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六話 村


「はぁはぁ、追って来てないよな?」


 索敵にはなんの反応もなく、魔物が追って来る気配はない。

 膝に右手を付き、息を整えながら後ろを振り返り、本当に魔物が追って来てないかを自分の目で確かめ、安全を確認できた俺は、目の前に生えている木にもたれ掛かり、ゆっくり腰を下ろす。

 そして、声を掛けても反応のない相棒――魔導書であるレイアをそっと地面に置く。


「クソっ! こん棒持ってくるの忘れたー」


 ゴブリンの使っていた武器である棒――こん棒をあの場に置き忘れていた事に今になって気付いたが、時すでに遅し。いまさら取りに戻れるはずもなく、例え持って来れていたとしても、たいして上手くは扱えないのだが……。

 しかし扱えなくても、武術の素人が素手で殴りかかるより幾らかはマシだろ?

 まあ持って来て無いモノは仕方ない、俺は気持ちを前向きに切り替え、警戒しながら辺りを観察する。


「あれは?」


 すると、ちょうど目の前の木に生っている赤い実に目が留まる。

 うーん、外観はリンゴに似ているけど食べれるのか?

 俺は、すかさず鑑定を使いその実を調べてみることに。


 


 名称 【リゴンの実】 レア度 F


 概要・・・赤い木の実。水分を多く含んでおり瑞々しく

      皮にも栄養があり、生食が可能。

 

 


 リンゴじゃん!? もうリンゴでいいじゃん! と、軽くツッコミをいれて、手の届く距離にある実をもぎ取り、腹が減っていたので勇気をだし、そのリンゴにそっくりな実に齧りつく。

 その実はほんのりと甘く、シャキッとした歯ごたえがあり瑞々しい。

 リゴンの実は予想以上でも以下でもなく、想像した通りのあの味だった。


「見た目も味もリンゴじゃん!?」


 今度は口に出して呟く。

 名称に若干の不満を覚えるも、味自体にはなんの不満もないので、もう一つ実をもぎ取り腰をおろし、瞬く間に2つの実を完食する。

――それとほぼ同時に足下から声が聞こえ、そちらの方に顔を向ける。


「う……んっ…………」

「レイア!?」

「ふぁー…………おはようシュウ。そんなに慌てた声を出して、一体どうした?」

「大丈夫……そうだな、何か変わったところはないか?」

「変わったところ? ひと眠りしてスッキリした以外は特に変わった所はないが……」


 どうやらレイアは、自分の身に起こった出来事を覚えておらず、なにも理解していないようだった。

 しかしこの魔導書、俺が必死こいて魔物から逃げている最中、暢気に眠りこけていたというのは、一体どうゆうことなんでしょうかねえ? くそっ、心配して損した!…………まぁ無事だったのは素直に嬉しかったけど。

 自分の意志ではなく、仕方がなかったこととは言え、どこか府に落ちず、納得できなかったなかったのだが――少しの時間ではあったが、元の姿に戻った理由は、レベルが上がったからか、それともゴブリンを吸収したからなのか、はたまた別の何かが原因なのかは分らないままで――しかし、そのことをレイアに話すのは後にして、今は何よりこの森から抜け出す方を優先させる。

 

 俺達は闇雲に歩きまわることはせず、辺りを慎重に調べた結果、獣道? とはまた違った道のようなモノに、明らかに魔物ではない足跡――靴跡を発見することができ、その跡を追うようにして歩きだした。

 



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 1時間程、歩いただろうか? この世界には時計というモノがないので、俺の感覚なんだけど……なんとか森を抜けることができ、ホッと安堵のため息をもらした。

 それはレイアも同じだったようで、安心したような声で話しかけてくる。


「やっと森を抜けることが出来たな。シュウ、あそこに見えるのは村ではないかと思うんだが……どうだろう?」

「魔物が木の家を建てることがないんだったら、村で間違いないんじゃないか?」


 レイアは何が面白かったのか、クスッと笑い声をあげて、


「魔物が木の家を建てるわけないだろう?」


 と一言だけ呟いた。

 


 そんな会話がありつつ、目の前に見える村に足を進める。


 ああ、そう言えば森の中での成果なんだけど、俺の右手には歩いていた道中に見つけた薬草、ポケットの中にはゴブリンの魔石が入っている。

 リゴンの実は持ってきたかったのだが……両手が塞がり、ポケットに入る大きさではなかったため、泣く泣く諦めた。




 名称 【薬草】 レア度 F

 

 概要・・・いろいろな薬の材料となる草。

      そのままでも多少の癒し効果がある。



 

 そして、しばらく歩き、異世界に来てようやく初めての村に着いたのだったが、俺は入口に門番がいないことに疑問を抱く。


「あのさ、村の入り口には見張りみたいな人はいないのか?」

「門兵がつくのは街からだな。こういう規模が小さな村に門兵がいることは、特別な時でもない限りまあないだろうな。そのかわり――ほら、あれを見てみろ。入口の近くに畑があるだろう? その畑の持ち主が見張りのような役目を担っているんだ」


 そういう物なのだろうか? まぁ単純に見張りに割ける人が足りないんだろう。

 小さな村は大変なんだなと考えながら、畑仕事をしているお爺さんに近づき、声を掛けようとした時、そのお爺さんが叫びながらうずくまってしまう。


「うおぉぉぉぉぉぉっ、こ、腰が……」


 どうやらそのお爺さんは、畑仕事で腰を痛めてしまったようだった。

 俺はお爺さんに声を掛ける前に、レイアに念話で注意を促す。


『レイア、村の中では念話で話してくれ。変に怪しまれたり、警戒されたくないからな』

『ん? わかった。だが……見慣れない服を着て左手には魔導書、右手には薬草を握りしめているよそ者を警戒しない村人などいない、という事だけは言っておこう』

『うっ……そ、それはしょうがないだろっ! と、とりあえずそういう事だから頼んだぞ』


 そんなやりとりを経て、俺は異世界に来て初の村人との会話に向かうのだった。


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