Act.20
控え室。ギルド抗争イベントでは、一戦ごとのパーティメンバーの入れ替えが可能となっている。そもそもパーティーメンバーギリギリのメンバーしか存在しない俺たちや戦乙女はともかく、かなりの大手ギルドであるガドラムリストは絶対にメンバーを変更してくる。
「とりあえず有力なのは『万能魔術師』のキャリシー。彼とは面識があるが、凄まじく変なスキル構成になっている。支援魔法、妨害魔法、炎属性魔法、風属性魔法、治癒魔法までは使っているところを見たことがある。二つ名に恥じない多数の魔法を駆使するから、要注意な」
「ええ……もはや『鬼犀』とは違う意味で天敵じゃないですか……」
シュベルクが嫌そうにぼやく。こいつも対人戦闘経験は豊富だが、主に近接戦闘色の相手をしていたから根本的に魔法が苦手らしい。まあ、俺たち銃使いは全員魔法が苦手だが。
「で、次に警戒すべきは、『縛茨』のネートさん。デバフ特化の非常に珍しい魔術師だが、妨害魔法のスキル以外はMP増加と冷却時間短縮スキルを使っていると本人から聞いた。グリネス、リリア、お前らが持っている魔弾は彼女が込めたものだからな」
「そうなのか……まあ、関係ないけどな。倒すのみ」
「当然」
二人の心強い返答を聞いてから、作戦を確認する。基本的にまず狙うのは後衛職。後衛職を殲滅してからシュベルクと軍曹が近接戦を行いグリネス、リリア、俺がその戦闘をサポートする。
「シュベルク、お前は『銃衝術』好きに使っていいからな。削りきれ」
「ひとりで?」
「ああ、うん。頑張れ」
「うぇー……」
嫌そうに唇を尖らせるシュベルクだが、その目は爛々と輝いている。初めて会ったときの、対人戦に無上の喜びを見出す戦闘狂の目だ。
『三分前になったので、今回のフィールドが形成されるぞぉー! 今回のフィールドは、『森』! 見通しは悪いが、奇襲不意打ちにはもってこいだー!』
「……最悪だ」
森では、視界が悪い。奇襲不意打ちにはもってこい、というのは普通の暗殺者などの場合であり、狙撃手が遠距離から狙撃するのは非常に困難だろう。目の前に広がる鬱蒼と茂った森を見て、即座に作戦の変更を伝える。
「遠距離からの支援ではなく、木の上から支援する。たいした支援はできないと思うが、頼むぞ」
「了解した」
「今度こそ、俺たちで勝ってやるってぇの」
「りょ、了解!」
「リリアさん、緊張しすぎ」
「ちがっ……こ、これは武者震いだ!」
「いや聞いてないし、そんな重装備じゃ震えてるかどうかなんてわかんないし」
仲間たちが談笑しながら陣地の入口に陣取る。ちなみにこの時点ですでに俺は隠密状態である。『隠密の狙撃手』になってから攻撃をしたり敵に索敵スキルを使われたり、誰かプレイヤーに注視されたりしない限りは隠蔽は解除されなくなっている。
『では、第四戦! ガドラムリストvs軍団、試合開始!』
柵が消えた瞬間に五人が一斉に飛び出す。腰だめにアサルトライフルを構えて突進する軍曹、重機関銃を持って必死に追随するリリア、ハンドガンを両手に構えてひょいひょいと身軽そうに地面を走るシュベルク、散弾銃を構えながら機先を制すために周辺索敵に余念のないグリネス、木の上から必死に見失わないように追いかける俺。
あちこちで地面に露出している木の根が足に引っかかるようで、その行軍はそれほど速くはない。リリアのペースに合わせているというのが理由だが、俺も鬱蒼と生い茂った木の枝や葉っぱが邪魔でなかなか前に進めない。そして俺は途中から必死についていくのを諦めて、地面から追いかけることにした。敵を見つけてから木の上に登ればいいのだ。というか別に登らなくてもいいのだ、射線さえ取れれば。
「軍曹! 前方に反応アリ、その数五!」
「全員止まれ!」
