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Act.24

 異様な強さを誇る近接戦闘の鬼、カルマさん。その実力は全プレイヤー中最強とも言われ、高速で襲いかかる斬撃は数多のモンスターを屠ってきたという。ダメージを覚悟で突っ込んでいくその姿はまさに鬼神と言うに相応しい。もっとも、実際問題としてカンナギちゃんのような回復役がいないとあまり長いあいだは戦線を支えられないのだが。


 だからこそ、ヒーラーを得た《戦乙女》の前衛組は強い。


「『回転切り』!」


 幸いなのは、残っているのは双剣で戦うネルノスキーではなくリーチの長い大剣を使って攻めてくるキャネットであるということだ。どうみても一メートルは超えている刀を振るうカルマさんとはリーチがかぶり、俺はそこにわずかな隙間を見つけては攻撃をかわしている現状である。


「『横一文字』!」


 横凪に振るわれた刀を前転してかわす。ここで前に飛び込むのは非常に勇気のいる行動だったが、後ろに下がればそこにはキャネットが両手剣を持って待ち構えているはずだ。自分に課せられた役割は、出来うる限り時間を稼ぐこと。

 青いゲージはまだ三つ灯っている、ということは軍曹とシュベルクはまだ戦っている。ここの三人を陣地に行かせるわけにはいかない。


「どうしたんですか!? 二人がかりでも倒せないんですか!?」


 三人を引き付けるために、挑発を行う。だが、この行動は完全に逆効果だった。


「キャネ、カンナギ! ここはやはり私が抑える、陣地に向かえ!」


 しまった……! 反転して陣地に向かおうとするキャネットの前に立ちふさがり、体当たりを食らう。軽装な俺はその瞬間跳ね飛ばされ、勢い良く木に叩きつけられてHPが減少。ただでさえ少なくなっていたHPがさらに減る。だが、偶然の産物ではあるが、これはチャンスである。アイチャに作ってもらった、あのシリーズの防具の効果を使うべきだ。


「防具固有アビリティ発動、『巧妙なる透過』……!」


 【擬態蛇】の素材で作成されたシリーズ防具には、固有アビリティが発現する。HPとMPを継続的に消費するが、かわりに特殊な隠密状態になることができる……それは背景との完全なる同一化。空気のゆらぎとなるのが『隠密行動』ならば、『巧妙なる透過』は保護色のそれである。対象と同じ色に変化するカメレオンのように、背景に溶け込むアビリティ。

 距離が近すぎると即座に動きで看破されてしまうため、ある程度離れていないと使えない作戦だが、体当たりによって距離が稼げた。しかもHPが継続的に削られるため、使いどころを見誤るわけにもいかなかった。


「なんだと!?」

「カ、カルマさん! たぶん、【擬態蛇】の防具アビリティです! ヒュミちゃんからちらっと聞いたことが……!」

「こんな切り札持ってるなんて、なかなかどうして強いねー」


 これはハッタリ(ブラフ)。こんなことをしても、実は俺は動けない。サウンドエフェクトまで消去する『隠密行動』とは違い、これは動いてしまえば、音で即座に発見されてしまう。『心声』を使えない今の俺ではスナイパーライフルに持ち替えることもできず、ただひたすらに耐えるだけだ。しかも攻撃しただけでこの状態は解除されてしまうのだから。どこかから狙われているかもしれない、という恐怖を与えて、ひたすらに敵の動きを縛る。実際、彼女たちはどこかから聞こえてくるはずの声や移動の足音を聞き取ろうと、耳を澄ましている。

 俺の残りHPを考えるに、『巧妙なる透過』は持って一分。それ以上は俺のHPが無くなる。理想はそれまでに陣地にいるのであろうヒュミちゃんとフィーリアを片付けて、軍曹たちが駆けつけてくれることだが、それはいくらなんでも難しいし、高望みしすぎだろう。だが《戦乙女》も動けない。ここで前衛を一人にしてしまえばもしかしたら一撃必殺の狙撃で倒される『かもしれない』のだ。


 息を殺して潜む。これ以上俺にできることはない。


 ……長いようで短かった一分後。俺はためらわずにそのまま倒れることを選んだ。既に二つの赤いゲージは霧散しており、ここにいない《戦乙女》のメンバー、フィーリアとヒュミちゃんが倒れていることはわかっている。軍曹たちは自分の力で敵に打ち勝った。


「そういう気分でもないが」


 喋った瞬間、こちらに素早く目線を向けて刀を振りかぶるカルマさんを見ながら、心の中で続きを呟いた。


(老兵は死なず、ただ消え去るのみ、か)


 敵にも味方にも見えない存在である俺には、ピッタリな言葉だ。まだ老いてはいないけれど。

 そして俺はカルマさんの凶刃が当たる前に、『巧妙なる透過』にHPを削りきられ、意識を失った。


===============


 次に俺が目を覚ましたのは控え室だった。水色の光に包まれて転送ポートに現れた俺を、リリアとグリネスが出迎えた。ここ控え室では試合の様子はわからないらしく、根掘り葉掘り後の展開を聞かれた。俺はそれに懇切丁寧に答えていると、転送ポートに新たな水色の光が舞い降りた。一筋の希望を持って現れる人物を待つが、姿を見せたのは軍曹とシュベルクの二人だった。


