Act.26
「全員揃ったね」
ホビットのリュウヤがそれぞれのメンバーを紹介していく。先ほど俺がからかったホビットの少女はナーリャ、ひょろっとしたヒューマンの長身の少年はカドラ、もう一人のメガネをかけたヒューマンの少年はニニトというらしい。この世界にもメガネは存在するが、現実世界の視力などこの世界には関係ないためただのファッションアイテムである。本人にいわせると、『どうもこれがないと落ち着かない』らしいが。とりあえず誤解を招きそうなので、先に自分とシュベルクが男であることを説明しておく。その時にまたひと悶着あったのだが、たいした話ではないので割愛させてもらう。しかし合計で九人も銃使いが集まったのにドラゴニアはリリアだけか。
「で、どうして《軍団》に?」
「僕たちはずっと四人でパーティを組んでやってきたんですけど、どうしても火力不足で先に進めないんです。具体的に言うと『人魚の半島』が結構きついですね」
人魚の半島、か。昔のことを少し思い出したが、関係ないと割り切ってから、軍曹に振り返る。軍曹は腕を組んで目を閉じていた。まさか、寝てないよな?
「一人称が僕、だと……キャラがかぶったッ……!」
とりあえずなんか口走っているシュベルクは放置。そのままリリアとグリネスも軍曹を見つめている。五秒ほどしてから、沈黙に気づいたのか軍曹が目を開いた。
「ん? いや別に入ればいいんじゃないか?」
「ええっ!?」
軍曹の言葉にリュウヤ達が驚いたように声を上げるが、俺たちはそれをとりあえずスルー。最近なんかとりあえずで行動すること多いな。
「いやうちのギルドは銃使い以外には別に加入条件とかないし、普通に入れるよ? グリネスも入れたくらいなんだから」
「おいリリア、そりゃどういう意味だ」
「言葉通りの意味だけど」
「うーん、どうする? 入れるのはいいんだけど、このあと龍山への道程に向かう予定だったじゃないか。さすがに……レベル的には……」
俺の言葉に軍曹が考え込む。龍山への道程の推奨レベルは六人パーティで四十五から五十。今のところこの適正レベルに届いているのは俺に軍曹、グリネスにリリアを加えてわずか四人。シュベルクはまだレベル四十三。一応、軍曹のクラススキル『司令の激励』によってステータスは上昇しているが、さすがに低レベルプレイヤーを連れて行けるほど余裕のフィールドではない。
「あ、僕たちのレベルは、そのだいたい二十後半です。具体的に言うと、僕とカドラが二十八、ナーリャとニニトが二十七です」
「とりあえず、【擬態蛇】にまたご教授願おうか。それでいいか、軍曹?」
「合計九人か。それぞれを二分して組み直すぞ。ナーリャと……リュウヤは私とシュベルクの四人パーティだな。カグヤとリリア、グリネスにカドラとニニトで五人パーティとしよう」
軍曹とシュベルクは接近戦に近いがそれでもオールラウンダーに近いプレイヤーだ。リュウヤの戦い方はよくわからないがグリネスとリリアに制圧を任せ、俺は殲滅。これがバランスがいい……というか、これぐらいしかないだろう。
「そうと決まれば……リサ、話は聞いてたな? 強化頼む」
「……わかった」
「「「「喋ったァ!?」」」」
リサが口を開いて言葉を喋ったとたん、リュウヤたちが驚愕の声を上げた。まあその反応はだいたい見慣れているので、リサに肩から背負っていた【SLBⅣ】をあずける。軍曹も新しいアサルトライフル、【ブライド・テリアス】を預け、シュベルクとグリネスとリリアは既にほとんど限界まで強化されているので預けない。
「リ、リサさんって……プレイヤーだったんですか?」
「……ああ、カグヤの紹介で知ったんだがな。彼女の作る銃がないと、戦うのはきついぞ」
銃使いは数が少ない。需要が少なければ必然的に供給も少なくなるため、銃を作れるプレイヤーはなかなか数が少なく、熟練度が低くて満足の行く銃が作れないのだ。
「……あ。カグヤ、ちょっと……」
強化自体は一瞬で終わるので、すぐに終わったらしいリサが俺にトレード画面を開いてくる。そこに写っていた【弁当】という端的なアイテム名をスルーして、確認した武器の名前は。
「【SLB・Ⅴ(ファイナル)】、強化はこれで最後ってことか……」
「そこじゃない……武器固有アビリティが……」
ん? そんなこと言われてもトレード画面では名前しかわからないしな……金額をすばやく入力して、トレード画面のOKボタンにタッチする。そしてアイテム画面を開いて武器詳細を確認する。
武器名:SLB・Ⅴ(ファイナル)
武器種類:スナイパーライフル
攻撃力:160
攻撃回数:1回
耐久値100/100
要求STR:200以上
要求レベル:50以上
移動制限:ランク4 解除:STR220以上
基本射程距離:300メートル
魔弾使用可
武器固有アビリティ:魔弾の精製
『魔弾の精製』:自身のMPの四分の一を消費して発動。場所に応じた魔弾が次の弾となる。このアビリティを連続で使用することはできない。
『魔弾の精製』……?
