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Act.6

始まりの町の中央には、一本の高い塔が建っている。トシを待っている間、周囲のNPCに話を聞いてみたのだが、この塔は『風見の塔』という名称で観光名所になっているらしい。

 こんなに高くする必要ないだろ、とかどうやって風見るの? とかいろいろ思ったが、ゲームなんだから、と自分を納得させたところでトシが現れた。しょっちゅうナンパされかけたのはさすがに辟易としたが。


「おう、ってこれなんて読むんだ? 月姫でいいのか?」


「カグヤだ。にしてもえらい重装備だな?」


 こちらが【鬼族のライトアーマー】と【コルトG】以外は初期装備なのに比べて、トシは重厚な金属鎧にいっちょ前にバイザーまでつけて顔を隠している。まあトシというのは名前が表示されたので分かったが。

 ちなみに【コルトG】を装備しているのは、【SLB】だと移動制限が掛かり、移動速度が異様なほど落ちるからだ。なるほど、これが狙撃銃の欠点なんだなと理解した。リサの前から【SLB】を装備してさっそうと去ろうとしたのに腰を痛めたお爺さんみたいな足取りになってしまったのは秘密だ。


「ああ、俺は盾戦士だからな。味方を守るのが仕事なんだ。で、お前は……おい、なんで銃なんて持ってるんだ」


「別にいいじゃないか。そう捨てたもんじゃないぞ」


「お前がいいならいいけどよ……地雷スキルだぞ、それ」


「知ってる、というか選んでから知った」


「はぁ、で今スキル何持ってんの?」


「銃術と体術と蹴術だ」


「はぁ!?」


 トシは目を剥いて俺に猛然と説教を始めた。だいたいは聞き流したが、たいていの人間はレベル上げの前に『スキル販売店』に行ってある程度有用なアクティブスキルをセットしてから行くらしい。俺は何も考えずに飛び出したため、まだスキル欄が三つほど残っている。


「スキル販売店に行くぞ」


「了解。そういえばレベル13になったから、違う狩場のほうがいいかも?」


「いや、問題ない。レベル10から15までなら上げられる狩場に行く予定だったからな」


「ふーん、でスキル販売店行ったら何買えばいい?」


「まずは“隠密”だろうな。銃使いには、といっても滅多にいないが、必須のスキルだ。敵モンスターに発見されにくくなる。確実に先手を取れるってわけだ」


「ふむふむ」


「で、“バレットチェンジ”もあったほうがいいだろう。後半になると魔弾も使うだろうし」


「それどういうスキル?」


「弾の種類を変えるのにいちいちステータス欄を開いて変えなくても、発声で弾の種類を変えられるんだ。戦いながらじゃ弾を変えるのは難しいし、PTプレイの時に時間短縮になる」


「へぇ~」


 など解説や説明をしてもらっていたらスキル販売店に着いた。あいうえお順に並んでいるため、おの行から隠密のスキルを購入する。なんとたったの300E。Eというのはこの世界のお金の単位なのだがエウェというらしく、なんでこの名前なのかは誰も知らない。


 スキル:隠密

 影に潜む彼の姿を誰も捉えることは出来ない。気づいた時には彼はあなたの後ろに。

 入手条件:購入。

 効果:モンスターに発見されにくくなる。熟練度が高ければプレイヤーの索敵スキルに居場所がバレない。アビリティ『隠密行動』使用可能。

 『隠密行動』……走ったり攻撃したり声を出したりしない限り、姿が隠蔽される。

 スキル熟練度0/1000

 スキル種類:アクティブ


「次は、バレットチェンジだからは、は……あ、あった。ん?」


 バレットチェンジのとなりに、ウェポンチェンジというスキルが並んでいる。類似するスキルはとなりに表記されるらしいから、似たようなスキルなのだろう。説明を見ると、弾ではなく武装を変えるタイプのスキルらしい。


