Act.16
「間に合ったか……」
「うむ。ギリギリでな」
始まりの町の最西端に、そのドームはあった。通称闘技場――――正式名称『ヴァーチャルバトルグラウンド』――――に、俺たちは集まっていた。ギルド抗争イベントには五千の参加費が求められ、普通ならば弱小ギルドは参加しない。優勝できないならば恥をかいたあげくに五千Eをどぶに捨てることになるからだ。今まで三回のギルド抗争が開催され、一回目は守護騎士団、二回目はガドラムリスト、三回目はHEROが優勝していたはずだが、今回優勝するのは――――《軍団》だ。
できる限りレベル上げに勤しんでいたせいで、登録するのがギリギリになってしまったが、これでいい。今回の参加ギルドは《HERO》《戦乙女》《ムキムキ☆筋肉団》《ガドラムリスト》《守護騎士団》、そして《軍団》の6つ。奇数の場合は前回優勝ギルドが、前回優勝ギルドがいなかった場合はランダムでギルドが一つシードに選出される。
「勝てるか?」
「人数が一人足りない……レベルはだいたい5ぐらい下か」
否定的な要素を並べる。が、勝てる要素も勝算もないわけじゃない。
「こっちを警戒しているのはガドラムリストと戦乙女ぐらいのもんだ。そして俺たちの情報は向こうにはない。混乱に乗じて倒せばいい」
いざという時は、切り札である『単身銃舞踏会』を切ることすら視野に入れて、もう一度作戦を確認する。お互いに対戦相手のことはわかっているので、相手は困惑しているはずだ。聞いたことのないギルドが参加してきた、とな。
「初戦は守護騎士団……撃ち抜いて、進むぞ」
「「「おうっ!」」」
「別に気にしているわけじゃないんだが……ギルマスは私だったような気が……」
軍曹の呟きをスルーして、俺たちは拳をつきあわせた。
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『レディィィィスアーンド野郎ども!! 今日の司会進行もギャリデ様が務めさせてもらうぜぇぇぇぇぇ!! 今消えろとか引っ込めぇって言った奴顔覚えたかんなぁぁぁ!』
闘技場名物、やたら絶叫する司会である。彼もまたプレイヤーの一人なのだが、なにがどうなったのか闘技場で行われるイベントの司会役を毎回務めている。彼がいないと非常に味気ないシステム音声によってスタートするので、重宝されている。
『第一戦は! そのメンバー数は二百を越える、誰でも一度は聞いたことがあるでしょう! そのぅ名も、守護騎士だぁぁぁぁぁん!! ヴァーサァァァァァス………』
オオオオオッ、という観客の歓声にあわせて、闘技場の赤く塗られた扉が開く。観客は大半が痛みを恐れて強いところにはいかないプレイヤーが、ゴブリン狩りで手に入れたお金で見に来ている。もしくは、大手ギルドの偵察隊か。
『経歴不明! メンバー数は僅か五人! 超超小規模ギルド、その名も《軍団》!! おぉっと、別に我らがアイドル、《戦乙女》をバカにしたわけじゃないからファンの方は物を投げないでくれよ!! 一般的にギルメン五人は少ないだろう!! でーは、そのギルマスである軍曹に話を聞いてみよう!』
初参加のギルドは、こうして何かを話す機会が設けられる。その多くは勧誘だったり、意気込みだったり、ギャグに走ることもある。
『ではズバリ、軍曹さん! 勝つ自信は!?』
「無論、ある」
自信に満ちた断言に、観客席がどよめく。そのどよめきを突き破って、一つの声が観客席から降り注いだ。
「《軍団》ってあれだろー!? 掲示板で銃使いを募集してた弱小ギルド!!」
観客の中にあの掲示板のメンバー募集を見ていた人がいたようで、そんな罵声が浴びせられた。それに便乗するように様々な声が放たれ、そのほとんどが無理だ、とか引っ込めとか、金返せといったものだった。金返せは賭博の話だろう。だがギャルデからマイクを奪い取った軍曹が、大声を張り上げた。
「――――――我らレギオンは銃使いのみで構成されたギルドである!」
静まりかえる闘技場。そうだ、軍曹の声には重みがある。思い知るがいい、ここから――――反撃だ。
「――――――貴様らは今日この日に思い知る。地雷、ハズレと言っていた銃使いがどれだけの力を持つのか……目を開いてしっかりと見るがいい。自分たちが馬鹿にした力に蹂躙される悔しさを味あわせてやる!」
