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Act.18

 控え室で目覚めた俺は、周囲を見渡す。さすがにすぐに倒されたのが堪えたのか、リリア以外が落ち込んでいるようだ。


「……よし、気を取り直そう。近距離戦であれだけ戦えれば十分だ」


 わかっていたことだった。銃の決定的に不利な点は、その攻撃力の低さにある。威力は銃自体の攻撃力とDEXの値によって決定される。スナイパーライフルやアンチマテリアルライフルはその銃の攻撃力が高く設定されているため、相手に大ダメージを与えることができるが、ショットガンを始め銃のほとんどは威力が低い。なにより、こちらがレベルが五十前後なのに対して、あちらのレベルはおそらく全員六十前後。


「……軍曹」


 声をかけると、軍曹が顔を上げた。


「反省会をしよう」


 憔悴した面持ちで、軍曹は頷いた。



    ==================



『まさかまさかの番狂わせが起きた第一試合! 二試合目は、《ムキムキ☆筋肉団》VS《戦乙女》! おそらく観客のほとんどが期待していなかった組み合わせだぁー!』


 観客席の中段あたりにある解説席から、ドラゴニアの女性が飛び出すのを見ながら反省会を開始する。


「正直、最初にゴルドを狙ったのは俺の判断ミスだったかもしれん。きちんと魔術師から狙うべきだった」


 まあ、理由はあったのだが。四人でゴルドと戦えばあんなに苦戦することもなく、単身銃舞踏会を使う必要もなかったかもしれない。


「いや。仮定の話をしていてもしょうがない。銃のスキルについては情報が少ないから、おそらくまだ『単身軍隊』がユニークスキルだとは気づかれていないはずだ。それに初の対人戦ということで私もグリネスも緊張していた。動きが悪くなかったのは、シュベルクとカグヤぐらいだろう」


 軍曹がそれを諌める。シュベルクは過去に決闘(デュエル)を積極的に行なってきた。その行為のおかげで安定して戦えたのだろう。尤も、レベルが低いせいで範囲魔法で吹っ飛んでしまったが。


「次はきちんと後衛職から倒す。軍曹は指示を忘れない。魔法の詠唱が完了しそうになったら回避に徹する。こんなところか?」


「次回は相手が《戦乙女》以外ならばリリアも前線に出そう。隠密して来るのはそのギルドくらいなのだろう?」


 軍曹の提案に頷く。そして俺たちは眼下の戦いを集中して見始めた。


「HAHAHA! 筋肉っ!」


「鬱陶しいわ!」


 上半身裸の男がカルマさんと向き合っていた。今回のフィールドは砂浜。軽業スキルを駆使するカルマさんは踏切がうまく行えず、イライラしているようだ。もちろん、七割以上は相手のせいだろうが。


「むぅ……確かにあれと戦って冷静さを保っていられるかと言われると、難しそうだな……」


「いや、軍曹は大丈夫でしょ。俺は突っ込むけど」


「でしょうね」


 グリネスは突っ込むと断言し、リリアがそれを肯定した。確かにあの集団は非常にムカつく。戦闘はパーティーVSパーティーになっているようで、カルマさんのうしろには四人の人間が控えている。その中には水色の髪も見えたのだが、フィーリアは高速で何かを詠唱していた。


 一週間前に聞いた限りでは、彼女のスキルは『氷属性魔法』『魔力増加』『魔法威力増加』『早口』『範囲上昇』『冷却時間短縮』だったはずだが、俺はこのラインナップを聞いたとき妹のあまりの特化っぷりに驚きを隠せなかった。こんなに攻撃的な妹だっただろうか。まあ俺も大概かもしれないが。


 魔術師が使う魔法には八つの属性がある。炎、氷、風、雷、土、闇、光、無だ。


 これは最初から最後までだいたい同じような魔法が続く。攻撃魔法しか覚えない。


 次が、治癒魔法だ。名称通り味方のHPを回復させる魔法を使うことができる。


 そして、支援魔法と妨害魔法。味方を支援して敵を妨害する魔法をそれぞれ覚えることができるが、支援魔法は多くのプレイヤーが取る。反対に妨害魔法はあまり人気がない。銃ほどではないが、スキルの埋め合わせ的に取る人がほとんどだという。理由は拘束中にMPが継続的に減っていくこと、相手のSTRを下げるなどの妨害魔法も継続的にMPが減っていくことだ。それなら時間制限があるかわりにMP消費が一回で済む支援魔法のほうが、となったわけだ。もっとも、妨害魔法をきちんと使い続けているプレイヤーも少なくはないが。



