表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

Act.28

 結論から言えば、俺はなんとか五分間【鬼族暴犀】から逃げ切ることに成功した。しかしそのために使用した犠牲はあまりにも大きかった、精神的な意味で。


「いやー、珍しいものが撮れ、見れて満足だよカグヤさん!」

「おいシュベルク今見れての前なんつった? 記録してないよな!?」

「さあねー☆」

「待ちやがれ、このっ……!」


 俺が逃げ出したシュベルクを追いかけようとしたとき、俺の右肩にポンと手が置かれた。誰だなんだ。

 振り返ると、満面の笑みを浮かべたリリアだった。


「私の気持ちがわかりましたか?」

「え?」

「私の気持ちがわかりましたか?」

「いや、その……」

「私の気持ちが……」

「からかったりしてすいませんでした!!」


 すぐに頭を下げて許しを乞う。ただでさえ仲間たちに笑われながら【鬼族暴犀】に追われ続けたことで精神力が削り取られているのだ。これ以上責め苦を受けたら、立ち直れなくなる可能性もある。

 いやしかし、攻撃が効かない相手に追い回されるというのはかなりの苦痛だった。二度とやりたくない。


 ……で、問題はだ。


「どうするんだ、カグヤ」

「うーん……」


 俺の視界に表示されているホログラムウィンドウ。その画面に描かれたメッセージを皆に聞こえるように読み上げる。


「【鬼族暴犀】は仲間になりたそうにこちらを見ている! どうしますか? 一体全体、なんでこんなことに」


 もう少し堅苦しい文章で書いてあったが、書いてあることはだいたいそんな感じだ。


「あ、あれじゃないかカグヤ。少し前にパッシブスキルの鬼族の天敵っていうのを手に入れてたじゃん?」

「ああ、あったなそんなの」


 グリネスの指摘に、思わず手をたたいてから、鬼族の天敵というパッシブスキルの内容を確認する。


 スキル:鬼族の天敵

 鬼族に恐れられる殺戮者。その威光にオーガは震え、ゴブリンは従うという。

 入手条件:鬼族のボスモンスターの体力を、一撃で五割以上削る。

 効果:鬼族のモンスターへのダメージプラス十%。低確率で鬼族モンスターが仲間になる。

 スキル種類:パッシブ

 スキル状態:On


 【鬼族暴犀】が仲間になりたそうなのはコイツが原因だろう。それとイベント終了後に放り投げてくれてやった【子鬼の宝物】も多少影響しているかもしれない。


「仲間にしたいんだけど……いいかな?」

「別にいいぞ。詳しい情報も知りたい」


 軍曹の許可が出たのでYESボタンにタッチする。瞬間、【鬼族暴犀】は嬉しそうな鳴き声を上げると光の粒子になって消えていった。そして俺の前に表示される名前を決めてください、の文字。


「……名前、どうしよう?」

「……トツゲキホヘイ?」

「軍曹、イントネーションを変えてもその名前はないわ。ポチでいいんじゃない?」

「リリア、その名前もねぇから。そうだなここはそれぞれの頭文字をとったらどうだ? グカシュリグナリュニカ」

「噛まずに言えたことは褒めてあげます、グリネス。でも言いづらいから却下。シュベルクとカグヤの愛の結晶とかどうでしょう?」

「怖気が走るから却下。真面目に考えろ!」

「あ、漆黒の絶対走者とかどうです?」

「カドラ、それ二年後絶対後悔するからな? それ許されるのマジで中二までだから」

「ノリモノ」

「ナーリャ、そんな端的な……っていうか乗れるのかこれ?」

「サイ」

「ニニト、端的にして的確な表現というのはいつの時代でも必要なものだ。だが、もうちょっとなんかこう……ひねりが欲しい!」


 そんな感じで適当に名前の候補を上げていく仲間たちにダメだしをしていく。ツッコミ待ちが多すぎて、自分で名前を考える余裕すらない。なんかいいのないか……と俺が考えていると。

 今まで発言していなかったリュウヤが恐る恐るといった様子で右手を上げた。


「お、リュウヤ。名前か」

「は、はい! あの、ジープっていうのはどうでしょう!?」


 ジープ。ジープ。ジープね。


「悪くないんじゃないか?」

「そうだな。むしろこうしている時間がもったいない、それで行こうか」

「リュウヤにしては、その……なかなかの名前ね!」

「いや、ナーリャは確か熊のぬいぐるみにアリクイサンドラっていう何かを根本的に間違えた名前をつけていたような気が。それと比べりゃ満点」


 グリネスと軍曹とナーリャとカドラが次々と同意を示す。軍曹は自分が上げた名前になぜか自信を持っているようで不満げな消極的賛成だったが。


「んじゃ、俺も賛成して多数決で決定~。ジープっと」


 アイテム欄に新たなアイテムが追加された。その名も【鬼族暴犀の魂】。これを持ってサモンと呼びかけるだけで、ジープを呼び出せるようになっているらしい。本来の『従術』スキルなどを使用したテイミングはデメリットがないが、この方法で呼び出した場合は呼んでいるあいだだけ継続的にMPを削られるようだ。

