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Act.1

「まずはスキルについて説明しよう。基本にして全てだからな」

説明をまとめておく。ちなみに奴が言った内容は全て妹がわかりやすく簡略メモにしてくれた。それを見た瀬高が『俺の徹夜……』と泣いていたが気にすることはない。

まず、スキルの修得限界数は無限。取ろうと思えばいくらでも取得できるそうだ。

そしてスキルにはわかっている限り四種類ある。

一種類目は職業スキル。これはレベルが15になると様々な職業、《職業クラス》を得ることができるというシステムで、それぞれの職業に応じたステータスの補正を受けることができる。ちなみに最初の職業は全員《 初心者ニュービー》だ。そして新しく職業に就くと、本来の六つのスキルスロットとは別に、特殊な職業クラススキルのスキルスロットができる。代表的なものの中に《剣士》という職業があり、『剣士の心構え』というクラススキルをセットすることができる。後述するアクティブスキルと同じ扱いになる。

次が基本となるアクティブスキル。六つあるスキルスロットにセットすることで、スキルの恩恵を受けることができる。特徴としては熟練度が存在すること、アビリティという能力を使うことができるようになることだ。例えば《片手剣術》スキルの熟練度が20になると、《ツインスラッシュ》というアビリティが手に入る。これらのアビリティは基本的に発声することで発動するが、使うという意志が伴っていないと失敗するらしい。

次が、パッシブスキル。こちらは、スキルスロットに入れなくても継続的に効果を発揮する。熟練度はなく、常に一定の効果のようだ。パッシブスキルで有名なものは《戦意》というスキル。一定数前線で敵を倒すと取得し、近距離戦を行うときにSTRとAGIが+1されるが、DEFが-2されるというもの。たかが1だが、上がらないよりはあがった方がいい。ちなみにオンオフの入れ替えもできる。それにパッシブスキルはスキルスロットを圧迫しないため、入手条件の研究もかなりされているらしい。

最後が、ユニークスキル。分類的にはパッシブスキルに分類されるのだが、全プレイヤーの中でもごく少数、つまりたった一人にしか与えられないスキル。これは謎が多いなんてものじゃなくもはや謎しかない。唯一ベータテストの時に見つかったのが《英雄》というスキルなのだが、これは後衛がいればいるほど、パーティーメンバーが多ければ多いほどステータスが上昇するというものだった。しかもその上昇値は1人につき3、パーティーは最大六人なので全ステータスが15上昇するわけだ。もはやチートである。

余談だがこの話をするとき妹も瀬高も不機嫌だった。理由を聞くと

「あの無駄に爽やかな態度が嫌い。というかハーレム築いてるのに平気で他の女を口説く根性が気にくわない」


「イケメン爆発しろ」


ということだった。なんともわかりやすい英雄だ。嫌われてるのだろうか。

最後に、スキルの修得方法について。ゲームが始まったときに、最初に持つスキルから選ぶことができるらしい。その数は多く、『魔術』『剣術』『斧術』『槍術』『霊術』『従術』『銃術』『産術』など、本当に無数に数がある。

気になって聞いてみたところ、『従術』と言うのはモンスターをテイムするスキルらしい。『産術』は出産に関係する……訳はなく、こちらは生産職用のスキルだそうだ。これらのスキルは全てアクティブスキルに分類され、ゲーム内の『スキル販売店』に行けば一定金額で変えてくれる。

というか『従術』と『銃術』音が同じなんだが。大丈夫なのか?

まあ、それはともかく。ほかのスキルは店で買うか、ゲーム内のあらゆる行動で手に入る。例えばそこら辺の採取可能な草を引っこ抜くと《採取》スキルが手に入るそうだ。もっとも、採取スキルをセットしないとたいてい採取には失敗するらしいが。

……スキルに関しての説明はこんなところか。次は戦闘について、だ。

基本的にモンスターと戦う場合、先手必勝が有効な手段らしい。猛スピードで走っていって、反応する前に武器を叩きつける。怯んだところをラッシュ、というのが近接戦闘のセオリーだ。

逆に《魔術》や《銃術》などを使う遠距離戦闘職は、できる限り離れた場所から魔法や弾を乱射して近づく前に倒すのが普通。下がりながら攻撃することも出来るのだが、命中力が下がりダメージも半減するらしい。

