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Act.8

潜砂蟲(スニークサンドワーム)】を倒した後、俺たち四人は俺の一次職になるという目的を達成したためカーナイルの村に戻ってきていた。


「さて、カグヤ。どんな職業がある?」


 職業はステータスやスキルの熟練度、使用武器や装備防具などから総合的に選択肢が提示される。DEFやMDFが高ければ盾戦士という職業が、INTが高ければ魔術師といったように様々な職業があるが、特定の職業をのぞいてその選択肢の出現情報は明かされていない。カグヤがステータス画面を開くと、新たな職業として三つの選択肢が表示されていた。


「えっと、双銃士に拳闘士、それに狙撃手の三つだ」


「狙撃手ぅ!? なんだその職業……フィーリアとキャリシーは聞いたことある?」


「ないっす」


「ないわね」


 ベータテスターの三人が聞いたことのない職業。それは二千五百人いたテスターでも、狙撃手という職業が発見されなかったことを示している。二千五百人のなかで、銃を使って一次職になった人間はおよそ二十人弱程度。現在レジリアオンラインには約八千人がアカウントを持っているとされるが、『銃術は使いづらい不憫スキル』という認識が広まってしまった以上、数はそんなに変わらないだろう。


「クラススキル『急死の一撃』……未発見状態からの第一射はクリティカル確定」


「スナイパーにぴったりのスキルだな……双銃士は確か『二丁拳銃』っていうクラススキルで、ハンドガンに限り左手にも装備できるスキルだったかな」


「ああ、そうなってる。職業補正は……双銃士はSTRが下がってAGIとDEXにプラス補正、狙撃手はDEFとMDFが下がるけど、双銃士よりは大きくSTRとDEXが上昇するみたいだ」


 悩む。双銃士になってもいいが、それだとランダムパラメータで生成された狙撃銃、【SLB】を使わなくなるだろう。これ以上STRが下がってしまうと、装備するのすらキツい。


「狙撃手にするわ」


「えらいあっさり決めたな?」


「【潜砂蟲】を倒せたのも狙撃銃のおかげだし、なにより……」


「なにより?」


「愛着が湧いちゃったのさ」


 この武器に、といいながら黒光りする【SLB】を撫でる。ひんやりとした冷たい感触はドリフターが脳に錯覚させている電子信号でしかない。けれど俺は、確かにその存在を手のひらに感じ取っていた。


「ステータスオープン」


 職業のところの狙撃手を軽く二回タッチする。するとポーン、ポーン、と二回、何かを習得したことを知らせる電子音が鳴った。


「スキル一覧……なんだこれ、スキル融合?」


「お、出たか。戦闘中に熟練度があがってできるようになったんだろうな……【地鮫(アースシャーク)】もお前よりは格上だから熟練度が上がるのも早かったんだろう。スキル融合っていうのは二つ以上のアクティブスキルを一つにするシステムだ。一定以上の熟練度にならないとできないし、熟練度はリセットされるがスキルの枠が開くから、喜んでいいぞ」


「わーいやったぞぉ、嬉しいなぁ~」


「むかつくっ……!」


 悔しそうに歯軋りをしているトシを尻目に、詳しくスキル一覧をみる。


 体術+銃術+蹴術=銃衝術……? とりあえず融合してみるか。



 スキル:銃衝術

 その身に宿るはかつての体術の記憶。銃は撃つだけではない、殴ることもできるのだ! あ、蹴りも忘れないでネ☆(キラッ)

 入手条件:銃術スキルが熟練度100以上。体術スキルの熟練度100以上。蹴術スキルの熟練度100以上の時、スキル融合によって入手できる。

 効果:体の一部分をぶつける攻撃にプラス補正(中)。銃を使った攻撃にプラス補正(中)。銃を使った殴り攻撃プラス補正(中)。アビリティは銃術と体術と蹴術を引き継ぐ。


 使用可能アビリティ『チャージショット』『殴打』『震脚』『クイックバレット』


 『チャージショット』……四秒のチャージ後に、強力な一撃を発射する。

 『殴打』……二十秒間、拳によるダメージにプラス補正。

 『震脚』……地中にいる敵や二足歩行の敵に隙を作る。五秒間自身のDEX減少。

 『クイックバレット』……再使用時間中の銃でも、一発だけ弾を撃てる。ただし、武器は壊れる。


 スキル熟練度0/1000

 スキル種類:アクティブ


 俺は凄まじいまでの精神力を総動員して、キラッ☆を無視することに成功した。


「三つも一緒になったってことは、二つスキルスロットが開くな」


「銃衝術? また聞いたことのないスキルだなぁ、おい。っていうか蹴術の習得条件って、自分よりレベルが高いモンスターに十回以上蹴りで攻撃か……ああーまあがんばりゃできるか。お前、これ他の銃使いの人に教えてやったらどうだ? ちょっとは人気が持ち直すかもしれないぞ」


 うーん。持ち直すか? 無理だと思うんだけど。悩んでいると、それまでおとなしく話を聞いていたフィーリアが横から口を挟んできた。


「隠しておいたほうがいいと思います。別に進んで有名になる必要はありませんし、兄さんも余計な注目を浴びたくないでしょう?」


「いやいやフィーリアちゃん。目立たないって……無理だろ」


 トシの言葉の意味はよくわからないが、確かに無用な注目は鬱陶しいな。道行く人が振り返る、ぐらいならまだしも、追っかけてきて握手やサインとか言われるのは嫌だ。まあそこまでは行かないだろうが……


