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Act.11

軍曹から返信が来たのは、夜が明けたころだった。軍人ロールプレイをしているから日の出起床が基本なのかもしれないな、と無駄なことを考えながらメッセを確認する。


「おお……」


 始まりの町の《蛙亭》という宿を拠点にしているから時間ができたら、悪いが会いに来て欲しい、という内容だった。よかった、一昨日来やがれとか言われなくて。今から行くけど大丈夫ですか、とメッセを送るとすぐに大丈夫だ、という返信が来た。


 とりあえず武器を【セントラル・ドグマ】に変えて、鍛え上げた俺のAGIを見せてやるぜと言わんばかりに全力疾走。途中でファル草原の昼型モンスターである【豚鬼(オーク)】やら【巨鬼(オーガ)】やらを引っ掛けたような気がするが、十体ほど集まったところを単身軍隊(ワンマンアーミー)のアビリティ、『単身銃舞踏会(ワンマン・ガン・パフォーム)』で殲滅する。

 凄まじいまで強力なそのアビリティは、さすがはユニークスキルだと言わざるを得ない。正直、やられたら勝てる気がしない。


「おらおらぁ、汚物は消・毒・だァ! ……ただし元ネタは知らぬ」


 はっはっはぁ、と徹夜明けのテンションで殲滅戦を行う。実際徹夜明けなのでしょうがない。


「本当、ユニークスキルはぶっ壊れだよな……」


 七秒後、殲滅に成功した俺はなにも考えずにその場を後にする。さすがに昼型モンスターは経験値も少なめで、昨日レベルアップしたばかりなのでレベルは上がらなかった。


 ユニークスキルの入手条件は、非常に厳しいかと言われればそうではない。『全プレイヤーの中で、一番最初に○○する』、といったもので手に入るからだ。だがその条件からひとりしか入手することができない……かと思いきやそういうわけでもないのだ。

 ユニークスキルは普通に死ぬだけでは失われることはないが、PKされた場合のみPKした人間にそのスキルが移動する。この事実はまだ周知の事実というわけではない。だがユニークスキルを入手した人間はその説明欄に書いてあるので、あのムカつくイケメン英雄(笑)は間違いなく知っている。


 トシによると、正式サービスになったときにベータ版から若干の変更がなされているようだ。


「絶対隠してるよな……」


 こんな仕様が知れ渡ったら、絶対にユニークスキルを持つ人間を狙うPKが続出する。まああの男にそこまでの知恵が回るとは思えないが、側近、もとい側室の誰かがとめているのだろう。

 ちなみに正室はいない、なぜなら英雄(笑)が『全員平等に愛してる!』と公言してはばからないからだ。そのセリフはプレイヤーから失笑と嘲笑と怨嗟の声だけを呼び集めているが、奴のプレイヤースキルに裏打ちされたアビリティ『英雄剣(ヒロイックソード)』の力は本物である。


「正面からは無理だな」


 やるなら後ろからズドンだが、それすらも『救世英雄』はカバーしているらしいという噂がある。英雄は不意打ちでは死なないとでも言うのか、背後からの攻撃ダメージを五割減というおぞましい効果があるというのだ。つまり、攻撃に対して背中を向けてしまえばほとんどの攻撃を五割軽減できる。

 さすがに噂だろうとは思っているが、ユニークスキルにはもしかしたら……と思えてしまう不気味さがあるから始末に負えない。


「というか敵の攻撃に対して背を向けるのは英雄と言えるのか……?」


 よくわからん。

 AGIに身を任せてファル草原をあっさりと走破した俺は、小鬼平原との境目で悔しげに鳴き声をあげるモンスターを放置して小鬼平原を突っ走る。ゴブリンのほうがレベルが低いんだから突っ込んでくればいいのに、とか思うのは無粋だろう。それがゲームというものだ。

 ちなみにフィールドの境目はプレイヤーの攻撃行動も完全にシャットアウトするので安全場所からのハメ殺しを行うことはできない。

 とりあえず小鬼平原でも引っ掛けたゴブリンどもを引っ張って走る。これでプレイヤーに遭遇してしまったりしたら完全にMPK(モンスタープレイヤキラー)だが、幸いそんなこともなく始まりの街にたどり着く。安全圏から外を見ると、三十匹近いゴブリンが散っていくところだった。


「あれ、プレイヤーにあたってたら死んでるな……」


 別に考えてなかったわけじゃないヨ? ちゃんと片付ける算段はあったヨ?

