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Act.29

ギルドホームの購入も無事に終了し、俺たちは今度こそ龍山への道程に向かうことになった。少なくとも軽く道程は突破しないと、【紫死龍】を倒すことは難しい。それでも難易度は今までのボスに比べて低いらしい。


「えっと、毒状態にする範囲ブレスと、ジャンプからの滑空攻撃……ただし途中で攻撃を当てると落ちる。これは銃使いには嬉しい情報だね」

「飛び上がった瞬間に当てればいいしな。魔法職だと詠唱が必要だけど」


 実際に見てみないことにはわからないが、銃は速射性という点ではあらゆる武器に勝る。攻撃を当てただけで落ちるというのなら、攻撃力の低さも気にすることはないだろう。

 ダメージを与える範囲ブレスならば苦しい戦いを強いられるだろうが、状態異常ブレスならばポーションでなんとかなる。麻痺ならばやばかったが、毒ならば直接攻撃されるほうがまずい。


「まあ、とりあえずはみんなを二次職にするのが最優先だけどな」

「今のところカグヤさんだけだもんねー。どんな二次職が出るのか、楽しみ楽しみ」

「変態の双銃士とか出たらどうする?」

「それにする!」

「その返事は予想外だった」


 シュベルクがまとわりついてくるのを適当にあしらいながら、俺たちは龍山への道程に足を踏み入れた。


====================


 最初に出迎えてくれたのは、俺たちが少し前に苦渋を舐めさせられた【爆熱熊(ブラストベアー)】だ。俺たちは古参組と新人組に再び分かれてパーティを組んでいたが、ここは新人たちに俺たちのパーティの戦い方を見せておくことにした。最近はジープも交えた戦い方を検証中だが、今は普通に五人でやることにする。


「『ダブルコマンド』! グリネスとリリアが迎撃!」

「「了解!」」


 素早く前に出たグリネスがショットガンを発砲する。その衝撃で足を止めた【爆熱熊】にリリアの重機関銃の銃弾が着弾した。前ここに来た時よりはレベルが上がっているため、これで一割弱のHPを削り取ることができた……その結果に確かな成長を感じて思わず感傷的になってしまう。


「『銃弾透過』っ!」

「『ピンポイントショット』」


 リリアの声に反応して、隠密状態の俺はもうなんども繰り返した操作……狙撃銃の引き金を引く、という行動をとった。狙いはリリアの向こう側にいる【爆熱熊】だ。轟音とともに【SLB・V】から吐き出された銃弾は水色の光をまき散らしながらリリアの体をすり抜けて【爆熱熊】に着弾。さすがに弱点に直撃させることはできなかったが、それでもクリティカルヒットには違いがない、一気に四割近いHPを削り取る。これで【爆熱熊】のHPはイエローゾーンまで落ち込んだ。


「『コマンド』、シュベルクが攻撃」


 シュベルクにも指示を出しながら、軍曹自身も前に出る。振り下ろされる右腕をシュベルクが体を反らしながら回避、攻撃後の状態の【爆熱熊】に軍曹の【ブライド・テリアスⅡ】の銃弾が次々と着弾する。パパパッ、と軽快な発射音に続いて真っ赤なダメージエフェクトが【爆熱熊】の体に閃く。


「『ポイズンキック』『スタンナックル』!」

「『震脚』」


 俺の呟きと同時、俺の右足が真っ青なエフェクトを纏って地面に叩きつけられる。【爆熱熊】は普段こそ四足歩行だが、今は前足で攻撃するべく立ち上がっている。二足歩行の敵に隙を作る震脚が炸裂し、その場でよろける【爆熱熊】。そこにシュベルクの拳と蹴りが直撃。

 麻痺させることは出来なかったが、毒を与えることには成功したようだ。シュベルクの足が纏っていた紫色の禍々しい光が消えていく。


「っ、『クロスガード』!」


 体勢を立て直した【爆熱熊】が再び右腕を振り上げたのを見たシュベルクが『クロスガード』を発動させて、交差したハンドガンでその腕を受け止める。だが、圧倒的なまでの膂力の差に押され、後ろに弾き飛ばされる。HPバーはかなり減少し、三割ほどは削られたか。さらにそこで、【爆熱熊】の口が大きく開く。


「まずっ、軍曹シュベルク避けろ!」

「カグヤ、狙撃ッ!!」


 グリネスの声に動じることなく、軍曹が叫ぶ。その言葉に導かれるように俺は【SLB・V】の引き金を引いた。アビリティを発動させる余裕もなかったため、狙いすらあやふやだったがそれでも【爆熱熊】の右足に着弾。これは全くの偶然だが、その衝撃によって【爆熱熊】の体が半回転。口から吐き出された炎のブレスは、あさっての方向に伸びていった。……ラッキー、助かった。


「タイミング厳しすぎるって軍曹」

「カグヤ? そろそろ合流してくれ」


 思わずぼやく。今戦っている皆とは圧倒的に離れた位置にいるので、俺の方にモンスター……戦っている【爆熱熊】が来ることはない。だが急いでここを離れなければ、ほかのモンスターのタゲをとってしまう可能性があるため、忍び足で枯れ木の陰からでて軍曹たちの下に向かう。