「トシー。このウェポンチェンジって?」


「ああ、それは戦闘中に武器を変えるスキルだ。戦闘中はたとえステータス画面を開いても武器は変えられないが、そのスキルをセットしていれば戦闘中でも簡単に変えられる。まあ、あんまり人気はないな。使えるんだが、スキルスロットを一個埋めるほどじゃないってな」


「面白そう、これにしよう」


「は!?」


 俺は嬉々としてそのスキルを購入してスキルスロットにセットする。

 やっぱり銃の利点といえば近距離、中距離、遠距離と様々な距離で発揮するその制圧力だ。


 近距離、ハンドガンでは隠密性と機動性。

 中距離、ライフルやマシンガンでは速射性と攻撃面の広さ。

 遠距離、スナイパーライフルならば奇襲性と一発の威力の高さ。


 たとえば遠距離から狙撃銃を撃って外したとき、俺は狙撃銃で近距離戦をやらなければならないかもしれない。それは嫌……ていうか無理だ。けれど、ここで相手は狙撃手だと思って近づいてきた相手に襲いかかるマシンガンの速射。慌てて距離を詰めればハンドガンと体術で迎撃。


 …………完璧だ!


「お前、相変わらず人の話聞かないな」


「失敬な。あ、ごめん。失礼な。俺が聞かないのはお前の話だけだ」


「おい、今なんで言い直した? 失敬ぐらいわかるわ、俺だって!」


「失笑」


「……今、ここでお前に決闘を申込みたくなった」


 決闘とは町などの安全圏でも戦闘を行えるシステムである。二人の間でだけ安全圏のコードが解除され、戦えるのだ。


「レベル上げたら、後で付き合ってやるよ」


「おう、よろしく頼む……あれ? なんで俺が頼む側になってんだ?」


 首をかしげるトシを放置して、俺はスキルを見ていく。うーん、バレットチェンジは別に必要ない気がするんだよな。魔弾もまだできないだろうし、そんな一発一発が高い弾は使いたくないし、なによりあんまりパーティ組まない気がする。


「索敵スキルにしとこうか……」


 スキル:索敵

 研ぎ澄まされた感覚は闇に潜む者たちの姿を暴く。その目の前に隠し通せるものはなし。

 入手条件:購入。

 効果:プレイヤーやモンスターの位置がわかるようになる。熟練度が高いと隠密行動中のプレイヤーやモンスターの位置もわかるようになる。アビリティ『周辺索敵』使用可能。

 『周辺索敵』……半径5メートルの範囲の動的オブジェクトの位置を詳しく知ることができる。半径は熟練度が上がると広がる。

 スキル熟練度:0/1000

 スキル種類:アクティブ


 【SLB】の射程が確か40メートルだったから、八分の一か。まあ伸びていくらしいし、ひたすらに『周辺索敵』すればいいか。そのうちかなり広い範囲になるだろう。


「何にしたんだ?」


「えっと、銃術、体術、蹴術、索敵、隠密、ウェポンチェンジだ」


「蹴術外せアホッ!」


「えー。移動速度上がるんだぜ?」


「『微』上昇だろうがっ! 初期アビリティもないクズスキルだぞそれ!」


「いやぁ、愛着湧いちゃってさぁ」


「………………」


 説得を諦めたのか、トシは背を向けて歩き出した。慌てて後を追う。


「『周辺索敵』……トシ、そういえば、どこの狩場に行くの? 『周辺索敵』俺リザードマンぐらいなら問題なく狩れるから『周辺索敵』どこでもいいけど、あんまり人がいるところは『周辺索』」


