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Act.19

 ガドラムリストは初心者から熟練者まで幅広い層のプレイヤーがいるギルドだ。初心者といっても全員が積極的にモンスターを倒しに行くので、今ではレベル三十以下はほとんどいないらしいが。

 対するHEROはメンバーが五人しかおらず、一人を除いて全員が後衛職だ。その一人の前衛が異様に強いがゆえに、上位ギルドに名を連ねている。


「ねえ、カグヤ……あいつのユニークスキルって確か『救世英雄(メシアヒーロー)』っていうんだっけ? どんな効果?」


「あのスキルは噂が錯綜していて、実際どんなスキルなのかわからないんだけど、確実なのがまず一つ、俺の『単身銃舞踏会(ワンマン・ガン・パフォーム)』のようなアビリティがある。名前は『光破斬』。二人を攻撃する光の斬撃だ。もう一つ、『英雄剣』。こちらは単発攻撃だが、かなり威力が高い」


 一度だけ砂蟲のすり鉢で見たことがあるが、一撃で二体粉砕してたからな。


「戦い方はいたって単純。後ろの女性四人組が、二人ずつ回復と支援担当。俺はあれ見るたびに一人ぐらい妨害魔法にいけばいいのに、と思うが……うん。受けたダメージをひたすら回復して、攻撃力を支援された英雄君が突っ込んでくる」


 あれはやられると非常にめんどくさい。後ろを狙えばいいのだが、回り込もうとすると『光破斬』が飛んできて、たいていのプレイヤーは二擊ほどで沈むらしい。


「二擊? そんなに強いの……?」


「ああ。おそらくSTR依存の攻撃力判定なんだろう。『筋力増加(パワーアップ)』を二重掛けして、通常攻撃でも四発持ったらいいほうだ」


「私たちじゃ『光破斬』食らった瞬間におわるんじゃ……」


「うーん。大丈夫だろ。トシがなんか秘策あるって言ってたし、あいつの修行にも付き合ったしな」


「修行?」


 首をかしげるリリア。そう、あれはまさに修行だった。丸一日費やして、ようやくものになった。あれがどこまで英雄君に通じるかわからないが、おそらくトシは勝つ。


「始まるぞ」


 目の前のスクリーンには、秒読みの文字が踊っていた。


『今回のフィールドは、町だぁー! しかし普通の町と違って、建物なども破壊可能オブジェクトとなっているぞー! 死角も多ければ隠れる場所も多い! これは少しHEROに不利かー!?』


 死角が多ければ必然、後衛職への奇襲を警戒しなくてはならない。しかし今回に限って言えば、ガドラムリストもかなり不利なのだ。


「ちょ……なに、あの布陣……!」


 グリネスが驚愕の叫び声を漏らす。ガドラムリストの六人パーティーのうち、三人がローブを纏った魔術師。一人は巨大な盾、人魚の島の裏ボス【黒鉄蟹】からとれる素材で作られる【黒真珠の大盾】を構えたトシだ。盾戦士は対人戦ではタゲを取ることはできないため、こういったギルド抗争イベントに出てくることはめったにない。残りふたりは軽装を着込んだ双剣士だ。

 今までのギルド抗争でもトシは参加せずに、観客として見ているだけだったはずだ。だが、相手がHEROならばトシは出てくる。なんのためにあの修行を積んだと思ってるんだ。


「挑発って、人には効かないんでしょ……?」


「違うぞ、シュベルク。効かないんじゃない、使いどころのタイミングが非常にシビアなんだ」


『第三戦! ガドラムリストvsHERO! 試合開始ぃー!』


 ギャルデの掛け声とともに試合が始まった。始まった瞬間に固まって進軍を開始したHEROに対し、ガドラムリストは戦力を分散した。双剣士二人が回り込むように全力疾走。トシと魔術師組の四人は、まっすぐ英雄……ラディアのもとに向かっていく。


 そして五分後、ついにラディアとトシがぶつかった。


「ふん。君は一体どういうつもりだい? 盾戦士が対人戦に出てきても後ろを狙えばいいだけ……対人戦に盾戦士がでてくるなんて愚・の・骨・頂!」


 はぁーはっはっは! と高笑いするラディアにムカついたのは、観客だけではなかったはずだ。だがトシは何も答えずにガシャリ、と盾を両手で持ち直した。


「まあいい。支援!」


「「はい!」」


 ラディアの体が赤い光に包まれて、STRが上昇したことがわかる。だが対峙するトシの体も青い光に包まれてDEFを上昇させる支援魔法を受けたようだ。


「喰らえ! 『光破斬』!!」


 上段に煌めく剣を担いだラディアが叫ぶ。剣を握り締める両手と剣そのものが黄金色の光に包まれる。狙いはおそらく後ろの魔術師組の後衛職、このまま攻撃を許せばトシの横をすり抜けて『光破斬』が後衛に直撃するだろう。だが、その瞬間、トシの口が素早く動いたのを俺は見た。


