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Act.17

 スコープを覗いて、悠然と砦の中から出てきた人影を確認する。二つだ。ひとりは重厚な金属鎧を着込んだ両手剣士の男。もうひとりは灰色の地味なローブを纏った魔術師の女性。

 魔術師の唇がわずかに動くが、かなり離れている俺のところまで声は届かない。


「…………っ!?」


 おそらくは支援魔法なのだろう。一言も言葉を交わすこともなく、両手剣士……ゴルドの体が緑色のライトエフェクトに包まれる。次の瞬間、地面を蹴ったゴルドの体は猛然と突進し、グリネスへ向けて大剣を振りかぶっていた。

 咄嗟にグリネスはショットガンを向けて発砲するが、重量系の戦士であるゴルドの体は容易には止まらない。動いているゴルドの姿を狙撃銃の銃口で追いかけるが、追いつけない。アクティブスキル『支援系魔法』の魔法(アビリティ)……おそらく『速度増加(ブースト)』だろう。あれは『支援魔法』の熟練度が高ければ高いほど速度が上がる魔法だったはずだ。


「ふんっ!」


 振り下ろされた大剣を、辛うじてグリネスが回避する。右肩をかすめて地面に突き立った大剣が土砂を撒き散らす。恐ろしい程の威力だ、かすめただけでグリネスのHPが一割以上削れている。

 だが、攻撃するために動きが止まった。狙撃チャンス。

 一撃必殺にはならないが、弱点に照準を合わせている余裕はない。攻撃を終えたゴルドの唇が動く。


「……『ガードスタンス』」


 引き金を絞った瞬間、反動が俺の体を叩く。直進した鈍色の銃弾がゴルドの体に向けて飛翔する。さすがに一撃死というわけにはいかないだろうが、四割は削ってみせる――――という俺の予想は見事に裏切られた。地面に叩きつけられたはずの大剣がゴルドのもとに引き寄せられていく。


「まずい……っ!!」


 ガギャアアアンッ、という耳障りな擦過音を響かせて、大剣の腹が銃弾を後ろに受け流した。


 両手剣専用防御アビリティ、『ガードスタンス』。アクティブスキルの『弾き防御(パリィ)』と『受け流し』と『剣術』をスキル融合させて生まれる『剣防御術』の、アビリティ。単発攻撃に反応して自動で防御するアビリティだ。当然使用後には三秒ほど硬直が課せられるが、狙撃手にとっては最悪の防御術。


「見つけたわよ……【燃えゆく明るき炎の調べ 我が敵を追い、焼き尽くせ! 追炎(チェイスフレイム)】!」


 後ろの魔術師、ユリナから放たれた追尾魔法が俺を狙う。アクティブスキル『炎属性魔法』の魔法(アビリティ)だ。


「くそっ! これだから魔法は嫌いなんだ!」


 攻撃魔法には様々な種類があるが、その中でも追尾魔法が俺は一番嫌いだ。やはり魔術師から狙うべきだったか、と思ったが、ゴルドのHPを大きく削れるのはおそらく俺の武器のみ。ゴルドを俺が引きつけて魔術師は軍曹達に倒してもらおうと思ったのだが。


 この魔法は射程距離が存在しない代わりに、目で敵を一秒以上見てターゲットを行う必要がある。そして、回避方法は『ステップ』などの回避用アビリティを駆使した高速軌道で地面やオブジェクトにぶつけるしかない。生半可な速度では避けきれないのだ。中途半端にAGIを上げている俺では避けきれない……噂では『神速の踏破者』が通常ダッシュだけで回避に成功したと聞くが。戦乙女のヒュミちゃんのことだ。


 迫る炎の弾を甘んじて受け入れる。避けようとしても避けることはできない、ならば。


「ウェポンチェンジ、【ファットルン】!」


 ちょこちょことお世話になっているアサルトライフルに武器を変更して草原を突っ走る。当然追尾してきたチェイスフレイムが俺を背中から包み込み、一気にHPの二割が削られる。俺はシュベルクやグリネス、ダッシュスキルを持つ軍曹ほどではないが、移動速度増加の効果がある蹴術とホビットの種族効果によって、それなりのスピードで疾走する。


