Act.12
「リサ、レベル二十台用の重機関銃とショットガンあるー?」
「……無い、けど。今、作る?」
俺たちが始まりの町の露天スペースに行くと、相変わらずの無表情でリサが出迎えた。グリネスとリリアが後ろで『NPCだと思ってた……いっつもいるから……』『私も……』などと失礼な呟きをもらしていた。リサは攻略ギルドの数人もお世話になっている超上級職人なのだ。ただし、知る人ぞ知るという肩書きがつく。
「うん、お願い。素材は?」
「……えっと、機関銃が【重骨】と【霊珠】……ショットガンが、【重骨】と【厚皮の犀の牙】と【砂蜥蜴の鱗】」
「あちゃ。【霊珠】って確か夢見の丘にいる奴が落とすんだよな? それは持ってないなぁ」
「むしろ個人でそれ以外を持っていることのほうがすごいとおもうんだが……」
軍曹の呟きもスルーして、【霊珠】はどうやらリサのほうに何個かストックがあるらしいので、それを買取りつつ銃を作ってもらうことにした。
「……四千五百」
「了解……ほい」
【重骨】【厚皮の犀の牙】【砂蜥蜴の鱗】と四千五百Eをリサとトレードする。五分後、二丁の銃が生まれた。
「……武器名【DOD】。銃種類、重機関銃。武器名、【SSG】……低確率で麻痺付与。銃種類、ショットガン」
「なんかえらい仰々しい武器が出来たなぁ。あ、装備してみて」
リリアとグリネスがメニュー画面を操作して、その腰にそれぞれの武器が現れる。人が重機関銃を携えているというのは絵的にどうなんだと思ったが、実際にある銃よりはコンパクトなサイズだ。まぁ、もともと魔弾を撃つための機構がついているせいで現実の銃とはかなり構造が違うらしい……壊れたハンドガンを興味深そうに見ていた軍曹が教えてくれた。
「よし、これで武器はできたな。じゃあ次は防具だ! また用があったらメッセ飛ばしてくれよ、リサ」
昔一回だけ素材取りにつきあった時のことを思い出して俺は言っておく。コクリと頷いたのを確認して、全員でニリアの街に向かう。アイチャは普段、あの居酒屋で防具を作ってレベル上げと熟練度上げをしているはずだ。
====================
「アイチャ、レベル二十台の人が装備できる防具を作ってくれ。ええと、防御力重視を一式、機動力重視を二つ」
「わかった。素材は?」
「エリートゴブリンのシリーズで頼む。素材は多少はある」
こう考えるとこの三日、軍曹と共にエリートゴブリン生息地域に行ったのはいいことだった。ファル草原のモンスターからのドロップアイテムだと、装備レベル制限が高いものができてしまう。
「え、私たちそんなお金持ってない……」
「大丈夫だ、ギルドの予算から払う」
ギルド予算の八割が俺の金だが、まあそれはいいだろう。アイチャにドサッと大量の軽鎧の残骸やら重鎧の残骸やらを渡す。
「こんなにいらないけど……そうだね、八千でどうだい?」
「問題ない」
ギルド予算は四万ほどある。
「軽く払うね……ま、わかったよ。ちょっと待っててね」
そして十分後、軍曹とグリネスとリリアの装備が完成したのだった。なかにはレベル制限がある装備はあったが、ギリギリセーフだった。
Name:軍曹
Class:司令官 ギルド《軍団》のギルドマスター
レベル25
Tribe:ヒューマン
種族特性:熟練度上昇速度+。経験値取得に+3%。
スキルスロット1:銃剣術 熟練度0072/1000
スキルスロット2:指示 熟練度0021/1000
スキルスロット3:ダッシュ 熟練度0123/1000
スキルスロット4:索敵 熟練度0142/1000
スキルスロット5:ウェポンチェンジ 熟練度0036/1000
スキルスロット6:友炎無効 熟練度0013/1000
クラススキル:司令の激励Lv.1
武器:【H&A】+【鬼族の短剣】
頭装備:【鬼族の軽いお守り】 DEF+5 AGI+3
胴装備:【鬼族のライトアーマー】 DEF+18 DEX+5
