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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あへあへうんこまん

作者: 潮路

過去最大級のナンセンス描写にご注意ください。

 ついカッとなって彼女と喧嘩してしまった僕は、ただ今、埋葬を行っている。

 ここら辺は誰も通らないので、そういう場所にはもってこいなのだ。


 ショベルを使って土をペンペンする。

 よし、これで万事解決だ。何の問題もなく学生生活が送れるぞ。


 そう思って後ろを振り向くと、サラリーマンがこちらをちらりと見ていた。

 

 こちらをちらりと見ていた。


 よかったな、彼女。尻軽なお前の為に、男を用意してやることになったよ。



「待ってください、違うんです」


 何が違うんだよ。


「私はただ、近道をしたかったんです」


 その為にこんな雑木林の中に?


「ああ、もう限界だ」


 ああ。こっちももう限界。


・・


 話を要約すると、サラリーマンはひどい下痢症なようで、近道をつかって家へ帰ろうとしていた途中だったらしい。

 こっちの方は全く興味はなかったらしく、「なんだか変な音が聞こえるなあ。ああ、ショベルを使って人埋めてるだけか、なーんだ」ぐらいの認識だったらしい。

 

 サラリーマンはひどく体をくねらせていて、非常に気持ちが悪い。

 しかし、まあ、下痢症とはなかなか辛いものだよな。


 うん、しかしもう困らなくてもいいよ。だってこれでオシマイなんだしさ。


「はうあ」


 サラリーマンはそんな僕の心理を読み取ったのか、そんな間の抜けた声を上げた。

 そして案の定、すぐさま命乞いを始める。


「ちょっとまってくださいよ、私はまだ死ねない。この便を排出するまでは」


 いや、あんた見ちゃったわけじゃん。僕の、彼女への求愛行動をさ。


「あなた達の生き埋めプレイを見てしまい、本当に申し訳ないと思っていますよ。ですからお詫びとして…」


 そう言うとサラリーマンは財布を渡した。


 お詫びもいらないし、逃がすつもりも、生かすつもりもないんだけど。

 まあ、気持ちだけでも受け取っておくこととしよう。

 …

 財布の中。

 34円と、山のようなレシート群。


・・・


 そりゃ、ためらいなくショベル振り下ろすよね。


「ひいい」


 サラリーマンは間一髪でそれを避ける。


「待ってください。給料日前なんで、本当。明日になったら一万円は出せますから」


 微妙に小馬鹿にしているのは気のせいだろうか。


「というわけで、帰ってもいいですか」


 小馬鹿どころじゃないな、こいつ。

 

「お願いします。便さえ出せれば、もう何も求めませんから」


 じゃあ、ここで野糞すればいいじゃない。


「だめですよ、そんなはしたないこと…私には出来ません」


 僕はスコップを振り下ろした。


「ひいい」


 サラリーマンは間一髪でそれを避ける。

 サラリーマンの体のねじれは更にひどいことになっている。


「ちょっと本当に頼みます。家に帰らせてください。そこでトイレ出来れば、殺してくださって結構ですから」


 そんな甘い話があるか。目撃者を自宅まで送る殺人犯がどこにいるんだよ。


「本当です。トイレ以外には用はございません」


 力強く説明されても困るわけだが。


「お願いします。私にとって自宅でトイレを済ますことは、命よりも大事なことなんですよう」


 どうしてそんなにトイレに固執するんだよ、この人。


・・・・


 理由ですか。そうですねえ。強いて言うなら趣味なんですよ、トイレ。

 あなたは、満員電車の中で腹痛に襲われたらどうします。駅のトイレには人が並んでいて使えない。コンビニに行ってもトイレがなかったりして。いっそのこと諦めますか。でも、よく考えてみてくださいよ。もう子供でもない、大の大人が、社会人が、漏らしちゃったらどうなると思います。終わりですよ、人生の。社会的に抹殺されてしまうんですよ。

