惜しさを感じつつも、ゆっくりと立ち上がり俺達は部屋をあとにした。






「おお、起きたのか。それで昨日の話なんじゃが……」


 部屋から出てきた俺にゲハルはさっそく、昨日の頼み事の件を切り出してきた。

 レイアと相談した結果、頼みごとを引き受けることにしていたので、ゲハルに承諾の意思を伝える。


「畑の仕事ですよね? 俺でよければ引き受けますよ」

「引き受けてくれるか、ありがとう。では、朝食が終わったらさっそく畑に向かうとするかの」


 話はなんの滞りもなく進み、俺は椅子に座り魔導書を膝の上に置く。

 朝食には、キノコを使ったスープと硬いパンが食卓に並んでおり、それを食べる。

 スープの方は問題なかったのだが……パンは硬くパサパサしており、そのままでは食べづらかったが、スープに浸すとおいしいとまでは行かなかったが、普通に食べる事が出来た。



 朝食を済ませた俺は、畑に向かう前に村長――ゲハルに、部屋の隅に山積みになっている袋を譲って貰えないかとお願いをする。

 ゲハルはなぜ? と言いたげな顔をして首を傾げたのだが……。

 いや、お世話になっておきながら、こんなこと考えるのは失礼なのは分ってはいるんだけど……爺さんが首を傾げる姿は見ててイラッとするな。

 

 そんな失礼な事を考えながら、俺はゲハルに説明するため話を進める。


「畑仕事中は両手が塞がるでしょう? この本はとても大事なモノなので近くにないと不安なんです。つり合うかは分りませんが……この薬草五束で譲っていただけないでしょうか」


 俺はそう言って、昨日採っておいた全ての薬草――レイアの話では薬草は一束でおよそ銅貨一枚になるらしい――銅貨五枚分をゲハルの前に置く。


 

「いいじゃろう。こちらとしても薬草を貰えるのはありがたいしの」


 薬草の束を確認したゲハルは快く了承してくれた。



 ゲハルの話によると、この革袋はスモールガウアという牛型の魔物のモノらしい。

 その魔物は森とは反対側の草原地帯に生息しており、力は強いが頭はあまり良くないため簡単な罠で倒す事ができ、村長の息子が畑仕事の合間によく狩ってくるとの事だ。

 なめし作業も、あまり手間がかからないため革は余り気味で、ゲハルにしてみれば革袋より薬草の方がありがたいらしい。




 名称 【革の袋】 レア度 F

 

 概要……スモールガウアの皮で出来た革袋。

     価値は銅貨8枚ほど。


 


 説明が終わり――ゲハルは部屋の隅にあった革袋を一つ手にとり、差しだしてくる。

 俺はその革袋を受け取ると、袋の口付近、二箇所に穴を開けた。

 そして、ズボンからベルトを抜き取り――その穴にベルトを通し、また締めなおす。


「……うん、これで完成だ」


 すると、なんということでしょう。

 先程までただの革袋だったモノが、匠の手により素敵なウエストバッグに変貌を遂げたのです。


 …………。


 これで、レイアをいつでも持ち運ぶ事が出来るようになったな。

 出来上がったばかりの袋に魔導書を入れ、俺はとても満足気な表情で畑へと向かっっていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 畑へと移動した俺達は、さっそくゲハルから畑仕事の説明を受ける。


「畑の世話と言ってもやる事は簡単じゃ。マルイモは丈夫な作物じゃからの、朝に水をやるだけ(・・・・・・)でいいんじゃよ」


 なんだ、それじゃあすぐ終わるなと軽く考えていた俺だったのだが、この後すぐに考えを改めさせられるのであった。




『おい、このままでは昼になるまでに終わらないぞ?』

『……』


 な、なんだこれ……新手の拷問か? めちゃくちゃキツいぞ!


 この世界〈ラークス〉に水道などという便利なモノはない。

 その事をすっかりと忘れていた俺は、レイアに急かされるも返事をする事が出来ず、大量の汗を流しながら畑と井戸を何往復もして、なんとか昼までに水やりを終わらせる事が出来たのであった。

 

「それでは夕方まで自由にしてかまわんよ。夕方には夕食の分のマルイモを収穫してもらうつもりじゃ」


 それだけ言い残すと、ゲハルは疲れて動けなくなっている俺の返事を待たずに、自宅へと帰って行った。


 人使いの荒い爺さんだな……何が水をやるだけでいいだよ。その水をやるのが一番しんどいんだよ!

 もう姿が見えなくなっているゲハルに心の中で文句をいうが、それを声にする元気はなく、今は余計な事は考えず、体を休める事だけを考えるようにする。





 それから俺達はたっぷりと休憩を挟み、村から少し離れた場所に移動し、ようやく魔法の訓練を始める事が出来るのであった。


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