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文学

思い出カプセル

作者: 純白米

 世間はもう卒業シーズン。ある小学校の仲良し5人組の6年生の女の子たちも、卒業を間近に控えていた。その子たちの住む地域は、全員が同じ中学校へ通うことになる。なので、卒業と言っても、あまり寂しい感じはしなかった。しかし、その仲良し5人組のうちの一人の女の子は、春から引っ越しをしてみんなとは違う中学校に行くことが決まっていたのだった。

 仲良し5人組は考えて、みんなでタイムカプセルを埋めようという話になった。未来への自分に手紙を書いて、みんなで埋めよう。そして、成人した時にみんなで開けに来よう、と。


「未来の私へ 私は今、小学校6年生です。春から中学校に通います。そっちは今、何年ですか?元気にしていますか?」


などというような、当たり障りのないことを、つらつらと可愛らしい便箋に書き連ねていった。そして、家にあったお菓子が入っていたアルミでできた箱を空にして、そこに手紙を入れて学校の近くの公園にみんなで埋めた。成人してから、いつ開けるかという具体的なことは決めていなかった。タイムカプセルを埋めるというイベント自体が、小学生の彼女らにとって何より楽しかったのだ。


 そして、迎えた成人式。彼女たち4人は中学校こそ同じだったものの、高校からは離れ離れになってしまい、久々の再会であった。しかし、その場に小学校の卒業と同時に引っ越してしまった子の姿は無かった。

4人はその子の連絡先を誰も知らなかった。中学校のときまでは手紙で連絡を取れていたが、いつの間にか住所が変わってしまっていて、手紙が届かなくなっていたのだ。

4人は悩んだが、連絡が取れない以上、この集まれる4人でタイムカプセルを開けようということにした。


 その日の夕方、懐かしの公園にタイムカプセルを掘り出しに行った。


「この公園、こんなに小さかったっけ?」


昔話に花を咲かせながら、4人はタイムカプセルを掘り出した。

4人は箱を開けて驚いた。


「……写真?」


そこには、小学生の頃に5人で楽しく遊んだ写真が、山ほど入っていたのである。その懐かしい写真を見ると、あのときの思い出が一気によみがえってくる。まるで、この小さな箱の中にずっと閉じ込められていた6年間の思い出が、この日の再会を待ち望んでいたかのようにあふれ出してきたのだった。


「あー、こんなことあったね。懐かしいね。」

「でも、こんな写真、みんなで入れたっけ?

それにこの写真、ところどころ、シミみたいなのがついてるね。」


みんなでタイムカプセルを埋めた時、こんなに大量の写真は誰も入れていないはずなのである。それぞれ5人が、自分に宛てた手紙を1枚ずつ入れただけである。

おかしいな、と思いながらも、それぞれ自分に宛てた自分からの手紙を読み返す。


「わー、めっちゃ恥ずかしいこと書いてる!」

「字、きたなーい!」


その手紙でさえ、楽しかった昔を思い出させるのには十分であった。

一通り昔を懐かしんで楽しんだあと、一人が口を開いた。


「手紙……せっかくだし、見てみようよ。」


引っ越してしまった少女の手紙も、せっかくなので開けてみようということになった。

4人はみんなで一つの手紙を囲むようにして覗き込んだ。一体、どんなことが書かれているのだろう。


「大好きな みんなへ


みんな、わたしのためにタイムカプセルをうめようと言ってくれてありがとう。

わたしがひっこしをした本当の理由をここに書きます。

実は、わたしはとても重たい病気です。その病気を治すために、立派な病院のある街へひっこさなければならなかったのです。

でも、わたしはどんなに頑張っても 成人まで生きられない。

みんなとタイムカプセルをあけることはどうしてもできないみたいです。

せっかくわたしのためにやってくれたことなのに、ごめんね。

最後までひみつにしてて、ごめんね。


わがままかなって思うんだけど、わたしのこと忘れないでほしくって

みんなと遊んで楽しかったときの写真を こっそり入れておきます。


大好きなみんな 成人おめでとう。」


 その子は知っていたのだ。タイムカプセルを埋めたとき、自分はこのタイムカプセルをみんなで掘り出すことはないということを。でも、言い出せなかった。まだ小学生だった子どもたちに、友達がもうすぐ死ぬなんていう残酷な現実を与えてしまうわけにはいかなかった。大好きな友達だったから、なおさらに。一体、その子はみんなとどんな気持ちでタイムカプセルを埋めたのだろうか。

 タイムカプセルに大量の写真が入っていたのは、みんなで埋めた翌日に一人でもう一度タイムカプセルを掘り出し、そこにみんなとの思い出である写真を入れたからである。泣いて、その写真を涙で濡らしながら。それが写真のシミとなって残ってしまったというわけだ。


 4人は、その写真からかつての少女のことをしっかりと思い出していた。それ以前に、誰も忘れてなどいなかった。写真を見ると、まるでそれが昨日のことだったかのように思い出される。少女は、確かに生きていた。それが写真を見ることで実感される。

 きっとこのタイムカプセルの中で、少女はずっと生き続けていたのだろう。

そしてこれからは みんなの思い出の中で ずっと――。


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