 最初のうちは突然の腹痛が怖くてしょうがなかったんですよ。ですけどね、回数を重ねていく内に、この非日常感が病みつきになってきたんですよ。だって、そうでしょう。いつもは上司にいびられ、同僚には馬鹿にされ、部下には舐められる。家に帰ったって、ただゴロゴロしてるだけ。何にも面白くないんですよ。ゲームだってネットだってしてきましたけどね、結局私は主役にはなれないんだって思ってふさぎこんでいたんですよ。

 ですが、トイレは違いました。ただ一回のミスで人生を終えてしまうスリル。自分の実力や判断力が如実に表れる結果。そして我慢の果てに便を出せる快感。これはある意味、最高のゲームでした。私はそれにハマり込んでいきました。食事や、環境によっても大きくゲームの難易度は変わってきます。私は今この時まで、トイレ・ゲームで飽きたことはありません。どうして皆やらないのか不思議でなりませんよ。最近では下剤や下痢止めを使って難易度を調節するようにもしています。会議中に発生したらどう凌ぐか、一週間分の便が下痢として出てきたらetc…

 そうですねえ、私が初めてこのゲームに積極的に取り組み始めたのが25歳の頃でしたから、もうこれで15年目ですね。今日で1000回目になるんですよ。このゲームをやっている時だけ私は健やかで元気になれるんです。出世や結婚からも見放されちゃったけど、後悔なんてひとかけらだってしていません。だってこの時だけ私は異世界の主人公になれるんですからね。ですからこの1000回目のゲームを終わらせてくだされば、私は潔く死を選びますよ。


・・・・・

 

 長い。長すぎる。

 お腹を常時さすりながら、中身が漏れ出さないように、サラリーマンは自身の特殊な癖を告げた。

 

 言っておくが、僕はこの間何もしなかったわけではない。

 この長台詞を聞いている間に、何回も何回もショベルを振り回していた。


 だが、一向に当たる気がしなかった。

 この男の「ぎりぎりまで我慢した便を自宅で出す」という執念が、僕の攻撃を避け続けることに成功させているのだろう。

 …

 僕はショベルを放り出し、両手を上げた。降参である。

 

 ううん、分かった分かった。家でしてこい。そんで終わったらさっさと戻ってきて僕に殺されろ。分かったな。


 そう僕が言うと、サラリーマンは満面の笑顔で「ありがとうございます。彼女さんとお幸せに」と言いながら走りだす。


 その時の速度たるや尋常ではなく、僕はあっさりとサラリーマンを見失ってしまった。 


 やったーやったーすべてが終わる。これでボクチンのスウィートタイムを邪魔するやつは誰もいなくなるんだ。やったーやったー、悦びのダブリュー・シー・タイムはすぐ傍に。アーヒャヒャヒャヒャ…

  

 彼方から奇声が聞こえてくるが、大便の精霊の戯言だったと考えよう。



 さて、こちらも仕事を終わらせますか。

 そう思ってショベルを手に取ろうとしたのだが…ショベルは消えていた。


 後ろを振り向くと案の定、埋められた彼女がショベルを手に持っている。


・・・・・・


 生き埋めっていいよね。なんていうかさ、想像するだけでもすっげー怖いじゃん。

 まずヤる側。これ怖いよね。だってバレちゃったら、一発で社会的に抹殺だよ。なんたって殺人、良くても未遂じゃん。スリルあるよね、大声出されても困るわけだしさ。すでにイってる人を埋めても全然ダメなわけよ。生きているのを埋めるからゾクゾクするわけじゃん。だってさあ、生きながらにして、土に埋まっちゃうわけじゃない。キツイだろうねえ、窒息して死んでいくなんてさ。それを想像するだけで最高に悶えちゃうんだよ。それが思い入れのある人ならなおのことだよねえ。

 んでヤられる側。これもっと怖いだろうね。掘り起こすことができれば、生き延びられるかもしれない。必死にもがこうとするけども、土の重さは限界を遥かに超えている。結局酸素もないし、力も尽きてしまう。その時何を思うんだろうね。将来の事かな。両親のことかな。友人の事かな。それとも自分の子供のことかな。それともこんなことした僕の事かな。ああ、もう、想像しただけで胸が張り裂けそうになるよ…