「うるせえな! 索敵スキルを使いながら会話するんじゃねぇよ!」


「『隠密行動』」


「あれ、どこいった? ……ってなるかバカ! 『隠密行動』はそんな便利なスキルじゃない!」


「具体的に言うと?」


「っはぁ。まあそうだな、十五秒間暗がりとか物陰とかに隠れてから『隠密行動』を使わないと効果が発揮されないんだ。だから目の前で消えるとか無理なんだよ」


 ふぅん。使いづらそうな制約だな。十五秒か……短いようで長い。しかも走ったり声を出したりした瞬間に解けてしまうのだから、扱いに困る。


「熟練度はどうやら隠密行動している時間によるらしいから、暇な時にひたすら隠密すれば熟練度上がるぞ」


「誰がそんなことするか。で、狩場はどこなんだ?」


「その前に、知り合いを紹介する。さすがに銃使いと盾戦士じゃ火力が足りなすぎる。本当はフィーリアちゃんがいればよかったんだけどな……『戦乙女』の重要メンバーを呼び出すなんて俺は……いや、でも兄のためだからいいのか?」


「コール、フィーリア! 『兄さん、どうしたんですか?』なんでワンコールで出るんだお前は? まあいい、今から暇か?」


『時間はあるけど。どうしたの?』


「いや、ちょっとレベル上げに付き合って欲しいなあ、と」


『いいよー。どこにいるの?』


「南門付近」


『了解、南門に行くから十分待ってて』


「トシ、フィーリア来れるってさ」


「ちくしょう、俺の悩んだ時間を返せ!」


 いいじゃん、来れるんだから。トシが知り合いとやらにメッセを送り、その四人でPTを組むことになった。南門で待つこと五分。


「友達のレベル上げに付き合いたいなんてトシさんいいとこあるんすね! 見直したっすよ! あ、トシさんの友達っすか? 俺、キャリシー言うんですけど、めっさ美人ですね!」


 やたらテンションが高い白いローブを纏った男が現れた。顔立ちは整っているのだが、その顔に浮かんだヘラヘラとした笑いが第一印象を『チャラそう』で決定づけてしまっていた。


「ああー、俺男なんで」


「マジっすか!? まあいいっす! で、なんでまた銃を……ああ、答えたくないことならいいっすよ! いやぁでも本当美人っすね! ちょっと握手してください!」


 こちらが口を挟む余裕もなくまくし立てる男……キャリシーをしばらく眺めていると、トシが右手をガシャン、と肩に乗せてきた。


「こんなでも魔術師としての力は確かだから。プレイヤースキルも高いし」


「とりあえず、お前にキャリシーさんをどうこう言う資格はない」


 右手を振り払って告げる。


「俺これ以下なの!? 微妙にショックなんだけど!」


「はっはっは、さん付けじゃなくていいすよ。むしろ呼び捨ててください!」


「安心しろ、未満だから」


「ちょ、無視っすか!?」


 とりあえず、フィーリアがやってきてプレイヤースキル『鶴の一声』をやるまで俺たち三人は完全にバッドステータス『混乱』に陥っていたことは間違いない。


             =====================


「いやぁ、同じ魔術師として『騙し討ちの氷姫』のことは尊敬してるんすよー。会えて光栄です!」


 『騙し討ちの氷姫』。そう呼ばれたのはこのパーティ唯一の女性、我が妹結衣ことフィーリアだ。もっともキャリシーの声に非難がましい色はなく、純粋に感動しているように思えた。この妹、ベータテストの時にイベントで行われたギルド同士の集団戦の時も髪と瞳を水色に染めて、『ヒーラーに見せかける作戦』を行なったらしい。人数でほかのギルドに負けていた『戦乙女』は実は全く回復にMPを使っていなかった結衣の高威力範囲魔法で決着が付いたのだ。


 …………そのせいかどうかは知らないが、正式サービスバージョンはゲーム内での髪と瞳の色の変更はできないらしい。


「髪と目いじるだけで印象変わるからねー。まあ名前は改変不可能だから見ればわかるんだけど」


 相手が混乱してるのを見るの楽しかったのになぁ、とつぶやくフィーリアの後ろで男三人はその恐ろしさに身を震わせていたとか。


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