「なんだとっ!?」


 発動中のアビリティである『光破斬』に『挑発』が発動。強制的に対象がトシに変更される。両手剣から放たれた光の斬撃は、確かにトシの体を直撃して、それ以上後ろには進まない。二人を攻撃する『光破斬』を一点に集中させて受けたため、トシの体力が一気にイエローゾーンまで突入するが、後衛三人が唱えるかなり低位の三重回復魔法によってグリーンゾーンまでもどる。


「く、くそっ!」


 駆け寄ってきたラディアの道をふさぐようにトシが移動する。『仁王立ち』。前衛の横を通り抜ける行動を禁止するアビリティ。その範囲は左右二メートルとそこまで広くはないが、回り込もうにもそびえたつ民家がそれを許さない。


「消えろぉっ! 『英雄剣』!」


「『タートルガード』」


 大盾の後ろに身を隠したトシに向けて、黄金色の剣閃が迫る。いくら強力な単発攻撃と言っても、最前線で攻撃を受け続けるトシの防御を一撃で突破することなどできはしない。ガギャアアッン、という耳障りな音を立てて剣が受け止められる。


「【……より最高の癒しを与えたまえ、エスペリオルヒール】」


 イエローゾーンの手前まで減ったHPがすぐに満タンになる。後ろの三人の魔術師はどうやら全員が回復魔法を使えるようで、トシが身を挺して受けたダメージも瞬く間に回復していく。


「くそっ!」


「おい、後ろは大丈夫か?」


「何!?」


 左右の民家の上を双剣士の二人が駆け抜けていく。当然、それをラディアが見逃すわけもなく。


「ちっ、『光破斬』!!」


「『挑発』!」


 一秒でも遅れれば、双剣士に向けて『光破斬』が放たれてしまう、というきわどいタイミングでトシの『挑発』が発動。再び強制的に攻撃対象がトシに変更され、トシのHPが減る。しかし即座に回復魔法によってトシのHPが回復される。


 完全に嵌った。


「ちくしょう!」


 『挑発』スキルが妨害するのはアビリティのみ。そのことを知っていたのか、ラディアが背を向けて後衛のもとに戻ろうとするが。


「『シールドバッシュ』! ネート、やれ!」


 大盾が青い光を纏ってラディアの背中に直撃。一瞬硬直した瞬間に、後ろの魔術師の一人が延々と唱えていた魔法を発動させた。


「【――――何人たりともこの沼、抜けることかなわず。 呪詛の沼地】! トシ、私もう絶対回復魔法スキルとらないからね!」


「ああ、今回だけで十分だ!」


 デバフ特化だというネートさんも、今回ばかりは回復魔法を取っていたらしい。発動した移動阻害系範囲妨害魔法、『呪詛の沼地』によって二人の周囲が暗く澱んだ沼に変わる。妨害魔法は継続的にMPが削られるため、ネートさんはこれ以上回復に参加することはできないだろう。だが、英雄を捕えた。


「ふぅ、こっちが悪者みたいで嫌だが……」


「ちくしょう! ケーナ! ニア! アルシュ! マリエ!」


 沼の拘束を振りほどこうと必死になって歩を進めるラディア。だが現在最も高位の移動阻害魔法である『呪詛の沼地』の効果は強力で、抜け出すにはあと二分は必要に見えた。

 そうこうしている間に二人の双剣士が後衛を殲滅して、戻ってきた。その二人にラディアは憎悪の瞳を向けると、『光破斬』を放とうとする。


「『光破……』」


「『挑発』!」


 放たれた黄金色の斬撃は途中でねじ曲がり、トシに向かう。受けたトシのHPをあっという間に二人の回復職が回復させる。双剣士の二人がラディアに駆け寄ると同時に、ネートさんが『呪詛の沼地』を解除。


