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Act.5

 始まりの町に着いたとき、時間はまだ十二時だった。待ち合わせは一時なので、後一時間ほど時間がある。とりあえずステータス画面から装備欄に移動して、【鬼族のライトアーマー】を装備する。そして『リサ』という人にメッセを飛ばしてみた。


『初めまして、カグヤと言います。アイチャさんから紹介されたのですが、今から伺っても大丈夫でしょうか?』


 なんと即座に返事が返ってきた。


『X108 Y236』


 これは座標送信というもので、自分がいる場所をメッセで送ったものだ。この座標をクリックするだけでその座標に行くことができる……のだが、自分の体が勝手に動くのは若干以上に薄気味悪いので、マップ画面で位置を確認して向かうことにする。向かう途中で攻略掲示板を見て、情報収集しようとしたのだが。




『銃術スキルについて』


 001:銃好き

 だーれーかーこーなーいーかーなー。


 002:名無しさん

 なに、このスレ。過疎過ぎでしょwww


 003:剣一択

 そりゃ、銃術スキルは本当に使えないからだろ。ハンドガンは威力低いし後衛職(笑)だから打たれ弱いし、DEF上げて近距離挑もうにも種族的にDEFが高い奴はDEX低いからな。もうだいたいの奴が違うスキルに変えてんだろう。


 004:名無しさん

 <<003説明ご苦労。だが俺は1人、銃と身体を使ってリザードマンを倒す美人を知っている。


 005:変態紳士

 詳しく。


 006:剣一択

 反応速すぎwww




 …………よし、もう絶対このスレは見ない、と心に決めてウィンドウを閉じる。もちろん、これが俺だという保証はどこにもない。どこにもないが、きっと俺だ。


 ハンドガンの次はなんだろう。アサルトライフルとかかな? あんまり銃器に詳しい訳じゃないが、ある程度以上の射程がないとこのまま体術使いになってしまいそうだ。思考の海に潜っている間に、指定された座標に到達する。するとそこには、露天スペースと言われる場所で店を広げて座り込む銀髪幼女の姿があった。


「……………」


 微動だにしない。NPCなのだろうか……でも指定された座標はここだし……でもこんな小さい子がそもそもゲームなんてやるだろうか……うーん?

 視線を向けると緑色のカーソルの上に、『リサ』という名前が表記された。ああ、よかった、この人だ。


「すいません、アイチャさんの紹介なんですけど」


「……武器なら並べてあるのから選んで。防具は作ってないから」


 と、言われてもな。確かにシートの上にはあらゆる武器が並んでいる。とてつもなく重そうな両手剣や、突く事を目的にしたレイピアに、魔術師用の杖も置いてある。が。


「その、銃が欲しいんですよ」


 銃がない。泣きそうだ。


「…………正気?」


 そこでようやく幼女は顔を上げた。瞳も髪と同じ銀色にカスタマイズされている……本物の外国人ではないだろうが、ハーフとかかもしれない。銀髪が似合う日本人なんてそうそういないだろうしな。

 本気? とかじゃなくって正気? ときたか。ふむ。正気か、と問われれば……


「たぶん」


 としか答えられない。だって客観的に俺を俺が見ることなんてできないし。あいも変わらず無表情で諦めたように小さく首を振って、彼女は答える。


「……わかった。えっと、【蜥蜴人の鱗】と【小鬼の骨】でなにか作れるけど、材料ある?」


「一応、あるけど……銃って骨と鱗で作れるの?」


「……武具図鑑に載ってる。何ができるのかは作ってないからわからないけど、たぶんハンドガンが出来ると思う」


 武器のことになると少しだけ饒舌になったな。まあそれはともかく作ってもらおう。俺はトレード画面をひらくと【蜥蜴人の鱗】を七個と【小鬼の骨】を七個リサさんに渡す。


「七個も作るの?」


「うん。確か、ヘテロジェネオスとかいうのがあるんだろ?」


 というのは、武器や防具を作るときにまれに起こる現象だ。確率は低いが、たまに既製品を上回る性能の装備品ができるらしい。そして銃器に関して言えば、銃の種類すら変わるらしい。

 つまり普通に作製するとハンドガンができる材料でも、アサルトライフルが出来ることがあるというわけだ。どうせどうやって使うのかわかんないアイテムだし、渡してしまっても問題はない。


「それは、そうだけど……すごい確率低いから、期待しないほうがいいと、思う」


「それは、具体的には?」


「確か、剣を三十本作って、一本出るか出ないか……」


 3%ちょいぐらいってことか。まあ、まさかってこともあるし、やってもらおう。


「まあ出なくても文句なんて言わないからさ。あ、お金ってどのくらい払えばいい?」


「……材料持ち込みだから、七つで1000でいい」


 現在の俺の所持金は5200だ。なぜこんな綺麗な数字かというと、423という端数の金をアイチャにくれてやったからだ。初期にもってる金の1000を引いて4000だからそれなりに稼いでいるだろう、うち2000がゴブリンのあのエリート狩りで手に入れたものだが。

 軽戦士を狙ってるのに銃戦士やら魔導士やら出てきて苦戦したのだ。大体はアイチャの金槌の一撃で終わっていたのだが、目的のモンスターが出てこないとイライラするものなんだな、とわかった。