 最初の時はそれこそビビってたんだよ。事後処理の方法を考えていて、つい、突発的に「埋めよう」ってなっちゃったわけだからね。で、回数を重ねていく内に、この非日常感が病みつきになったわけ。だってさあ、もしかしたらゾンビみたいに地上へ戻ってくるかもしれないわけじゃない。どう、想像してごらんよ。真夜中に自分の部屋をノックする音。のぞき穴から外を見てみると、殺したはずの彼女がこちらを睨みつけていた…なーんてさ、ホラーそのものじゃない。それが見てみたくなっちゃったんだろうねえ。僕は回数を重ねるごとに、土の量を少なくしていったんだ。とは言っても、常人じゃ掘り起こせないくらいの量ではあるんだけどさ。


・・・・・・・


 埋めたはずの彼女が、遂に土の棺桶から出てきた。


 それだけではない。


 今まで僕が「生き埋めプレイ」で埋めてきた何体もの「元カノ」が、その時使ったショベルを片手に、こちらへにじり寄ってくるではないか。


 僕の顔は狂喜に染まった。


 これはすごい、すごすぎる。壮観だ。すごすぎて、腰がくだけて、まったく足に力が入らないよ。

 うわあ、僕としたことがお漏らしかよ。やべえな、こりゃやばすぎるだろ。

 ひーふーみー。

 彼女達をカウントすると、ちょうど13体だった。こりゃホラー映画そのものでしょ。ホント。


 なんて、最初のうちは盛り上がっていたけれど…


 僕…どうなっちゃうのかな。ショベルで突殺されるのかな。叩殺されるのかな。絞殺されるのかな。その後は埋められちゃうのかな。彼女達はどうなるんだろう。こんなブサイクじゃあ、世の中出ても苦労するんだろうな。いや、もしかしたら「ZMB13」なんてアイドルユニットを作るかもしれない。本当にニッチなところで大活躍するかもしれないな。ああ、参った参った。

 僕…まだ死にたくないな。あのサラリーマンは、「終わったら死んでもいい」なんて言っていたけれど。僕はまだ色々なことしたいし、色んな女の子と付き合いたい…そんで埋めたい。



 気がつくと13体の彼女達が、僕の周りを取り囲んでいた。

 顔が般若みたいになっている。これは怒っているな。モテ男子だった僕ならすぐわかるよ。

 

 僕は一呼吸置いて、彼女達に事情の説明をした。


「えーと、こんなお足場の悪い中、お越しくださいまして、ありがとうございます。んで、まあ、単刀直入に訊きたいのですが…気持ち良かった?」


 彼女達が、ショベルを振り下ろした。


・・・・・・・・


 私が雑木林に戻ってきた時、そこには誰もいなかった。

 私はあの大学生を探した。「自分を殺す」と約束した、あの大学生を。


 記念すべき式典も終わりました。もう、この世に未練は残っていません。さあ一思いに殺してください。


 出せるだけの声を出してみるが、沈黙の時が流れるだけだった。


 もう生き埋め飽きて、帰ってしまったのだろうか。


「あの…サラリーマンか…」


 ふと、声が聞こえたような気がした。どこから聞こえてくるのだろうか。


「ここだよ…ここ…」


 私の足に、手がしがみついてきた。どうやら今、あの学生は土の中にいるらしい。

 私は勇気を持って発言した。


 責めと受けを交代なさったのですか。


「よくもまあ、そんなことを言えるな…」 


 私の受け答えに、なぜか大学生は驚いていた。

 どうみても生き埋めプレイをしているとしか思えないのだが…

 …

 閑話休題。

 私はここで、この大学生に殺されなければならないのだ。

 約束事はきちんと守る。これはビジネスに生きるものとしての鉄則だ。


 さあ、一思いに、さあ!!