「すご……」


「完璧に作戦勝ちだな」


 二人のダメージディーラーに寄ってたかってぼこぼこに切り刻まれ、見る間にラディアのHPが減っていく。今までは後ろに回復役がいたからよかったようなものの、先に後衛職を倒されたラディアはもはや対抗することが出来ない。何回か通常攻撃が双剣士にヒットするが、即座に回復役がHPを回復させる。ならば、と放とうとするアビリティは、トシの『挑発』によって妨害を受けて双剣士には当たらない。そして一分ほどの間にラディアのHPはゼロになり、その体をポリゴンに変じて消滅したのだった。


『第三戦、ガドラムリストvsHERO戦は、ガドラムリストの勝利だぁー!』


 こうして、戦乙女、ガドラムリスト、軍団の三チームが勝ち進んだ。奇数になってしまったので、どこかがくじ引きでシードになるはずだ。そう思っていると案の定、ギャルデが声を上げた。


『さて、では戦乙女、ガドラムリスト、軍団のギルドマスターはグラウンドに集まってくれー! くじ引きでシードを決定するぞー!』


 ギャルデはどこからともなく黒い箱を取り出すと、そこにシードという文字が書かれたボールを一つとそれ以外のボールを二つ入れた。


「軍曹、行って来い」


 トシはそのままガシャンガシャン、と鎧を鳴らして箱に近づいていき、カルマさんは華麗なバク宙を決めながら観客席から飛び出してグラウンドに降り立った。観客席から拍手が鳴り響くが、ほかのギルメンは全員『やめてよ恥ずかしい!』という表情をしていたのが印象的だ。


 軍曹が困ったようにこちらを見てくる。ほかの三人が笑いをこらえていて使い物にならないので、俺が優しくアドバイスを行う。


「銃を乱射しながら、『ひゃっはぁー! 軍曹様のお通りだぜぇー!』っていいながら突進すれば?」


「…………普通に降りるとしよう」


 俺のアドバイスはどうやらお気に召さなかったようで、普通に梯子を使って降りていく軍曹。残された俺たち全員が残念そうな顔をしていたのは秘密でもなんでもない。


『三人ともボールは掴んだかー! では、引き抜いてくださーーい!』


 ズボッ、という音で三本の腕が引き抜かれる。三人がボールをくるくる回して文字がないかを確認する。


『どうやらシードは『戦乙女』に決定したようだー! というわけで、四戦目は軍団vsガドラムリスト! 二十分間の休憩時間を挟んで開催するぞぉー!!』




 ----五分後。


「よし、シュベルク。この魔弾はいざというときに使えよ?」


「具体的にお願いします」


「後一撃で敵が倒せそうなときに、敵に向けて撃つんだ」


「え? 一撃で倒せるなら魔弾を使う必要はないのでは……」


「……そうだな」


「カグヤさん!?」


 俺は個人的に持っていた魔弾の数々を仲間に配っていた。攻撃力不足を補うならばやはり魔弾に頼るしかない。フィーリアやトシが勝手に送ってくる魔弾はたまりにたまり、五十発ほどある。いつまでもアイテム欄に肥やしにするわけにもいかないので、俺はそれを皆に配る。


「魔弾を設定した銃をアイテム欄に入れておいて、使いたいときは武器を変えろ。それが一番効率的だ」


「了解した」


「私とグリネスの魔弾は楽しそうね……」


「そうだな」


「「ふっふっふっふ……」」


「妨害魔法ばっかり詰めてある魔弾を渡されてなんでそんなに楽しそうなのさ……」


 黒い笑いをこぼす二人組にシュベルクがあきれたように突っ込みを入れる。シュベルクにはダメージ優先の攻撃魔法ばかり詰めてある魔弾を渡してある。軍曹には支援魔法が込められた魔弾を、グリネスとリリアには妨害魔法が込めてある魔弾を。


 魔弾は銃によって射出するとき、その銃の種類によって、いろんなものが変わる。たとえば散弾銃で撃てば威力や持続時間が下がる代わりに魔法効果が複数回発動する。狙撃銃で撃てば範囲魔法を込めても単発魔法のように発動する。


 残念ながら銃弾には二種類しか存在せず、魔弾か通常弾しか存在しない。軍曹が散弾銃でスラッグ弾(弾が飛び散らない分、巨大な銃口から放つことが出来る巨大な銃弾)が撃てないと知ったとき、非常に残念がっていた。


「では、私から一つだけ」


 軍曹が珍しく自分から口を開いたので全員で見つめる。


「次は、ギルドで勝つ。リリアも前線にでてもらって、ガドラムリストを倒すぞ!」


「「「「了解っ!」」」」


 さあ、戦争だ。


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