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Act.2

ログインして、俺はすぐに喧噪に包まれた。


「PT組む人いませんかー! 前衛募集中でーす!」


「だれか、『銃術』と『槍術』交換してくれないか!」


「そこのホビットさん、どう? 俺らとパーティ組まない?」


最後の声はやたら近くで聞こえたので、辺りを見回してみる。すると若干固そうな鎧を着た二人組がこちらを見ていた。お互いに前衛なので、後衛を探しているのだろう。その点、こちらの武器は銃なので一応後衛のまねごとはできるが……待ち合わせもあるし、断らせて貰おう。


「悪いな、待ち合わせなんだ。他を当たってくれ……うん?」


俺は自分の声に違和感を覚える。高くないか? 気になった俺は立ち去ろうとしている二人組に声をかける。


「あ、ちょっと。リアルより声が高いんだけど、どういうことかわかる?」


「なんだ、お姉さんファンタジー系のVRは初めてかい? 登録した名前で声は変わるんだ、たぶん名前に姫が入ってるから高いんだろ」


「俺……男……」


「うっそ!?」


驚愕する二人組。慌てて俺は胸をまさぐったが、そこには平坦な更地があるだけだった。ちょっと安心。そっか……声が変わるのか……まあ常に裏声を出していると思えばいいか。どっちみち現実じゃあよくやってたことだし。


「え、マジで? リアル男の娘? すげー、本物初めて見た……あ、俺カイガーっていうんだ、よろしくな!」


「おい、初対面だぞ。俺はシュリガ、縁があったらまた会おう」


「あ、ちょっと待てって!」


軽い調子でノリのいい青年と、眼鏡をかけた知的な騎士といった感じだろうか。でも絶対魔法職の方が似合うと思うんだけどなぁ、シュリガさん。なんで前衛職にしたんだろう。


「でもすごいな……すばらしいクオリティだ。こりゃみんな夢中になるのもうなずける」


細部までこだわってあるようにしか見えない。実際はそういう風に見えているだけなんだろうが。

そのまま待つこと一分。正面から水色の風が俺に向かって走ってきた。


「お、結……フィーリアか」


「ギリセーフだね。で、これなんて読むの? つきひめ?」


「カグヤ。小学校の頃のあだ名」


「ふーん。雅なあだ名だねぇ。あ、二人ともこっちこっちー!」


「二人?」


見れば結衣の後ろから二人ほどこちらに向かって歩いてくるのが見えた。ひとりは茶色の髪を肩まで伸ばし、その腰には短剣がぶら下がっているホビットの少女。ということは彼女は《剣術》スキルを取ったのだろう。もう1人の女性は右手の杖を突きながら歩いてくる。結衣も杖を持ってるのでおそらく魔法職。で、耳が尖ってるから二人ともきっとエルフだろう。

杖を持っている女性がやや小柄なのに比べて、短剣の少女はそれよりさらに背が低い。驚愕の低身長を誇る(自分で誇ったことは一度もないが)結衣に迫る低さだ。


「紹介するね。こちらギルド『戦乙女』のヒーラー、カンナギちゃん!」


「よ、よろしくお願いします」


「で、こっちが『戦乙女』のスカウト、ヒュミちゃん!」


「……で、この人誰なのよフィーリア」


短剣少女、もといヒュミさんは不機嫌そうな視線を結衣に向ける。おそらく何を聞いても秘密、の声とともにはぐらかされ、なし崩し的にここまで来たのだろう。俺もよくやられたから気持ちは分かる。


「えーと、その……信じられないかもしれないけど……これ、私の兄なの」


「「兄ぃ!?」」


二人の眼が驚愕に見開かれる。VR世界ではネカマプレイができないので、俺のこの容姿はほぼ現実世界そのままだ。

大学生になってから、つまり制服がなくなってから格段に女と間違われることが増えた俺だったが、別段気にしてはいない。だって女っぽいもん、俺の立ち姿。この容姿も両親から貰ったものである以上、嫌な感情など持っていない。面白いので利用はするが。