軍曹の掛け声によって走っていた全員が止まる。一番前にもっとも防御力があるリリアをおき、その後ろにシュベルクと軍曹とグリネスが並ぶ。軍曹は戦況を見るために少し後ろに下がっているため、上から見ると横を向いている菱形の陣形だ。
「リリア、敵が見えたら迷わずばら撒け」
「了解」
俺はその右横に生えている大樹の枝に陣取っていった。近距離にも程があるが、命中力には銃の射程距離が大きく影響するので、外す要素はほとんどない。一応今構えている狙撃銃は【SLBⅣ】……この距離ならば俺が大きく手元を狂わせでもしない限り外しはしない。
「『チャージショット』」
リリアが基礎アビリティである『チャージショット』を発動させる。
「あと三十メートル。向こうも速度を上げた!」
「構えろ」
軍曹の指示で、再び銃を持ち直す。そして木々を突き破って現れた人影。
ガドラムリストの六人パーティーだ。リリアが引き金を引きっぱなしにする。凄まじい勢いで放たれた無数の銃弾が唸り声を上げながら前衛四人に迫る。さすがに向こうも気づいていたようで、即座に回避行動に移る、が。残念ながら彼らにはリリアが持つ武器の特性と、グリネスの持つ武器の相性の良さを知らないのだ。
「『銃弾透過』」
リリアの呟きと同時に、グリネスが発砲。防御体制に入ろうとしていた両手剣士を止め。回避行動に入っていた双剣士二人と片手剣士一人がノックバック効果によって行動が停止。そこに、横一列にばら蒔かれたリリアの銃弾が直撃する。スナイパーライフルに次いで威力が高い銃器、重機関銃の直撃を食らった前衛のHPが一割減少。チャージショットの効果がある一発目はどうやら両手剣士に当たったようだ。そこまで確認した俺は、頭上を飛び越えるように木の上を渡っていく。
「『コマンド』、シュベルクが銃を持ってダッシュ! 『オーダー』、シュベルクの後ろを追尾!」
青い光を纏ったシュベルクが猛然とダッシュし、前衛のあいだをすり抜ける。このまま後衛を倒し、しかるのちに前衛を殲滅させる。作戦は上手くいっていた。
「よくやったわ。【何人たりともこの沼抜けることかなわず。 呪詛の沼地】!」
だが、前衛を抜けた瞬間現れた黒い沼地がシュベルクと軍曹の動きを封じる。
「動きさえ止めてしまえば、」
「『ダブルコマンド』! リリアとグリネスが銃を変えてサポート!」
「『ウェポンチェンジ』、【DOD】!」
「『ウェポンチェンジ』、【FSG】!」
『ダブルコマンド』は二人以上の複数人が同じ行動をするときに『コマンド』と同じ効果を発揮するアビリティだ。使いづらいこともあるが、こういう時は有用となる。『呪詛の沼地』に捕らえられた二人に向けて双剣士と片手剣士が反転して襲いかかる。が、その瞬間、リリアの隣りに出てきたグリネスがショットガンを発砲。その魔弾に込められた妨害魔法、『バインド・ソーン』が発動……ネートさんが非常によく使う妨害魔法で、対象の動きを一時的に封じ込める魔法だ。広がってゆく散弾を回避できるものなどいないため、一瞬ではあるが動きが止まる。
「ちょ、まさかそれ私が込めた魔弾!?」
「ってことは……当然、俺が込めた魔弾も持ってるっすよね……」
ネートさんとキャリシーの呟きを無視して、スコープを覗き込み、照準を合わせる。この一瞬だ。
「『ピンポイントショット』!」
スコープの中に映し出されたネートさんの体に【SLBⅣ】がの銃弾が着弾。一瞬でHPをゼロにしたネートさんの体が爆散し、キャリシーがとっても困ったような顔でこちらを見上げてきた。攻撃行動によって隠蔽状態が解けた俺は、甘んじてその視線を受け入れる。
「【燃えゆく明るき炎の調べ 我が敵を追い、焼き尽くせ! 追炎】!」