特殊効果:鬼族モンスターへの射撃・貫通ダメージ+補正。
腕装備:【エリート鬼族の腕輪】 DEF+7 DEX+8
腰装備:【エリート鬼族のズボン】 DEF+10 AGI+2
足装備:【鬼族の韋駄天靴】 AGI+14
ほかの二人は、リリアが防御力重視、グリネスが機動力重視の装備を身につけた。近距離をグリネスが、中距離をリリアと軍曹が、そして遠距離を俺が担当する。なかなかバランスのいいパーティではないだろうか。しかも【鬼族のヘヴィアーマー】も鬼族に対する貫通・射撃ダメージにプラス補正を持っている。これなら、昼間のファル草原でも十分に戦えるはずだ。【豚鬼】がリンクモンスター(一体と戦闘していると、攻撃していないほかの個体まで戦闘に参加してくるモンスター)なのが不安要素だが、いざというときは俺が前線に乱入して殲滅すればいい。しかもあの草原には高い経験値を持つレアモンスター、【擬態蛇】がいたはずだ。
「というわけで、今日はファル草原でレベリングしまーす」
「「「え?」」」
呆然とする三人を引きずっt……誰がとは言わないが、やたら重い装備をつけている人を諦めて、二人を引きずっていく。アイチャが苦笑しながらこちらを見ているのが印象的だった。
「無理だってこれ! 【巨鬼】ってレベル28くらいあるんでしょ!?」
ゴオオオ!、という唸り声を上げて襲いかかってくるオーガを見て、リリアが尻込みする。俺はすでに【SLBⅢ】を構えて普通に座り込んでいた。ぶっちゃけここのモンスターはAIが馬鹿なので、回避や防御といった行動は一切取らない。つまり大威力の狙撃銃を近距離から撃ち込み放題というわけだ。もちろん、パーティでいればという前提が必要だが。
「『コマンド』、リリアが前に出て機関銃で攻撃」
「は、て、ええ!?」
唐突に青いエフェクトに包まれたリリアが驚く。これは軍曹の持っているアクティブスキル『指示』のアビリティ、『コマンド』の効果だ。味方が指示通りの行動をすると、それにかかる負担が軽減したり威力があがったりする面白いスキルである。この説明はしてあったが、ライトエフェクトのことは説明していなかった。戸惑いつつも前に出たリリアが重機関銃から銃弾をばらまく。
「うわ……!」
その重すぎる反動にリリアがふらつくが、すぐに鍛えたSTRで押さえ込む。本来ならばここで押されて倒されるが、『指示』と『司令の激励』の効果でステータスとシステムによる行動サポートを受けたリリアは【DOD】を無事操り、近づいてきたオーガを後退させる。
「『コマンド』、グリネスが接近してショットガンで攻撃」
『コマンド』アビリティもなかなか使いづらい。このスキルはスキル販売店で購入できるが、全体を見る目と自分の行動、お互いに阻害しない動きを心がけなければならない。しかも『コマンド』の発動後、プレイヤーの名前を言う→○○で○○と言わなければならない。俺たちの動きはまだぎこちないが、俺に十分戦えるだけの可能性を感じさせた。
敏捷を上げたグリネスが、指示通り素早く懐に潜り込む。二人はこのパーティに入るにあたって、司令と同じ『友炎無効』のスキルを購入してセットしている。システム設定でプレイヤー攻撃設定をONにしない限りは、プレイヤーにいくら攻撃してもダメージは与えられない。が、ノックバックは存在するし、射線を遮ればそれより先に弾は貫通しないため、ノックバック効果を無効にする『友炎無効』スキルを身につけたのだ。ちなみにこのスキルは『持っているプレイヤーに対する味方からの銃弾によるノックバックを無効』にするものなので、前線にはあまり出ない俺が持っていなくても問題はない。
そして、俺はショットガンの恐ろしさがわかった。なぜ、軍曹が近距離に潜らせたのかも。
正面から重機関銃を撃ってオーガが怯んでいる隙に、右から接近していた軍曹と左から接近したグリネスが、引き金を引く。
