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第一部

なにかもう前が霞んで文字が打てているのかすらわかりません。

ただ整理出来たらという一心です。

私は今日偉大な父を失った。

彼を表す言葉を私の短い人生の中から見つけ出すことはできない。

やんちゃで優しくて大きくて怖くて暖かくて小さくて乱暴で気弱で甘ったれで誇り高くて・・・。

言葉はいくらでも書き連ねることはできる。

しかし、本来の彼の姿からどんどん離れて行ってしまう。

それでもこうして文章に起こしてみようとするのは、

やはり私がまがいなりにも小説家だからであろう。

目頭が乾ききらないままにキーボードを叩き思うのは小説家とはなんと卑しいものであろうかということだ。

自分が偽りを書いていることを百も承知で他人へと押し付けなおかつその偽りに価値まで造り上げ金を産み出し飯を食べていこうとする。私は私の偽りに価値すら創造することはできない。だとしても私が小説家でないと誰が言えるだろうか。


話を戻そう。

彼は十六年という短くて長い時間を見事に生ききったと言えよう。

ラブラドールレトリバーという大型犬ならば寿命は精々八年といったところである。

小学校一年生の時に来た彼は僕にとって弟であり、双子の兄弟であり、兄であり、父であった。

あっという間に僕を追い越していったが、十六年という長い間、僕の人生の4分の3以上見守りつつけてくれていた。

いつかはこんな日が来ることはわかっていたが、心のどこかで永遠に傍らにいてくれるのではないかという甘えがはっきりとあった。

今も冷たくて固くなった彼の肉体とひとつ部屋のなかにいたとしても起き上がって大きな舌で僕の顔をなめるのではないかと期待してしまうほどだ。

そのたびに動かない彼を見て涙が止まらなくなる。


母は幽霊を感じると言って憚らない人間だ。

今○○(犬の名前)が遊びに来た等というたびに辟易していた。

しかし、今の私にはそれが救いとも言える。

今日の午前中私は寒くもないのに震えが止まらなかった。死んだとのメールを母から受けとるまでそれは続いた。

バイト中に報告を受けたあとも何故か平然と作業を続けられた。確かに傍らにいてくれたような気がしたのだ。

地元の駅に着くといなくなり涙が止まらなくなった。

来てくれていたと僕は思いたい。

そんなことはあり得ないかもしれないしあり得るかもしれない。

誰にもわからないが、バカにされるかもしれないが

それでも私は信じたいのだ。

彼は来てくれたと確かにあのときの温もりは彼だったと。


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