軍曹が激しく断言する。しっかし軍曹もあんな怒った声出せるんだな……やっぱりいろいろあったんだろうか。軍曹は言うだけ言ってマイクをギャルデに突っ返す。慌てて受け取ったギャルデが、マイクを口元に持って行く。
『――――い、いやぁ、盛り上がって参りましたぁぁぁ!』
ふざけんな! や、逃げんなよ! といったヤジが観客席から飛んでくる。それらを完全に無視して、ギャルデは進行を進めた。
『さて、ここでルールを説明だ! 今回のバトルは、“陣取り合戦”!! お互いのギルドがそれぞれの陣地を一定時間占拠することが勝利条件となる! 真っ正面から突っ込むもよし! 陽動して不意を打つのもよし! 全滅させて陣地を占拠しろー!』
ブォン、という音とともにグラウンドの両端に赤と青に色分けされた、頑丈そうな陣地が現れる。陣地の中は見えないようになっているが、陣地から出る場所は一カ所で、出ればすぐにわかるようになっている。
『開始まではちょうどあと十分! 十時から開始されるぞー!』
では、準備してください! という声に従って、レギオンのメンバーも守護騎士団のメンバーも陣地の中に入っていく。
「……では、これより作戦会議を開始する。私とグリネスとシュベルクは固まって行動。リリアは陣地の防衛。カグヤは援護と遊撃」
「おっけー」
「了解」
「わかった!」
「任せろ」
作戦会議は始まって五秒で終わった。そもそもがそれぞれの動きをパターン化して頭に叩き込んでいる。臨機応変に動けばいいだろう。向こうの陣地からは派手な赤や青のライトエフェクトがみえている。この十分を利用した支援魔法だろう。
「『隠密行動』」
十五秒陣地の影にしゃがみ込み、軍曹に隠密行動が成功したかどうかを、微妙に視線を逸らしながら確認してもらう。前は喋れなかったが、隠密の狙撃手になってから喋っても隠密が解除されなくなった。
二次職には他に三つの選択肢があったが、俺は隠密を選択した。
必中の狙撃手。ステータスのDEXに補正がかかるが、現状DEXには不自由していない。ロックオン、という言葉には少し惹かれたが、内容は銃弾が追尾する代わりに威力が三分の一という微妙な内容だった。しかも、銃の命中力は銃自体の射程距離が大きく影響し、射程距離内で狙いがブレていなければほぼ当たる。却下。
即死の狙撃手。狙撃銃による攻撃すべてに即死属性を付与するが、そもそもスナイパーライフルやアンチマテリアルライフルは威力が大きい。弱点に直撃さえさせれば、たいていのモンスターは倒せる。却下。
破壊の狙撃手。これも部位破壊や道を塞ぐ岩などを砕くときに耐久値へのダメージがプラス二十%されるが、そもそもアンチマテリアルライフルは名前通り『物体すらも破壊する』ことを目的に作られた銃である。スナイパーライフルでもモンスターの右腕を吹っ飛ばせることは確認済みで、これはたいしておいしくない。却下。
そして隠密の狙撃手。これを選んだ最大の理由は、隠密行動は対人戦においてかなりの力を発揮させるからだ。モンスターは大威力の攻撃を食らうと目標をダメージを与えたプレイヤーに変更するが、プレイヤーが相手ならばその心配はない。しかもHPが多いボスモンスターのHPすら五割以上を削り取る狙撃銃の一撃ならばほとんどのプレイヤーの体力の七割を持って行くことができる。
「まあパーティー組んでても俺は単独行動多いからな……」
自分で呟いた言葉に自分で傷ついた。
『では、三分前になったので今回のフィールドが形成されるぞぉー! 今回のフィールドはズバリ、『草原』!』
背の高い草が一気に展開され、陣地の周りも草原に包まれる。その様子は小鬼草原の風景に酷似しており、少し懐かしく感じた。始まりの町に戻ってくる度に見る風景ではあるが。
「さぁて、そろそろかな?」
『それでは! ギルド抗争イベント第一戦! 守護騎士団vs軍団――――試合開始!! なお、今回は解説役として戦乙女のギルドマスター、カルマさんに来ていただいております』
『よろしく』
なんだとっ!? と目を剥く暇も無く、無機質なシステム音声が響き渡る。
――――――これよりギルド抗争イベントの第一戦を開始します。対戦内容は“陣取り合戦”、お互いのギルドは相手の陣地を三分間占拠してください――――――