「自分から言いに行くようなことはしなくてもいいと思うんだ。それに俺が活躍してれば銃の人気も出てくる……はずだ。きっと。たぶん」


「はっはっは、それはまあそうっすね。けど、狙撃して一撃で倒してたらたぶん、誰が倒したのかなんてわかんないじゃないっすか?」


「…………ま、言わないことにしとくさ」


「最近無視されることが多い気がするっす」


 ぼやくキャリシーを尻目に成長値を振り分ける。後でスキルスロットに入れるアクティブスキルも検討しないといけないな、と思っていたら、トシがいきなり真剣な顔つきになった。


「―――――――で、だ。ベータテスターとしてはこれが本題なんだが。誰か、【砂蟲の巣への案内図】をドロップしてないか?」


 にわかにテーブルに緊張が走る。【案内図】という名称がついた地図系統のアイテムは、発見されない限りはそのダンジョンが解放されないという性質を持っている。帰り道に話を聞いたところによると、どうやら【砂蟲の巣への案内図】は『砂蟲のすり鉢』というダンジョンが開放されるためのアイテムらしい。あくまでもベータテストの時は、という話だが。

 突然あんなボスクラスが襲ってくるような砂漠でそんな話をするわけにもいかず、成長値やらスキルやら職業変更やらは安全圏の街に行ってからにしよう、というのが共通見解だったので全員で砂漠への入口となる村、カーナイルの村に戻ってきていたわけだ。


 アイテム欄、という四人の声が重なり、四人が片っ端からnewのマークがついたアイテムを確認していく。やがて声を上げたのは、チャラい印象があまりにも強い軽薄な魔法使いだった。


「あったっす! 【砂蟲の巣への案内図】!」


「でかした、キャリシー!!」


「何もしてないでしょ」


 トシの賞賛の言葉に照れて頭を掻くキャリシーに、フィーリアが冷静に突っ込む。キャリシーの右手の人差し指が軽く二度空中を叩き、青い燐光をまといながら一冊の本が実体化した。


「実体化しt……」


「兄さん、そのネタ古いしわかりづらい」


 すまん。

 でも結構使われてるよ?

 気を取り直してその本を眺める。すると目の前に、いきなり巨大なホログラムウィンドウが現れた。


「なに、これ?」


「今回はパーティで狩ったからな。この情報は全員で共通というわけだ……意外とバランスも悪くないし、今日一日俺は暇だから、このままこのパ-ティで行っちまうか?」


「私は大丈夫よ」


「俺も問題ないっす」


「俺も、」


 大丈夫。そう続けようとした俺の口を、けたたましい警告音が遮った。店のなかにいるNPCが動きを止め、プレイヤーは不安そうに周囲を見渡した。



 ―――――――――――ログインしている人間が一万人に達しました。これより『レジリアオンライン』のチュートリアル及び正式サービスの告知を行います。なお、フィールドにいるプレイヤーのみなさんは強制的に最寄りの安全圏へと転送されます―――――――――――



 外で何度も赤黒い光がまたたき、プレイヤーがその姿をあらわにしていく。運営に対して怒っている人もいれば、困ったように笑っている人もいた。怒っている人を宥めている人もいるし、笑っている人を叱りつけている人もいた。だがそんな喧騒も徐々に小さくなっていった。



 ―――――――――――この時より、このゲームはログアウトができなくなります。さらに、Clock Burst System により、現実世界の一秒はこの世界の一週間に引き伸ばされます。この世界からの脱出方法はただ一つ、復活しようとしている邪神を倒して、この世界の平穏を守ることです。邪神はこのヴァレリア大陸の最南端、『ペイン・ワールド』に封印されています。封印が解けるのは、現在この時よりゲーム時間で三年後。邪神が復活すると、強化された魔物がペイン・ワールドより攻め込んできます。



 嘘だろ、という誰かの呟きが聞こえた。もしかしたら、トシの声だったかもしれない。そして声を上げる人間はいなくなった。最初の『ログアウトができなくなります』で、ほとんどの人間が沈黙し、それでも騒ぎ立てようとした人間は周囲の人に睨まれてその口を閉じた。



 ―――――――――――さらに凍結されていた『ギルド連合店』がオープンします。プレイヤーの皆さんが誰でも、一定の金額を払えばギルドを立ち上げることができるようになりました。

 さらに凍結されていた『我が(ホーム)』のシステムサービスが開放されます。全てのプレイヤーはあらゆる町や村に自らの拠点を持つことができるようになりました。

 さらに五十個のユニークスキルを入手するためのクエストが二十個開放されます。



 沈黙のなかに、誰かのすすり泣く声と、上等じゃねぇか、という声が重なった。



 ―――――――――――最後に、重要な告知を二つ行います。これは、デスゲームではありません。このゲームのなかでHPが0になっても死ぬことはありませんが、システム Pain Sense によって仮想の痛みを再現します。ショック死してしまう可能性を考慮して、現実で受ける痛みの50%まで抑えてあります。

 二つ目はデスペナルティの変更です。これまでのデスペナルティは経験値の減少でしたが、今この時よりデスペナルティは、以下の三点になります。


 1、死亡後ゲーム時間で三日、最大HPとMPの20%がマイナスされます。

 2、無条件でレベルが一つ下がります。経験値は下がったレベルの初期値になります。

 3、死亡時に装備していた装備品が一つ、ランダムにドロップされます。


 これで、『レジリアオンライン』の正式サービスの告知とチュートリアルを終了します。それでは、邪神に挑む、冒険者たちに激励の言葉を一つ―――――――――――



 それまで人が喋っているとは思えないほど機械的だった音声が、いきなり、イタズラめいた口調に変わる。そして放った一言は、このゲームをやっている人間の99.9%が聞いたことのある言葉だった。





 ―――――――――――少年よ、世界を救いたくはないかね?





 嘲るようなその声が響き、木霊し、ようやくエコーが消えたとき、


 一万人のプレイヤーは、自分たちが閉じ込められたことを知ったのだった。


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