ドゴンッ、という重々しい発砲音とともにグリネスが握っていたショットガンの銃身が跳ね上がる。銃口が大きい分反動も大きいのだが、それはあまりショットガンのデメリットにはならない。こと、一対一の戦闘に関しては。
ショットガンの銃弾が着弾した瞬間、オーガが大きく仰け反る。あらゆる銃の中でも、最もノックバック効果が高い銃なのだ。一発ごとに三秒のリロード時間がかかるが、三秒程度なら十分対処は可能だ。多段ヒットした銃弾に、ガリガリとオーガの体力が削られていく。
そこにさらに軍曹のアサルトライフルが火を吹き、一気にオーガの体力はイエローゾーンまで落ち込んだ。だがそこで機関銃の銃弾が尽き、バララララという音が消えた。
「『コマンド』カグヤ、狙撃銃で攻撃!」
「はいよっと」
スコープを覗き込み、オーガの胴体に照準を合わせて引き金を絞った。俺の体も青いライトエフェクトに包まれ、銃弾も青い光を纏ってオーガに着弾する。この距離ならば外すことはない。
イエローゾーンまで減っていたオーガのHPは俺の一撃で一気に0になって消滅する。倒したモンスターの経験値はパーティを組んでいる場合ダメージを与えた総量と味方を回復させた総量、さらに味方にかけた支援スキルやアビリティ・敵にかけた妨害スキルやアビリティの総数によって、非常に複雑な計算がなされる。この場合はだいたい半分の経験値が俺の取得になり、残り半分を軍曹とリリアとグリネスで分割する……ついでにラストアタックボーナスのぶんが俺の経験値にプラスされ、『指示』の分若干軍曹が多めに経験値を得る。
だが、さすがにレベルが十近くも上のモンスターを倒したこともあり、二人のレベルが上がった。この調子で、レベル25までは効率よくレベリングできるはず……という俺の目論見は。
いい意味で予想を裏切られる。
それが起きたのは、レアモンスター【擬態蛇】に遭遇した時だった。これはいわゆる某ゲームのはぐれたメタルのようなもので、魔法無効能力、近接ダメージを一に確定、そして体力が半分になるとすぐに逃げ出すという厄介なモンスターだ。クリティカルは防御無視のダメージなのだが、いかんせん体が小さすぎて遠くから見つけることができない。しかもこのモンスター弱点がない上に、若草色の草に擬態しているので、相当近くによってこのモンスターがプレイヤーの存在に気がついた時しかその姿を現さないのだ。しかも逃げるスピードは尋常じゃなく速い。もう、何お前? って言いたくなるほど早い。一度ムカついて追いかけてみたが、二秒で振り切られた。
「行け、こいつの体力は6しかないからまずはグリネス撃て!」
言われた通りに【SSG】の引き金を引いたグリネス。放たれた無数の弾丸は―――――
【擬態蛇】に多段ヒットして、あっさりとHPを0にした。
「…………え?」
ポリゴン体となって爆散する【擬態蛇】。このモンスターの説明はしてあったので、三人とも疑問顔だった。まさか俺が知らない、なにか蛇の死んだ振り的なスキルが発動したのかと慌てたが、連続で鳴り響くファンファーレがその考えをすぐに否定した。
一気にレベル18から23になったグリネスが恐る恐る仮説を話す。
「あの、ショットガンは一発一発が細かい銃弾だから、【擬態蛇】に六発以上が多段ヒットして倒せた……?」
「重機関銃の速射でも同じことができそうだな」
冷静に検証する二人の前で、俺の理性の箍が外れた。【擬態蛇】は出現率はそこまで低いモンスターではない。オークほどではないが、オーガ程度には遭遇する。この草原のMOBは六割オーク、二割オーガ、二割が蛇で構成されているというのが通説である。
「――――――全員、蛇を探せッ! 雑魚は俺が狙撃で片付けるッ!」
そして俺たちは草原を走り回り、焼け野原にしかねない勢いで銃弾をばら撒いたのだった。俺も浮かれて、前衛がいるのがいいことに、オークまで狙撃してリンクさせていた。おかげで俺も一つレベルが上がったが。
―――――そして、日が暮れる頃には俺たちの戦力は大幅に底上げされていたのだった。




