Act.14
俺たちはすぐにその場から撤退して、安全地帯に逃げ込んでいた。そして出た結論が。
「「「ここでのレベル上げは無理だな」」」
というものだった。うん、銃使いの限界を見たね。もう防御とか考えてないからね俺たち。ああいう範囲系の攻撃に非常に弱い。
「仕方ない、ファル草原だな……あそこのダンジョンに行こう」
「ああ、『鬼の集落』ですか? 【豚鬼の上位種】やら【巨鬼の上位種】やらが出てくるって言う……」
グリネスの言葉に肯定する。ちなみに俺は、絶対この名前はスタッフが面倒くさくなっただけだろうと思っている。
「確かに、ここはちょっと辛いわね……」
重装備故だろうか、出もしない汗を拭うジェスチャーをするリリアに全員で同意する。このフィールドは南に存在する『龍の山脈』を突破するのに必要な道なのだが……暑い。俺たちは逃げ出すようにファル草原へと舞い戻ったのだった。
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ダンジョン。それはフィールドのどこかにある、地下の迷宮のことを指す。フィールドのモンスターより若干高いレベルや、上位種などが存在するのが特徴である。夢見の丘には『夢魔の巣窟』が、ナリカ砂漠には『砂蟲のすり鉢』が、そしてファル草原には『鬼の集落』が存在する。
基本的にダンジョンへは、フィールドボスと呼ばれるボスモンスターを倒し、【~への案内図】を手に入れなければならない。ファル草原のフィールドボスは【鬼犀】というモンスターで、高いDEFとSTRを誇る超物理型のボスモンスターだ。
「ゆえに、不利だ」
俺が特徴を説明して周りを見ると、四人とも難しそうな顔をしている。物理攻撃に対して強い耐性を持つモンスターは、銃使いにとっては天敵といってもいい。
「そして、鬼神化されたら俺たちの攻撃はほぼ通じないだろう」
鬼神化。鬼族のボスモンスターに与えられた、自己強化の力である。全ステータスを五十%上昇させる
ありえないほどの強化。これは体力が五%を切ると発動する。
「だが、挑むぞ! ここを倒せないのに攻略ギルドに追いつけるわけがない!」
「「「おう!」」」
四人で拳を突き上げる。ひとりだけついてこれていないボクっ娘がいたが、とりあえず見なかったことにして俺たちはリノサスオーガがいる場所に向けて歩き出した。
近づいていった軍曹たちに反応して、うずくまっていたリノサスオーガが起き上がり、咆哮をあげる。その音量にゲームだとはわかっていても足が竦みそうになるが……気合で押さえつける。
遠距離でいる俺ですらこの恐怖感。近距離にいる軍曹たちはいかほどのものか。まだだ。狙撃するのはまだ早い。俺に求められているのは、軍曹たちの援護じゃない。
防御力を無視して体に突き刺さるクリティカル攻撃……本来はLUKに頼らざるを得ないその攻撃を、狙撃手は確実に行う手段があるのだから。
銃撃音が響く。重機関銃の腹に響くような重々しい発砲音が止まり。
ショットガンの重なって聞こえる着弾音が止まり。
俺の体を、『コマンド』による青い光が包み込んだ。
(ウェポンチェンジ、【FB】っ……)
隠密行動中の俺に、リノサスオーガが気づくわけがない。だが奴のシステムAIには五人組のパーティが戦闘を挑んできたというふうに認識しているため、ギョロリと白濁した瞳をあちらこちらに向けて俺を探しているようだ。すでに周囲から仲間たちは撤退し、今のところはリノサスオーガの体力は半分を切ってすらいない。まだグリーンゾーンである。
光の粒子になって消えていく【セントラル・ドグマ】だったが、隠密行動中のため、その光すらもモンスターの視線からは遮断される。
(『チャージショット』!)
【SLBⅢ】を大きく上回る銃身と、その強大すぎる攻撃力。一発撃つごとに反動でプレイヤーの最大HPの半分を削っていく、諸刃の銃……アンチマテリアルライフル、【FB】。リサと俺で作り上げた最強最悪の死神だ。
(『ウィークショット』!)