陣地の入り口を塞いでいた柵が消失。俺は素早く飛び出すと円形の闘技場を右から回り込むように身を屈めてダッシュする。その背には量産品のスナイパーライフル、【FS】が装備され、全身はアイチャに作ってもらったシリーズ防具で固めている。シリーズ防具とは一種類のモンスターから頭、胴、腕、足、腰の装備を作った防具一式のことで、特殊な防具固有アビリティを発現させることがある。ちなみに武器固有アビリティが発現する特殊な武器もわずかながら存在する。俺の持つ【FB】は『死神の一撃』という、弱点ヒット時にクリティカルダメージを1.25倍にするアビリティがついているが、フィーリアの持つ【氷霊妃のワンド】は『王妃の命令』という氷属性魔法の威力を三十%プラスし、使用MPを十%マイナスするというかなり凶悪なアビリティがついていたはずだ。装備ドロップ目当てのPKが多くて嫌になると言っていた。
草原では移動の際に発する音を消すことはできないが、隠密行動中の俺は遠目ではわからないはずだし、これだけ離れていれば――――陣地の間はだいたい一キロ程度離れている――――草が擦れて発生するサウンドは、聞き取ることができないだろう。
幸いにして草は基本的なプレイヤーの腰程度までしかなく、狙撃するときに狙う頭部は問題なく見れるはずだ。俺は陣地の間の中間地点の右端に身を潜めて、動きを待った。
そして、すぐにその時は来る。
『おおっとこれはどうしたことだ……!? レギオンのメンバーの三人が、まっすぐ守護騎士団の陣地に向けて歩いていくぞー!?』
『あれは……いったいどうするつもりだろうな』
静かな呟きは解説役で呼ばれたというカルマさんのものだろう。心の中ですいません、今からかなり卑怯なことをしますと呟いてから、【FS】を持ち直す。膝立ちでスコープをのぞき込むと、三人で草原を突っ切っていく軍曹たちの姿が確認できた。
なんの気負いもなく進んでいく三人に痺れを切らしたのか、四人が守護騎士団の陣地から現れた。それぞれが銀色に煌めく金属鎧で装備を統一した一団だ。両手剣士、双剣士二人、魔術師という四人組だ。相手が人間だと挑発スキルはあまり有効なスキルではないため、盾戦士の姿はない。発動中の相手のアビリティの対象を移し替えるだけのため、通常攻撃には対応できないのだ。
「……はっ。勝つ自信があるなんて言うからなにかと思えば、ただの自殺志願者か」
リーダー格なのだろう、両手剣士の男がガシャっと両手剣を構えながら言い放つ。確か重厚なその両手剣は【滝割りの大剣】というかなりのレア武装だったはずだ。ギルド抗争でリーダーを任されるということはかなりの上位プレイヤーなのだろう。ほかの三人も素早く自分の武装を取り出して構える。
「無論、違う。勝つ気で来ている――――グリネス、シュベルク」
こちらも軍曹が言い返す。
鋭い舌戦。だが向こうがどうかは知らないが、こちらは舌戦など繰り広げるつもりは毛頭ない。
「『ファイナルバレット』……『チャージショット』……『全弾発射』……」
耐久値を攻撃力に変え、四秒の待機時間の代わりに攻撃力を上げ、銃弾の全てを吐き出す代償に威力を上げる。
赤黒いライトエフェクトに包まれた【FS】を握りしめて、ゆっくりと照準を合わせる。
「勝つ? 無理に決まってんだろ、銃っていうのは弱いんだよ。とても俺たちの防御力を貫通できる――――」
皆まで聞かずに引き金を、絞る。【SLBⅣ】や【FB】よりは明らかに軽い反動を感じながら、銃弾の進路を見た。
そして赤黒い銃弾が草原の草を引きちぎりながら両手剣士に迫り――――側頭部やや右に直撃。闘技場では痛覚がシャットダウンされるため、痛みの代わりに不快なショックを頭部に受けているはずだ。
錐揉み回転しながら吹っ飛んでいく両手剣士の姿はやけにコミカルだった。真紅のダメージエフェクトが輝き、表示されていたHPが一気にイエローゾーンへ。さらに減少し、レッドゾーンまで落ち込み、そして0になった。ポリゴン体となって爆散する両手剣士の姿を確認しながら、即座に【FS】を放り投げる。『ファイナルバレット』の効果により、派手な音を立てて狙撃銃が小爆発を起こす。この爆発にダメージ判定など無いが、人の目を引き寄せることはできる。両手剣士の彼が次目覚めるのは、闘技場の控え室だろう。
「ウェポンチェンジ【SLBⅣ】」
可能な限り素早く囁き、装備を【壊れた狙撃銃】から【SLBⅣ】に変更する。さらに強化されて重量を増した相棒は、寸分違わず俺の両手に収まった。