 とりあえず、呼んでみよう。


「サモン」


 右手に持った紫色の宝玉が光を放ち、目の前に角の先端がちょびっと赤い犀が現れた。MPゲージを確認すると、およそ十秒ごとに五、というペースで減って行っているのがわかった。ふむ、この程度ならば別に問題はないな。あとは、情報か。


「ニニト、ちょっとこいつ『観』てくれ」

「あ、はい。えっとレベル五十二、種族:鬼族、特技:突進……」


 細かいステータス値は省くが、DEFとMDFとSTRが異常に高かった。同レベルのプレイヤーと比べてみても、若干ジープが上回るのではないだろうか。


「強いな、この犀」

「本当だな。ますますカグヤがチート化していく……」

「失礼な」


 グリネスの呟きに思わず反発する。俺はチートではない、カルマさんにはあっさり負けたし。


「いやいや、銃使いからすればお前強すぎるから。本当、剣士とかになってりゃ上位プレイヤーの一角だったろうに」

「実はもう上位プレイヤーの一角になってるけどね」


 ボソッとシュベルクが何かを呟いたような気がしたが、声が小さくてよく聞こえなかった。だが、シュベルクがなんとなく余計なことをしたような……そんな気がする。シュベルクを問い詰めようとしたその時、軍曹が口を開いた。


「とりあえず、【擬態蛇】を狩ってレベルを上げるぞ」


 あー、完全に忘れてた。


========================


 その日からおよそ四日間、ひたすらに【擬態蛇】を狩り続ける日が続いた。ある程度新人たちのレベルが上がってからは、俺たちは再び元のメンバーでパーティを組んで、金策に走り回っていた。そして、知り合いにお金を借りるなどして、ようやく目標金額の十五万Eに届いた。


「では、行ってくる」

「気をつけろよー!」


 今回購入するギルドホームは、始まりの街の職人街と呼ばれる生産者たちが集まった通りの一角にある屋敷だ。ファンタジー世界に存在しそうにない、珍しい近未来的な外見で、アルミのような鈍い銀色の光沢が特徴だ。

 軍曹と俺はそこを一目見て気に入り、いつかギルドホームを買うときがあればここを買おうという話になっていたのだ。このゲームでは、瞬間移動のようなアイテムも設備も全くない。これから発見されるかもしれないが、このゲームは変なところでリアルなのだ。だから、大手ギルドは最も設備などが充実していて、死に戻りしたときに便利な始まりの街にギルドホームを持つことが多い。


「これでようやく、あれか。宿屋で暮らすのともおさらばか」

「あれはあれで良かったけどねー」


 グリネスとリリアが感慨深そうに頷く。もっとも、ここは集まるときと倉庫に使用するぐらいだろう。見た目的にはそこまで広い建物ではないが、ゲームなので内部空間は拡張されているはずだ。そこは軍曹が確認している。


「家を買う、なんていうのはもっと先の未来だと思ってたけど……まさかゲームの中で実現するなんてな」

「ここが僕とカグヤさんの愛の巣なんですね♪」

「ええい、鬱陶しい!!」


 右腕にしがみついてきたシュベルクを振り払う。始まりの街は異様な広さを誇り、現在発見されているどんな街よりも広い。その分探索しきれていない場所もある。

 灰色街、というのがその代表区画だろう。名称的にスラム街のような場所ではないか、と言われているが、進むべき入口には常に衛兵が立っていて、『この先に進むのは許可できない。おとなしく一般街に戻りなさい』と言われて、強引に進もうとすると弾き飛ばされる。屋根の上を進んだりしても、どこからか衛兵が飛んできて連れ戻されるという徹底ぶりだ。そこまでされたら普通諦めそうなものだが、中にはそれに情熱を向ける人もおり、二十人ぐらいで一斉に突撃したこともあるらしい。