 ここ龍山への道程は見通しのいい焼け野原のフィールドだ。あちこちに枯れ木が乱立してはいるが、基本的にはそれ以外は何もない。だからこのフィールドは気をつけていれば一切モンスターとの戦闘なしですり抜けることができる……という噂が流れたことがあった。


 実際は無理だ。ここの代表的なモンスターは高いHPとSTRと炎のブレスを吐いてくることで有名な【爆熱熊】、やたら耐久力のある【赤熱の鎧鼠】、炎系の攻撃を当てるとなぜか爆発する【爆散岩(ブラストロック)】などがいるが、その中でも最も嫌われているのが【血涙蜥蜴】である。

 こいつ自体に戦闘力はない。ただ目から血を噴射してくる、現実世界でも似たような生き物がいるモンスターなのだが、この血を食らうと三分の間周囲のモンスターを引き寄せる。避ければいいのだが、こいつは肌の色が黒く、接近に気づいた時は手遅れになっていることが多い。

 頻繁に『周辺索敵』を行っていれば回避は可能だし、そもそも運がよければこいつのターゲットにも引っかからずに進むことはできる。だが、このフィールドでは【血涙蜥蜴】の数が最も多く、運良く遭わないというのは不可能に近い。


 聞いた噂だと、わざと【血涙蜥蜴】の血をくらって、近寄ってくるモンスターを切り刻むという鬼のようなカルマさんがいるらしいが。彼女の軽業スキルはこういった枯れ木などが乱立するフィールドでは非常に使い勝手がいいらしい。


「というかフィーリアにとってもこのフィールドは楽しいだろうな……」


 ここにいるモンスターはたいてい氷属性が弱点なので、フィーリアが嬉々として範囲魔法を撃ちまくってる姿が容易に想像できる。

 そんなことを考えながら疾走していると、すぐ近くに軍曹たちの姿が目に入った。


「助かったぞ、カグヤ。的確な狙撃だった」

「あ、うん」


 偶然だったとは言えず、曖昧に頷いておく。ここにくる途中でファンファーレが聞こえたので、誰かがレベルアップしたのだろう。皆とはパーティ通信機能を開きっぱなしにしているので、声も聞こえてくるのだが。


「誰がレベルアップしたの?」

「私だ。で、二次職について相談したい」

「お、軍曹ついにレベル五十か。じゃあさっきの安全エリアまで戻るか?」


 こういった道系のフィールドは入口に安全エリアが設定されている。俺はジープを呼び出すと、その背にいそいそとリリアが跨る。最近のジープは基本的にリリアの移動手段となっていた。予想以上に速いんだが、ものすごく揺れるため、リリアも腰が痛くなるような気がするとぼやいていた。


「そうだな。悪いが、一旦戻るとしよう。……リュウヤ、私たちの戦い方は参考になったかな?」

「了解です……ええと、ちょっとまだわからないです。僕たちのパーティにはカグヤさんみたいなダメージディーラーはいないし、軍曹さんみたいに戦闘そのものをサポートする人もいないので」

「そうか。まあ、おいおい考えていくとしよう」


 軍曹が鷹揚に頷き、全員が移動を開始する。俺たちは偵察兵であるニニトが素早く【血涙蜥蜴】を発見して処理するおかげで無駄な戦闘を行うことなく安全エリアまで戻ってくることに成功した。


「軍曹軍曹、早く早く」

「落ち着けシュベルク、全くこれだから子供は……」

「あんたもそわそわしてるじゃない。全く……」


 シュベルクが急かし、グリネスが突っ込み、リリアが呆れる。呆れたリリアの膝もガクガクしていたので突っ込もうとしたが、あれはそうか、ジープのせいか。

 そっとしておこう。


「うむ……四つ出ているな。前衛の司令官、後衛の司令官、軍隊の司令官、狩猟の司令官……? 順番に戦闘中に限りパーティメンバーへの補正効果上昇、非戦闘時にパーティメンバーへの補正効果上昇、パーティメンバーの人数限界上昇……ギルドメンバーに限り限界人数三十人、獣系モンスターに与えるダメージプラス補正……」

「三番目ってどういうこと?」

「おそらく、ギルドメンバーだけでパーティを構成する場合、限界人数を三十人まで増やせるんだろう。確かボスとかに挑むときに組むレイドパーティの限界人数が六×五で三十人だったはずだから」


 ナーリャの疑問にカドラが答える。さて、相談タイムだ。


「とりあえずだ、四番目は省いてもいいと思うんだ」

「賛成。使いづらそうだよな」

「前衛と後衛は……軍曹は戦闘もするし、後ろで指示に徹することもあるからなぁ……」

「補正効果が上昇するのは嬉しいけどね……ここは軍隊なんじゃない?」


 皆でワイワイと相談する。その中で俺は口を閉ざす。俺的にも軍隊がいいと思うが……最終的には軍曹が決めることだからな。


「カグヤ、何か意見はないか?」

「うん? 俺は軍隊をお勧めするが……軍曹が決めればいいと思うぞ」

「ほう? なぜだ?」

「どっち? 軍曹が決めればいいって方? 軍隊を勧める理由?」

「両方だ」


 ええー。考える必要もないことだとおもうんだけどな。


「まず、軍曹は銃使いがきちんとゲームを楽しみ、攻略組に参加するのを目的に《軍団》を作った。だから、軍曹が楽しそうだと思う職業を選べばいい。楽しむことが第一だ。軍隊を勧める理由は単純だ、ギルドメンバーが増えたからな……まあ、唯一懸念があるとすればそこまでの大人数の行動を把握しきって的確な指示を出せるかどうかってことかな」


