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Act.4

レベルが11になったので、始まりの町に戻りながらメールを確認すると、トシからのメールには良い狩り場を知っているから町の塔で待ち合わせしようということが書かれていた。その時間は午後一時からなので、とりあえず情報収集のためにも戻るか……と小鬼平原を歩いていると、誰かの悲鳴が聞こえてきた。


「うわっ、強っ! なんなんだよ、もう!」

「こういう時って普通、女性じゃないのか……」


大柄なゴブリンに襲われていたのは腰に金槌を装備した茶髪の小柄な男性だった。視線を向けるとアイチャという名前が表示される。初心者や低レベル者を狙ったPKプレイヤーキル抑制のため、レベルや装備などの情報は隠され、基本的にわかるのは名前だけだ。この世界では町などの安全圏以外は普通にプレイヤーにもダメージが与えられるが、プレイヤーにダメージを与えるとカーソルが緑から紫に変化するため、一目でわかる。


「助太刀は必要か?」

「え!? すまん、頼む!」

「了解した」


素早く駆け込むと視界の端に『Intrude!!』の文字が閃いた。戦闘に乱入したことを示すものだろう、ゴブリンがこちらを向き威嚇する。その顔面に拳を叩き込み、ものはためしと今まで使ってこなかったアビリティを使用してみることにした。


「『殴打』!」


 俺の両拳が赤いエフェクトに包まれ、視界の端に00:20という数字が表記された。

 これが『殴打』の残り効果時間だろう。右手に殴られたゴブリンはよたよたとふらつき、こちらに剣を向けて切りかかってきた。


「っ!?」


速い。最初のほうに戦っていたゴブリンとは比べものにならない速さだ。俺は奴に視線を向けて驚いた。表示された名前が【軽戦士のゴブリン】だったのだ。


「こいつ、エリートモンスターか……!」


頬をかすめる剣閃。奴の動きを見極めようと目を凝らすが、その動きはかなり速く、とてもではないが追いきれない。○○の××といったモンスターは、かなり強い上位互換のモンスターが現れることがある。この場合は【見習い戦士のゴブリン】の上位種、【軽戦士のゴブリン】が現れたわけだ。よく見るときちんと皮の鎧を着ている。


「……ちょっとハードだな」


掠めただけで体力の一割ほどを持って行かれた。もとよりこの身は紙装甲、DEFなんて全くあげてないので当然ではあるが。


「ここだっ!」


剣を振り下ろそうとしたゴブリンの右腕を左手で握って止める。こういった行動はSTRが参照されるが、上げていたのが良かったのか無事止めることに成功。そのまま右足で蹴りを放つと、その勢いをもろにくらってゴブリンが吹っ飛んだ。さらに右手のハンドガンを向けて三発発砲する。


「まだだめか……」


先ほどと同じように剣を振り下ろしてくるゴブリンを受け止める。


「『チャージショット』!」


銃を持った右手に赤い光が集まり、渦を作り出す。チャージショットは銃術の最初のアビリティで、4秒のチャージ時間が必要な代わりに、かなり強力な銃弾を放つことができるというものだ。

さらにもう一度蹴ってゴブリンを吹き飛ばす。まだ空中にいるゴブリンに向けて照準を合わせて引き金を引きっぱなしにすると、自動的に四秒が経過したと判断したシステムが『チャージショット』をぶっぱなした。

赤いエフェクト光を纏いながら直進した弾丸が、【軽戦士のゴブリン】の残り体力を削りきった。ポリゴン体となって爆散するゴブリン。

ファンファーレが鳴り響き、俺はレベルがあがったことを知った。


「ステータスオープン」


とりあえず全ての成長値をSTRに割り振る。体術系の攻撃はSTRで決まるので、銃の攻撃よりもとりあえず今は体術の攻撃力をあげておく作戦だ。

ウィンドウを操作していると、金槌を下げた男が明るく笑いながら話しかけてきた。愛嬌のある顔だな。


「助けてくれてありがとう! 俺、アイチャっていうんだ。鍛冶屋で生産やってるからよろしく!」

「はぁ。じゃあまた何でフィールドに?」


生産職のスキル、産術は物を作ることでその熟練度を上昇させていく。フィール

ドに出てくる理由はほとんどないはずだ。


「いやぁ、理由的にはその、【軽戦士のゴブリン】が落とすアイテムが、装備作るのに必要でさ。これでもSTRは高いから一撃入れれば落ちるはずだったんだけど、速くて速くて。あとフィールドに出るのは初めてだったからモンスターとの戦闘怖かったんだよ」

「初めて?」

「ああ。俺らはリアルの知り合いで《ガルーダファントム》っていうギルドを作るつもりなんだ。その仲間内で生産職役が俺ってわけ。だからまあ、素材アイテム貰ってレベル上げてたんだよ」


だがアイチャは決して単にアイテムをもらってレベル上げしているだけではないだろう。仲間内の装備を優先して作っているからか、いまだに初期装備なのだ。まあ、初期装備なのは俺も同じだが。


