二話 スキル
「もう一度言う、私と契約を結んでくれないだろうか?」
「はい、謹んでお断りします」
「えっ!?」
よくよく考えてみてくれ、そりゃそうだろ?
いきなり「契約してくれ」、「はい、お願いします」――とはならないし、それで契約してしまう人はほとんどいないだろうと思う。
それに、この世界の契約がどういったものなのかも俺には分ってない。せめて契約の内容ぐらいは聞かせてくれなければ、こちらとしても断るほかない。
レイアさんは、まさか断られるとは思ってもいなかったのか、驚きの声をあげたのだが……いや、こっちの方が驚きですから!
たぶん、元王女様は断られるという事がなかったのだろう。しっかり者に見えて実は、少し抜けてたところがある人なのかも……まぁすべてが完璧な女性よりは好みだけどね。
俺は、話が性急すぎるレイアさんにその旨を伝える。するとレイアさんは、申し訳なさそうな口調で素直に謝罪の言葉を口にする。
「すまない! 結論を急ぎすぎたようだ…………もう一度、私の話を聞いてくれるだろうか?」
肉体的にも精神的にも疲れてはいるが、ここで「聞きたくない! 少し休ませろ」と言える人はなかなかいない。少なくともオレには無理だった。
「もっもちろんですよレイアさん。ぜひ聞かせてください」
「ほ、本当かい? ありがとう、感謝する…………ところでさっきから気にはなっていたんだが、レイアさんではなくレイアでかまわない。話し方も、もっと自然にしてくれた方がこちらとしてはありがたいのだが……」
「えーっと、わかりまし――わかった。その方がこっちとしてもありがたいよ。レイアもオレの事はシュウと呼んでくれ」
「わかったよ、シュウ。では話の続きなんだが――」
「ちょっと待った!! その前に少しでいいから休憩させて。喉も乾いたし」
お腹は減っているが、一食分くらい抜いても問題はない。
だが水分は摂っておきたい。喉が渇き、すでに口の中はカラカラだ。脱水症には注意しないといけないし。
お互い少し打ち解けあったところで、さっきは遠慮して言えなかった気持ちをレイアに伝えてみる。
レイアは祭壇の近くに湧水が湧いていることを教えてくれる。
「それなら祭壇の左の方に湧水がある。飲めるかどうかは知らないが……湧水の前まで私を連れて行ってくれないか? スキルの【鑑定】で調べてみよう」
スキル? 【鑑定】? 興味は惹かれるが……それよりもまず、喉の渇きを潤したい。
俺はスキルのことは何も聞かず、悪魔像から魔導書を抜き取り、湧水のそばまで連れていき腰をおろす。レイアはすぐに湧水へとスキルを使い、飲めるか水かどうかを調べてくれた。
「【鑑定】。さて結果がでたぞ」
そういうと、不思議なことに魔導書の表紙がひとりでに開きめくられ、そしてあるページでピタっと止まった。
どうやらそのページに鑑定の結果が記されているらしく、俺は目の前で起こった不思議な出来事に驚いたが、おもむろにそのページを覗き込む。
名称 【天然水】 レア度 E
概要・・・いろいろな天然成分が豊富な水。
飲水として問題なく飲める。
「どうやら飲水として問題ないらしい、飲んでも構わないよ」
鑑定結果を目にした俺はレイアに声を掛けられ、湧水を少しだけ手ですくい口に含む。
「つめたっ! けど……おいしい」
――水道水のカルキ臭さもない天然水を勢いよく飲み始める。
その後、喉も潤った俺は、先程から気になっていたスキルについて聞いてみることにした。
「レイアはスキルをいくつかもっているのか? ってかそもそもスキルってなに?」
「んっ? ああ、説明がまだだったな……私のステータスを表示できるが、見るか?」
俺は首を縦に振り、まだ開かれたままの魔導書のページを見つめる。
すると、さっきまで書かれていた水の鑑定結果が消え、新たに文字が記されていき、レイアのステータスと思われる文字が表示された。
いくつか分らない項目があり、その事を聞いてみるとレイアは丁寧に説明してくれた。
[名前] オルレイア・グランディフ
[年齢] 521歳(21歳)
[種族] 魔導書(人間・女性)
[レベル] 1
[スキル]
鑑定、翻訳、念話、共有化
[固有スキル]
吸収
[魔法]
生活魔法
[称号]
封印の魔導書
・名前と年齢、種族はそのままの意味。
・レベルは、上がれば身体能力や魔力が増える。しかし、ゲームのように戦えば上がるというものではなく、様々な経験――例えば、掃除や料理をしてレベルアップする事もある。それでもやっぱり、戦闘による経験が一番あがりやすいらしいけど……。
・スキルとは身についた能力・技能の事で、生まれた時から備わっている先天的なモノと、生活していく中で備わる後天的なモノがある。
・スキルは剣を振り続ければ剣術が、弓を使い続ければ弓術が、才能の差で取得しにくさはあるものの、努力すればそのうち習得可能。だが固有スキルに関しては、特殊スキルとも呼ばれスキルとほぼ同じだが、個々人がもつ特別な能力・技能で努力では習得不可能なものらしい。
・魔法は通常、生まれ持った才能でのみ使う事が出来るモノで、その魔法の適性がないとどんなに頑張っても使用することは出来ない。例外としては生活魔法のみ誰でも使用する事ができる。
・称号については良く分からないらしく、いつの間にかついており特殊な効果を発揮するとのことだ。
【鑑定】あらゆるモノの詳細を知る事ができる。
【翻訳】あらゆる言語を、使用者の知っている言語に置き換える。
【念話】口に出さずとも意思疎通が可能になる。
【共有化】使用者の認めたモノと経験値、スキルなどを共有する。
【吸収】ありとあらゆるものを取り入れる事が出来る。その際、吸収したモノに特別な力があれば自分のモノにする事が出来る。
【生活魔法】生活に役立つ魔法。
【封印の魔導書】力が制限される。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レイアは521歳――いや21歳か。精神年齢が521歳で実年齢21歳ってことかな?
あと俺のステータスも早く見たいな。空間魔法があることは確実だけど、それ以外はどうなんだろ? まあそれは後でいいか。これから契約の話もするだろうしな。
これからの事を考えているとレイアが、
「さて、説明も終わった……シュウ! あらためて言おう。私と契約を結んでくれ」
「はい?」
あれ? この感じどこかで……。 デジャブかな?
えっ! また繰り返すの? ステータスの説明はしてくれたけど、契約についてはまだなんですけど!!
俺は少しウンザリしながら、首を前に倒しガックリと肩を落とすのであった。