 と殺されることに意気込んでみるも、大学生の動きはない。

 長い沈黙の後、大学生は呟いた。


「あんたを殺すのは、僕じゃない。あいつらだ」


・・・・・・・・・


 雑木林の土がもごもごと蠢きだす。

 13本のショベルが、土の中から天に向けて突き出される。

 おぞましいうめき声が雑木林を包み込む。


 オカルティックな儀式が済んだかと思えば、今度は色とりどりの腕が土の中から現れた。

 白色、黒色、褐色、肌色、青色、黄色、緑色、紫色、茶色…


 めまぐるしい展開にサラリーマンも腰を抜かさざるを得なかった。

 事情の説明を求めるが、大学生は沈黙するばかりだ。


 むくりむくりと大地が暴かれ、中から13体の女性らしき何かが登場した。


 彼女らは窄んだ眼でサラリーマンを見ると、じわりじわりと近づき始めた。


「ひいい」


 サラリーマンは逃げようとするが、大学生の手が強くしがみついているせいで思うように動けない。

 大学生は、全然申し訳なさそうな声でこう言った。


「すまないな。彼女らに命令されて、こうするしかないんだ」 

 

 サラリーマンが理由を尋ねると、大学生はようやく事情を説明し始めた。


「うん、もう殺されることが確定したし、話しちゃってもいいか。えーと、ここにいる13体の何かは、一応僕のガールフレンドだった人達でねえ。毎晩生き埋めプレイをして楽しんでいたんだよ。ただ生き埋められている間に精神がおかしくなっちゃったみたいで、『より高尚なプレイをしましょう』とか言い始めちゃったわけ。それが人喰い…俗に言うカニバリズムってやつでね。この雑木林に人が寄り付かなくなったのは、訪れた人をプレイの餌食にしているからみたいらしいのよ。んで、最近ではカニバリズム系アイドル『ZMB13』を結成して、連日ライブ…デッド活動を行っているのさ」


 サラリーマンは事情を半分くらい理解した。つまり、これもプレイの一環というわけか。でも、食べられてしまったら次のプレイが出来なくなるのではないか?

 …

 ……

 そんなことを考えている暇はなかった。早く逃げなくては、このアイドル達に物理的に骨抜きにされてしまう。渾身の力を使って逃げ出そうとするサラリーマン。

 

「あれ?」


 サラリーマンの動きが止まった。 


 私がここに来た理由はなんだったっけ。


・・・・・・・・・・ 


 ZMB13がサラリーマンを取り囲む。

 その口から涎が垂れており、彼女達が女性を捨てたことを体現していた。

 

 サラリーマンに動きはない。


 大学生の手は「これ以上食われるのはごめんだ」と言わんばかりに土の中に引っこんでいった。


 しばしの沈黙ののち、彼女らは我先にと、獲物へと飛びかかった。


 しかし、一番最初にサラリーマンの喉笛に辿りつけたはずの、ZMB13の特攻隊長「アユポン」がその動きを止めたことを皮切りに、次々とメンバーが騒ぎ始めた。


「ナンカ、アリエナインダケド」

「コノオジサン、ナンカヤバインダケド」

「ソウソウ、ナンカヘンナカンジ、スル」

「スゴイブッチャケタハナシスルト…」



「「「「「「「「「「「「「クサイ」」」」」」」」」」」」」


・・・・・・・・・・・


 その後の記憶を、サラリーマンは知らない。

 

 気が付いたら、雑木林は自分一人だけになっていた。


 朝日が眩しい。時計を見ると、もう出勤時刻をオーバーしていた。


 ああ、だがもう、それを気にする必要もないな。


 もう、式典は終わったのだ。文字通り、大失敗に。


 男は衣服を脱いで、全裸になった。


 そして、ゆっくりと歩き出す。


 どこへ行くのかは誰も知らない。


 スラックスに溢れんばかりにへばりついたウンコが、そんな主人の動向を、寂しく見つめていた…

なんだこれ。

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いい作品と思います かんどうしました んん!?本当にすばらしい のうこうな内容です かっきてき
[一言] スッゴイ面白かったw これはいいwww
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