 誰かに言い訳しつつ、《蛙亭》を探す。幸い有名な宿屋らしく、そこらを歩いているプレイヤーに場所を聞くだけで位置を知ることができた。


「お、あったあった。……うーん、ソロプレイをしていると独り言が癖になるのがなぁ」


 ぼやきつつ、シックな木造の扉を開いて中に入る。ニリアの街にあったのは居酒屋と宿屋が一緒になった建物だったが、ここでは食堂と宿屋が一緒になっているようだ。


「すいません、軍曹さんはいますか?」


「私だ」


 俺の問いかけに素早く答えたのは、食堂で朝ごはんを食べていたヒューマンのおっさんだった。なんというか、とても濃い顔をしている。眼光は鋭く、その目は戦う意思に溢れている。


「あ、カグヤといいます。こんななりですが男なんで……」


 この人はからかえない、と即座に判断した俺はすぐに自分の性別を明かす。若干目を細めた軍曹さんだったが、幸いすぐに元に戻った。戻っても尋常ではない威圧感を感じるが。


「ギルド《軍団(レギオン)》のギルドマスター、軍曹という。敬語はいらん、ゲームなのだからな。しかし、私以外にも銃を愛する同士がいたとは、嬉しい限りだ」


「どうも。ギルドも作ってたんですね、俺はソロなので……」


「うむ。名前に誘われて職業を『司令官(コマンダー)』というものにしたら、そのスキルがギルマス向きだったのでな。『司令の激励』というスキルで私がパーティリーダーをやっているときに、私以外のパーティメンバーのステータスを上昇させる効果を持つ」


「すごいですね、それは……」


 俺は二重の意味で驚いた。それは銃を使う者の職業が予想以上に多そうだということ。それとそのスキルはユニークスキル『救世英雄』の正反対だったからだ。自分ではなく周囲を強化する圧倒的な統率力。素晴らしい、これが人間の可能性―――――――! と俺が感動していると、軍曹が口を開いた。


「だが、友が少なく、残念ながらギルドメンバーは私一人だ」


「だめじゃんっ!!」


 予想外のオチだった。ギルド名も《軍団》なのにギルドマスターしかいないギルドだって……


「最近『司令官』になったので、慌てて仲間を募ろうと思ったのだが……人が集まらなくてな」


 そりゃ不憫スキルとして有名な銃使いがギルマスやってるギルドには寄り付かないだろうな。


「レベルはいくつぐらいです?」


「18だ」


 18……しょうがないといえばしょうがないのかもしれない。この世界の職業はとても影響する。司令官という職業を活かせなければレベルが上がるのは遅くなるだろう。だが、俺は軍曹に面白そうな気配を感じていた。銃使いはまだ誰も知らない可能性がある。俺がソロで戦えているのがその証拠だ。


「軍曹、俺ギルド入りますよ」


「……なに?」


 岩のような軍曹の表情が動いた。


「ええ、軍曹。この世界は剣と魔法のファンタジーです。そこを銃器で蹂躙する……面白そうだと思いませんか?」


 俺は少し前のことを思い出していた。ソロで『砂蟲のすり鉢』に潜っていたとき、俺は英雄(笑)とあっていたのだ。見つけるやいなやナンパされるとは思わなかったが。女性陣の睨みつける攻撃に男として若干へこんだ俺は、自分の性別を明かして断った。とてもあのパーティには入りたくなかったのだ、奴は噂通りムカつく奴だったし。


「銃使いを探しましょう。俺たちを除いてもまだ九千九百九十八人もプレイヤーがいます。銃使いだけでギルドを組んで、攻略ギルドに追いついてやりましょう」


「だが……銃術は、戦いにくいのではないのか?」


「俺のレベルは43です。友や仲間のサポートはありましたが、ほとんどここまで俺一人でやってきました。やれるはずです」


 俺はギルドの一覧から《軍団》の項目をクリックして加入申請を送る。今、軍曹の前には俺からの申請メッセが開かれているはずだ。


「……うむ。やってやろうではないか。あと敬語はいらない」


「ああ、わかったぜ司令」


「できれば、軍曹と呼んでくれ」


「わかったぜ司令」


「……もう、それでいい」


 仲間たちに銃使いのプレイヤーがいたらギルド《軍団(レギオン)》の宣伝をしてくれるように頼み、掲示板にも銃使いのプレイヤー募集のスレをたてる。案の定からかいの言葉が大量に書き込まれ始めたが、別に気にしない。


「うむ。これで後は反応待ちか?」


「ああ、そうだな。よし、じゃあ現状戦力の底上げと行こう。とりあえずはファル草原でレベル上げだ」


「待ってくれ、カグヤ。確かファル草原の適正レベルは30前後。私ではレベルが足りない」


「ん? 俺がサポートするから大丈夫だと思うが……」


「いや、それは寄生と言うものだ。甘えと言い換えても良い。我が儘だが、私は自分の力で隣に並びたい」


 それを言ったときの軍曹は決然としていた。この矜持がこの人の力なのだろう、俺はそれに従おう。


「わかった。じゃあレベル上げは鬼族のエリート生息地域で行う。あそこの適正レベルは21~24、俺がサポートするのは危ないときだけ、でどうだ?」


「問題ない。すまないな」


 俺は申し訳なさそうにする軍曹に声をかける。


「いや、急ぐことはないよ。これからメンバーが増えれば一段階上のダンジョンにも挑めるようになるんだからな」


 メンバーが増える、というのは希望的観測だったが。



           =====================



 そして、三日後。ドワーフのグリネスと、ドラゴニアのリリアが加入申請を申し出てきた。二人とも銃術スキルをとったはいいが、パーティを組むこともできず、今まで二人でプレイしてきたそうだ。だがレベル15になったことで、一次職となるときに先達の教えを請うために訪ねてきた。