場所に応じた魔弾を精製するというのはどういう意味だ? 使ってみないことにはわからないか。
「強化で武器固有アビリティがついたのは、初めて……」
「ああ、そういうことか。うーん……?」
「理由など考えてもわからないだろう。システムがそうしたのだからな」
まあ確かに軍曹の言うとおりか。今は素直に喜んでおくとしよう、そもそもMPの使い道がほとんどないしな。リサが続けて軍曹の【ブライド・テリアス】を強化すると、幸い壊れることもなく【ブライド・テリアスⅡ】に名称が変化する。外見に全く変化がないのが少し不満だが、まああんまり変わりすぎると使いづらいかもしれない。
「さて、これで一応、準備はできたか。まあ俺たちのレベルならファル草原で遅れを取ることはないだろうから、気楽に行こう」
「はい!」
「では、出発しよう」
道中で一次職を確認しながら進んでいく。どうやらシュベルクと同じ双銃士がリュウヤ、ほかの三人はそれぞれ違う職業についているらしい。
「あ、俺から言わせてもらいますね。俺は偵察兵っていう職業です。クラススキルは『先見の両目』……索敵系のスキルの範囲を上昇させて、鑑定スキルをデフォルトで使うことができます」
最初に聞いたのはメガネをかけた少年ニニトだったが、彼の職業は偵察兵だった。俺たちにはない職業、一体どれだけの職業があるというのだろう。もしかしたら銃術を作ったスタッフは軍隊でも作る気だったのかもしれない。一次職だけで双銃士、狙撃手、司令官、軽銃士、機関銃士、偵察兵と六つの職業が分かっている。分岐条件がさっぱりわからないが、制作スタッフにはよほどのこだわりがあったのだろう。次は、カドラという少年の紹介だ。
「あー、ちょっと待って。もしかしてカドラって……?」
「あ、カグヤさん知ってるんですか。まああんまり言わないでください。冷静に考えて恥ずかしくなったんで」
なぜその名前にしたし。なるほど、これが認めたくない若さゆえの過ちということか。
「私の職業は、剣銃士です。右手にハンドガンを、左手に片手用の剣を装備できます。クラススキルは『双牙の攻防』、左手の剣で攻撃すると攻撃力上昇、右手の銃でガードすると防御力上昇です」
「プレイヤースキルに左右されるクラススキルだな……」
両利きじゃないとなかなか使いにくいスキルなんじゃないだろうか? だから腰に拳銃のベルトと剣の鞘がぶら下がっているのか。一度見てみないことにはどういう戦い方をするのかはわからないが、面白いものが見れそうだ。
「……私の職業は衛生兵。クラススキルは『治癒の銃弾』、撃つ銃弾が全部回復系の魔弾になります。MPも多少消費します」
「衛生兵!? 回復役の銃使いがいたのか!」
「攻撃できる双銃士もあったんですけど、やっぱりパーティに回復役が欲しいから、というのもあったので。ナーリャは前から治癒魔法スキルもとってプレイしていたんですよ」
ナーリャとリュウヤの言葉に俺たちは色めき立った。治癒魔法を使える魔術師がいないため、どうしても回復役がいないと攻略が辛いところだったのだ。防御力に難がある銃使いは回復役がいないとどうしても長期戦になると弱い。
「はい、僕たちのパーティはナーリャのおかげでここまで進めたようなものです」
リュウヤの言葉に恥ずかしがってそっぽを向くナーリャ。そんな二人をニニトとカドラが生暖かい目で見ていた。なるほど、いつものことなのか。
「でも撃つのが全部回復系の魔弾って……ダメージを与えられないってことか? どこまで役割分担をはっきりさせる気なんだ……」
グリネスの呟きに思わず頷いてしまう。俺もSTRを上げないとスナイパーライフルを装備もできないし、DEXも上げないといけないためそもそもDEFなどを上げる余裕はほとんどない。
「要するに、大人数での行動が前提になっているのか? 軍隊みたいに」
「そう考えると納得しやすいわね」
