Act.13
今日の俺たちの活動内容は、新しい狩場に移動してのレベル上げである。だがその前に一つ、皆に言わなければならないことがある。
「週一で開かれる《ギルド抗争》と呼ばれるイベントだが、ここで優勝したギルドは名を上げることができる」
「名をあげるって、戦国時代じゃないんですから……でも、《守護騎士団》に思い知らせてやるのは楽しいかもしれませんね」
ニヤリと黒い笑みを浮かべる俺とグリネス。俺たちはファル草原のレアモンスター狩りによって超速のレベルアップに成功していた。きっとあの一種のバグ技は、運営側も予想していなかっただろう。具体的にレベルを言うと、今は俺が48、グリネスが41、軍曹が39、リリアが40となっている。軍曹がアサルトライフルだったので育てづらかったが、最初の二発を軍曹が当てれば三分の一の経験値は軍曹に入るのを利用してレベル上げを行った。もともとレベル30台のプレイヤーにとって美味しいはぐれたメタルだったので凄まじい勢いでレベルが上昇したというわけだ。全員武器は微妙に強化して、あまり変わってない。
「ああ。楽しもうぜ……といっても参加するのは来週だ。今日は新メンバーも含めて懇親会みたいなものだからな」
俺はそう言うと宿の部屋の隅にいる小柄な人影に目を向ける。ニッコリと微笑んできたそいつに渋面を返すと、俺はいやいやそいつを紹介した。
「レベル31の双銃士、シュベルクだ。GLのトシにこのギルドを紹介されて来た。そしてこれは冗談でもジョークでもなく、そいつは男だ」
「やだなぁ、カグヤさん。ボクはどこからどうみても男の子じゃないですか」
「ああ、そうだな。ただし子の漢字は娘だ」
ボクっ娘と呼ばれる人種である彼は(矛盾も甚だしいが)、かなり腕がいいし、メンバーとも仲良くやっていけそうだ。だが、問題は……
「カグヤさーん、そんな冷たくしないでくださいよぅ。同じ穴の狢じゃないですかー」
「やめろ、一緒にするな!」
やたらと俺に懐いてしまっていることである。
「まともなの私たちだけよね、このギルド」
「綺麗系の男の娘と甘えたがりの男の娘……しかも内容がアッー! なのに見た感じが百合という罠」
「ごめん、私だけだったわ。こっち来ないでグリネス」
「なぜだ!?」
リリアとグリネスの間に何か決定的な亀裂が生じた気がしたが、俺はすがりついてくるシュベルクを引き離すのに必死である。この間も岩のような表情を崩さずに外を眺めている軍曹に、俺は驚嘆の念をを禁じえない。
やがて不毛な争いはシュベルクが俺の服の裾を握ってニコニコとして、俺が疲れた表情で周りに説明を再開するという形で落ち着いた。
「で、だ。一週間後のギルド抗争に俺たちは乱入する。それまでは、『龍山への道程』でレベル上げを行うことにする」
「ふぇ!? あそこって平均モンスターのレベルが40近いんじゃ……」
「行ける。なぜなら俺たちには司令がついてるからな!」
我らがレギオンのギルドマスター、軍曹のプレイヤースキルには目を見張るものがある。その冷静な判断力に、敵味方全員の位置を把握して的確に指示を出せる視野の広さ。正直、ここまで的確な指示が出せるとは思わなかった。
俺がオークをリンクしたときも誰もHPがイエローゾーンに落ちずに十三体を撃破という凄まじい戦果を上げたのだ。
「お前のレベルは低いから不安になるのはわかるが、大丈夫だ。俺が守る」
「わーいカグヤさんがデレたー! チャーーンスッ!」
「前言撤回。せいぜい後ろの狙撃手に気をつけな」
「殺人予告だー」
じゃれあいをやめて、真面目な話に戻る。
「で、だ。あそこのモンスターの確認をしておこうと思う。龍山への道程は炎属性モンスターが多く出る……一応、俺は何個か氷属性の魔弾を保有しているが、これはいざという時までとっておきたい。あと、【FB】もな」