「……すまない、カグヤ」

「ごめんなさい、カグヤさん。負けちゃいました……」


 二人が俺が何か言う前に謝罪を述べる。その意気消沈した様子に俺もリリアも何も言えずに口ごもったが、グリネスだけがあっけらかんと口を開いた。


「なーにしょぼくれてんだよ。楽しくなかったのか?」


 その発言にリリアが睨みつけようとするが、グリネスは笑うでもなく至って真面目な表情をしていた。ふざけているのではなく、本心からそう思っているのが窺える。


「俺は楽しかったぜ! プレイヤー同士の戦いなんて初めてだったし、ここまで勝ち進むこともできた! いいか、軍曹にシュベルク。ゲームっていうのは勝ったやつが勝ちなんじゃねぇ。楽しんだものが勝ちなんだ!」


 俺だけが知っている。リリアとグリネスがこの控え室で必死に俺に謝っていたことを。力が及ばず、申し訳ないと謝罪し続けていたことを。俺は最初その謝罪の意味がわからなかった。俺たちは自分の持てるだけの力を出して戦った、その結果として負けるのならば、別にいいのではないか、と。


 悔しくはある。正直な話、俺たちが浮かれてヒュミちゃんの存在をきちんと警戒していたならば、こんな結果にはならなかったかもしれない。だが、グリネスとリリアが謝っていたのは違うことだった。彼らは言った。

 実力の問題でも、レベルの問題でもない。ただ、一番最初に戦線を離脱してしまったことを悔やんでいると。勝利に貢献できなかったことではなく、となりにいて一緒に戦えなかったことを。


「さあ、胸を張っ、て行こう、ぜ! ここまで、勝ち進めたんだからよ! 胸を張って、表彰台に登ろうじゃないか! 二位なんだぜ、俺たちは!」


 このゲームには涙を流す機能すら搭載されている。実際水が流れている感覚はないが、他者から見ればグリネスの頬にある二筋の涙を見ることができただろう。あいにく、グリネスはこちらを向いていなかったせいで、声が震えていることしかわからなかったが。


「……そうだな」


 最初にうつむいていた顔を上げたのは軍曹だった。続けてシュベルクも晴れやかな笑顔を浮かべながら立ち上がった。ははっ、やっぱり《軍団》はこうじゃなきゃ。ふさぎこんでるなんて、らしくないよな。


「ボクたちはあの《戦乙女》相手に十分戦えていた。もう、銃使いは弱いなんて言わせない!」


「全く、そのとおりだな。だから、ここで誓おう」


 軍曹の言葉に、キョトン、と首を傾げる四人。一体何を誓うというのか、だが俺の心は不思議とワクワクしていた。これから、このゲームはもっと楽しくなるような、そんな予感がしていた。


「次は、負けない。今度優勝するのは《軍団(レギオン)》だ!」


 軍曹の言葉に、俺たち全員は顔を見合わせると、全く同時に大きく吹き出した。この、


「負けず嫌いが!」


 それからしばらくは俺たちは笑い転げていた。一番冷静で大人のように見える軍曹にこんな一面があったとは。だが言われてみれば、負けず嫌いじゃなければ銃使いで大会を荒らして、トップギルドに追いつく、馬鹿にした奴らに目にもの見せてやる、みたいな思考には至らないかもしれない。ということは、このギルドのメンバーは全員負けず嫌いなのだ。そんな軍曹の思想に俺が協調し、ここまでのメンバーを集めたのだから。


「ここまで有名になれれば、きっとくすぶっていた銃使いたちが集まってくる。今度の目標は?」


「当然、龍山への道を攻略するぞ!」


「え……あそこ、暑いんだけど……」


「文句言うなよリリア! ギルメンが増えれば行けるって!」


 軍曹の掲げた目標に、リリアが難色を示し、泣き止んだグリネスが快活に笑い声を上げる。シュベルクはその光景を見ながら満足げにうんうんと頷いているし、軍曹はテンションが上がったまま子供のようにはしゃいでいる。どうでもいいし、水を指す気は全くないが、敗戦直後だよな?