「そのぉ、ドロップしてない? 【小鬼軽鎧の残骸】ってやつなんだけど」


言われて、アイテム欄を見てみる。そのアイテムは確かに俺のアイテム欄に存在した。


「あるけど……」

「ほんと!? その、悪いんだけど売ってくれないかな……仲間のシーフの装備に必

要で……」


俺は少し考える。まだ初級装備で戦えているが、これから先も大丈夫という保証はない。軽鎧というからには重量が軽く、動きやすい鎧ができるのだろう……俺も欲しいな。


「悪いけど、これは俺のスタイルにも合いそうだし……売れない」

「そうか……いや、図々しい事言ってすまないな。助けてもらったのに。なにか作って欲しい物があったらメッセを飛ばしてくれ」

「まあ待て。売ることはできないが、手伝うことはできる」

「え?」


立ち去ろうとしたアイチャを呼び止める。そのまま右手を振ってメニューからパーティー申請画面を呼び出すと、アイチャに申請する。


《プレイヤー:アイチャをパーティーに誘っています……》


「一緒に狩ればいいだろ?」

「……ああ、助かる! 速くて俺の攻撃全然当たんないからな……俺はアイチャ。レベル17の鍛冶屋だ」

「カグヤ。レベルはまだ12だけど、銃使いになる予定だ」


 俺たちはお互いに右手を差し出すと、グッと握りあった。


一度十一時にログアウトして昼食を食べると、再びレジリアオンラインにログインする。【簡易ログアウトテント】というアイテムがあり、フィールドでもログアウトできるという便利なものだ。もちろんデメリットもあり、再使用には二時間という時間が必要な上、そもそも十分以内に戦闘していると使うことができない。


「お帰りカグヤ。さて、行こうか」


俺はアイチャに向き直るとゆっくりと頷いた。その後すぐに【軽戦士のゴブリン】とエンカウントし、俺が引きつけてアイチャが金槌を叩きつけて倒す。それでアイチャは【小鬼軽鎧の残骸】を手に入れることができた。


「ありがとう、カグヤ。おかげでレベルも一つ上がったし、お礼に何か防具を作ろうか?」

「ああ、ありがとう。じゃあ材料持ち込みで【小鬼軽鎧の残骸】を使って作ってくれ」

「了解! ……と言いたいところだけど、生産スキルは安全圏の中じゃないと使えないんだよね」


ということなので、俺たちは二人で始まりの街に戻った。門を潜ったところでアイチャが素早くウィンドウを操作して壊れた鎧のようなものを実体化させた。


「アビリティ『軽鎧作成』発動!」


産術の熟練度を上げてレベル15になると、様々な生産職になることができる。

一次職には鍛冶師、調剤師、調理師、結晶師、細工師の五種類があり、それぞれが武器防具、ポーション類、料理、魔石を作れる。細工師は武器や防具にデザインを刻むことができる職業だ。

魔石というのは魔力を込めることで様々な効果を発揮する石のことだ。回復魔法を溜めておけば、効果は落ちるがMP消費なしで回復魔法と同じ効果を得られる。

 これはポーションでも代用できるが攻撃魔法を溜める事もできるため意外と需要は高い。さらに魔石にもランクがあり、上位の魔法は同じく上位の魔石にしか溜める事ができない。しかも魔石自体が使い捨てのため、βテストの時も後半の方しか出番はなかったらしい。


それはともかく。

アビリティ『軽鎧作成』で、実体化した【小鬼軽鎧の残骸】が白い光に包まれて変化していく。


「できたよ。えっとアイテム名は【鬼族のライトアーマー】……うわ、これDEX補正ついてる。なんでだろ。胴装備で防御力は18、鬼族系のモンスターへの射撃・刺突ダメージ+……うん、使いやすいね。はい」


トレード画面に【小鬼軽鎧の残骸】と幾ばくかのお金を入れてOKボタンにタッチする。すると難しい顔をしながらアイチャが俺を見つめてきたので小首を傾げた。なぜか顔が赤くなったアイチャは思い出したように言ってくる。


「って、お礼だって言ったじゃん! お金いらないって!」

「そういうわけにもいかないだろう。じゃあ、まああれだ、手間賃ってことで」

「だからそれがいらないって言ってるのに……まあいいや。なんか言っても無駄な気がしてきた。フレンド登録しとこうか……なんか頼まれたら優先的に作るよ」

「……そういえば気になってたんだが、フレンド登録ってなにかあるのか? 相手の名前がわかってればメッセ送れるだろ?」

「ああ、それ。フレンド登録してるとコール○○って言うと電話が繋がるんだよ。メールと電話、電話の方が便利でしょ?」

「戦闘中だったら出れないよな?」

「だから基本的にワン切りだよ。そしたら時間がa

いたときに返ってくるでしょ?」

「なるほど」


確かにそれは便利だ。急ぎじゃないときはメッセで良いし、相談したいことがあれば直接会うか(厳密に言うとゲーム内なので『直接』は会えない)コールすればいいわけだ。


「あ、それと知り合いの生産職に武器のほうから熟練度を上げてるリサって人がいるから、会いに行ってみると良いかも。リサさんには俺から言っとくから」


おお、なんていい奴なんだアイチャ。確かにいつまでもハンドガン∞では心もとない。ちなみにこの∞というマークは弾数と耐久力がいくら使っても減らないことを示していて、ほかの初期武器もこのマークがついていたりする。


「うん、じゃあどこかでまた会おう。《ガルーダファントム》の人にもよろしくな」

「ああ。機会があったら紹介するよ」


PTを解散しますか? というウィンドウのYesボタンにタッチして、俺はアイチャとフレンド登録して別れたのだった。

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