とまあ、いろいろとレクチャーしてもらったのだが、途中になって『やっぱ実際にやってみた方が早いと思うんだよなぁ……よし、今日の深夜十二時向こうで落ち合おう。レベル上げ付き合ってやるから。俺はトシで登録すると思うから、中に入ったら結衣ちゃんと一緒に俺をフレンド登録してくれ』などと宣い、電車に乗って帰っていった。途中でやめやがってとは思ったが、そもそもレクチャーするためだけに来てくれたのだから感謝するべきだろう。

 そして俺はそれから六時間、名前とプレイスタイルに悩みに悩んだ。一応本名であるつきという名前に従って、二つほど考えてみた。どっちかが通らない可能性も考えたのだ。偉い俺。

プレイスタイルに関しては、妹も俊哉もアドバイスをくれなかった。何をやりたいと決まったらやり方は教えてくれるが、まずはやりたいようにやってほしいらしい。ふむ……遠距離でチマチマ削るか、近距離でAGI特化にするか迷うぜ。

俺的には普段の俺通り動けないのは腹立たしいからな。素早い動きは必須だ。

……どうしようか。

23時30分。

ゲーム内で使用するアバターは、現実の体型を元にして構築するらしいのでやることはない……と思ってた俺が甘かった。ちなみにプレイスタイルはさんざん迷った挙句に銃を使うことにする。近距離戦にも遠距離戦にも対応できるというか……迷ったら転向できるしな。銃だったらどっちもありだろ。


「月兄さん、外見はいじった?」


「いじれるの?」


「髪の色と髪型、目の色とインナーの色は変更できるよ。どうする? まあだいたい予想できるけど」


「全部黒で」


俺は迷わずに即答した。なぜ黒か、答えは『黒は女を美しくする』からだ。もちろん冗談だ。

俺は両親にとても感謝している。普段は全く言わないが、人を1人育てるということがどれだけ大変なのかも理解しているつもりだ。

だから俺は自分の体は大切にしたい。これは両親から貰った最も大切なものなのだから。煙草なんて吸わないし、飲酒もしない(まあ年齢的にはまだ無理なんだが)。

 髪も染めないし、耳や舌に穴を開けるなんてもってのほか。両親から譲り受けたも

のを、きちんと残していきたいのだ。

……まあゲームだからあんまり関係ないと言えばそうなんだが。気持ちの問題だ。


「はあ……仮想現実なんだから少しははっちゃければいいのに」


「そういうおまえはどうしたんだ?」


「私? 私は髪も目も水色にしたよ」


「へぇ。回復職にでもすんのか?」


なんとなくだが、青→水→回復のイメージがある。それを正直に妹に言ったら、凄まじい返答が帰ってきた。


「ああ、それ。利用するのよ。青だと回復職っていうイメージが強いから青にして、実際のステータスはINT極振りだから、火力キャラ」

……家の妹はなんて恐ろしいことを考えるんだ。水色のメイジが後ろにいたら、たいていの人間が回復役だと考えるだろう。そして早めに潰そうと近づいた瞬間に放たれる攻撃魔法。嫌すぎる。少なくともとても驚くことは間違いない。


「じゃあ月兄さん。十二時になったら即座に『ドリフト』してね? 絶対だよ? 気づいたら寝てたとか月兄さんやりそうだから気をつけてね?」

うぐっ、それは確かにやりそうだ。じゃあ五十五分くらいまでは本を読んで時間を潰そうか……と思ったのだが、時間が気になって全く本に集中できない。どうやら俺も普段よりはテンションが高いようだ。

……五十七分になったので、いそいそと『ドリフター』の上に横になり、ヘルメット状の機械をかぶる。そして視界の右上に表示される時間を見て、その表示が24:00になった瞬間、俺は呟いた。


「ドリフトスタート……『レジリアオンライン』」


すぐさま『 漂流者 ドリフター 』が起動して、俺の意識はVRの世界に誘われたのだった。


――汝、力を求めるか?


「くそっ……どうして俺は仲間を守れないんだ! 今度こそ守ると……誓ったんじゃなかったのかっ!!」


――汝、力を求めるか?


「頼む……力をくれ。絶対に仲間を守れる強さを! もうあんな思いをするのはごめんなんだ!」


――汝、力を求めるか?


「うん、その……ごめん。やりたかっただけなんだ。許してくれ、な?」


――汝、力を求めるか?


「そりゃそうか……NPCだもんな、これ」


先ほどからずっと目の前に現れているホログラムウィンドウの、Yesの部分にタッチする。一瞬、Noと答えたらどうなるんだろうと思ったが、やめておいた。


――勇猛なるものよ。汝は、何の種族か?