「【燃えよ 揺らめけ 空に満ちる炎よ】」


「【我は突き進む ノットバックチャージ】」


 ユリナの声に続くゴルドの声を聞いて驚愕する。


「自己強化魔法……!」


 継続的にMPを削られるため、戦士職ではMP切れが早く、使いづらいと言われていたスキルだ。ゴルドの体を銀色の光が包み込み、自己強化魔法が発動する。とっさにファットルンの引き金を引きそうになるが、まだ距離が遠い。ここにきて俺は選択肢を間違えたことに気づいた。俺はとどまって狙撃するべきだったのだ。いくら場所が露見したといっても、大威力と超速度の利点まで失われたわけではない。では今から距離をとるか。一瞬動きが止まる。その瞬間、ゴルドが動いた。


「……『突進風車(チャージウィンドミル)』」


 何かを呟き、猛然と地面を蹴っての突進。重量では大きく劣るはずだが、その突進はあの【厚皮の犀】を彷彿とさせる。


「があぁっ!!」


 赤い光を纏ったゴルドの体が最も近くにいたグリネスに直撃。凄まじい勢いに弾き飛ばされたグリネスのHPが、双剣士との戦いで消耗していたこともあって、一気にレッドゾーンに突入する。


「ぬぅっ!」


 さらに突き進む先には軍曹の姿が。軍曹が咄嗟に回避行動をとるが、軍曹の寸前でゴルドの体が止まった。両手で握り締めた大剣を前につきだし、その勢いのまま一回転して周囲をなぎ払う。その慣性を無視した動きにようやく気づいた。あれはプレイヤースキルではなく、一つのアビリティなのだ。


 軍曹のHPがみるみる減っていき、こちらも一気にレッドゾーンへ。


「なかなかレベルは高いようだな……だが、そこまで削れば十分」


 当然、アビリティには技後の硬直時間がある。あんな大技にそれが設定されていないはずもなく、強制的にゴルドの体が停止する。そこに軍曹とシュベルクが――――


「行くなっ!!」


 叫ぶが、間に合わない。


「【焼き付く天の怒りを受けよ! 天炎雨(フレイムレイン)】!」


 詠唱が完了した炎の範囲魔法が軍曹たちをおそう。空が紅く染まり、上空より二十数発の炎の塊が降り注ぐ。まだ着地したばかりのグリネスや既に前傾姿勢になっていた軍曹とシュベルクにそれがよけられるはずもなく、数発ずつ直撃。全員がHPをゼロにして、その体を爆散させた。俺はその光景を見て、体が止まった。脳の表面を流れる、薄っぺらい思考。


 逃げろ。陣地にもどってリリアと一緒に戦おう――――近づきすぎた。逃げきれない。魔法で足止めされて大剣で切られて終わりだ。


 ならばどうする? 戦うのか。こんな近距離で。


「ふむ。まさか四人がやられるとは思わなかった……これは、銃の評価を見直すべきだな」


「そうね。こんな高威力の武器が存在するなんてね」


 二人の会話も、実況も、観客の歓声も頭に入ってこない。どうする? と、その言葉だけが俺の頭をめぐる。


 何が足りない? 数が。相手は二人だ。せめてもう一人残っていれば、どちらかがゴルドを抑えてもう一人がユリナを倒しに行けたのに。どちらかが倒れれば俺たちにも勝ち目があるかもしれなかったのに。


 思考が、繋がった。


「……完敗だな。だが悪あがきはさせてもらうよ」


「そうでなければ面白くない」


「ウェポンチェンジ、【SLBⅣ】! ウェポンチェンジ、【セントラル・ドグマ】!」


 一度狙撃銃に変えてから、素早くハンドガンの【セントラル・ドグマ】に切り替える。近距離で戦うんだ、ハンドガンのほうがいいに決まってる。


「『崩震脚』!」


 右足が真っ青なライトエフェクトを纏って、地面に叩きつけられる。揺れる地面に足を取られながらも、ゴルドの視線はまっすぐ俺を向いていてひるむことはない。


「ウェポンチェンジ、【FB】!」


 短い、短すぎる隙をついて武器を再び狙撃銃に。ウェポンチェンジは同系統の武器に変更するとき、その装備の状態で出てくる。右手で構えた【セントラル・ドグマ】が消え、右手で支えるように【FB】が現れる。照準はすでについている。迷わず引き金を絞るが、寸前にゴルドの唇が動いた。