「了解」


 トレード画面に追加で1000をいれると、リサさんがOKして取引終了。


「アビリティ『銃器作成』」


 どうやら作成はわざわざ材料を実体化させる必要はないらしく、メニュー画面をしばらく操作すると、リサさんの手元が白く光り、小さな黒光りするハンドガンが出来た。


「武器名、【コルトG】……某国で1985年まで正式採用されていたハンドガン……残りも作っちゃうから性能見てて」


 アイテム欄に存在する【コルトG】の文字をクリックして説明を呼び出す。


 武器名:コルトG

 武器種類:ハンドガン

 攻撃力:16

 攻撃回数:12回

 耐久値:100/100

 要求STR:12以上

 要求レベル:5以上

 基本射程距離:3メートル

 魔弾使用不可


「? ちょっとリサさん。魔弾って何?」


「……魔石を加工してできる魔法を込めた銃用の弾。NPCは売ってないから知り合いに頼むしかない」


 ふうん、便利なものがあるんだな。まあ魔石に込める魔法は結衣にでも頼めばいいだろう。着弾と同時に地面が凍りつくとかやってみたいな。

 などと考えていると、ついに七個目の制作に入ったようだ。今までは普通に【コルトG】が量産されていただけだったが、今度は違った。


「嘘っ!?」


「おお……!」


 リサさんの手元に生まれた白い光がその形を変えていく。そして現れたのは、ハンドガンに比べてもかなり大きい銃だった。


「武器名【SLB】……」


 現れたのは、長大な銃身とスコープを持つ狙撃銃。


 武器名:(シューティング)(ライト)(バスター)

 武器種類:スナイパーライフル

 攻撃力:41

 攻撃回数:1回

 耐久値100/100

 要求STR:40以上

 要求レベル:12以上

 移動制限:ランク3 解除:STR70以上

 基本射程距離:40メートル

 魔弾使用可


 【コルトG】を大きく超える攻撃力に、長大な射程距離。さらに装備するのに高いSTRが必要。これが狙撃銃……!

 とりあえずステータス画面を開いて確認すると、辛うじてSTRは40を超えていた。思わずガッツポーズしてしまった俺をいったい誰が責められようか。現在の俺のレベルは13のため、要求レベルは超えている。


「狙撃銃ができるなんて……」


 だが浮かれモードの俺とは違い、リサさんのテンションは低い。どういうことだ?


「なんで落ち込んでるんだ?」


「……なんでそんなに嬉しそうなの? ホビットじゃこの銃装備するのにSTR足りないでしょ? せっかくのヘテロジェネオスが……」


「足りるが」


「……DEXの値も高くないと、って足りるの?」


 驚いたように顔を上げたリサさんに、ステータス画面を可視表示にして示してやる。それを見てリサさんは納得したような呆れたような表情をして笑った。そんなに面白いステータスだろうか?


「ホビットで、最初のボーナス値をSTRに極振りする人なんて聞いたことないわ…………」


 ううむ。そんなに常識外のことをしただろうか? それに最初のボーナス値を引いても俺のSTRは32。成長値を全部STRに振れば、装備できないことはないと思うのだが。

 まあでもそんなことするやついないのかもな。だったらホビット選ぶなよって話だし。


「ありがとう、リサさん! まさか狙撃銃ができるとは思ってなかったです!」


「……相談があるんだけど」


 少し考えて、リサさんが口を開いた。相談? なんだろう。


「なんですか? 今なら俺大抵のことは聞いちゃいますよ!」


「落ち着いて。……その、これから銃作るときは私のところに来てくれないかな?」


 え? これってまさか、一目惚れとかそういう系ですか?


「熟練度あげたいから」


 世の中そんなに甘くないよね。


「というかリサさん、最初のあのポツポツとした喋り方はどうしたんですか?」


「……あっちが素なんだけど、客商売だから。ある程度は、喋らないと」


 なるほど、確かに俺もアイチャに名前を聞いていなければNPCだと思ったかもしれない。というか思った。すいません、NPCなんじゃないかと疑ってました。


「素で大丈夫ですよ」


「……わかった。それと、リサでいい。私もカグヤって呼ぶから」


「あ、そうですか。じゃあリサって呼ばせてもらいますね」


「……つきひめって呼んで欲しいならそうするけど?」


「いやいや、カグヤでいいです」


 案外、リサさん……リサは気さくな人だった。今も目を細めて笑っている。


「あ、そうそう俺一応男だから」


「え?」


 驚愕に見開いた目がまだ可視状態にしてあったステータス画面を凝視する。そこに記されている性別は、間違いなくMale。


「嘘……!? あ、ごめんなさい!」


「まあ、よく言われるし気にしないでいいよ。自覚してるし、これでからかうのもなかなか楽しいしね」


 俺が笑うと、安心したように息を吐いたリサ。うん、いい人のようだ。


「銃作る時はここに来るよ。熟練度が上がった方が成功率上がるんだっけ?」


「…………そう。だから、ギブアンドテイク」


 お互いに喋りながらトレード画面を操作して、ついに【SLB】は俺のものになった。それはいいんだが、この狙撃銃の略語はどうも……


「……某魔法少女の必殺技っぽいよね?」


「…………それは、私も思った」


 俺たち二人は顔を見合わせて苦笑したのだった。


「フレンド登録はしとくか」


 俺の提案に小さく頷くと、俺はリサとフレンドになった。


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