額に浮かび上がる、赤い点。鷹目が示すリノサスオーガの弱点だ。
(武器固有アビリティ、『死神の一撃』!)
アビリティを重ねがけして、攻撃力を上げていく。動き回るリノサスオーガを見据え、訪れる狙撃の瞬間を待つ。
そしてその時は訪れた。シュベルクか軍曹が放った、下位デバフ魔法、『バインド・ソーン』……が込められた魔弾によって、リノサスオーガが拘束される。レベルが高いモンスターほど、拘束魔法には囚われている時間は短い。
チャンスは一瞬である。
スコープの照準がリノサスオーガの額を捉える。刺付きのいばらに縛られて、動きが一瞬止まった瞬間を逃さず、俺は引き金を引き絞った。
鼓膜が破れたのかと思うほどの音を響かせて、銃弾が直進する。その身に赤と青のエフェクト光を纏って、その弾は、リノサスオーガの額に直撃した。
「よし」
俺のHPもやつとともにイエローゾーンまで一気に落ちていくのを確認しながら、俺は立ち上がった。ポーチからHPポーションを取り出して体にぶつける。リノサスオーガのHPは徐々に徐々に減っていき、イエローゾーンに突入。さらに減り、一割を切ってレッドゾーンに突入して、そこで止まった。ギリギリで死をまぬがれたリノサスオーガが歓喜の咆哮を上げる。その目は紅く染まっている……鬼族モンスターに与えられた強化状態、鬼神化である。あの状態になってしまったリノサスオーガを倒すには、魔術師がいなければ不可能だ。だが。
「……何を勝ち誇っている」
ピシリ、と異音が響く。何かが凍てつくような、およそこの場に似つかない小さな音。
「終わりだ。―――――――咲き誇れ、『凍薔薇』」
額に埋まっていた銃弾―――――――妹、フィーリアにより魔法を込められた魔弾から解き放たれた、レベル40相当の最強の氷魔法がリノサスオーガの残った体力すべてを削りきった。
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「いやぁカグヤさんかっこよかったっすよ!」
「やめて……触れないで……」
「『終わりだ。―――――――咲き誇』」
「やめろっつてんだろぉ!?」
「ドゥアハ!」
いやぁまさかカグヤさんが遊○王ネタ使ってくるとは思いませんでしたよはっはっはとか意味のわからないことを言いながら肩を叩いてくるグリネス。その顔面にもう一発拳を叩き込む。
「でも、本当かっこよかったですよカグヤさん!」
「その子供特有のキラキラした笑顔をヤメロ」
「チッ。……いやいや本気で感動しました!」
「もう突っ込まないからな俺は」
無駄に純真なボクっ娘キャラを作り続けているシュベルクをスルーし、俺たちは一丸となってダンジョン『鬼の集落』を進んでいく。出てくるハイオークやハイオーガは強くはあったが、リノサスオーガほどではなかったので、それなりにサクサクと進んでいく。俺たちの今度の目的はこのダンジョンの最下層にいるボスモンスター、『鬼族王』である。
「デモニックキングって、リノサスオーガの反対で魔法とかに強くて魔法を使ってくるんだっけ?」
「そうだシュベルク。注意するべきなのは、『ショック・プレス』っていう無属性の魔法だな。これ以外は単発型の魔法だから……」
後ろを振り返る。雑談しているリリアとグリネスに、会話に参加しないで周囲を警戒しながらも俺の話に耳を傾ける軍曹。
「まあ、俺たちなら避けられるでしょ」
「私は…………?」
重い鎧を着込んでいるリリアから目をそらす。
「……まあ、俺たちなら避けられるでしょ」
「ねえ! 私は!?」
なにやらリリアが騒いでいたような気もするが、あんまり気にしちゃいけない。今回ばかりは戦場が狭いので、俺の狙撃の出番はない。軍曹たちと同じように前線に出て戦うことになる。そこそこDEFやMDFがある他の人たちに比べて、俺は四発攻撃をくらったら死亡というなんとも悲しいステータスだから、ほかの人よりも必死によけなければならないが。