は? 種族?

疑問に思った瞬間、目の前に何種類かの種族と、隣に簡単な説明が付いているホログラムウィンドウが浮かび上がった。えーとなになに……


エルフ:耳が尖っている森の種族。高いINTとAGIを持つ代わりに、DEFやVITなどは低い。魔法職推奨。


ドワーフ:頑強な大地の種族。高いDEXとVITを持つが、INTが絶望的なまでに低い。生産職か近接戦闘職推奨。


ホビット:素早い商人の種族。非常にDEXが高くAGIもそれなりに高い。ほかの能力は平均的だがINTとMDFが若干低い。スカウトやシーフなどの職業推奨。


ドラゴニア:誇り高き竜の種族。HPが高く、STRも高いが、MPが低い。ほかの能力は平均より少し低い。近接戦闘職推奨。


精霊族:実体のない、気まぐれな種族。高いDEFとMPを持つ反面、攻撃手段がほとんどない。後衛支援職推奨。


ヒューマン:特に特徴のない種族。能力は平均的で扱いやすく、満遍なく育てることで最強のキャラクターが誕生する。どこでもこなせるがソロプレイ推奨。


などなど。うーん、できるだけ外見は変えたくなかったが、ホビットはあんまり体格が変わらないようだ。選択する事に自分のアバターが変化するのだが、ホビットの特徴はその足が若干毛深いぐらいか。いろいろあったが、もっともプレイスタイルに合いそうなホビットにすることにした。シーフかスカウトが良い、みたいなことが書いてあったが、プレイスタイルは千差万別。楽しませて貰おう。

というかヒューマン、ソロプレイ推奨って。まあ弱点無いならそれが良いかもしれないけど……これ、MMORPGなんだろ?


――――汝が特技を答えよ。


現れた無数の初期スキルの中から、『銃術』を選択する。


「お? おおっ?」


俺のアバターは柔らかい光に包まれ、次の瞬間服装が一変していた。黒いシャツに茶色いカーゴパンツ。腰には一丁の銃をぶら下げている。設定はきちんと反映されているのか、瞳も髪も真っ黒だった。そして履いている靴が特徴的だ。毛皮の塊にしか見えないのだ。


「うお、結構重いな?」


銃を抜いてみるとかなり重かった。なるほど、それなりにリアリティを追求してあるらしい。


 ――汝が力を定めよ。


目の前に現れたステータス画面とおぼしきウィンドウを眺める。そこにはこんなことが書いてあった。


Class:初心者

Tribe:ホビット

種族特性:移動速度微上昇。隠密行動時隠蔽度+。

HP 70/70

MP 40/40

STR 10

DEF 10

AGI 14

DEX 20

INT 5

MDF 5

VIT 10

LUC 10

振り分けポイント:残数10

装備欄 防具

頭:なし

腕:なし

胴:黒のシャツ

腰:茶色のカーゴパンツ

足:ホビットの毛皮靴


武器:ハンドガン∞

スキルスロット1:銃術 熟練度0/1000

スキルスロット2:なし 熟練度 ――――――


この後はスキルスロット6まで空欄なので割愛。割り振りポイントがあるから、これを割り振れってことだろうな。とりあえず、特徴的に伸びているAGIとDEXを――

そこまで考えたところで指が止まる。先ほど持った銃の感触……かなり重かった。

アイテム重量に関するステータスはSTR。しかも瀬高が装備に要求STRがあるという話をしていた。もしかしたらこの先、もっと重い銃が出てくるかもしれない。そしてそれを俺が持てなかったとき、絶対俺は後悔する。


『まあ迷ったらSTRに振っとけ。STRが高けりゃ近接職に変えてもやってけるし、なんだったらアイテムの運搬係という手もあるしな!』


脳裏に悪友俊哉の良い笑顔が浮かぶ。あいつに頼るというのは癪だが、近接職になるかもしれないという思いを込めて、俺はポイントを全てSTRに振った。


――――では最後の質問だ。汝の名は?


「おっと、入力すんのか。『月詠ツクヨミ』っと」


――――汝と同じ名の者がいる。


「ありゃま。だがこの事態は予測済みさ。『月姫カグヤ』っとな」


俺はできればやりたくなかった第二候補の名前を入力する。まあ子供の頃のあだ名だし、大丈夫だろう。


――月姫。汝が未来に幸多きことを願う――


その声が聞こえたと思った次の瞬間には、俺はその空間から放り出されていた。


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