「『ガードスタンス』」


 アビリティによって大剣が銃弾を受け流す。かなり耐久値を削っているはずだが、そんなことは気にした様子もない。俺もそんなものは狙ってない。


「……どうやらその武器にも欠点があるようだな」


 俺のHPバーを確認して呟くゴルド。【FB】の使用に伴い、俺のHPは一気に四分の一まで落ち込んでいた。


「ウェポンチェンジ、【セントラル・ドグマ改】!!」


 NPCが店売りしている商品は基本的に一段階しか強化できない。見た目は全く変わらないセントラル・ドグマ改が右手に現れ、次の瞬間に襲いかかってきたゴルドの大剣を身を捻ってかわす。かすめただけでも致命傷である。俺は即座にセントラル・ドグマ改を自分の体に向けて引き金を引く。銃弾を通常の物から変更していたため、高位の回復魔法を込められた魔弾が俺の少ないHPを六割以上回復させる。だがここでユリナの詠唱が完了し、連炎(ストリングフレイム)が俺めがけて襲いかかる。ストリングフレイムは二十発にも及ぶ炎の弾を連射する魔法。威力は低いものの、俺が食らえば致命傷だ……しかも放った後からでも手の位置を変更することで敵を追いかけることができる。


「ウェポンチェンジ! 【アルトリッター】!」


 新たなハンドガンが右手に現れ、俺はその銃口を足元に向ける。リサの作品だが、意外と素材が珍しく、一丁しか持っていない。即座に引き金を絞って魔弾を射出。

 地面に着弾した魔弾から、すさまじい勢いで土が伸びる。即時発動する魔弾が作り上げたのは、横に広い土の壁だった。炎の弾丸が壁に激突するが、『万能魔術師』に込めてもらった土属性防御魔法はそんなことでは壊れない。


「えっ……」


 ユリナの驚きの声など気にしている余裕はない。魔法を止めても決して不利が変わったわけではないのだ。壁を回り込んできたゴルドの一撃を飛び込み前転でかわす。アルトリッターにはあの魔弾しか込められていないため、この銃で応戦することはできない。回避に徹する。


「ウェポンチェンジ、【SSG(ショック・ショット・ガン)】! ウェポンチェンジ、【DOD(デッド・オア・デストロイ)】!」


 一度装備をショットガンに変更してから、重機関銃に切り替える。装備はできる。だがそのあまりの重量に俺の足がふらつく。狙撃銃よりも高いSTR要求値をもつ重機関銃の重さに耐えきれなくなり、俺はその場にひざを突いた。こうなることはわかっていた。だから【DOD】にするのは最後にしなければならなかった。


「これで終わりか。……頑張った方だと思うぜ俺は」


 ゴルドが言いながら大剣を振り上げる。その大剣を目に写しながら、俺は口を開いた。


「俺の、勝ちだよ。アビリティ発動……『単身銃舞踏会(ワンマン・ガン・パフォーム)』」


 轟音が響き、今まさに振り下ろそうとしていた大剣が、弾き飛ばされる。呆然とからになった両手を見て、ゴルドが声を上げようとして、目の前に広がる光景に度肝を抜かれた。


 俺の周りに重力を無視して浮かび上がる七つの銃。


 【FB】。


 【SLBⅣ】。


 【セントラル・ドグマ】。


 【セントラル・ドグマ改】。


 【アルトリッター】。


 【SSG】。


 【DOD】。


「ギリギリだった……いつ気づかれるかと思ったよ」


 不自然に短い間隔でウェポンチェンジを繰り返す俺は、怪しさ満点だったに違いない。そしてようやく、『単身銃舞踏会』の発動条件を満たすことができたのだ。




 スキル:単身軍隊(ワンマンアーミー)

