まおうが あわれに みえてきた
魔王ネタ。一人称の一人語りにつき、少し読みにくいかもしれません。
わし、魔王城で掃除夫やっとるモルガンっつー者なんだが。
勤歴二百年にはなるかね? たっかい尖塔の屋根の上から、地下六百六十六階の迷宮まで(気まぐれで階数変動)を年を通して磨き上げるのが、わしの生涯の仕事さね。
例えば茨這う鮮血の一の塔。放っておくと眠り茨が繁殖し過ぎて塔に食い込み、壁が真っ赤になっちまう。あそこは装飾品も赤で統一してっから、あんまり塔の流血が多いと目がチカチカすんなぁ。
時期になって花が咲くと、これまた真っ赤な薔薇なんだが、誘眠作用のある花粉を飛ばしてくっから、鼻の無いヤツらしか出入り出来なくなっちまう。花粉症気味の暗黒竜様辺りがそれにブチ切れて、ちょっとでも薔薇を見たら---屋根に一輪の蕾でもあったりしたら、問答無用でブレス吐くんで、壁から旨そうな匂いがして困んなぁ。
執事のクロム様からは定期的に刈り取るよう申しつかっとる。
屍者漂う濁り水の二の塔、こっちは水分補給が日課だな。
塔がうわばみなモンだから、あっちゅー間に水路の嵩が減っちまう。ゾンビ連中のおかげで水の滋養が豊富なのか、どうも味がいいらしい。わしからしたら臭ぇんだけどよ。
たまに水道管の中で魚人が詰まるから、そっちのメンテナンスもある。生きてたらつまみ出して、死んでたら水路に沈める。大体生きてんだが、外まで運ぶのが面倒なんで巡回中のオーク兵とかに差し入れしたりな。逆に催促されたりすんだが、そんなしょっちゅうはメンテしねぇよ。自分で捕まえて来いっつーの。
外堀はスライムしかいないとか言われても、わしの担当は魔王「城」だから知らねーな。
魔虫蠢く暗幕の三の塔---知ってる? ああアンタら、そっから来たのか。
あそこの魔虫共は恥ずかしがり屋でなぁ、姿を隠すためにあんだけ布垂らしてんだよ。襲い掛かって来た? そら姿見られたからだな。しょーがねぇよ。
すぐボロボロになっから、やっぱり定期的に暗幕は交換してるぞ。お気に入りはマンドラゴラ染めらしい。赤黒いヤツだ。捲ったらわんさか出て来る---なんだやったのか。怒ってたろ?
別に倒しても問題はねーな。増え過ぎると間引くくらいだからな。そろそろ行こうと思ってたんだ、助かった。あんがとよ。
礼を言うなら魔王城の構造を教えてくれって?
いいぞ? 何驚いてんだ、わしはただの掃除夫だからな。魔王城さえ無事なら構わねえ。そーいうモンだ。
魔王城はなぁ、今話してたみたいな塔が全部で八つある。それぞれが中央の本堂へと渡り廊下で繋がってて、まあ当たり前だが番人がいる。どの塔からでもいけるぞ? 全部廻らなきゃ渡れないだなんて、誰が決めたんだ。それだと不便だろ。ま、上の方々は転移陣使ってっから、塔に入る事はまず無いんだが。用があれば直接本堂に跳んでるよ。わし? だからわしは掃除夫だっての。ショートカットしてどうする。
アンタらもここにいるって事は、三の塔から渡って来たんだろう? ゴーレムについては気にすんな。その内再生するさ。ああ、番人は皆ゴーレムだよ。違いは頭に咲いてる花の種類くらいだ。カスミ草? 燃やした? あー、暫くは機嫌が悪くなるな……いや、気にすんなって。
本堂の構造か……部屋数は四百だったかね。隠し部屋も含めてだ。真ん中に吹き抜けがあって、そこは地下にも繋がってる。羽のある奴ら専用の通路みたいなモンだ。羽が無くても飛び込む奴もいる。地下は迷宮になってっから、行くのは止めとけ。大体魔王様は本堂の最上階、十階の大広間にいるからよ。魔王様を捜してんだろ?