「……まあいいか」


 楽しんだものが勝ち、とグリネスの言ったセリフを思い出しながら、俺は次に戦うべき敵への対策を考えるのだった。


=================


「で、何のようなんだよ?」


「いきなり呼び出したりしてすまない。そしてここでの話はできれば内密にして欲しいのだが」


 ギルド抗争の翌日、俺は《守護騎士団》ギルドマスター、ゴルドに呼び出されて《守護騎士団》の拠点にいた。そしてそこにはなぜかカルマさんとフィーリアとユリナさん、さらにはトシとキャリシーの姿まであった。ちなみにここに呼び出されたのは軍曹と俺であって、ほかの人も全員がゴルドに呼び出されていた。


「内密に、って……私がそういうの嫌いなのは知ってるだろ?」


 カルマさんが凄んでみせるが、ゴルドは全く動じる様子はない。そしていきなり頭を下げた。


「都合のいい頼みだとは思う。だが、どうか怒らずに聞いてほしい」


 話を聞いてみることにして先を促すと、ゴルドはいきなり本題を告げた。


「《守護騎士団》のメンバーから、『咎人』が出た」


「……!」


 『咎人』。PKを生業にするプレイヤーの総称だ。現在PKを積極的に行うプレイヤーの人数は把握されていないが、末端を含めれば三百人近くはいるのではないかと言われている。その数は開始以来徐々に増していっており、ゲーム開始の初期のほうはかなり初心者が被害に遭っているそうだ。


「すまない。ギルドマスターとして謝罪する。そして奴らの目的はおそらく、衆人環視の前で恥をかかせた君たち《軍団(レギオン)》のメンバーに向いている……それも、多分だがカグヤくんに」


「恥って……そんなの逆恨みにも程が……!!」


「奴らは理屈で動いてはいない!」


 一番最初に声を荒げたのはトシだった。だがゴルドの言葉に遮られ、口を噤む。俺たち《軍団》はあまり経験がないのだが、トシやフィーリアなどのレア装備を持っている人たちは何度かPKプレイヤーに遭遇したことがあるらしい。銃使いは旨みがない――高レベルの武器を所持していてもそもそも銃が高く売れない、使えない――こともあり、PKプレイヤーに遭遇したことはないが、やはりいるのだろう。そういうプレイスタイルをとっている人間が。

 トシは経験からゴルドの言ったことに心当たりがあるのか、続きを言えずに押し黙る。


「……誠に申し訳ない。あまり素性を確認せずにギルドに招き入れていた私に、全面的に責任がある」

「……どういう意味」

「奴らはもとより、PKプレイヤーの仲間だったのではないか、と私は考えている」


 だが、プレイヤーを攻撃してHPを減らした者のカーソルは緑から紫に変化するはずである。いくらなんでも色が違えば気づくだろう、という俺の考えはトシの声によって打ち砕かれた。


「『(デコイ)』、ですか」

「おそらくは」

「なんですか、『囮』って」

「直接はプレイヤーに攻撃せずに、緑のカーソルのまま街に入ったりして情報収集する奴のことだ。仲間のもとにプレイヤーを誘導したり、よく使う狩場の情報を流したりする、いわばスパイだな」


 プレイヤーに攻撃しても、攻撃したプレイヤーが設定の『プレイヤーダメージ設定』をOnにしていない限りは不快なノックバックしか与えることはできない。PKプレイヤーは全員この設定をOnにすることで初めてPKが可能となるのだが、俺は会ったことがないこともあり、どうにも違和感が拭えない。


「組織化してまで、プレイヤー狩りに特化しているプレイヤーがいるんですね」

「ああ。だが、我々は心のどこかでこのゲームがクリアされることを望んではいない……違うかい? そして死んだ者にはデスペナが課され、レベルが減少、結果として自分は美味しい思いができるし、ゲームをやれる時間は長くなる」


 問われて、俺は思わず口を噤んだ。昔ハマってよく読んでいたとある王様のカードゲームの漫画の中には敗者が死亡するデスゲームがあった。だが、現実的な問題としてよっぽど覚悟が座ったやつくらいしかデスゲームを行う奴はいないはずだ。現にこのゲームもログアウトこそ不可能だが、デスゲームにはなっていない。


 だから煩わしい現実に戻るよりもこのゲームを楽しみたいという気持ちはわからんでもないが。


「だからって、ほかのプレイヤーを殺すのはおかしい。というか絶対そんなやつらじゃなかったよ。あれはどう考えても殺人を……仮想世界でしかできないことを楽しんでいた」


 PKプレイヤーと遭遇したことのあるトシの言葉には重みがある。確かにPKプレイヤーの傾向を探るのは大切なことだろう。だが、それより俺には気になっていることがある。


「で、どうすればいいんだ?」

「ほとぼりを冷ますまで隠れてくれ……と言いたいところだが、冷めるかどうかなんてわからないし、冷めたかどうかを確認する手段もない。どこかで奴らを叩き潰さなくちゃいけない」


 ゴルドの発言に大きく頷く八人。ちなみにここにいるのは現在トップクラスの戦闘力を持つと判断されたギルドのふたりが呼ばれた。《軍団》が認められたのは嬉しい限りだが、こんな重い話だとは思わなかった。

 ちなみに《HERO》と《ムキムキ☆筋肉団》は話にならなそう、という理由で除外された。まあおそらくアジトを潰す、みたいな話になったら呼ばれるだろう。筋肉もHEROも、悪いが壁にするのにあそこまで適切な人材はいない。


「では、これより『咎人』対策会議を開始する」




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