「現在、第四階層ー。カグヤさーん、ボスは何階層だっけー?」
「十階層だったはずだ」
「面倒くさいなぁ。そうだ、今みんなレベルいくつ?」
「49」
「43」
「41」
「41」
「高くない!? 軍曹とリリアさんはともかく、グリネスとカグヤさん……特にカグヤさん! 二次職まであと1レベじゃないですか!」
「MA☆TE、さん付けの基準を教えてもらおうかボクっ娘もどき」
「女かどうか」
「待て、シュベルク。俺は男だ」
「見た目の話ですよ」
「反論できないのが悔しいな……」
俺はがっくりとうなだれる。確かに見た目に関しては俺はどうこういえないのだ。薄暗い洞窟の先から現れたハイオークの雄叫びを聞いて顔を上げる。ハイオークもオークと同じリンクモンスターで、近くにいるハイオーガやハイオークを引き寄せるため、かなり急いで倒さなければならない。倒しながら進まないと、ハイオークとエンカウントした瞬間に置いてきたハイオーガなどに挟み撃ちにされる。
「『コマンド』、リリア機関銃で攻撃。『コマンド』グリネス接近して攻撃。『コマンド』、シュベルク接近して攻撃」
軍曹の指示に従い全員が動く。狙撃銃のかわりにアサルトライフルを構えた俺も、中距離から接近を支援する。およそ五分ほどでよってきたハイオークどもを殲滅すると、ちょうど第五階層に下りるための階段のが見えてきた。階段自体はモンスターがよってこれない安全地帯なので、全員そこで休憩することにする。各々がメニュー欄から様々な軽食を取り出し始める。
「……軍、司令、それ何?」
「軍曹と呼べばよかろうに……これは携帯食料だ」
「そんなのあるの……美味しくなさそうだな」
しかめっ面で茶色の何かの塊を噛みちぎる軍曹は、薄暗いことも相まって結構怖かった。ほかのメンバーは食べている物はNPCが売っているサンドウィッチだ。俺も食べたことがあるが、なかなか美味しい。
「ていうかカグヤさんが食べてるのって……お弁当?」
「へぇ、そんなの売ってるんだ。どこどこ?」
目ざとく気づいたシュベルクが言及したとおり、俺が食べているのは弁当である。だがその運ぶ箸の先を見れば、白い物しか運んでいないのがわかるだろう。
「店売りじゃないんだこの弁当は……」
「プレイヤーメイドなの? どこの店?」
プレイヤーメイドという言葉が指し示すとおり、調理するスキルが存在する。味覚までもを完璧に再現したドリフターによって、食事は娯楽の一つとなっている。
「だから、店売りじゃないんだ。手作りだよ。熟練度を上げたいんだとさ」
もぐもぐと日の丸弁当を咀嚼しながら言う。弁当一面に敷き詰められた真っ白いご飯と、中央にそっと置かれた梅……に似た別の何か。酸っぱくない……辛い。ある意味色通りだ。
「へ~。妹さんですか?」
リリアが聞いてくる。ギルドメンバーには俺の妹が攻略ギルド《戦乙女》の魔術師であることはつたえてあるのだ。
「うにゃ、違う……リサの手作り」
「「「はぁ!?」」」
驚愕するメンバーをほうっておいて、俺はしっかりと弁当を完食した。今回の弁当は比較的まともだったからいいが、たまに凄まじいものが出てくるから油断できない。
「ちょ、リサさんって、“あの”リサさんですよね!?」
「ああ、お前らも知っているあのリサだが?」
ごちそうさまでした、と言ってから弁当箱をメニューウィンドウに放り込む俺。
(ちょっと軍曹! カグヤとリサさんって付き合ってるんですか!?)
(いや、そんな話は聞いたことがないが……そうか、たまに朝早くに出て行くのはそういう理由があったのか……)
(付き合ってないのに手作り弁当……これはまさかカグヤさんが気づいてないパターン?)
(というか手作り弁当もらって気づかないって……人としてどうなの?)
グリネスと軍曹とリリアとシュベルクがなにかこそこそ言っているのを無視して、俺はステータスウィンドウを開いた。