「うむ。カグヤの【FB】はレギオンの切り札だから、できれば『銃弾透過』も使わないで欲しい。誰が見てるかわからんからな」
軍曹が補足する。『銃弾透過』というのはスキル『友炎無効』のアビリティで、使用後十秒間、味方からの銃弾が貫通して突き進むというなかなか有用なスキルだ。PVP戦では、これが確実に不意を打てるものとなるだろう。
シュベルクはともかく、軍曹たちからはもうすでに揺るがない自信のようなものが溢れている。レベルが上のファル草原でも戦えたことが自信につながっているのだ。
「じゃあ、今日はレベル上げするの?」
「そうだ。それと一応ギルド抗争の対策の話だ。ギルド抗争に参加する有力ギルドは《守護騎士団》《戦乙女》《HERO》《ガドラムリスト》《ムキムキ☆筋肉団》の五つ。特徴としては、《守護騎士団》は構成人数が多い中からバランスがいいパーティを手堅く出してくるだろう。このギルドは平均レベルが高いせいか、プライドが高い。ついでに言うとあんまり連携力がない。《戦乙女》と《HERO》はたった六人と五人で構成された奇妙なギルドだ。《戦乙女》の警戒すべき相手は……ドラゴニアのカルマさんと、エルフのフィーリア、ホビットのヒュミちゃんだ。フィーリアは水色の髪と瞳をしているが高火力の殲滅魔術師だから安易に近づくなよ。圧倒的な火力で焼き払われるぞ。カルマさんは……」
ちらりとシュベルクを見る。向けられた視線の意味がわからないのか可愛らしく首をかしげるシュベルクだったが、俺は居心地が悪くなって目をそらす。
「……シュベルクに抑えてもらう。尋常じゃなく強いから気をつけろよ」
「うぇぇ!?」
驚いたような声を上げるシュベルクだが、これは本当に相性の問題なのでしょうがない。軽業スキルを駆使して三次元軌道で動き回る彼女を捉えるのは至難の技なのだ。幸い戦う舞台は単なる闘技場なので、木々を蹴り上げて空を飛ぶような動きはできないはずだが、それでもあの奇妙な動きについていけるのはグリネスかシュベルクしかいない。
「で、グリネスにはヒュミちゃんを抑えてもらう。彼女はホビットのスカウトなんだが、暗殺スタイルをとっている。攻撃範囲が広いショットガンで隠密を解除して欲しい。索敵スキルは持ってるな?」
「持っている、了解した」
「で、俺は後衛を狙撃する。だから俺がフィーリアと回復役のカンナギちゃんを片付ける。で、最後の二人……盾戦士と双剣士はリリアと軍曹に抑えてもらう」
「当然である」
「任せて」
「よし、じゃあとりあえずの対《戦乙女》作戦はこんなところだな。次は、《ガドラムリスト》だ。こっちで一番警戒しなきゃいけないのは、ネートという女魔術師。デバフ特化の魔術師らしい」
「うわー……デバフってあれでしょ? 状態異常とか行動制限とかしてくるやつ」
嫌そうに顔をしかめたリリアに、俺も渋面で肯定する。こと、このギルドに関しては、デバフもちは普通にシャレにならない。なぜなら……
「このギルド、回復役がいないんだよな……」
いざという時は俺が回復呪文を込めた魔弾で狙撃するという選択肢もあるのだが、それは可能な限り避けたい。それに俺が状態異常になったらアウトだ。
「というわけで、GLに関しては待ちの戦法で行く。さすがに回復こなせる銃士……この場合は衛生兵か? そう都合良く見つかるとは思えないしな」
俺の発言に全員が頷く。この時に誰も魔術師の回復役を入れようとしないのが、このギルドの特徴だ。全員完全に銃使いだけで行くつもりなのである。
「で、《ムキムキ☆筋肉団》と《HERO》なんだが……この二つに関しては有名すぎて情報が少ない」
「うむ。その奇妙な言動ばかりが取り沙汰されていて、戦闘スタイルなどの情報が流出しないのだ」
「だから俺から言えることは一つだ。冷静さを失うなよ。相手のペースに巻き込まれたら終わりだ」