俺の呟きにリリアが肯定する。だがこれでかなりの戦力増強につながるだろう。いつまでもポーションなどの回復に頼るのは経済的な面からも避けたかったところだ。
「そういえば、カグヤさん。先生って……?」
「ファル草原に出現するレアモンスターでな。【擬態蛇】っていうはぐれたメタルみたいなモンスターだ」
「はぐれたメタル?」
通じないのか。あのゲームをやっていなかったのか……やってなくても知ってそうなもんだけどな。まあいいか。
「HPが低く、経験値が高い代わりに防御力が高くて逃げ足が早いモンスターだ。銃弾を撃ちまくれば多段ヒットで倒せるから……あ」
問題点に気づいた。撃つ銃弾全てが回復魔弾になってしまうナーリャはレベルアップできないのでは……? 一応パーティに入ってるだけである程度の経験値は手に入るが、当然効率は落ちる。
「しれ……もう軍曹でいいや。軍曹、どうしよう?」
「なんだ?」
俺が今思ったことを相談する。すると軍曹はしばらく思案顔で空中を見つめていたが。
「……銃を使わずに攻撃すればいいんじゃないか? あのモンスターはどんな攻撃でもダメージを一しか与えられない、裏を返せばどんな攻撃でも一ダメージを与えられるってことだ。ほかの人たちにはショットガンを渡せばいいだろう」
「ああ、なるほど」
蹴りでも殴りでもいいわけだ。言われてみればそのとおりか。とりあえず懸念が晴れてスッキリした俺は、皆に呼びかける。
「走っていこうぜ、早く戦い方とか見てみたいし」
「え、ちょ……!」
リリアが何か言いかけていたのを聞こえなかったふりをして速度を上げる。いきなりの行動に全員驚いたようだったが、初期からの《軍団》メンバーは楽しそうに速度を上げて追従してくる。グリネスが気軽に跳ねながら障害物を避けながら疾走し、シュベルクがなぜか俺の後ろにぴったりと張り付いてついてくる。そして軍曹が身を屈めたやけに様になっている姿勢で走っている。
「いっつもこうなるのねー!!」
リリアがガシャガシャと鎧を鳴らしながら走ってくる。だがそのスピードはお世辞にも速いとは言えず、俺はグリネスにニヤリと笑いかけると速度を上げた。さらにスピードを上げた俺たちに必死に新しい仲間たちもついてきた。
「ちょっと待ってってばぁぁぁぁ!?」
リリアが悲鳴を上げているが、実はそこまでスピードはあげてない。どうせリュウヤたちともレベル差があって、スピードもどうしても差が出来てしまう。だから、リリアでも普通についてこれる。
さて、そろそろ子鬼平原を抜ける頃か。子鬼平原を抜けた先に広がっているのはファル草原だ。事あるごとにここに来ているが、まだここは中堅プレイヤーの狩場になっている。夢魔の洞窟はまだ攻略組が戦っているはずだ。あそこは魔術師がいればそんなに難易度が高いダンジョンではない、今の中堅プレイヤーが狩場にするのはだいたい人魚の半島か、ファル草原だが。人魚の半島はとある事情からあまり人気がない。
……俺にリサ、トシにカルマさん、フィーリアにキャリシーの六人であそこのストーリーボスであるクラーケンを倒し、裏ボスである【黒鉄蟹】を倒してから……難易度が上がってしまったのだ、精神的な意味で。
もとから胸毛の生えた男の人魚がモンスターとして出てくることで人気のなくなってしまった人魚の半島だったが、【黒鉄蟹】を倒してから子蟹が大量に湧き出てくる奇妙なフィールドになってしまったのだ。一体一体は完全に雑魚なのだが、あまりにも大量に湧き出てくるため範囲魔法を扱える魔術師がいないと進むのは難しい。しかもとりつかれるとHPがゆっくりと減少していくのだが、それ以上に肌の上を蟹の足が歩くのが非常に気持ち悪い。そこでパニックに陥ると男の人魚の槍に貫かれて普通に倒される。
帰り道にフィーリアが凄まじいパニックに陥ったのを思い出しながら俺たちはファル草原にたどり着いた。