アンタらの正体? 見りゃあ分かるさ、言わんでいい。わしはただの掃除夫だ。何も関係ねーよ。
わしの親父もじーさんも、ずっと掃除夫をやってたのさ。そのまたひいじーさんもな。わしらの大事は魔王城だ。
地上はいくら壊れてもいずれは元通りになるから、暴れまくって構わねえ。好きにしな。むしろ掃除の手間が省ける。
んー、言っちまってもいいか。察してるかも知らんが、魔王城の本体は地下迷宮の方だ。地上の方は寄生体向けの装飾っつーのかね。寄生体ってのは、まあ、魔王様とか魔物連中の事だ。いつからか勝手に住み着くようになったのさ。何度滅んでも魔王城が復活する度に集まってくるからな、わしらが管理しねーと荒らされちまう。
これを知ってるのは執事のクロム様とわし、当の魔王様だけだろうな。クロム様が仕えているのは魔王城にだ。あの方もわしらみたいに城の管理をしてるのさ。アンタらが来たから、今は地下に潜ってんじゃないかね? 戦闘には関わらないのがスタンスらしいし。だからな、魔王様がどーなろうが関係ねぇ。何度も繰り返されてきた事だ。もうそーゆー時期か、って季節事のイベントみたいな感じだよ。
魔物連中はちと五月蝿くなるがな。魔王様が倒されれば、蜘蛛の子を散らすみたいにいなくなるから、アンタら頑張ってくれよ。
今回の魔王様はわしは好かんね。ありゃ威張り散らすだけの無能だよ。いい加減鬱陶しくなってたから、大広間は暫く掃除してねーんだ。埃っぽいかもしれんが、勘弁してくれ。ああ、玉座に座ってる間は中に入らん方がいい。罠が仕掛けられてるぞ。階段昇ってすぐの所から、遠距離攻撃しちまえ。セオリーなんか無視だ無視。玉座を壊したら入って大丈夫だ。
……確か、玉座の真下に魔王様のヘソクリが隠してあったな。倒しちまったら、貰ってっていーぞ。どうせ悪趣味な金ピカだからな、魔王城には必要ない。呪いのたぐいが掛かってるかも知れんが。魔王様、がめついからなぁ。なに、神職がお祓いすりゃあいいさ。金だから、炎で浄化してもいーんじゃないか?
その先に上に行く階段がある。踊場の絵画には触るなよ、それも魔物だからな。宝物庫は五階だが、番人がヴァンパイアの魔術師だった筈だ。魔王様と契約してるんじゃなかったかね、そこからは何があっても移動しないから、大広間の後に向かうといい。多分、魔王様が倒された後ならどっか行ってるだろうよ。前に話した時、もう飽きたっつってたし。
もうそろそろ行くかい? ああ何度も言うが、地下には行くなよ。
……魔王城は巨大な生き物だ。びびんなよ、もうここまで来てんだから。壁が血を流すの、見てねぇか? 耳を当てれば脈動だって聞こえる。
魔王を魔王城が受け入れるのは勿論メリットがあるからだ。
脳筋の魔物連中が地下迷宮に挑む事で、魔王城は養分を手に入れられる。地下は地獄だ、まず生きては出られん。アンタらが潜って死んじまったら、その聖剣を飲み込んで魔王城が腹下しちまうかもしれん。頼むから、出入りすんのは地上だけにしといてくれよ。
まあ実は魔王様が死んだら、地下迷宮の入り口は閉まるんだがよ。だからわしももう地下に行くつもりだ。わしの家もそこにある。迷宮は自浄作用があるから、仕事も楽になるさ。アンタら人間が平和を謳歌する間、わしもつかの間の平穏を満喫できる。
魔王様が地下に逃げ込む事はねーよ。言ったろ、生きては出られないって。いい養分になりそうだとは思うがなぁ。
そんじゃあ魔王様の討伐は頼んだぞ。
朗報を期待してっからな。
わしわし言ってますが、モルガンさんは見た目二十代のモブ顔です。あまりにも一般人過ぎて、勇者一行がうっかり声をかけてみた所から冒頭へと繋がります。