 衛兵が増殖して終わったらしいが。今ではある程度ゲームのストーリーが進まないと解放されないタイプの場所ではないかと言われている。


「ストーリー、か」


 思い出してみれば、リサたちと討伐を行ったあのクラーケン……あいつはサブストーリーのボスだったような気がする。マーメイドプリンセスも危機に陥った時に助けに行きます、みたいなこと言ってたしなぁ。


「ストーリーって、あの復活しようとしている邪神を倒せってやつですか?」

「ん、ああ。確か、ペイン・ワールドに行くには龍山を登りきらなければいけなくて、その龍山にたどり着くには龍山への道程にいる、なんだっけな……」

「【紫死龍(バイオレット・デス・ドラゴン)】」

「ああ、それだ。そいつを倒さなきゃいけないらしいんだが……なんかキーアイテムが足りないとかで、倒しても倒しても復活するらしいんだよな。経験値は入るけど少なくて、本当に倒しているわけじゃないんじゃないかって言われてる」


 こいつが攻略を止めてる原因だ。何回倒しても何回倒しても、『鈴がない限り我は倒れぬ……!!』って言って復活するらしい。ひとつだけ、その鈴という物に心当たりがあるが、同じくその存在を知っているはずのフィーリアやカルマさんからその話題がないため、おそらく違うのだろう。


「一回頭に来た大手ギルドがレイドパーティ組んで、二十七回抹殺したらしいけどな」


 それはもう、夢のようなパーティだったらしい。それぞれのギルドから腕利きを募り、最大まで戦力を集めた、最強のパーティ。

 最初の方は全員ペース配分しながらやっていたが、途中から完全に頭に来て記憶にない、とフィーリアが言っていた。覚えているのは、何度も何度も復活する【紫死龍】に向けて大量に放たれる大型範囲魔法の嵐だけだったらしい。あとから冷静になって考えてみると、あれ絶対味方巻き込んでたねー、ととても軽い調子でのたまう妹に、久々に絶句したのはそんなに昔の話ではない。

 確か、大殲滅戦が行われたのはギルド対抗戦の一週間ほど前だったはずだから、もうそろそろ二週間になるのか。だいたい二週間ちょっと、【紫死龍】に攻略が止められている計算になる。


「死なない敵、ってもう倒せないよな」

「まあ、そうだな」


 グリネスの呟きに鷹揚に頷く。軍曹が一人で出かけてしまったので、皆でこうやって時間を潰しているのだが、攻略組から情報を得ることが多かった俺に比べて、ほかの人たちの情報は攻略以外の話だったので非常に有意義だった。

 例えばこのNPCのレストランがうまい、とか。あとはトットーというプレイヤーが作る装飾品が人気が高い、とか。俺の知り合いたちは比較的戦闘バカが多いので(リサは戦闘バカではないが、噂話をするようなことはない)こういった街中の情報を知っていることは少ないだろう。ということで嬉々としてメッセでフィーリアに教えてやったのだが。


『いや知ってるよ、そのぐらい。兄さんが知らなかったことにびっくりしてます。今までどこで何してたの?』


 というなんとも身も蓋もない返事が返ってきた。どうやらこの妹、常識扱いして俺に教えなかったらしい。まあ確かに脱出不可能になってからしばらくはソロが多かったからな。噂に疎いのはしょうがない……決して俺はぼっちじゃない! フレンドリストも結構埋まってるし! ギルドにも入ってるし! 戦闘になると単独行動多いけど! やばいちょっと悲しくなってきた。


「シュベルクー、なんか面白い話ない?」

「またそんな無茶ぶりを……まあいいですけど。カグヤさん、攻略掲示板って見てます?」


 攻略掲示板か。


「いや、この前『《軍団》の美しい狙撃手について情報を書き込むスレ』っていう恐ろしいスレを見つけてから見てないな。なぜかホモ注意報ついてたから絶対見ないことにしている」

「そ、そうですか。それは良かった……じゃなくてですね、『銃使いについて情報を書き込むスレ』っていうスレで、最近銃使いの評価が見直されてきてるんです。で、何人か銃使いの人も情報を書き込んでいて、まだ僕たちが見つけていない銃使いの職業も発見されているらしいですよ」

「へぇ、どんな?」

「工作兵、っていう職業です。また面白そうな職業ですよね」

「罠とか仕掛けるのか?」

「さあ、そこまでは。ただ他にも職業ありそうですよねー……魔弾兵とか出ないかな」

「なんじゃそりゃ」

「撃つ弾全部魔弾になるとか?」

「あぁー……ナーリャの例もあるから否定しづらいなぁ……」


 撃つ弾が全てなになに~などナーリャが来るまでなら笑い飛ばしていただろうが……意外と、ありそうで怖い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