 一人で軍団に近い力を行使する者。その指揮者の力が、数多の銃を操る。

 入手条件:全プレイヤーの中で一番最初に、三種類以上の銃でモンスター二百体を討伐する。戦闘中に三回以上武器を変えたことがある。

 効果:熟練度に応じてアビリティ使用可能。

 スキル熟練度:0030/1000

 スキル種類:ユニーク

 使用可能アビリティ『単身銃舞踏会』……計七つの銃器を展開し、自らの意思でその銃を操ることができる。展開される七つの銃は五分以内に変更された銃七つを参照する。発動中は武器が持つデメリット効果及び装備条件、武器固有アビリティを無効にし、発動中はアビリティを使うことができない。なお、発動中発動者は発動した場所から動くことはできない。


 ※警告!! ユニークスキルはPKされた場合PKしたプレイヤーのもとに熟練度を0にして移動します!!


 七つの銃口がそれぞれの方向を向いている。たったいま大剣を弾き飛ばしたのは、【FB】と【SLBⅣ】だ。苦労しただけあって、その力は実に強い。同時狙撃という本来なら絶対にできないはずの妙技。スナイパーライフルとアンチマテリアルライフルの二発の銃弾の衝撃が、ゴルドの手から大剣を弾き飛ばしたのだ。


 さらに追い討ちをかけるように、飛んでいった大剣は空中でその身をポリゴン体となって爆散する。【SLBⅣ】と【FB】の銃弾を合計二発ずつ受けたのだ。耐久値が0になってもおかしくはない。


「凄まじいスキルだな。頻繁に武器を変えていたのはそのためか」


 苦笑するゴルドから意識を逸らし、俺はだんまりを決め込んだ。【SLBⅣ】と【FB】が空中で回転し、遠方に存在するユリナへとその照準を合わせる。


 轟音。


 再びほとばしった火線が、二直線にユリナに殺到する。避ける暇もなく、その体はポリゴン体となって爆散した。


「できるだけはやってみよう、か!」


 突進してくるゴルドに再び意識を戻し、まだユリナの方向を向いている二つの狙撃銃の照準を引き戻しながら五つの武器をゴルドに向ける。【DOD】から無数の銃弾が放たれ、その連続でヒットする銃弾に少しだけゴルドの体が押し戻される。さらにそこに【SSG】の銃弾が多段ヒット。単体では止められない突進も、複数の銃が集まれば押し止められる。


 ようやくゴルドの方向を向いた【FB】がその銃弾を放つ。だがその銃弾は狙いをそれ、右腕を吹き飛ばすだけで終わった。複数の武器を同時に操るのは至難を極める。再び放った【SLBⅣ】の銃弾はわずかに頭部の右横を通り過ぎていった。


「があああああああっ!!」


「う……おおおおおおおっ!!」


 俺も叫び声を上げる。万が一にでも制御を失って、銃が浮かぶだけの鉄の塊にならないよう、操作を続ける。脳内で思考を変換。【セントラル・ドグマ】【セントラル・ドグマ改】【アルトリッター】の操作を放棄。余裕ができたのでゴルドのHPバーを確認すると、もう少しでレッドゾーンというところにまで落ち込んでいた。だが『単身銃舞踏会』の使用時間は三十秒。そろそろ尽きるころだ。そしてレッドゾーンまでHPを減らしながらも、ゴルドは狙撃銃と重機関銃、散弾銃の射程をかいくぐり、俺の近くまで接近していた。


「抜けた、ぞ」


 ここまで近づいてしまえば、ハンドガンしか使うことはできない。いくら三丁あるとはいっても、HPを一瞬で0にすることはできない。そう思って会心の笑みを浮かべるゴルドの背後で、俺の相棒が回転する。


 意識を集中させて、ゴルドの腹の部分の背中に照準を合わせて――――発砲する。


 【SLBⅣ】が炸裂音を響かせて、弾丸を吐き出す。その弾はゴルドの腹を貫通し、HPを吹き飛ばす。そして、俺に着弾。当然紙装甲の俺にその大威力を受け止められるはずもなく、あっさりと俺のHPも0になる。



 相討ちか、と心の中で思いながらも、こちらには陣地に残ったリリアがいる。ギルド抗争は、こっちの勝ちだ。そんなことを考えながら、俺の意識は闇に沈んだ。





 ギルド抗争イベント初戦、《守護騎士団》VS《軍団(レギオン)》――――勝者、《軍団》。



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