「ギルドに加入したい。俺たちも今まで銃術スキルをとったというだけで、実力も見ずにパーティを断られてきた。このまま泣き寝入りは嫌だ」


「私も。ドラゴニアで銃とか、ってさんざん馬鹿にされた」


 俺はこの言葉を聞いてニヤリと笑った。その経験は俺にも何度かあったからだ。ソロプレイで戦ってきた俺が一番ムカついたのは、せいぜいあの英雄くんに『銃なんかじゃこの先厳しいだろう、HAHAHA! 痛い思いをする前に僕のパーティに入るといい!』とかふざけたことを言われたことくらいだが、その悔しさは原動力としては十分だ。


「いいだろう。どんな職業が出てる?」


「軽銃士、舞踏者、双銃士の三つだ」


「私は双銃士、拳闘士、機関銃士なんだけど……」


「……こだわるなぁとは思っていたが、銃系統の職業はどれだけあるんだ? とりあえず双銃士が基本で、そこから様々なジャンルで職業が決められるんだろうな。ちなみに俺は狙撃手、司令は司令官(コマンダー)だ。司令と呼ぶように」


「いや、軍曹でいい……二人ともどの職業が面白そうだと思う?」


「え?」


「無理にギルドに合わせる必要はない。私たちは楽しみながら攻略ギルドに追いつくことを目的にしている。自分が楽しそうだと思う職業にすればいい」


 軍曹のこういったところは本当に信用できる。二人とも少し考えたあと、自分の思いを告げた。


「俺は軽銃士でやろう。これからよろしく頼むぜ、軍曹さんにカグヤさん」


「私は機関銃士かな。私も、このギルドなら楽しめそうだし、よろしく」


 無事二人、ギルドに加入したことで、ついにまともなパーティを組めるようになったというべきだろう。司令官のクラススキルは自分以外のパーティメンバーの強化のため、メンバーは多ければ多いほどいい。


「よし、じゃあ銃の制作熟練度あげてる知り合いがいるから会いに行こう」


「何? そんな人がいるのか?」


「うむ。彼女の武器を作る腕は素晴らしい……銃も剣もお手のものだ」


 軍曹の融合スキルは、短剣スキルと銃術スキルの融合である銃剣術スキルというらしい。アサルトライフルに剣を装備して振り回す軍曹は非常に強かった。今まで比較対象がいなかったからわからなかったが、他人の戦闘を見て高いプレイヤースキルが必要なのはよくわかった。


 武器装備欄でライフルに剣を装備するのだが、剣の分もアイテム重量が上昇するから短剣の類が現実的だろう。実は生産職は熟練度と素材が装備の出来に関係するので、腕はあまり関係なかったりする。


「そういえば銃って何種類あるんだろ? 始まりの町はハンドガンしか売ってないけど……」


「全部で八種類あったはずだ。ハンドガン、猟銃(ライフル)、アサルトライフル、ショットガン、軽機関銃、重機関銃、スナイパーライフル、アンチマテリアルライフルの八つ」


「私は機関銃士だから、重機関銃か軽機関銃かな」


「ドラゴニアはSTRの上昇に補正があるから、重機関銃で戦うのがいいかもしれないな」


「だが重機関銃は持ち運びができないはずだ」


 軍曹が難色を示すが、ここはファンタジーだ。STRが大きければ、運べないものなどない。


「大丈夫、STRが高ければ十分運用に耐えるはず。グリネスはどうする?」


「うーん、軽銃士って何装備するのかな?」


「最も軽い銃はハンドガンだが……無理にとは言わないが、ショットガンにしてはどうだ? ショットガンも重量があるが、ドワーフならば種族特性もあいまって装備できるだろう。私は猟銃とアサルトライフルを基本に使う、カグヤはスナイパーライフル、アンチマテリアルライフル、ハンドガンを基本に使う。そして機関銃を基本に使うリリアがいれば、コンプリートだ」


 確かに……アサルトライフルもストックがあるので実質四種類だが。計三種類の銃を使いまわすという俺を少し胡乱げな目で見たグリネスだったが、すぐに納得してメインアームをショットガンにする事を決めた。


 軍曹Lv25。カグヤLv43。リリアLv16。グリネスLv16。


 今日より、ギルド《軍団(レギオン)》―――――戦争開始。


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