モモタロサァンの布教活動 in鬼ヶ島
鬼が逃げた先は行き止まりだった。
鬼の背後に迫るのは、猿、雉、犬。そしてそれらを引き連れる一人の少年。
彼こそ、今、鬼たちの間で噂になっている少年、桃太郎である。
「くっ、殺せ!」
その言葉を耳にした桃太郎は、穏やかな笑みを浮かべたまま口を開く。
「殺すなんてとんでもない。僕たちはただ、僕たちの嗜好の素晴らしさを、ぜひあなた方に理解してもらおうと……」
「黙れぇ! 俺の息子は、お前らの教えのせいでおかしくなっちまった! 全部お前らのせいだ!!」
怒鳴り散らし、怒りに顔を赤く染めた鬼は、両手で持った斧を桃太郎に向かって真っ直ぐに振り下ろした。
鬼の腕力は、人間のそれを遥かに凌駕している。まともに受け止めれば重傷を負うことは避けられない。
「おかしくなったのではありません。彼はただ、自分の本当の欲望に気づいただけなのですよ」
そんな一撃を、桃太郎は片手で難無く受け止める。鬼がいくら力を込めても、斧はビクともしなかった。
鬼の顔に焦りが浮かぶ。
「あなたも、真実へと至らせて差し上げましょう」
そう言いながら、桃太郎は懐から巾着袋を取り出した。
小さな丸から矢のようなものが突き出ている見慣れないマークは、桃太郎たちが信仰する邪教、ホモ教のシンボルに他ならない。
「キビ団子……っ!」
鬼も聞いたことがあった。
桃太郎のキビ団子を食べてしまったが最後、もう二度と正常な思考には戻れないと。
そんな得体の知れない物を、桃太郎は笑顔を浮かべながら鬼に向かって差し出してきた。
「さぁ、あなたも自覚するのです。そして理解しなさい。ホモへと至る道を」
桃太郎は、配下の犬と雉に鬼の口を開かせる。
鬼は斧を捨ててそれを防ごうとするが、なぜか両手が斧から離れない。
そうしている間にも、キビ団子を持った桃太郎の左手が鬼の目の前に迫り――。
♂
「さすがモモタロさんっす! マジリスペクトっす!」
気絶してしまった鬼を介抱しながら、猿が桃太郎へ賞賛の言葉を贈る。
「鬼たちの間では、まだまだ我々に対する偏見が強く残っています。これからが本番ですよ」
だがそれを耳にしても、桃太郎は謙虚な姿勢を崩さない。
そう。彼らの戦いは始まったばかり。
鬼の世界にホモという概念を浸透させるための戦いは、まだ始まったばかりなのだから。