「お、動くようだぞ」


 軍曹の言葉に、意識を闘技場に向ける。ちょうどフィーリアの詠唱が完了したようで、筋肉どもがいる地点を中心に、凍てついたフィールドが広がっていく。あれは範囲内に存在するプレイヤーのHPを削り続ける魔法で、氷属性魔法の十八番と言っても良い。


 HPが減少していくカルマさんには、カンナギちゃんが『ライフ・リターン』を発動させていたようで、減った端から回復していく。『ライフ・リターン』は一分間のあいだ継続的にHPを微量ながら回復し続けるアビリティ。


「はっはっは! 我らの美しき筋肉を凍らせて彫像にしたいのだな! 皆! ポーーージングッ!! サイドチェスト!!」


「「「「応っ!!」」」」


 リーダーらしき人物の掛け声に応じて、四人が胸の厚みを強調するサイドチェストを行う。体を捻ってこちらに顔を見せて、白い歯がキラッと光る。


 本当にあいつらは何のためにギルド抗争に出てきているのか理解に苦しむ。


「ていうか、なんでこのゲームやってんのかしら?」


 ……確かに。ベータテストのときからいたようだが、運営が用意したネタキャラクターなんじゃないだろうか。しかも確実に今、戦乙女の喧嘩っぱやい二人が切れた。


「『居合切り』っ!」


「きかーーんっ!」


 いや効いてるから。HP減ってるから。確かにカルマさんの刀は体の表面で止まってるし、そんなにHPも減ってないけど。その後ろでは超高速詠唱しているフィーリアの姿があった。


「武器固有アビリティ発動! 『王妃の命令』! 疾く死ねっ!」


 氷属性魔法の威力を三十%プラスし、使用MPを十%マイナスするという凶悪なアビリティを発動させて、氷魔法を放つ。その魔法は『凍薔薇(ブリザードローズ)』。俺も魔弾に込めてもらったことのある強力な魔法なのだが……あれは単体を目標に発射される、単発魔法のはず。この状況ではどう考えても範囲魔法を撃ったほうが効率的なのに……


 と俺が考えている間に青白い光弾が放たれ、緩やかな軌道を描いて筋肉リーダーに直撃。咲き誇る青白い薔薇によって、おそらく即死……という俺の予想は裏切られた。そのHPバーを見て俺は驚きに目を見張る。ギリギリでイエローゾーンでとどまっている。全身が裸同然なのに(というか上半身は完全に裸なのに)強力な単発魔法のダメージをあそこまでダメージを抑えられるものだろうか。


「見たか! これが頭装備及び足装備及び胴装備及び腕装備を外しているものの筋肉防御力を極限まで上げる! その名も『決死の裸』!」


 おい、このゲームのスキル担当者出てこい。

 両手を上げて仁王立ち。ダブルバイセップス・フロントだ。だからなんだ。


「ていうか要するにあいつは腰装備しかしてないってことよね。いや、わかってたけど……」


『これが筋肉の力!! 異様なDEFとMDFを誇るムキムキ☆筋肉団の力だぁー! 毎度毎度攻撃もせずにひたすらポージングを行う筋肉野郎どもにちょっとイライラしてきたぞー! 筋肉野郎どもに激しい攻撃を加える戦乙女を応援しているのはおそらく観客の九十九%だ!』