ついでに一発もらう。HPが一割ほど減少するのを見ながら、俺は【SLBⅣ】を前衛に向ける。再び魔法の詠唱を開始したキャリシー。発動者が死んだことで『呪詛の沼地』から解放されたシュベルクがその真ん前に立ちふさがった。
「『ウェポンチェンジ』、右手、『セントラル・ドグマ』!」
シュベルクがそのまま発砲すると、詠唱中だったはずのキャリシーの魔法が強制的に中断される。低確率で魔法を封じ、詠唱中の魔法を遮断する妨害魔法、『アンチマジック』が込められた魔弾だ。ちなみにこれもネートさんが込めた。
「じっとしててね、キャリシーさん!」
顔見知りである二人の戦いが始まった。『ステップ』を駆使して必死に距離を取ろうとするキャリシーを、『スタンナックル』や『崩震脚』といったアビリティで徐々に追い詰めるシュベルク。一緒に追いかけてきた軍曹が反転し、二人の邪魔をしないように戻ろうとする前衛のまえに立ちふさがる。
「『コマンド』! シュベルクが敵を攻撃! 『オーダー』! 敵攻撃を可能な限り回避しつつ反撃!」
シュベルクの体が青いライトエフェクトに包まれ、敵への攻撃行動全てにシステムの補正がかかる。シュベルクが銃を変えて放った一撃をキャリシーが必死に飛んで回避するがその回避は悪手だ。
今まで引き金を引かなかった左手の銃が火を吹く。着地しそうな場所に着弾した銃弾はその場で氷の刺を無数に生やす。待ち伏せ用氷属性魔法、『氷薔薇庭園』。敵にダメージを与えたあとに一定時間行動を封じる現在トップクラスの氷魔法だ。
「こんなのも持ってる、なんて……強いっす、ね」
「ごめんね、キャリシーさん。どうしても勝ちたいんだよ、ボクたちは……カグヤさん!」
シュベルクの声に答えて、身動きがとれないキャリシーを狙撃してそのHPを削り切る。そのままシュベルクは軍曹の援護に駆け寄っていく。軍曹が双剣士の相手をして、シュベルクは片手剣士の相手をする。先程から軍曹に隙があればキャリシーの援護に向かおうとしていたのでその度に狙撃して足を止めていた。軍曹もシュベルクも問題なく戦っている。
問題は、リリアとグリネスだ。木の上を跳びながら移動して、ようやく二人……両手剣士と双剣士を含めて四人を発見する。重機関銃は取り回しが難しいため、有効なヒットにはなかなか繋がらず、ここまで苦戦していたようだ。
グリネスに斬りかかっていた双剣士に後ろから狙撃。ろくに狙いも付けなかったのだが、未発見状態からの第一射はクリティカル確定の効果が発動し、六割ほど残っていた双剣士の体力を削りきった。しかしその状態に至ってなお、両手剣士の反応は早かった。
「ぬぅんっ!」
慌てて木から飛び降りる。あの野郎、木を両断しやがった!
「『ウェポンチェンジ』、【ファットルン】!」
軍曹のアサルトライフルに比べれば威力は低いが、仕方がない。こうなったら軍曹とシュベルクが戻ってくるまで時間稼ぎに徹するしかない。振るわれた両手剣をゴルドのときのように飛び込み前転でかわす。幸い、攻撃速度も威力もゴルドのほうが上のようだ。やれないことはない。
そのまま俺と両手剣士はしのぎを削り合う。たまにヒットするリリアの銃弾が着実に両手剣士のHPを減らしてゆく。そして、ついに。
「カグヤさん、倒してきたよ!」
「遅れたな! 『ダブルコマンド』、全員で敵を攻撃せよ!」
風がうねり、炎が猛り、氷の華が咲く。シュベルクと軍曹の魔弾が一斉に炸裂して、両手剣士のHPを削りきったのだった。
『い、一体誰が予想したでしょうかー! まさかまさかの決勝は、《戦乙女》と《軍団》の戦いだー! これはもう、銃使いは弱いという通説を完全に覆さなくてはならないぞぉー!』
実況の声を聴きながら、俺たちは会心の笑みを浮かべてハイタッチを交わしたのだった。