 俺だったら絶対無理だけどな。三十人……自分を除けば二十九人。まあ今はまだそんなにいないが、それでも八人。一気に指示するのは難しくなるだろう。いっそのこと指示スキルを捨て、ステータス補正にのみ頼るという方法もあるが。


「そうか、確かにそうだな。うむ……」


 軍曹が腕を組んで思考タイムに入ったので、休憩時間にすることにした。リサから預かった弁当箱をマテリアライズして蓋を開ける。今日のメニューは……


「……赤い」


 蓋を開け、真っ先に目に入ったのは鮮やかな赤色だった。あまりの赤さに目が痛くなってくる。


「どうしたの、カグヤ? ……うわぁ」


 リリアがドン引きしている。なんていうか、とても反応に困る弁当だ。左端に詰めてあるご飯粒もまさかの赤飯、上に乗っているのは真っ赤な梅干し。右の方に寄せてあるおかずはキムチにミニトマト、あとこれは……コチジャンか? なんでこんなことに……?


「縛りプレイでもしてるのかしら?」

「どんな? 一色でしか弁当を作っちゃいけない、みたいな?」

「うん、ごめん、わかんない」


 なんというか、このゲームは嗅覚は搭載されていないのでどう考えてもヤバイ匂いになりそうなこの弁当も別に今は大丈夫だが。

 その、ここまでされると逆に食欲が失せるような。あまりにも弁当全体が赤い。


「一体全体リサに何があったんだ……」

「……あー。予想だけど、なんとなーくわかったかも……」

「本当かシュベルク!? 教えてくれ!」

「絶対嫌だ」

「なぜ!?」


 シュベルクが何かに気づいたように呟くが、なぜか理由は教えてくれないらしい。なんとか聞き出そうとしてみるが、聞けば聞くほど機嫌が悪くなっていく。


「くそ……時間的にはこっちが有利なのに……妹もリサも同じパーティにいるボクにはかなわないはずなのに……」


 挙げ句の果てにブツブツ呟き始めたので、少し薄気味悪くなってシュベルクと距離をとる。こいつもたまに何考えてるのかわかんなくなることがあるからな。


「うわぁ……ドロッドロだね……」


 リリアが言ったセリフは、全く意味がわからなかったが……なぜかその言葉は頭の中にこびりついて離れないのだった。





 とある日のリサ


 私は考える。今私の前にはごく普通のお弁当と、真っ赤に染まったお弁当がある。普通に考えればごく普通の弁当を渡すべきなのだろうが、それではなんというか……インパクトに欠ける気がした。あの女顔朴念仁はお弁当を用意してもこちらの好意に気づいていないようだ。

 まあ、熟練度を上げるためという言い訳をしたのと、微動だにしないこの無表情顔のせいだろうと予測はしているが。


「……」


 冷たい瞳で二つのお弁当を見下ろし、ごく普通のお弁当を渡した場合を脳内でシュミレーションしてみる。


『ありがとう、美味しかったよリサ。熟練度が上がってきて味も上がってきたな』

『……そう』

『ああ、美味かった。また頼むよ』

『……わかった』


 相当に脳内補正がかかっていたが、あえてそれをスルーする。絶対にあの男はまた頼むよなぞ言わないだろうが、それは別にいい。

 気にする必要はない。少し補正が入ったことに恥ずかしくなったがその程度で私の無表情は崩れない。


「……」


 次は真っ赤なお弁当を渡した場合のシュミレーションである。


『おい、リサ……美味かった。美味かったが、なんであんな赤かったんだ?』

『……面白そうだったから』

『ええ!? そんな理由!? いろいろ想像した俺の努力を返してくれ!』

『……赤飯?』

『うぇ!? いや違うよ!? なんか深い意味があるのかとか考えてないよ!?』

『……怪しい』


 わーわー。

 ……楽しそうだ。

 必ずもこういった会話になるとは思わないが、何らかの話題にはなるだろう。いざとなったら龍山への道程という場所に合わせたとでも言っておけばいい。話が弾めば少しでもカグヤと一緒にいられる。今度はカグヤの愉快な仲間たち(余計なもの)なしで来て欲しいものだ。ここは真っ赤なお弁当を渡すとしよう。

 結論が出た私は満足げに頷く。そうと決まれば話は早い。私はテーブルに置いてある真っ赤なお弁当をアイテム欄に格納すると、普通のお弁当に箸をつけた。


 今度会って、お弁当を渡し……次会う日が楽しみだ。



 その日のことを想像すると、自然と私の頬が緩んだ


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