 リリアの呟きをかき消すように、公平なはずであるギャルデまでが叫びだす。気持ちはわかる。


「はっはっは! 時代の先を行く者は常に常人には理解されないものよ!」


「面倒くさい……」


 ぼそっと呟いたカルマさんではない前衛の人。名前や種族までは知らないが、確かそのダウナーなテンションで隠れファンを大量に持っていたはずだ。でも武器は双剣。


「もうやだよぅ……」


 泣きそうな顔になりながら、巨大な大剣を振るう小柄なドラゴニアの少女。ドラゴニアのプレイヤーは頭に小さな角が二本あるので、よくわかる。確かヒーラーのカンナギちゃんと一緒に『守ってあげたい女性プレイヤーランキング』にトップ入りしていたはずだ。残念ながら守ってあげたいと言っている男性の大半が彼女に勝てないだろうが。

 リーダーを相手にしているカルマさんの両脇で、筋肉二人を相手に器用に動き回っている。と言っても、まれに繰り出される攻撃のようなポージングを警戒しているだけだが。


「むぅ! 総員、アブドミナル・アンド・サイ!」


「「「「応っ!」」」」


 リーダーの声に応じて、全員が両手を頭の後ろに組んで歩き出す。何かをするのかと思った戦乙女の前衛が慌てて飛びすさるが。


「…………?」


 何も起きない。


「……っ! ネル! キャネ! あれは――――」


 カルマさんがなにかに気づいたように声を上げる。



「――――ただのポージングだっ! 殺れぇぇぇ!!」



 額に浮かぶはずのない青筋を浮かべて、カルマさんが突進する。まあ、キレる理由はよくわかる。なまじ相手に騙す気など何もないことが余計に苛立ちを助長したのだろう。


「『居合切り』!」


 青いエフェクトを纏って右手で腰の刀を抜き打ち。カルマさんはかなり有名なプレイヤーなので、情報が多い。彼女のレベルは六十三、職業は『連撃のサムライ』。その職業のクラススキルが、彼女の強さの一因となっている。アビリティ『居合切り』によって振り払われた刀は、現在体の右側にある。本来ならばそこで硬直時間を課せられるが、『連撃のサムライ』のクラススキル、『繋がる一撃』が効果を発動。

刀が今度は明るいオレンジ色の光を纏い始める。


「『真一文字』!」


 慣性の法則を無視してアビリティが発動。反転した刀がもう一度横一線にリーダー格の筋肉を切り裂く。左手で握りしめていた鞘を後ろに持って行き、筋肉に対して半身の状態になる。


「『鞘突き』!」


 華麗に一回転を決めたカルマさんの左手の鞘が青いライトエフェクトを纏って筋肉に叩き込まれる。


 アビリティを繋げる。それが『繋がる一撃』の効果だ。当然相性によっては繋がらないスキルもあるが、最大二擊までは硬直時間を無視できる。最後だけは使用して繋げたスキルの合計硬直時間の半分の硬直時間を課せられるが。


 さらにそこにフィーリアの範囲魔法が直撃してようやくリーダーの体が爆散する。同時に、試合終了を告げるブザーが響き渡った。


「え? なんで……」


「ムキムキ☆筋肉団の陣地を見てみろ」


 言われた通りにグリネスが陣地の方を見るのを確認してから、俺も視線を向ける。残っていた筋肉をおそらく急所を何回か短剣で刺して倒したのであろうヒュミちゃんが、仏頂面で佇んでいた。


「すごいな……あれだけ防御力が高かった筋肉の一人をたったひとりで援護もなしに倒したのか」


 軍曹が驚嘆するのも無理はない。さて、次は残った組み合わせ的にガドラムリストvsHEROである。









「カグヤ。カグヤならあれと同じことができるんじゃないか?」


「出来ないことはないと思うが……あのさ、銃って発砲音あるじゃん? しかも俺が狙撃手ってことはバレたわけで……」


「ああそっか。しかもカグヤがそっちにいるって分かれば……」


「そ。多少のダメージを無視しても戻ってくるだろうね。今度は武器を変えるまもなく囲まれて終了。三分も持たないだろう」


「陣地に陣取って狙撃は?」


「陣地の横から回り込まれたら射線が取れないし、入口じゃあ占拠していることにならないだろう? それになにより……」


 俺はニヤリと笑う。


「お前らそんな勝ち方したいのか?」


 ハッとして様子で口を噤む四人。俺たちはゲームを楽しみにきたんだ。楽しまなきゃな。



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