天国へ行く・前
自分は幽霊ってモノを信じていない人間ですが、可愛い天使はぜひ存在して欲しいと願っている、残念で痛い人間です。
唐突な話をする。
今日、まさに今、俺は死んだ。
……理由?
……いや、その……まぁ、自宅の階段の二段目から落ちて、頭打って……うん。
まぁとにかく、俺は死んだんだ。
【天使参上】
「ふん、貴様が階段の二段目から落ちて、後頭部を一段目の角にぶつけ、脳内出血により死んだと言う哀れなバカか」
ふと。
ふと、目前からそんな声がした。
ちょっとハスキーな女の子の声。
「本当に哀れ……ってかバカだよな。階段の二段目って……餅喉に詰まらせて死ぬよりも哀れな死に方だな」
……何だろう?
めちゃくちゃに腹立つな。
何だろう?
他人事とは思えない、謎の怒り。
俺は閉じていた重い瞼を開け、そっと前を見た。
「……よぉバカ。永久の眠りへようこそ」
……そこには。
白いワンピースを着た、金髪の女の子がいた。
金髪の短髪同様のゴールドの瞳は攻撃的なつり目。
白いワンピースから覗く細い手足は、美しい曲線を描いた色白の肌。
そして、背中からは白い翼、頭には金色のわっか……ん?
「……あれ?」
翼?
わっか?
ってか、それ以前に
「キミ……だれ?」
「天使」
「えっ……はい?」
即答だった。
【天使のお仕事】
「お前は死んだんだよ、そこの階段の二段目から落ちて。二段目からな、二段目だぞ、二段目からだぞ?」
「…………」
「んで、私は天使。死んだお前の魂を天国へ運ぶために派遣された天使だ」
「…………」
「全く……私も5年天使やってるけど、階段の二段目から落ちて死んだってヤツは初めてだ。二段目ってお前、床から30センチも無いし……二段目から……落ちて……プッ」
「…………」
「だって二段目だぜ? 何で二段目からで死ねるの? 意味わかんねぇよ。むしろどうやったら二段目からで死ねるんだよ? 本当に可笑しな話だよな!」
「……今俺、めっちゃ死にたい」
【現実を受け入れる】
「つまりは、本当に俺死んだのか……」
「その通り。お前の頭には今わっかがあるハズだ」
俺はそっと頭に手を当ててみた。
……そこには本当に、わっかがあった。
「お前は今、階段から落ちて死んだんだ。そのわっかと、階段にある血痕とお前の死体がその証拠」
天使の指差す先、そこには白目をむいた俺の身体があった。
後頭部からはもの凄い量の出血。
「……マジか」
めちゃくちゃ理解し難いな……現実。
「マジよ、あんたは死んだの。死者の魂は死んだ瞬間から49日以内に天国へ行かないと地縛霊になるから、早めに天国へ行きましょう」
そう言って俺の腕を掴む天使。
「……俺、本当に死んだのか」
信じられない。
「本当よ」
天使は俺の言葉をさらっと流す。
「……やっぱり信じられない」
「本当よ、あんたは死んだの。今はもう誰にも視認されない魂の存在になってるんだから」
「もう俺、魂になってるのか……」
「そうよ。何なら全裸になって街中でも走ってみなさい。誰も気付かないから」
「……マジか」
「マジよ」
「…………」
「…………」
「……よし、脱ぐか」
「……真に受けるな、この二段目バカ!」
【れっつヘヴン】
「すげぇ、今俺空飛んでるっ!?」
俺は今、天使と共に空を飛んでいた。
天国への入り口、ヘヴンゲートは某国の某都の某区の某馬喰町駅の中にあるらしく、今そこへ向かっているのだ。
……ってか、
「何で馬喰町駅なん?」
俺の呟きに、天使はダルそうに答えた。
「ヘヴンゲートは神様が何百年も昔、何か知らんが適当に場所選んで、そこに設置したらしい」
「適当に……って……」
「ちなみに日本には4つのゲートがあってな、場所は馬喰町、北赤羽、八丁堀、練馬高野台……」
「全部場所が某都だし、そもそも某都の中でもマイナー過ぎる場所ばっかりだ!!」
神様適当過ぎるッ!
【馬喰町駅の……】
「馬喰町駅の改札機、右から2番目の改札機の切符投入口がヘヴンゲートに繋がってるんだ」
「切符投入口ッ!?」
「さあ入れ」
「入るかッ!!」
【その他の方法】
「駅の切符投入口以外からの天国への行き方は……成仏とか?」
「最初からそれでいいだろッ!」
【で、いざ成仏】
「よし、成仏するならまず未練を持つな? 未練持つとなかなか成仏出来ないぞ?」
「わ、分かった」
馬喰町駅の1番線ホーム。
そこで誰にも見られる事のない、魂の成仏が始まろうとしていた。