”ハートフル”ストーリー
(一)
「御父さん、行ってくるね。」
そういうは大きくなった美緒。彼女は此れから彼女の結婚式へ向かう所だった。
「おうよ。俺も後から行くから。いってらっしゃい。」
私がそう答えると美緒は元気よく飛び出していった。あれから私は前ほどの収入は無いがそこそこの中小企業に就きなんとか家族を養うことが出来ていた。美緒ともたまに衝突することもあったが、其れは以前の様な物ではなく何処にでも在る極々一般的な家族の姿だった。
復、栗原家の助けもあり無事に美緒を此処迄育て上げる事も出来た。
「今日で最後かぁ。」
あれから一心に美緒を育て続け遂に今日美緒は結婚為る。
棄乍、其の名前の意味は子供を捨てる事。私は親に奴隷として育てられ、私が大人になってからは私が子供を捨てた。栗原夫妻や会社の同僚などに改名を何度も進められたが私は悉く其れを断った。
この名前は私の人生で有り、罪の証でも有る。
「さて、と。そろそろ俺も行くか。」
靴を履き車に乗ると私も式場へ向かった。美緒は一足先に新郎の車に乗せられて行っている。其の新郎も迚良い人だったので安心して美緒を嫁に出すことが出来た。
式場に入り、美緒を訪ねると美緒のドレスアップは既に完了していた。
「如何、御父さん。綺麗に出来てるでしょ。」
美緒がそういうと私は「ああ、迚綺麗だ。」と答えた。本当は此の儘美緒の頭をわしわしと撫でてやりたいのだがぼさぼさの髪の新婦というのは妙なので其れをぐっと堪えた。
「御父様は此方で服装を整えてください。」
スーツに身を包んだ小奇麗な係りの人が然言うので私は其れについて行った。
(二)
式が始まると情けない事に私は涙を堪えるので精一杯だった。恐らく式場には豪華絢爛な飾りが沢山施されているのだろうが其れ等も其の所為で全く目に入らなかった。
子供の式は今迄で最も子供の成長を実感為るものだと悟ったのもこの瞬間であった。そして新郎は迚出来た好青年だと此の式中にも実感為た。
「御義父さん。」新郎が私を呼ぶ。
「御義父さん、きっと、否、絶対に娘さんを幸せに為て見せます。」
新郎は頼もしく然言う。私は美緒との事、今迄の事を順に思い出していた。美緒とは血の繋がりが無い。併し美緒の存在は私にとってかけがえのない物であった。
「どうか、どうか美緒を幸せにしてやってくれ。私が美緒にしてやれなかった分もどうか。」
私は嘗て美緒を虐待した。私は其の分以上に美緒を幸せにすることが出来たのだろうか、立派な父親に成れたのだろうか。其れが心残りだった。併し私が然言うと美緒は私の顔を見て微笑みこういった。
「御父さん、私は充分に幸せだったよ。御父さんは迚立派な御父さんだったよ。此処迄育ててくれてありがとう。」
美緒が然言うと急に目頭が熱くなった。
「よせやい、照れくさい。とっとと旦那と共にあっちの人達にも挨拶に行って来い。」
私は照れくさくて、涙を見られたくなくて美緒と新郎を追い払う。其れを察したのか新郎は「では」と言って美緒と手を繋ぎ去って行った。
振り向きざまに美緒と新郎の背中を見る。遠くなって行くその背中は頼もしく、けれども弱々しく、彼らの新たな旅立ちを映し出していた。
「さて、全部終わったし二次会は久しぶりに飲むかな。」
私はそういうとのびをしてゆっくりと空を見上げる。二人を祝福為る鐘の音色が心地よい。
今迄の事を思い出すと沢山の事があったと感じる。
私の親の事、少年時代の事、栗原夫妻との出会い、そして元妻との出会い、美緒との出会い、そして今の私との出会い。未だ死ぬわけではないが其れ等が走馬灯の様に思い出される。
人生、其の事を思っていると如何に此の人生が波乱万丈だったかをも感じさせる。
この人生は傷だらけの物語だ。傷ついては傷つく。其れの繰り返し。けれど其の分丈心温まる物もある。人生と言う名の傷だらけで心温まる物語。此れ等を二つ合わせて言うのであれば何と言うべきだろうか。
「ハートフルストーリー」
幸せの白い鳩とブーケから零れ落ちた花弁が舞う快晴の空に私のそんな呟きは消えて行った。