それは戦闘の時に忘れてはいけないことだが、たいていの挑発には慣れているこのメンバーにも限界というものがある。しかもあいつらはナチュラルに人の神経を逆なでしてくるため、油断できない。
「よし、じゃあ対策は終わり。レベル上げに行くぞー」
「あ、カグヤさん待ってくださいよー! ……なんでスピード上げるんですか!?」
俺たちのギルドは、いつもだいたいこんな感じだ。
================
~龍山への道程~
「『コマンド』、リリアが機関銃で攻撃ッ」
「了解!」
前に出たリリアの腰で、【DODⅢ】が無数の弾をばらまく。反動を必死になって抑えながら、弾を炎を随所に纏う【爆熱熊】に集中させる。重機関銃にはほかの銃とは違うデメリットが設けられている……時間制限である。軍曹いわく、銃身の加熱によるデメリットを反映させているのではないかということだったが、本当のところはわからない。圧倒的な速射力制圧力を誇る重機関銃が抱える、弱点の一つ。
「『コマンド』、シュベルクが拳銃で攻撃!」
「へ、あわわ……僕ですか!」
「カグヤ、狙撃で支援!」
「カグヤさんが援護してくれるんですか! 行ってきます!」
ちなみに援護はしない。なぜなら軍曹は『コマンド』を発声しなかったからだ。あらかじめメンバーには言ってある、軍曹のスキル支援がないときはうかつに動くな、と。まあ一番の原因は軍曹がちらっとこちらを見て苦笑したからだが。
「くらえ!」
シュベルクの戦い方は序盤の俺にそっくりだった。高速で動いて攻撃を空振りさせて出来た隙にハンドガンの弾を連続で叩きつける。話では俺と同じ『銃衝術』の使い手ということだったが……
「『殴打』『蹴擊』『スタンナックル』『ポイズンキック』!」
赤いエフェクトが両手と両足を包み込んだあと、さらに黄色のエフェクトが手で、紫色のエフェクトが足で輝く。『ポイズンキック』は状態異常『毒』を付与するアビリティなのだろう。
「『コマンド』、グリネスがショットガンで攻撃! 接近!」
「了解!」
「『オーダー』、私がグリネスの隣で接近を妨害する敵モンスターの行動を阻害する!」
『オーダー』。これも指示のアビリティの一つなのだが、これもなかなか面白いスキルなのだ。自分の体がシステムアシストによって勝手に指示した行動を行う。軍曹の体が不自然に加速して、勝手にグリネスのとなりを走り出す。そして軍曹は周囲に視線を走らせながら、指示を飛ばす。
「下がれリリア! 『コマンド』、カグヤが狙撃で攻撃!」
「オッケー」
スコープを覗き込み、【SLBⅣ】の引き金を引く。このゲームが始まって狙撃銃を手に入れてから繰り返してきた行動であり、もはや慣れたものだ。轟音と共に吐き出された弾丸は確かに【爆熱熊】の右足を吹き飛ばしてグリネスの接近をサポートする。
転んだ【爆熱熊】は唸り声を上げて口を開いた。
「……っ! 『コマンド』グリネス回―――――――」
指示は間に合わない。口から轟然と放たれた炎の渦が二人をまとめて捉えた。二人とも歯を食いしばって仮想の痛みに耐える。二人のHPがガリガリと削れていくのを見て、俺は素早く行動に出た。使いたくはなかったが、周囲にほかのプレイヤーの姿はない。
「ウェポンチェンジ、【FB】!」
「っぐ、あ、じゅ、『銃弾透過』!」
「頼む、カグヤ、『銃弾透過』!」
俺の手に巨大な狙撃銃が現れると同時に、軍曹とグリネスがアビリティ『銃弾透過』を発動させた。一時的に仲間の銃弾を貫通させる力を得た二人のことを気にせずに、俺はゆっくりと引き金を引き絞った。
【SLBⅣ】よりも重く強い反動を肩に感じながら、結果を見る。俺が放った銃弾は間違いなく【爆熱熊】のHPを0にしたようで、向こうの方からレベルアップのファンファーレが聞こえた。