「私、フィーリアの兄でカグヤと言います。以後よろしくお願いします」


いやぁ、現実と違って裏声出さなくて良いから楽だわぁ。ま、地声もそんなに低いわけじゃないんだけど。

ぽかーんと口を開ける二人をしばらく観察していると、やがて我に返った二人は口早にまくし立てた。


「結……フィーリア! あんた本当にこれ兄!? 確かに兄がいるって言うのは聞いてたけど! どっからどう見ても女よこの人!」


「結、フィーリアさん! 説明してください! どうしてあなたのお兄さんは性転換してしまったのですか!?」


「失敬な。俺は生物学上は男に入る。というか二人ともリアルで知り合いなのか、結衣?」


「まぁね、クラスメイトよ。ていうか兄さん、女声率上がってない? どうしたの?」


「ああ、姫っていう漢字を入れたせいで女に近い声になったみたいだ」


冷静に会話を続ける兄妹の向こうで説明を待っている二人の少女。えらいシュールな光景だろうな。


「じゃあ、今度暇なときにでも家に来てみれば? それなら納得するでしょ」


「たしかに。それで行こう、明後日あたりは空いてる?」


「え、あ、空いてますけど……」


「私も大丈夫よ。まあそれはいいわ、フィーリア。で、もう1人紹介したい人っていうのは誰なのよ?」


「紹介したいわけじゃないけど……どうせすぐ近くにいるだろうから、見つけてよってくるわよ。向こうでメールも送っておいたし」


ああ、そんなこと言ってたなぁ。確かに三人とも美少女のたぐいだ、ファンができてアイドルグループになるのも頷ける。


「『戦乙女』ってメンバーどれくらいいるの?」


「メインメンバーは五人ぐらいです、えっと……」


「カグヤでいいよ」


「カグヤさん」


とそんなことを話している間に、奴がやってきた。全力疾走で。


「ハァ、ハァ……フィーリアちゃん! 『踏破の疾駆者』と『神の癒し手』に会えるって本当かい!?」


「本当もなにも目の前にいるでしょ」


「おお!! 本物だ!! すごい、感動だ……月、俺お前の友達やってて良かったよ……」


「俺はお前の友達をやってたことを現在進行形で後悔しているが」


泣くなよ。三人ともドン引きしてるぞ。だがそんな空気も結衣の説明で霧散する。


「ええと……兄さんの友達で、トシっていう人。所属してたのどこだっけ?」


「ぐずっ……『守護騎士団』」


「「え?」」


結衣以外の二人が固まる。しばらく記憶を探っていた二人は、トシの名前と『守護騎士団』というギルド名から思い出したように叫んだ。


「ちょ、フィーリア、この人『置き去り伝説』の人じゃない! 何でもうちょっと早く教えてくれなかったのよ!」


「『置き去り伝説』?」


聞いたことの無い単語に疑問の声をあげると、すぐに結衣が説明してくれた。


「βテストの時に『守護騎士団』がボスに挑んだのよ。でも異様に強くて赤字になりそうだったからリーダーが撤退を決めたの。そのとき殿として残されたのがトシだったんだけど、トシは四時間そのボスと戦い続けて、ついに倒しちゃったのよ」


凄い。それはすごい話だ。すごい話なんだが、どことなく哀愁漂う話でもあるな、これは……ようするに見捨てられたんだよな?


「違う! 俺は皆を守るために、デスペナを恐れずに殿を努めたんだ! それを…

…それを……!」


「この話にはオチがあってね。ドロップしたアイテム全部ギルドに徴収されちゃっ

たのよ。もとからそういう話だったらしいからしょうがないと言えばそうなんだけ

ど……」


あらかじめボスドロップはギルドの物と決めていて、勝てそうになかったから撤退。でもトシが倒したからボスドロップは回収、と。ふむ……ギルドは面倒くさいな。


「で、兄さんどうするの? どっかのギルド入る? 『戦乙女』は男子禁制だけど兄さんなら大丈夫」


「なわけあるか。そんな死亡フラグ満載なところに入りたくない。参考までにβテストの時にどんなギルドがあったのか教えてくれないか?」


「有名どころだと『戦乙女』『守護騎士団』『HERO』『ムキムキ☆筋肉団』かな。うーん、どこもお勧めできないね。『戦乙女』は男子禁制だし、『守護騎士団』は縄張り意識強いからねー。『HERO』はあのハーレムギルドだし、『ムキムキ☆筋肉団』は近距離専門のお馬鹿ギルドだからなぁー」


ちょっと気になるな、『ムキムキ☆筋肉団』。まあこの外見じゃ面接で落とされ

そうな気がするけど。


「じゃあ、しばらくはソロで行ってみるよ」


「わかった。まあたぶんまだギルド作れないし、急いで決める必要はないかも。ここをまっすぐ行けば最初のフィールドに出れるからね」


「了解」


俺はスタスタと外に向かって歩いていく。ちなみにこの会話中なんでトシとカンナギさんとヒュミさんが会話に参加しなかったかというと、トシが矢継ぎ早に質問を投げかけていたからだ。二人は慣れた様子で対応していたが。

さて、戦闘はどんな感じなのか、楽しみだ。


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