再びスコープをのぞき込み、今度は比較的軽装なローブを纏った魔術師に照準を合わせる。残った三人が思わず狙撃地点であるこちらに目を向けた瞬間、唐突に守護騎士団の三人が仰け反った。広い攻撃範囲とノックバック効果を持つ散弾銃の銃弾が当たったのだ。あれだけ近距離なら、広がって進む散弾を避ける術はない。唯一重装備の両手剣士はノックバックしなかったかもしれないが、残ってるのはスピード重視の双剣士とVIT的に重鎧を装備できない魔術師のみ。仰け反った一瞬の隙をついて、俺は【SLBⅣ】の引き金を引いた。
鈍色の銃弾が放たれ、狙い過たず魔術師の頭部に直撃する。こちらもさきほどの両手剣士と同じようにポリゴン体となって爆散した。呆然としている双剣士に素早く駆け寄ったグリネスが引き金を引く。超至近距離より放たれた無数の弾丸がクリティカルポイントの心臓に連続ヒットし、真紅のダメージエフェクトがパパパパッと閃く。その一撃でHPの半分ほどを持って行かれた双剣士は慌ててグリネスに向き直る。そのまま取り回ししづらいショットガンを持つグリネスに襲いかかるが、グリネスはあっさりと後退してかわりにシュベルクが前に出てくる。
「ボクが相手だよっ、と!」
「このっ……!」
双剣士が振るう二本の剣が、正確無比な銃撃によって弾かれていく。蹴りや体当たりを交えた近距離銃戦闘術(ガン=カタ)を披露しながら、一瞬たりともその舞いは止まらない。
右手の剣を左手のハンドガンで受け止め、右足によるローキック。
かわして返ってきた右手の突きに右手の銃の銃弾によって弾く。
双剣士の体が流れた隙をついて左手のハンドガンを向けて引き金を絞る。
微々たる量だが双剣士のHPが削れる。
それは、剣舞と並べるにふさわしい舞い。二人の周囲の空間には発砲音と剣が弾かれる耳障りな金属音だけが響く。彼もかなり以上の腕前を持つのだろう。防戦一方というわけではないが、対人戦を最も得意とするシュベルクが、明らかに苦戦している。攻撃回数ではシュベルクが一とすると双剣士が六ぐらいには違いがある。二人の剣舞と銃舞はスコープ越しでも非常に美しく感じた。
だがそれは――――幕を引かれる。ほかならぬ俺の手によって。
「すまないな」
「楽しかったけど……ごめんね。『スタンナックル』」
アビリティ『スタンナックル』によって軽度の麻痺状態になった双剣士の動きが一瞬止まる。その一瞬の隙をついて俺は【SLBⅣ】の引き金を握り込んだ。
念のためにヒット範囲が広い胸部を狙った銃弾は、狙い通りその先端を胸部の中央に突き刺した。イエローゾーンに突入していた双剣士のHPはその全てを吹き飛ばされ、地面に倒れていく途中でその体をポリゴンに変じて消えていった。もう一人の双剣士を軍曹とグリネスが問題なく倒しているのを確認すると、俺は一瞬目を瞑って名も知らない彼らの健闘を称えてから移動を開始した。
『……あっという間の出来事で、四人の守護騎士団のメンバーが倒されてしまったぁぁぁ!! これは銃使いは弱いという定説を翻すときが来てしまったのでしょうかー!? 怒涛の三連撃が守護騎士団の三人を一撃で粉砕したぞー!! 解説のカルマさん、どう思いますか? カルマさん?』
『……カグヤァァァァァ!! 貴様、男なら正面から戦わんかァァァァァ!!』
いきり立つドラゴニアの女性の姿を思い浮かべて、無茶言うな、と心の中で呟いてから身を屈めて走り出す。四人が出てきたと言うことは、守護騎士団のあの二人はまだ残っている。勝ったと思うのはまだ早い。
『え、えっと……カルマさんは放っておいて! しかし! しかぁーしっ!! まだ守護騎士団には彼らがいる! ギルドマスターにして『岩切』の異名を持つ、ゴルド! そのパートナーにして『変幻』の異名を持つユリナ! 彼ら二人のコンビネーションは生半可なことでは破れないぞー!』
そう。彼らはベータテストからの古参組で、二人が組んで動いたときは“あの”カルマさんでも勝ち目はないと言っていた。単騎ではそこまでの強さではないため『騙し討ちの氷姫』やら『万能魔術師』やらよりは知名度が低い。どうしても守護騎士団と言えばその圧倒的なメンバー数に目が向いてしまうからだ。
いくら実質四対二とは言っても、油断して勝てる相手では決してない。
俺はしっかりと気を引き締めて、スコープをのぞき込んだ。




